日本とドバイ間のCRSの適用状況

投稿:2025年11月29日更新:2025年11月30日ブログ

近年、ドバイに移住したり、現地法人を設立した日本人の方から「ドバイの銀行口座の情報は日本の税務署に伝わるのか」「日本とドバイの間でCRSは実際に動いているのか」といったご相談を受けるケースが増えています。

一部のウェブ記事やX、YouTubeなどでは、今でも「ドバイ口座は日本から追えない」「ドバイはCRSの網から漏れている」といった誤解を招く情報も見受けられますが、現状の国際的な税務環境はかなり変化しています本記事では、日本とドバイ(アラブ首長国連邦)との間で、CRSがどのように適用されているのかを整理し、

  • 日本居住者がドバイの金融機関に口座を保有している場合
  • ドバイ居住者が日本の金融機関に口座を残している場合

といった、実務上よくあるパターンを中心に解説していきます。

CRSとは何か 

CRS(共通報告基準)の概要

CRSは、OECDが策定した「非居住者に係る金融口座情報を各国の税務当局間で自動的に交換するための国際基準」です。各国共通のおおまかな枠組みは次のとおりです。

項目 概要
対象となる情報 口座名義人の氏名、住所、居住地国、納税者番号、口座残高、利子、配当、売却代金など
対象となる金融機関 銀行、証券会社、投資信託、保険会社などの一定の金融機関
対象となる口座 原則として非居住者が保有する金融口座(一定の小口口座や年金などは除外されることもあります)
情報の流れ 金融機関が自国の税務当局に報告し、税務当局同士が自動的に情報を交換

日本では、平成二十七年度税制改正で「非居住者に係る金融口座情報の自動的交換のための報告制度」が導入され、平成三十年から実際の情報交換が始まっています。

日本側の位置付け

日本は、CRSの枠組みに早期に参加した国の一つであり、国税庁が外国税務当局との間で毎年自動的情報交換を行っています。国税庁が公表している資料では、日本は以下のように明記されています。

  • 多数の国・地域とCRS情報の自動交換を実施していること
  • その対象国・地域の一覧の中にアラブ首長国連邦(UAE)が含まれていること

実際に、令和四事務年度の情報交換実績の概要では、中東・アフリカの区分の中にアラブ首長国連邦が挙げられており、日本との間でCRS情報の自動的交換の対象国になっていることが示されています

ドバイ側の位置付け

UAE側でも、CRS導入のための国内法制が整備されています。

  • 内閣決議第九号によりCRSの実施方針を決定
  • OECDの租税条約に関する多国間条約 MAC多国間コンピテント・オーソリティ協定 MCAAを批准
  • 2018年からCRSに基づく自動的情報交換を開始

UAE財務省が公表しているCRSに関するFAQでは、次のような点が強調されています。

● UAEはCRSにおいて「ワイドアプローチ」を採用

UAEの報告金融機関は、米国とUAEを除く全ての国の居住者を原則として対象にして、税務上の居住地と納税者番号を確認します。

つまり、日本との二国間条約ベースで個別に「日本だけ特別に外れている」という扱いはなく、他のCRS参加国と同様に扱われているということになります


日本とドバイ間でCRSは動いているのか

結論から言えば、日本とUAE ドバイの間では、既にCRSに基づく自動的情報交換が実務的に行われている状況です。

日本側から見た位置付け

日本の国税庁は、毎年

  • 日本の金融機関が報告した非居住者の金融口座情報を各国に提供し
  • 各国の金融機関が報告した日本居住者の金融口座情報を受領 しています。

公開資料を見ると

  • CRSの対象国・地域としてアラブ首長国連邦が列挙されていること
  • 日本居住者の海外口座情報についても、複数の国・地域から大量の情報を受領していること

が示されています。この枠組みの中で、

  • 「日本居住者がUAE・ドバイの金融機関に口座を保有している場合」
  • 「UAE居住者が日本の金融機関に口座を保有している場合」

はいずれも、CRSの対象となる可能性があるということになります。

UAE側から見た位置付け

UAE財務省のFAQでは、UAEの報告金融機関は

  • 米国とUAE以外の居住地国を持つ口座名義人を原則として報告対象候補とし
  • その中から、UAEと自動的情報交換関係を持つ相手国に対して情報を送る

という運用が示されています。

また、UAEのCRS解説を行っている各種専門家向け資料でも、UAEが100を超えるパートナー国との間でCRS情報を交換しており、その中に日本が含まれる旨の説明が行われています


