ドバイで法人を設立し、輸出入取引を行う際には、関税の仕組みをしっかりと理解しておくことが重要です。UAEの関税制度はGCC(湾岸協力会議)共通関税を基盤としており、フリーゾーンの活用や各種免税制度など、ビジネスを有利に進めるための選択肢が数多く用意されています。
本記事では、ドバイで輸出入取引を行う際に課される関税の税率や免税対象、必要な手続きについて、税務や法務の観点から詳しく解説します。

UAEの関税制度の基本
アラブ首長国連邦における関税制度は、GCC共通関税同盟に基づいて運用されています。GCCは2003年1月に発効した関税同盟であり、サウジアラビア、UAE、バーレーン、オマーン、カタール、クウェートの6カ国が加盟しています。
この制度の最大の特徴は、GCC域内からの輸入品には関税が免除される一方で、GCC域外からの輸入品には一律の税率が適用される点です。UAEでは国際貿易のハブとしての地位を確立するため、比較的低い関税率を維持しながらも、必要な税収を確保する仕組みが整備されています。
標準関税率は5%
UAEで輸入される大半の商品には、CIF価格(Cost, Insurance and Freight)の5%が関税として課されます。CIF価格とは、商品代金に保険料と運賃を加えた合計金額のことを指します。
CIF価格 = 商品代金(Cost)+ 保険料(Insurance)+ 運賃(Freight)
この5%という税率は、国際的に見ても低水準であり、UAE が貿易を促進するための政策として位置づけられています。
高税率が適用される品目
一方で、特定の品目については健康や社会政策の観点から高い税率が設定されています。
| 品目 | 関税率 | 備考 |
|---|---|---|
| アルコール飲料 | 50% | 輸入には特別なライセンスが必要 |
| タバコ製品 | 100% | 物品税(Excise Tax)も別途課税 |
| 豚肉製品 | 輸入制限あり | イスラム法に基づく規制 |
これらの品目については、関税に加えて物品税(Excise Tax)も課される場合があり、タバコには100%、エナジードリンクには100%、炭酸飲料には50%の物品税が適用されます。

関税が免除される主なケース
UAEでは、経済活動を促進するために多様な関税免除制度が設けられています。特にドバイで法人を設立して輸出入ビジネスを行う場合、これらの免除制度を戦略的に活用することが重要です。
GCC域内からの輸入品
GCC加盟国で生産された商品については、原産地証明書を提出することで関税が免除されます。これにより、サウジアラビアやクウェートなどの近隣国との貿易が活発化しており、域内サプライチェーンの構築が進んでいます。
工業用原材料の免除
UAE国内で製造業を営む企業は、生産に使用する原材料や部品について関税免除を申請することができます。この制度を利用するには、経済省(Ministry of Economy)への事前申請と承認が必要です。
製造業向けの関税免除は、UAEが製造業の育成と産業多角化を推進する政策の一環として位置づけられており、特にフリーゾーン内の製造企業にとって大きなメリットとなっています。
基礎食料品と医薬品
国民の生活に不可欠な基礎食料品や医薬品の一部については、関税が免除されています。具体的には以下のような品目が対象です。
- 米、小麦粉、砂糖などの基礎食料品
- 医薬品(承認を受けた特定の品目)
- 教育用の書籍や教材
- 障がい者向けの補助器具
免税点制度
ドバイでは、SAR1,000(約AED979)相当以下の少額輸入品については関税が免除されます。この制度は2023年1月に一時的に引き下げられましたが、同年3月に元の水準に戻されました。
なお、この免税点はあくまで関税に関するものであり、VATの5%は別途課税される点に注意が必要です。

