国外転出時課税(出国税)で納税猶予が認められる場合とは

投稿:2025年11月29日更新:2025年11月29日ブログ

国外転出時課税は、出国時点で保有する有価証券などの含み益に対して、「みなし譲渡」による所得税等を課す制度です。もっとも、一定の要件を満たすことで、出国時に発生した税金については、5年間(延長により最大10年間)納税を猶予できる制度が用意されています。

国外転出時課税と対象者の整理

国外転出時課税の対象となるのは、出国時に1億円以上の対象資産(株式、投資信託、未決済デリバティブなど)を保有しており、過去10年のうち5年以上日本の居住者であった個人です。2015年以降、オーナー経営者や資産家の海外移住が増加したことを背景に、株式などに多額の含み益を抱えたまま国外へ転出することを抑制する目的で導入されました。

出国時点で資産を実際に売却していなくても、制度上は売却したものとみなされるため、キャッシュが入っていないにもかかわらず、かなり大きな納税負担が発生し得る点が特徴です。

対象資産のイメージ

区分 具体例
上場有価証券 上場株式、ETF、REIT、公社債投信など
非上場株式等 自社株式、持分会社の出資持分など
デリバティブ 未決済の信用取引、デリバティブ取引に係る建玉等

納税猶予が認められる基本要件

国外転出時課税の申告を行う者が、一定の手続きを行うことで、出国時に発生した所得税等の納付を5年間(延長で10年間)猶予できます。

典型的な要件は次のとおりです。

  • 出国までに、日本国内の納税管理人を届け出ていること
  • 出国年分の確定申告書に、国外転出時課税の適用及び納税猶予を受ける旨を記載し、所定の書類を添付していること
  • 確定申告期限までに、納税猶予される税額および利子税額に見合う担保を提供していること

この納税猶予を受けると、出国日から5年間は、出国時点で発生した税金の納付が猶予され、猶予期間の満了日の翌日から4か月を経過する日が納期限となります。

納税猶予期間と最大10年までの延長

納税猶予の基本期間は5年間ですが、一定の手続きにより、さらに5年間の延長が可能とされており、合計で最大10年間まで猶予期間を伸ばすことができます。延長を希望する場合は、最初の5年の猶予期間が満了する前に、「納税猶予期限延長届出書」を所轄税務署に提出し、引き続き担保の提供など猶予要件を満たしている必要があります。

延長が認められれば、納税猶予の期限は「国外転出の日から10年を経過する日」となり、その日の翌日から4か月を経過する日が、最終的な納期限と整理されます。逆に、この延長届出を失念した場合は、5年経過時点で猶予が打ち切られ、一括での納税義務が確定するため、カレンダー管理と専門家によるフォローが実務上は必須です。

納税猶予のための担保提供

納税猶予の適用を受けるためには、猶予税額および利子税額に相当する担保の提供が求められます。担保として認められる財産は、預貯金、有価証券、不動産、国債・地方債などが一般的であり、財産の種類ごとに質権設定や抵当権設定などの方法により担保提供を行います。

近年の改正により、非上場株式に関しても株券発行を前提としない質権設定で担保提供を行えるなど、一定の手続き簡素化が進められていますが、それでもなお実務的な負担は軽くありません。

さらに、納税猶予を継続している間は、毎年12月31日時点の対象資産の保有状況を記載した「継続適用届出書」を、翌年3月15日までに提出しなければならないため、年次での申告・報告がセットで求められます。

帰国した場合の課税取消し・減額

納税猶予を利用している場合、一定期間内に日本へ帰国すれば、国外転出時課税自体を取り消したり、税額の減額を受けられる可能性があります。

典型的なパターンは次のとおりです。

  • 出国から5年以内(延長後は10年以内)に日本に帰国し、帰国時まで対象資産を引き続き保有している
  • 帰国から4か月以内に更正の請求など所定の手続きを行う

この場合、出国時の「みなし譲渡」はなかったものとみなされ、課税そのものが取り消される扱いとなり、対象資産は今後実際に売却した時点で所得税等の課税対象となります。他方、帰国前に一部でも対象資産を売却していると、その部分については納税猶予が打ち切られ、当該部分に相当する猶予税額・利子税を納付する必要が出てきます。

