ドバイへの移住を検討される方から最も多くご相談いただくのが、「日本をいつ出国するのが税務的にベストなのか?」という点です。
結論から申し上げますと、この「出国のタイミング」を誤ると、数百万単位、場合によっては数千万単位で税金の支払額が変わってしまいます。
今回は、私の会計事務所の実務経験に基づき、ドバイ移住における「住民税」と「所得税」の課税関係、そして注意すべき「出国税」について、専門的な見地から解説します。
1. 住民税は「1月1日」に注意
まず、最もインパクトが大きく、かつコントロールしやすいのが住民税です。日本の住民税は「賦課課税方式」をとっており、その年の1月1日時点で日本に住所があるかどうかで、前年1年間の所得に対する課税が決まります。
ここが非常に重要なポイントです。
例えば、2025年の所得に対する住民税(本来であれば2026年6月から納付開始)は、2026年の1月1日に日本にいない(非居住者である)場合、全額免除されます。
| 出国日(転出届提出日) | 前年所得に対する住民税 |
|---|---|
| 12月31日以前 | 課税されない(0円) |
| 1月2日以降 | 全額課税される |
たった数日の違いですが、12月31日までに出国(転出届を受理される)すれば、翌年度に払うはずだった住民税がゼロになります。逆に、年明けの1月2日に出国してしまうと、すでに1月1日時点で住民登録があるため、その後すぐに日本を離れたとしても、その年の住民税を全額納める義務が発生します。
そのため、住民税という観点では「年末(12月中)の出国」が有利ということになります。
2. 所得税と「準確定申告」
次に所得税です。所得税は住民税とは異なり、1月1日から「出国する日」までの間に稼いだ所得に対して課税されます。
ここで実務上重要になるのが、「納税管理人の届出書)」の提出です。
通常、個人の確定申告は翌年の2月16日から3月15日の間に行いますが、年度の途中で海外へ移住する場合、以下の2つのパターンのどちらかを選ぶことになります。
パターンA:納税管理人を選任しない場合
出国する日までに、その年の1月1日から出国日までの所得を計算し、申告・納税を済ませる必要があります。これを「準確定申告」と呼びます。出国準備で忙しい時期に納税まで完了させる必要があるため、あまり現実的ではありません。
パターンB:納税管理人を選任する場合
出国前に税務署へ「納税管理人の届出書」を提出しておけば、本人が海外にいても、日本にいる代理人(納税管理人)が翌年の3月15日までに通常の確定申告を行うことができます。この場合、出国日までの所得についてのみ日本で課税され、出国日の翌日以降に発生した海外での所得(ドバイでの給与など)は、日本の所得税の対象外となります。
なお、納税管理人は親族でもなれますが、税務署からの通知が届く重要な役割ですので、私どものような税理士法人に依頼されるケースが一般的です。
3. 「出国税」に注意が必要
資産をお持ちの方が特に注意しなければならないのが、「国外転出時課税(いわゆる出国税)」です。
以下の条件を両方満たす場合、保有している有価証券等(株式、投資信託、デリバティブなど)の含み益に対して、出国時に所得税(15.315%)と住民税(5%)が課税されます。
- 出国に際して、1億円以上の対象資産(有価証券等)を保有していること
- 出国前10年以内に、通算して5年を超えて日本の居住者であったこと
ここで怖いのは、「まだ利益確定していない(売っていない)株」に対しても税金がかかるという点です。「含み益」に対して課税されるため、手元に現金がない状態で多額の納税を迫られるリスクがあります。
不動産や現預金はこの「1億円」の判定には含まれませんが、株式や投資信託を中心に資産形成されている方は、出国前にポートフォリオの組み替えや、納税資金の確保を検討する必要があります。(※なお、納税管理人を選任し担保を提供することで、納税を5年間猶予する制度もありますが、手続きは非常に煩雑です)
4. ドバイ側の「居住者認定」
日本を出ればそれで終わりではありません。ドバイ(UAE)側で確実に「税務上の居住者」として認められる必要があります。
ドバイには所得税がありませんが、日本側から「実質的には日本の居住者ではないか(生活の本拠は日本にあるのではないか)」と指摘されるリスク(居住者認定リスク)を避けるため、以下の要件を満たし、Tax Residency Certificate(税務居住者証明書)を取得できる体制を整えるべきです。
- UAE国内に年間183日以上滞在する
- UAE国内に恒久的住居(賃貸契約等)を持つ
- UAEのID(エミレーツID)を取得している
近年、UAEの税制も整備が進んでおり、単にビザを持っているだけでは不十分なケースも出てきています。「生活の実態」をドバイに移すことが、日本税務当局への対抗策としても最強の手段となります。
結論・まとめ
| 項目 | ベストなタイミングと対策 |
|---|---|
| 住民税 | 12月31日までに出国(転出届)することで、翌年分を全額節税可能 |
| 所得税 | 納税管理人を選任し、翌年3月に確定申告を行うのがスムーズ |
| 出国税 | 有価証券等の含み益が1億円を超える場合、課税対象となるので事前シミュレーションが必須 |
| ドバイ居住 | 183日以上の滞在と住居確保で、確実にUAE居住者となる |
ドバイ移住による税メリットを最大限に享受するためには、「年末出国」をターゲットにスケジュールを組むのが王道です。ただし、出国税の対象となる資産規模の方や、日本に家族を残す場合は個別の判断が必要になります。
ご自身の状況に合わせて、余裕を持った計画を立ててください。