フリーゾーンにおける関税の取り扱い
ドバイには40以上のフリーゾーンが存在し、それぞれが特定の産業や業種に特化した優遇制度を提供しています。フリーゾーンは保税地域として扱われるため、関税面でも大きなメリットがあります。
フリーゾーンへの輸入時
フリーゾーンに商品を輸入する場合、関税は課されません。これは保税扱いとなるためであり、商品がフリーゾーン内に留まる限り、関税の支払いは繰り延べられます。
フリーゾーンから本土への移動時
フリーゾーンから UAE本土(メインランド)に商品を移動させる場合には、通常の輸入と同様に5%の関税とVAT5%が課税されます。
| 取引形態 | 関税 | VAT |
|---|---|---|
| 海外からフリーゾーンへ輸入 | 0%(免除) | 0%(免除) |
| フリーゾーンから本土へ移動 | 5% | 5% |
| フリーゾーンから再輸出 | 0%(免除) | 0%(免除) |
| フリーゾーン間の移動 | 0%(免除) | 0%(免除) |
再輸出ビジネスの活用
ドバイのフリーゾーンは、再輸出ビジネス(Re-Export)の拠点として世界的に知られています。商品をフリーゾーンで一旦受け取り、そのまま第三国へ再輸出する場合には、関税もVATも課されません。
この仕組みを活用することで、ドバイを中継貿易の拠点として位置づけ、中東・アフリカ・アジア市場への販路拡大を図ることができます。実際に多くの日本企業がドバイのフリーゾーンを活用し、地域統括会社や物流拠点を設置しています。
関税の計算方法と実務上の注意点
関税とVATの計算例
実際の輸入時には、関税とVATが段階的に計算されます。以下に具体例を示します。
CIF価格 100 AED の商品を輸入する場合① 関税の計算
関税 = 100 AED × 5% = 5 AED
② VAT計算の課税標準
課税標準 = CIF価格 + 関税 = 100 AED + 5 AED = 105 AED
③ VATの計算
VAT = 105 AED × 5% = 5.25 AED
合計支払額 = 100 AED + 5 AED + 5.25 AED = 110.25 AED
このように、VATは関税を含めた金額に対して計算される点に注意が必要です。
HSコードの重要性
関税率は商品ごとに異なるため、正確なHSコード(Harmonized System Code)の特定が不可欠です。UAEでは2025年より、従来の8桁コードから12桁コードへの移行が完了しており、より詳細な商品分類が求められています。
HSコードの誤りは、関税の過払いや不足、通関の遅延、最悪の場合は罰金の対象となる可能性があります。初めて輸入する商品については、税関当局や専門の通関業者に事前相談を行うことを強く推奨します。
輸入時に必要な書類と手続き
UAEで輸入通関を行う際には、以下の書類を準備する必要があります。
| 書類名 | 内容 |
|---|---|
| コマーシャルインボイス | 商業送り状。商品の詳細、数量、価格等を記載 |
| パッキングリスト | 梱包明細書。荷姿や重量、容積を記載 |
| 原産地証明書 | 商品の製造国を証明する書類 |
| 船荷証券(B/L)または航空貨物運送状(AWB) | 貨物の所有権を示す運送書類 |
| 通関コード(Customs Code) | 輸入者の税関登録番号 |
特に通関コード(Customs Code)は、UAE国内で輸出入業務を行う全ての法人が取得する必要があります。これは連邦税務庁(FTA)への登録とは別のものであり、各首長国の税関当局に申請する必要があります。
特定品目の追加要件
食品、医薬品、化粧品、電気製品などの特定品目については、関連省庁からの事前承認や適合証明書の取得が必要になります。例えば食品の場合は、ドバイ自治体(Dubai Municipality)からの輸入許可が必要です。
FTAと関税優遇措置
UAEは積極的に自由貿易協定(FTA)を締結しており、特定の国からの輸入品については関税が減免される場合があります。
主なFTA締結国・地域
- EFTA諸国 スイス、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタイン
- シンガポール GCC-シンガポールFTA
- GAFTA アラブ自由貿易圏(14カ国以上が加盟)
- インド 包括的経済連携協定(CEPA)を2022年に締結
これらのFTAを活用するためには、原産地証明書(Certificate of Origin)を適切に取得し、輸入時に提出することが必要です。
輸出時の関税について
UAEからの輸出については、原則として関税は課されません。これは輸出促進政策の一環であり、UAE企業の国際競争力を高めることを目的としています。
ただし、輸出先の国で関税が課される可能性はありますので、輸出先国の関税制度を事前に調査しておく必要があります。日本への輸出の場合、日本の関税率表(実行関税率表)に基づいて関税が課されます。
まとめ
ドバイ法人で輸出入取引を行う際には、UAE独自の関税制度を正確に理解することが不可欠です。標準税率は5%と低水準であり、GCC域内取引やフリーゾーンの活用、FTAの適用により、さらに関税負担を軽減できる可能性があります。
一方で、HSコードの正確な分類、必要書類の整備、特定品目の規制対応など、実務上の注意点も多岐にわたります。関税の過払いや通関トラブルを避けるためには、事前の十分な準備と専門家への相談が重要です。
当事務所では、ドバイでの輸出入ビジネスに関する税務相談や、フリーゾーン活用のアドバイス、各種申請手続きのサポートを提供しております。関税に関するご質問や、輸出入ビジネスの立ち上げをご検討の方は、お気軽にご相談ください。