相続・贈与が発生した場合の取扱い

納税猶予期間中に国外転出者が死亡したり、対象資産を贈与したりする場合には、別途、相続税・贈与税との関係で納税猶予・減額措置が用意されています。

例えば、国外転出時課税の対象者が死亡した場合には、相続開始の日以後、一定期間内に相続人が必要な手続きと担保提供を行うことで、出国税に係る所得税についても相続税と並行する形で納税猶予が認められる余地があります。

また、対象資産を居住者である親族に贈与した場合などには、国外転出時課税の取消しや減額が認められる場面もあるため、相続・贈与の設計と出国税の納税猶予を一体で検討する必要があります。一方で、令和6年度以降の税制改正では、相続税・贈与税や事業承継税制の見直しも進行しているため、最新の通達・Q&Aを踏まえた実務判断が欠かせません。

納税猶予が打ち切られる典型パターン

納税猶予を受けている場合でも、次のような事由が生じると、猶予の取り消しや一括納税が求められることがあります。

  • 納税猶予期間中に対象資産を全部または一部売却した場合
  • 提供している担保に異動があり、必要な代替担保や追加担保を提供しない場合
  • 毎年の継続適用届出書の提出を怠った場合
  • 5年経過時(延長後は10年経過時)までに延長届出書を提出しなかった場合

これらに該当すると、猶予されていた税額に加え、利子税を含めて納付しなければならず、事実上の「一括納税」となります。したがって、納税猶予を選択した場合には、移住後も継続的な税務モニタリングと情報管理体制の整備が前提条件といえます。

納税猶予した場合に非居住者に認定される余地はあるのか

納税猶予を利用すること自体は、日本の「居住者のままでいなければならない」という意味ではありません。

日本の所得税法上、「居住者」か「非居住者」かは、住所・居所、生活の本拠、1年以上の滞在見込みなどの実態に基づいて判断され、納税猶予の有無とは別次元の概念として整理されています。

出国税と居住者・非居住者判定の関係

国外転出時課税は、もともと「日本の居住者だった個人が、今後は非居住者となるタイミング」で課税する制度として設計されています。したがって、出国税が適用される時点では、前提として「日本の居住者から非居住者への切り替え」が意識されており、納税猶予を選択したからといって、税法上の居住区分が自動的に居住者のまま固定されるわけではありません。

実際の居住性判定は、次のような要素を総合的に見て判断されることになります。

  • 海外での住居の有無とその実態(契約書、光熱費の契約など)
  • 日本での住居・家財の処分状況や、家族の居住地
  • 主たる勤務先や事業拠点がどこに所在しているか
  • 日本と海外それぞれの年間滞在日数
  • 生活費決済口座や日常生活の本拠がどこにあるか

これらの事情から、生活の本拠が明らかに海外(例えばアラブ首長国連邦・ドバイ)に移っている場合には、日本側では「非居住者」と認定される余地は十分にあります。

納税猶予と非居住者認定の実務関係

納税猶予制度は、出国時に発生した所得税の納付を5年から最大10年間先送りする制度にすぎず、居住区分そのものを制限するものではありません。納税猶予を受けると、日本国内に納税管理人を置き、毎年の継続届出や担保管理を行う必要がありますが、これは「申告・納税事務を行う窓口」を確保する趣旨であり、納税者本人が日本居住者であることを前提とするものではないのです。

実務的には、次のような整理が可能です。

  • 海外移住後、生活の本拠を海外に移し、日本での滞在が一時的・短期にとどまるのであれば、納税猶予の有無にかかわらず、日本では非居住者として取り扱われる余地がある
  • 納税猶予を選択しても、日本で長期滞在を継続し、家族・事業・生活の中心が引き続き日本にある場合には、居住者と判断される可能性が高い

つまり、「納税猶予を利用すると非居住者になれない」という理解は正確ではなく、あくまで居住性は実態ベースで判断されるというのがポイントになります。

いわゆる「183日ルール」に関する誤解

国際税務の一般的な説明では「183日以上日本にいなければ非居住者になれる」といった表現がよく見られます。しかし、日本国内法上の居住者判定は、183日という単純な日数基準だけで完結しているわけではありません。

