ドバイへの進出を検討している日本企業が年々増加しています。税制優遇や戦略的な地理的位置、整備されたビジネス環境が大きな魅力となっているためです。
2025年に入り、ドバイのビジネス環境は大きな変化を迎えています。法人税制度の本格稼働やOECD基準への対応、さらにはフリーゾーン企業のメインランド進出が可能になるなど、新たな展開が相次いでいます。
本記事では、ドバイ進出を検討する企業が知っておくべき2025年の最新トレンドと全体像について解説します。税務や法務、行政面の最新規制を踏まえながら、実務的な視点からドバイ進出の現状をお伝えします。
ドバイ経済の最新動向
2025年第1四半期、ドバイのGDPは前年同期比4%増の1197億AEDを記録しました。特に注目すべきは、非石油部門の成長率が5.3%に達し、経済全体の77.3%を占めるまでになった点です。これは、UAE史上最高の非石油部門比率であり、経済多角化政策が着実に成果を上げていることを示しています。
| セクター | 成長率(前年同期比) | 特徴 |
|---|---|---|
| 医療・社会福祉 | 26.0% | 最も高い成長率を記録 |
| 不動産 | 7.8% | 住宅販売が活況 |
| 金融・保険 | 5.9% | フィンテック成長を牽引 |
| 宿泊・飲食 | 3.4% | 観光客増加が寄与 |
| 情報通信 | 3.2% | デジタル化推進 |
特に不動産市場は2025年も活況を呈しており、第1四半期だけで94,000件の住宅販売取引が記録され、取引額は2627億AED(約715億ドル)に達しました。これは前年同期比で取引量が23%増、取引額が37.68%増という驚異的な数字です。
法人税制度の本格運用と実務上の注意点
2023年6月に導入されたUAE法人税制度は、2025年に入り本格的な運用段階を迎えています。課税所得375,000AED(約1,500万円)までは税率0%、これを超える部分について9%の税率が適用される仕組みです。
OECD Pillar Two(グローバルミニマム課税)の導入
2025年1月1日から、UAEではOECDのPillar Two基準に基づく国内ミニマムトップアップ税(DMTT)が導入されました。これは、連結売上高が7.5億ユーロ(約29.9億AED)以上の多国籍企業グループに対し、実効税率が15%に満たない場合、その差額を追加課税する制度です。
この制度により、従来フリーゾーンで0%税率の恩恵を受けていた大手多国籍企業も、グループ全体の実効税率が15%未満の場合は追加課税の対象となります。特に日系の大手企業グループがドバイに子会社を設立している場合、この規制への対応が必要です。
フリーゾーン企業の税制優遇
適格フリーゾーン企業(QFZP)については、一定の条件を満たす限り引き続き0%税率が適用されます。ただし、以下の要件を満たす必要があります。
- フリーゾーン内または海外企業との取引による適格所得であること
- フリーゾーン内で主要な事業活動を行っていること
- 十分な事業実体を有していること
UAE本土との取引による所得は、限定的な流通業務など特定の場合を除き、標準税率9%の課税対象となります。
実務上の登録義務
重要な点として、課税所得が375,000AED未満で納税義務がない企業であっても、法人税登録は必須です。ライセンス発行日から3ヶ月以内に登録を完了しなければ、10,000AEDの罰金が科されます。VATと異なり、法人税は免除申請ではなく登録そのものが義務付けられている点に注意が必要です。
フリーゾーン企業のメインランド営業が解禁
2025年3月に発令された新制度により、ドバイのフリーゾーン企業がドバイ本土(メインランド)で営業活動を行うことが可能になりました。これは従来のフリーゾーン制度の大きな転換点といえます。
新制度の概要
「Free Zone Mainland Operating Permit」と呼ばれるこの許可制度では、テクノロジー、コンサルティング、デザイン、専門サービス、卸小売などの非規制業種が対象となります。許可は6ヶ月間有効で、費用は5,000AED(約20万円)、同額で更新が可能です。
この制度により、企業は本土での営業や政府契約への参加が可能となり、既存の従業員を本土業務に従事させることができます。ドバイ経済観光局は、初年度で10,000社以上のフリーゾーン企業がこの制度を利用し、事業活動が15~20%増加すると見込んでいます。
税務上の取り扱い
重要な点として、本土で上げた収益に対しては9%の法人税が課され、連邦税務庁の要件に従い財務記録を分離管理する必要があります。つまり、フリーゾーン内の適格所得は0%、メインランド営業による所得は9%という二重管理が求められることになります。
進出形態の選択肢とメリット・デメリット
ドバイへの進出を検討する際、フリーゾーンとメインランドのどちらに法人を設立するかは重要な判断ポイントです。
| 比較項目 | フリーゾーン | メインランド |
|---|---|---|
| 外資所有 | 100%可能 | 100%可能(2021年以降) |
| UAE現地人雇用義務 | なし | 一定規模以上の企業はあり |
| UAE国内での営業 | 2025年から本土営業も可能 | 制限なし |
| 設立スピード | 早い(1~2週間) | やや時間がかかる |
| 税制優遇 | 適格企業は0% | 9%(375,000AED超) |
| 小売・卸売 | 制限あり | 自由 |
選択のポイント
決めるポイントは、商流、顧客や代理店の有無、仕入れ先の国や地域です。
- メインランドが適している:実店舗を出して現地の人向けにビジネスを行う場合、UAE国内の小売・卸売を行う場合
- フリーゾーンが適している:ITやマーケティング、雇用者が少人数、UAE以外の企業との取引を行うビジネス