日本居住者がドバイの銀行口座を持つ場合

実務上、一番質問が多いのが

「日本に住んだままドバイの銀行口座を持っている場合、どこまで日本の税務署に情報が伝わるのか」

というケースです。

情報の流れのイメージ

日本居住者がドバイの銀行口座を持っている場合、典型的には次のような流れになります。

ステップ 内容
1 口座開設時や定期的な更新時に、銀行から税務上の居住地と納税者番号の自己申告 CRS自己申告書の提出を求められます
2 自己申告内容や日本の住所、パスポート写しなどから、その人が日本の税務上の居住者であると判断されれば、CRS上の報告対象となる可能性が高い
3 銀行等の報告金融機関が、該当口座の残高や利子、配当、売却代金などをUAE財務省に報告
4 UAE財務省が、日本を含む交換相手国に対して、該当する日本居住者の口座情報を自動的に送付
5 日本側では、氏名、住所、生年月日、マイナンバーなどを用いて、その人の申告内容とCRS情報を突合し、申告漏れの有無を確認

国税庁は、CRS情報の交換により、海外金融機関における日本居住者の口座残高や利子配当等を把握し、国外財産調書や国外送金等調書などと組み合わせて、申告漏れを検知することを明言しています。

よくある誤解と注意点

YouTubeやXなどでは、今でも

  • 「ドバイは税金が無いから日本にも情報はいかない」
  • 「ドバイの銀行はマイナンバーを聞いてこないので安全」
  • 「ドバイと日本の間ではCRSが動いていない」

といった説明がなされていることがあります。

しかし、実際には

  • CRSは税金があるかどうかとは別に、情報を交換するための仕組みであること
  • UAEはCRSに参加しており、ワイドアプローチで非居住者の情報を収集していること
  • 日本とUAEとの間では、CRSに基づく自動的情報交換の対象国に含まれていること

から考えると、「ドバイだから情報が届かない」という前提での節税スキームは、現在の国際的な税務環境とは整合しません。


ドバイ居住者が日本の金融機関に口座を残す場合

逆に、実際にドバイへ移住した方が日本の銀行口座や証券口座を残しているケースも多く見られます。

この場合の論点は

  • 日本の金融機関は、その人を「非居住者」として扱っているのか
  • その非居住者口座の情報が、CRSを通じてどこに送られているのか

という点になります。

日本の「報告金融機関」の立場

日本では、金融機関は

  • 口座名義人の居住地国を確認し
  • 非居住者に該当する場合、その口座情報を国税庁に報告し
  • 国税庁が相手国の税務当局に対して、自動的に情報交換を行う

という仕組みです。

国税庁の公表資料によれば、日本はアラブ首長国連邦を含む多数の国との間でCRS情報を自動的に交換しており、UAEも交換対象に含まれるとされています。

そのため、

● ドバイに移住し、日本の金融機関に対して適切に非居住者としての届出を行っている場合

その口座はCRS上、非居住者口座として扱われ、日本からUAE側に情報が送られる可能性があります。

● 逆に、日本側に対して一切届出をせず、形式上は「日本居住者のまま」として扱われている場合

CRS上は「日本居住者の国内口座」として扱われるため、自動的に海外に送られる情報は限定的になりますが、その代わりに日本側での居住者判定や国内税務調査のリスクが高まります。

