AEでビジネスを展開する方々にとって、フリーゾーンという言葉は馴染み深いかもしれません。しかし、その中でも特別な税制優遇を受けられるDesignated Zone(指定ゾーン)については、理解が曖昧な方も多いのではないでしょうか。
本記事では、Designated Zoneの定義から、VATや関税における具体的な優遇措置、そして注意点まで詳しく解説していきます。

Designated Zoneとは
Designated Zoneとは、UAE内閣決定(Cabinet Decision No. 59/2017)によって指定された特定のフリーゾーンを指します。通常のフリーゾーンとの最大の違いは、VATの目的上、UAEの領土外として扱われるという点です。
ただし、すべてのフリーゾーンがDesignated Zoneに該当するわけではありません。たとえば、日本人にも人気のDMCC(Dubai Multi Commodities Centre)やDIFC(Dubai International Financial Centre)、ADGM(Abu Dhabi Global Market)は、Designated Zoneには含まれていません。これらのフリーゾーンでは、通常のUAE本土と同様に5%のVATが適用されます。
Designated Zoneとして認められるための条件
Designated Zoneとして扱われるためには、閣議決定のリストに掲載されているだけでなく、以下の条件を満たす必要があります。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| フェンスで囲まれた区域 | 明確に境界が定められた地理的エリアであること |
| セキュリティ・税関管理 | 人や物品の出入りを監視するセキュリティ措置と税関管理が設置されていること |
| 内部手続きの整備 | 区域内での物品の保管・管理・加工に関する手続きが整備されていること |
| FTAの規則遵守 | ゾーンの運営者がFTA(連邦税務局)の定める手続きに従うこと |
これらの条件をすべて満たした場合にのみ、当該区域はVATの目的上「UAE領土外」として扱われることになります。
UAEにおけるDesignated Zoneの一覧
2025年11月現在、UAE閣議決定に基づき指定されているDesignated Zoneは以下の通りです。

| 首長国 | 指定ゾーン名 |
|---|---|
| アブダビ | Khalifa Port Free Trade Zone |
| Abu Dhabi Airport Free Zone | |
| Khalifa Industrial Zone(KIZAD) | |
| Al Ain International Airport Free Zone | |
| Al Butain International Airport Free Zone | |
| ドバイ | Jebel Ali Free Zone(North-South) |
| Dubai Cars and Automotive Zone(DUCAMZ) | |
| Dubai Textile City | |
| Al Quoz Free Zone Area | |
| DAFZA Industrial Park Free Zone – Al Qusais | |
| Dubai Aviation City | |
| Dubai Airport Free Zone | |
| International Humanitarian City – Jebel Ali | |
| Dubai CommerCity | |
| シャルジャ | Hamriyah Free Zone |
| Sharjah Airport International Free Zone | |
| アジュマーン | Ajman Free Zone |
| ウム・アル・カイワイン | Ahmed Bin Rashid Port Free Trade Zone |
| Sheikh Mohammed Bin Zayed Road Free Trade Zone | |
| ラス・アル・ハイマ | RAK Port Free Zone |
| RAK Maritime City Free Zone | |
| Al Hamra Industrial Zone | |
| Al Ghail Industrial Zone | |
| Al Hulaila Industrial Zone | |
| フジャイラ | Fujairah Free Zone |
| Fujairah Oil Industry Zone(FOIZ) |
VATにおける優遇措置
Designated Zoneにおける物品取引には、以下のようなVAT上の優遇措置があります。
物品の移動に関するVAT取扱い