雇用の面では、フリーゾーンの場合、人数が増えると事業ライセンス料や賃料が高額になるため注意が必要です。4人以上を雇用する場合は、オフィスの賃貸義務が発生するため、メインランドにした方が経済的なケースもあります。
銀行口座開設の現状と課題
ドバイ進出における最大の課題の一つが法人銀行口座の開設です。個人口座はエミレーツIDがあれば比較的簡単に開設できますが、法人口座は審査が厳格化しており、時間がかかります。
開設に要する期間
- 個人株主の場合:通常1ヶ月ほど
- 法人株主の場合:3ヶ月程度が一般的(場合によっては半年から1年かかることも)
ドバイ商工会議所とUAE経済省の調査によると、起業家の65%以上が銀行関連の手続きを最大の課題と考えており、フリーゾーンに設立された企業の約50%が銀行口座を開設できていないというデータもあります。
必要書類
- エミレーツIDのコピー
- 会社の商業ライセンス、登記証明書
- オフィスの賃貸契約書
- 株主および取締役のパスポートコピー
- 会社の定款
- 取引先や仕入先の情報
- 株主の銀行口座履歴
UAE国外の法人株主を持つ企業は、本国での公証・認証を経たすべての親会社書類をUAEでも再認証する必要があります。
2024年10月から開始された「サービスプロバイダー・プロジェクト」により、統一ライセンス制度が導入され、銀行口座開設時間が9割削減されるなど、状況は改善傾向にあります。
ゴールデンビザ制度の最新動向
UAEのゴールデンビザは、適格な個人に10年間の更新可能な居住権を付与する制度で、2025年も引き続き注目を集めています。
取得要件
| カテゴリー | 要件 |
|---|---|
| 不動産投資家 | 200万AED以上の不動産投資(抵当付き・オフプラン物件も可) |
| 投資家・起業家 | 事業投資や起業活動での一定額以上の出資 |
| 研究者・高度専門職 | 博士号保持者または政府機関からの推薦 |
2025年の新特典
- 世界中での強化された領事サポート
- 海外での緊急支援
- 紛失または損傷したパスポートの交換
- デジタル旅行書類を介したUAEへの優先入国
- 24時間365日の緊急支援ホットライン
- 180日以上の海外滞在があってもビザが失効しない
成長セクターと新たなビジネス機会
フィンテック・AI分野
ドバイのフィンテック市場は2025年の35.6億ドルから2030年には64.3億ドルに成長すると予測されており、年平均成長率は12.56%に達する見込みです。AIを活用した金融サービス、ネオバンキング、規制技術、デジタル資産管理などの分野で急速な成長が見られます。
UAE全体のAI金融市場は、2023年の6.25億ドルから2032年には47億ドルに拡大すると予測されており、年平均成長率は25.1%です。
不動産・建設セクター
2025年第1四半期、不動産セクターは7.8%成長し、建設セクターも8.5%成長しました。2025年から2026年にかけて約182,000戸の住宅供給が予定されており、オフプラン物件を中心に取引が活発化しています。
再生可能エネルギー・サステナビリティ
ドバイは「Dubai Clean Energy Strategy 2050」や「UAE Net Zero by 2050」といった政府主導の環境イニシアチブを推進しており、再生可能エネルギー分野での投資機会が拡大しています。
進出時の実務的な注意点
VAT(付加価値税)の取り扱い
年間売上高が375,000AED(約1,500万円)を超える法人はVAT納税義務者となります。売上が全て(100%)海外に対するものである法人は、VAT Exemption(免除申請)を行うことで申告が不要になる場合があります。
ただし、免除申請を行っていなかった場合や申請を怠っていた場合は、原則通りVATの申告義務が生じ、罰金や延滞税が発生する可能性があるため注意が必要です。
労働法の理解
UAEの労働法は2022年に大幅改正され、すべての雇用契約が有期契約(1~3年)に統一されました。試用期間は最長6ヶ月に制限され、雇用主は従業員に医療保険を提供する義務があります。
また、「エミラティゼーション法」により、MOHRE(人的資源・首長国化省)に登録されている企業は、熟練労働者のうち一定割合をUAE国民とすることが義務付けられており、2026年までに10%に達する必要があります。
文化的配慮とコンプライアンス
UAEはイスラム国家であり、ビジネス慣習や商習慣において文化的配慮が必要です。ラマダン期間中の営業時間の調整、金曜日の休日、ハラール認証の理解など、現地の文化や宗教的慣習を尊重する姿勢が求められます。
また、マネーロンダリング対策の強化により、銀行取引やコンプライアンス要件が厳格化しています。適切な会計記録の保持、証拠書類の整備、定期的な監査対応などが不可欠です。
まとめ
ドバイは2025年も引き続き魅力的なビジネス拠点として成長を続けています。経済成長率4%超、非石油部門の比率77.3%という数字が示す通り、経済多角化は着実に進んでいます。
一方で、OECD Pillar Twoの導入による大手多国籍企業への追加課税、フリーゾーン企業のメインランド営業解禁による税制の二重管理、法人税登録の義務化など、税務・法務面での複雑化も進んでいます。
ドバイ進出を成功させるためには、最新の法規制を正確に理解し、適切な進出形態を選択し、専門家のサポートを受けながら慎重に準備を進めることが重要です。特に法人税登録、VAT対応、銀行口座開設といった実務面での課題については、早めの着手と十分な準備期間の確保が求められます。
UAEへの進出をご検討の方や、現地での税務・法務対応にお悩みの方は、国際税務に精通した専門家へのご相談をお勧めします。当会計事務所では、ドバイでの法人設立から税務申告、コンプライアンス対応まで、ワンストップでサポートを提供しております。お気軽にお問い合わせください。