この点は、日本の居住者・非居住者の判定や、国外転出時課税、非居住者の源泉徴収などとも密接に関係するため、単純に「非居住者届を出せば良い」「出さなければ安全」といった単線的な議論は危険です。


日本とドバイ間CRSの代表的なパターン整理

ここまでの内容を、よくある相談パターンに当てはめて整理すると、概ね次のようなイメージになってきます。

パターン 税務上の居住地 口座の所在地 CRS上の主な情報の流れ
A 日本 UAE UAEの金融機関が日本居住者として把握した場合、口座情報がUAE財務省経由で日本の国税庁に送付
B UAE 日本 日本の金融機関が非居住者として報告し、日本の国税庁からUAE財務省へ口座情報が送付される可能性
C 判定が食い違う可能性 日本 日本側の金融機関からUAEへはCRS情報が送られない一方、日本の税務署からは「日本居住者としての申告漏れ」や「国外財産調書未提出」の観点から調査対象となるリスク
D 第三国 日本・UAE それぞれの国の金融機関から、その第三国の税務当局に対してCRS情報が送られる可能性。日本やUAEに直接送られるとは限らないが、第三国経由で照会されるリスクは存在

重要なのは、CRSでは「どこの国の税務上の居住者であるか」が情報の行き先を決める鍵になっているという点です

日本に住んでいながら「名義だけドバイ法人」「口座だけドバイ」にしても、居住者判定そのものが日本にある限り、CRSや国内法に基づく情報収集から逃れることは難しくなりつつあります。


CRSと日本側の国内制度の組み合わせ

CRSはあくまで「自動的情報交換のための国際的なパイプ」に過ぎず、日本側にはこれとは別に、複数の情報収集制度が存在します。

代表的なものは次のとおりです。

制度 概要
国外財産調書制度 12月末時点で5,000万円を超える国外財産を保有する場合、翌年六月末までに国外財産調書の提出が必要
国外送金等調書制度 国内の金融機関から100万円を超える国外送金等が行われた場合、金融機関が税務署に調書を提出
国外転出時課税(出国税) 1億円超の有価証券等を保有したまま出国する場合に、みなし譲渡所得への課税
非居住者に対する源泉徴収 非居住者に支払う不動産賃料や役員報酬などに対する20%超の源泉徴収

国税庁や各種専門家の解説でも、CRSにより海外口座情報が自動的に入手されることで、これらの制度と組み合わせて海外資産を「見える化」し、申告漏れの把握が容易になっていることが指摘されています。

そのため、

  • 「CRSに引っかからなければ大丈夫」という発想
  • 「物理的に日本から見えない国に口座を作れば安全」という発想

はいずれも、現在の実務ではかなりリスクが高いと考えるべき状況です


CRS2.0と暗号資産などの今後の動向

2020年代に入り、CRS自体も見直しが進んでいます。

CRS2.0とUAEの対応

OECDは、金融市場のデジタル化や暗号資産の普及を受けて、CRSの見直しを進めており、いわゆるCRS2.0として

  • 電子マネーや中央銀行デジタル通貨といった新しい金融商品
  • デジタルプラットフォームやフィンテック事業者

をカバーする方向でルールを拡張しています。

UAE財務省も、2025年にCRS2.0の実施にコミットした旨を公表しており、2027年頃から新ルールに基づく報告義務が始まる見込みとされています

日本側の暗号資産情報交換 CARF

日本でも、暗号資産について暗号資産報告枠組み(CARF)に従った情報交換を実施する方向で税制改正が行われており、今後は

  • 海外の暗号資産交換業者等から報告された非居住者の取引情報
  • それらを各国税務当局間で自動的に交換する仕組み

の整備が進められています。

これにより、従来は把握が難しかった海外取引所やオフショア口座における暗号資産取引についても、一定の範囲で税務当局が把握できるようになる方向です。


実務的に押さえておきたいポイント

日本とドバイ間のCRSの適用状況を踏まえ、実務上特に注意すべきポイントを整理すると、次のようになります。

1 居住者か非居住者かの判定が出発点

CRSでは「どこの国の税務上の居住者か」が全ての出発点です。

  • 日本側では、住所や居所、家族の居住状況、職業、資産の所在などを総合して居住者か非居住者かを判定
  • UAE側でも、滞在日数や主たる居住地、経済的拠点などを基準に税務上の居住者を定義