| 取引パターン | VAT取扱い |
|---|---|
| UAE外からDesignated Zoneへの輸入 | UAE領土外への移動として扱われ、輸入VATは発生しない |
| Designated Zone間の物品移動 | VAT対象外(ただし税関監督下で行われること) |
| Designated Zone内での物品供給 | 「消費」されない限りVAT対象外 |
| UAE本土からDesignated Zoneへの移動 | 国内供給として扱われ、5%のVATが発生 |
| Designated ZoneからUAE本土への移動 | 輸入として扱われ、5%のVAT課税 |
| Designated Zoneから海外への輸出 | 0%(ゼロレート)が適用される |
重要な注意点 – 「消費」の概念
Designated Zone内で物品が「消費(consumption)」される場合、その供給はUAE国内で行われたものとみなされ、5%のVATが課税されます。
FTAは「消費」を広義に解釈しており、物品の利用、適用、使用、展開、活用すべてが含まれます。具体的には以下のケースが該当します。
- 事務所で使用する事務用品の購入
- 製造工程で消費される原材料(ただし、製造された製品がDesignated Zone内で消費されない場合は例外)
- 従業員向けの飲食物の購入
一方、以下のケースは「消費」に該当しません。
- 転売目的での在庫の取得
- 他の製品に組み込むための部品の取得(その製品がDesignated Zone内で消費されない場合)
サービスに関するVAT取扱い
サービスの提供については、Designated Zoneの優遇措置は適用されません。
Designated Zone内であっても、サービスの提供場所はUAE国内として扱われるため、通常の5%のVATが課税されます。これは、コンサルティング、広告、賃貸、物流サービスなど、あらゆるサービスに適用されます。
関税における優遇措置
Designated Zoneは関税面でも大きなメリットがあります。
| 優遇内容 | 説明 |
|---|---|
| 輸入関税の免除 | 海外からDesignated Zoneへ直接輸入される物品は、関税が免除される |
| 再輸出時の免除 | Designated Zoneから第三国へ再輸出する場合、関税は発生しない |
| Zone間移動の免除 | Designated Zone間での物品移動には関税がかからない |
ただし、Designated ZoneからUAE本土へ物品を移動させる場合は、通常の輸入と同様に5%の関税が課されます。製造業の原材料については、一定の条件を満たせば関税免除の申請が可能な場合もあります。
法人税における優遇措置
2023年6月に導入されたUAE法人税においても、Designated Zoneで事業を行う企業には優遇措置があります。
Designated Zoneに所在するフリーゾーン企業がQualifying Free Zone Person(QFZP)の要件を満たす場合、Qualifying Income(適格所得)に対して0%の法人税率が適用されます。
QFZPとして認められるためには、以下の条件を満たす必要があります。
- UAE内に十分な実体(Substance)を維持していること
- 移転価格税制のArm’s Length Principleを遵守していること
- 監査済み財務諸表を作成していること
- 適格活動(Qualifying Activities)から所得を得ていること
なお、Qualifying Incomeに該当しない所得については、通常の9%の法人税率が適用されます。
Designated Zoneに所在する企業のVAT登録義務
Designated Zoneに所在する企業であっても、VAT登録義務は通常のUAE企業と同様に適用されます。
| 登録区分 | 基準額 |
|---|---|
| 強制登録 | 過去12か月間または今後30日間の課税対象供給がAED 375,000を超える場合 |
| 任意登録 | 過去12か月間の課税対象供給または支出がAED 187,500を超える場合 |
海外への輸出売上が100%であっても、売上高がAED 375,000を超えている場合はVAT登録が必要となります。ただし、VAT Exemption(免除申請)を行い承認されれば、VAT申告は不要となる場合があります。
Designated ZoneとNon-Designated Zoneの比較
| 項目 | Designated Zone | Non-Designated Zone(DMCC等) |
|---|---|---|
| VAT目的上の取扱い | UAE領土外として扱われる | UAE本土と同様 |
| Zone内物品取引のVAT | 消費されない限り対象外 | 5%課税 |
| Zone間移動のVAT | 対象外 | 5%課税 |
| サービスのVAT | 5%課税 | 5%課税 |
| 輸入関税 | 免除 | 免除 |
| 法人税優遇 | QFZP要件を満たせば0% | QFZP要件を満たせば0% |
まとめ
Designated Zoneは、輸出入を中心としたビジネスや物流業を営む企業にとって、VAT・関税面で大きなメリットを提供する制度です。特に、Zone間での物品移動や海外との取引が多い企業にとっては、税務コストの削減に直結します。
一方で、以下の点には注意が必要です。
- サービスの提供にはDesignated Zoneの優遇は適用されない
- Zone内で「消費」される物品には通常のVATが課税される
- DMCCやDIFC、ADGMなど人気のフリーゾーンはDesignated Zoneではない
- VAT登録義務は通常の企業と同様に適用される
Designated Zoneでの事業展開を検討されている方や、現在の税務処理に不安がある方は、お気軽に当会計事務所までお問い合わせください。貴社の事業内容に応じた最適な税務アドバイスをご提供いたします。