日数はあくまで重要な要素の一つであり、日本で半年以上滞在していないからといって、必ず非居住者になるとは限りません。前述のとおり、住所、生活の本拠、家族・事業拠点などを総合的に見て判断されるため、ケースバイケースの検討が必須です。

他方で、海外居住の実態が明確で、日本での滞在が年間数週間程度に限定されているようなケースでは、非居住者認定との整合性は取りやすくなります。したがって、移住後は日数管理も含めた証拠の蓄積と記録管理が重要な意味を持つのです。

納税猶予を前提に非居住者となる場合の実務上の留意点

納税猶予を利用しながら非居住者として生活する場合には、次のような点に留意する必要があります。

  • 納税管理人を通じて、毎年の継続適用届出や担保の管理を確実に行うこと
  • 日本滞在日数、住居契約、家族の居住地、勤務・事業拠点など、居住性判定に関係する証拠書類を整理・保管し、年次で整理しておくこと
  • 日本源泉所得(役員報酬、不動産所得、利子・配当など)について、非居住者ルールに基づく源泉徴収や申告が適切に行われているか、日・UAE租税条約の適用も含めて確認すること

特に、オーナー経営者がドバイに移住し、日本法人から役員報酬を受け取る場合には、居住者・非居住者の判定と、給与所得の課税関係(日本源泉所得かどうか)の整理が重要なウエイトを占めます。誤った判定のままで複数年が経過すると、当初予想していなかった追加納税や申告漏れのリスクが生じるため、移住前から専門家のアドバイスを受けておくことが現実的です。

ドバイ移住・資産保有オーナーが押さえるべきポイント

ドバイなどのタックスフレンドリーな地域へ移住するオーナー経営者の場合、自社株式が1億円を超える評価額となっていることも多く、国外転出時課税の対象となるリスクは高くなります。

このようなケースでは、出国前に次の三点を一体で設計する必要があります。

  • 「納税猶予を前提とした移住計画」
  • 「5~10年スパンでの帰国・継続海外居住の方針」
  • 「相続・事業承継の方針」

どのタイミングでどの資産を動かすかまで含めた中長期シミュレーションが不可欠です。

同時に、納税猶予制度だけでなく、移住先国(UAEなど)の居住者判定や税務取扱い、将来の相続税・贈与税、タックスヘイブン対策税制などとの相互作用も考慮しなければなりません。

単に「出国時の課税だけを見る」のではなく、グローバルな資産税・所得税の全体設計が求められるため、出国前の早い段階から、国際税務に明るい専門家へのご相談をおすすめします。

まとめ

国外転出時課税の納税猶予は、出国時の「みなし譲渡課税」に伴うキャッシュアウトを抑えつつ、5年から最大10年の時間を確保するための実務的に重要な制度です。ただし、担保提供や毎年の届出など形式要件も多く、管理を誤ると一括納税リスクが高まるため、継続的なモニタリングが必須といえます。

一方で、出国税の納税猶予を選択したからといって、日本の「居住者」のままでいなければならないわけではありません。実態として海外で生活の本拠を確立し、日本での滞在が限定的であれば、日本側では「非居住者」と認定されることも可能です。

出国後5年(延長後は10年)以内の帰国や、相続・贈与等の発生時には、適切な手続により課税取消しや減額措置を受けられる可能性がある一方で、スケジュール管理や資産の売却タイミング、そして日本側での非居住者認定を誤ると、猶予の打ち切り・利子税負担につながります。

ドバイなど海外移住を検討しており、自社株式や金融資産の評価額が一定規模に達している方は、国外転出時課税・納税猶予制度だけでなく、相続税・贈与税、事業承継税制、移住先国の税制、そして非居住者認定の実態要件まで含めた総合的な設計が重要になります。出国の決定前から、我々のような国際税務と日本の所得税に精通した専門家へのご相談をおすすめいたします。

 このブログを書いた人

税理士・公認会計士(日本・UAE)。ドバイ在住。日本とドバイで会計事務所を経営しています。税務顧問や会計監査、ドバイへの移住支援を行っています。

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