ドバイで事業を始めたい経営者や起業家にとって、現地法人の設立は最初の大きなステップとなります。税制面での優遇措置や戦略的な地理的立地により、ドバイは中東のビジネスハブとして多くの日本企業が進出しています。しかし2023年6月から法人税制度が導入されたことで、法人税登録や法人税申告義務が厳格化されており、適切な手続きを踏まなければ罰金のリスクもあります。本記事では、2025年最新の情報をもとに、ドバイでの現地法人設立の流れを実務的な視点から解説します。
✅ フリーゾーン法人とメインランド法人の選択
ドバイで法人を設立する際、まず決めなければならないのがフリーゾーン法人とメインランド法人のどちらを選ぶかという点です。
フリーゾーン法人は100%外資出資が可能で、設立手続きが比較的簡素化されています。輸入関税の免除などのメリットがある一方、UAE本土での直接取引には制限があります。一方メインランド法人は、UAE全域で事業活動が可能で、政府系案件への入札参加もできます。多くの業種で外国人100%出資が可能になったため、以前ほど現地パートナーを必要としなくなりました。
| 項目 | フリーゾーン法人 | メインランド法人 |
|---|---|---|
| 外資出資比率 | 100%可能 | 100%可能(多くの業種で) |
| UAE本土での取引 | 制限あり | 制限なし |
| 法人税率 | 条件次第で0%または9% | 9%(課税所得375,000AED以下は0%) |
| 設立手続き | 比較的簡素 | やや複雑 |
| オフィス要件 | フレキシデスク可 | 物理オフィス必須 |
| 初期費用 | 150万円~250万円 | 200~220万円 |
税務面では、フリーゾーン法人でも一定の条件を満たさない限り法人税9%が適用されるケースが多く、日本人が運営する事業では免税条件を満たすことが困難な場合もあります。メインランド法人は法人税9%が適用されますが、課税所得が375,000AED(約1,500万円)以下であれば税率0%となります。
✅ 法人設立の具体的な流れ
ドバイでの法人設立は、以下のステップで進めていきます。
1事業形態と所在地を選択
フリーゾーンかメインランドか、そしてフリーゾーンの場合はどのフリーゾーンにするかを決定します。DMCC、DIFC、ジュベル・アリ、ラアス・アル・ハイマなど、フリーゾーンによって設立費用や維持費用が大きく異なります。
2会社名の登録
宗教的・政治的に問題のない名称であることを確認し、経済開発局(DED)または関連フリーゾーン当局に申請します。この手続きには通常3~5営業日かかります。
3初期承認(Initial Approval)の取得
事業計画書、パスポートコピー、株主や役員の情報などを提出し、当局からの承認を得ます。この段階では事業活動はまだ開始できませんが、次のステップに進むための重要な手続きです。
4定款(Memorandum of Association)の作成と公証
定款はアラビア語で作成する必要があり、会社の目的、資本構成、株主の責任などが明記されます。公証手続きには公証人の前で全株主が署名する必要があり、公証費用は1,500~5,000AED程度かかります。
5オフィススペースの確保
メインランド法人の場合は物理的なオフィスが必要ですが、フリーゾーン法人の場合はフレキシデスクやバーチャルオフィスでも可能な場合があります。オフィス賃貸契約書(Ejari証明書)は、ライセンス取得に必要な書類となります。
6貿易ライセンスの取得
必要書類を揃えて当局に提出し、審査を経て貿易ライセンスが発行されます。ライセンスの種類には商業ライセンス、工業ライセンス、専門職ライセンスなどがあり、事業内容に応じて選択します。
✅ 必要書類と準備事項
法人設立には様々な書類が必要です。
基本的な必要書類
- 全株主と役員のパスポートコピー
- 事業計画書
- 承認された会社名
- 定款(Memorandum of Association)
- オフィス賃貸契約書(Ejari証明書)
- 株主および役員の住所証明
- 銀行リファレンスレター
法人設立時には最低資本金の設定も必要です。フリーゾーンによって異なりますが、DMCCでは1株主あたり10,000AED、会社全体で最低50,000AEDの資本金が必要です。一般貿易ライセンスを取得する場合は最低100万AEDの資本金が求められます。
✅ 設立後の重要な手続き
法人設立後にも重要な手続きが待っています。
1. 法人税登録
2023年6月から施行された法人税法により、全ての法人はライセンス発行日から3か月以内に法人税登録を行う必要があります。登録を怠った場合、10,000AED(約42万円)の罰金が課されます。法人税登録はEmaraTaxポータルを通じてオンラインで行います。
2. 銀行口座の開設
銀行口座開設には以下の書類が必要です。
- 貿易ライセンス
- 設立証明書
- 定款(Memorandum of Association)
- 株主のパスポートとビザ
- エミレーツID
- 事業計画書
- オフィス住所の証明書
銀行によっては最低預金額が25,000~500,000AEDと幅があるため、事前に確認することが重要です。
3. レジデンスビザとエミレーツIDの取得
会社設立後、入国許可証を申請し、UAEに入国後に健康診断を受け、バイオメトリクス(指紋認証)登録を行います。エミレーツIDの発行には通常7~10営業日かかります。
| 手続き | 必要期間 | 主な要件 |
|---|---|---|
| 法人税登録 | ライセンス発行後3か月以内 | EmaraTaxポータルでオンライン登録 |
| 銀行口座開設 | 1~2週間 | トレードライセンス、定款、エミレーツID等 |
| レジデンスビザ申請 | 2~3週間 | 入国許可証、健康診断、バイオメトリクス登録 |
| エミレーツID発行 | 7~10営業日 | バイオメトリクス登録完了後 |
✅ 費用と期間の目安
ドバイでの法人設立には一定の費用と時間がかかります。
フリーゾーン法人の費用
| 費用項目 | 金額 |
|---|---|
| 初期設立費用 | 120万円~200万円 |
| 年間維持費用 | 60万円~120万円 |
| ビザ申請料(1人あたり) | 3,000~8,000AED |
| エミレーツID発行費用 | 別途必要 |
| 健康診断費用 | 別途必要 |
メインランド法人の費用
| 費用項目 | 金額 |
|---|---|
| 初期設立費用 | 200万円~220万円 |
| オフィス賃料(年間) | 5,000AED~ |
| 政府登録費用(申請料) | 1,035AED |
| 政府登録費用(登録料) | 9,020AED |
| 定款作成費用 | 2,020AED |
設立期間の目安
- 日本側でのアポスティーユ取得:約2~3週間
- ドバイでの法人登記・ビザ手続き:約1か月
- エミレーツID取得:約1~2週間
- 全体として2~3か月程度を見込んでおくと良い
✅ まとめ
ドバイでの現地法人設立は、フリーゾーンかメインランドかの選択から始まり、会社名登録、初期承認、定款作成、オフィス確保、ライセンス取得という流れで進みます。設立後も法人税登録、銀行口座開設、ビザ取得など重要な手続きが続きます。
2023年6月から法人税制度が導入され、法人税登録や申告義務が厳格化されています。期限内に登録しない場合は10,000AEDの罰金が課されるため、設立時から適切な税務対応を行うことが重要です。費用は選択する法人形態やフリーゾーンによって大きく異なりますが、初期費用として数十万円から数百万円、期間として2~3か月程度を見込む必要があります。
ドバイでの法人設立を検討されている方は、税務や法務の専門家に相談しながら、自社のビジネスモデルに最適な形態を選択し、必要な手続きを漏れなく進めることをお勧めします。当会計事務所では、ドバイ法人設立から税務申告、ビザ取得まで一貫したサポートを提供しておりますので、お気軽にお問い合わせください。