しており、日本とUAEの双方の国内法、そして日UAE租税条約の「居住者」規定を合わせて検討する必要があります。

単に「ドバイに会社を作ったから非居住者」「ドバイに銀行口座があるからUAE居住者」という判断は、税務上は危険です。

2 ドバイ口座は日本側からも見え得るという前提で考える

UAE ドバイは

  • CRSに参加している
  • ワイドアプローチを採用している
  • 日本とCRSに基づく自動的情報交換の対象国に含まれている

ことから、日本居住者が適切に自己申告を行っている場合、ドバイの銀行口座情報が日本に届く可能性は十分にあります

情報が届いているかどうかは外形からは分かりませんが、「届いていない前提」で申告を行うことは、今後の税務調査リスクを大きく高めます。

3 日本側の国内制度との組み合わせを意識する

CRSだけでなく

  • 国外財産調書
  • 国外送金等調書
  • 出国税
  • 非居住者への源泉徴収

など、複数の制度が組み合わさって海外資産の把握が強化されています。

特に

  • 移住前後の株式や暗号資産の扱い
  • 日本に残した不動産や役員報酬の源泉徴収
  • 日本口座への送金や日本からドバイへの送金の履歴

などは、将来の税務調査でもよく確認されるポイントになり得ます。


まとめ

最後に、日本とドバイ間のCRSについて、ポイントを整理しておきます。

  • 日本もUAEもCRSの枠組みに参加しており、日本側の公表資料でもアラブ首長国連邦 UAEが自動的情報交換の対象国に含まれていることが確認できます。
  • UAE ドバイ側では、ワイドアプローチにより、米国とUAE以外の居住地国を持つ口座について、原則としてCRS上の報告対象として扱う方針が示されています。
  • そのため、日本居住者がドバイの銀行や証券会社に口座を保有している場合、適切に自己申告が行われていれば、その情報が日本の国税庁に自動的に届く可能性が高いと考えるべきです。
  • 逆に、ドバイ居住者が日本の金融機関に非居住者口座を残している場合は、日本側からUAE側へCRS情報が送られる可能性があります。
  • さらに、日本側には国外財産調書や国外送金等調書、出国税など、CRS以外の情報収集制度も存在しており、これらを組み合わせることで海外資産の「見える化」が大きく進んでいます。

ドバイ移住やドバイ法人設立は、適切に設計すれば国際的にも正当な形で税務メリットを享受できる可能性がありますが、「ドバイだから日本からは見えない」という前提に立ったスキームは、現在の国際課税の潮流からは完全に外れてしまいます

日本とドバイの両方の税務、そして日UAE租税条約、CRSや今後のCRS2.0や暗号資産報告枠組みまで含めて総合的に検討する必要があります。

ご自身や自社の状況が上記のどのパターンに当てはまるのか分からない、あるいは過去数年分を含めて整理が必要という場合は、日本側・UAE側双方の税制を踏まえた検討が不可欠です。日本とUAEの税制やCRSの実務に精通した専門家に早めに相談し、移住計画や資産構成、法人スキームを一体で設計していくことをおすすめします。弊所でも、日本側の税理士事務所とも連携しながら、CRSやタックスヘイブン対策税制を踏まえたドバイ移住・法人設立のご相談を承っていますので、個別具体的なご事情がある方は、お気軽にお問い合わせください。

 このブログを書いた人

税理士・公認会計士(日本・UAE)。ドバイ在住。日本とドバイで会計事務所を経営しています。税務顧問や会計監査、ドバイへの移住支援を行っています。

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