UAEで法人を設立し、ビジネスを軌道に乗せた経営者の方々から、最近よくいただく質問があります。
「日本との取引で源泉税が引かれてしまうのですが、どうにかなりませんか?」
「ドバイ法人が『居住者』であることを証明する書類はどこで手に入りますか?」
UAEは2023年6月から法人税(Corporate Tax)が導入され、税務環境が大きく変化しました。これに伴い、国際的な二重課税を防ぐための手続きが以前にも増して重要になっています。
そこで本日は、ドバイ法人が日本などの外国税務当局に対して居住者証明を行うための「TRC(Tax Residency Certificate:税務居住者証明書)」の取得方法について、最新のEmaraTax(税務ポータルサイト)での手続きや、実務上の注意点を交えて解説します。
TRC(税務居住者証明書)とは何か
TRCとは、UAE連邦国税庁(FTA)が発行する公的な証明書で、その法人(または個人)がUAEの税法上の「居住者」であることを証明するものです。
なぜこの証明書が必要かというと、最大の目的は「租税条約(DTA:Double Taxation Agreement)の恩恵を受けるため」です。
日本とUAEの間には租税条約が結ばれています。通常、日本の企業が海外法人へ支払い(配当、利子、使用料など)をする際、日本側で20.42%の源泉徴収が必要になるケースが多いですが、TRCを提出し、租税条約の届出を行うことで、この源泉税率を免除または軽減(10%など)させることが可能になります。
つまり、TRCがないと「日本とUAEの両方で課税される(あるいは高い税率が適用される)」という二重課税のリスクが生じます。コスト削減の観点からも、ドバイ法人にとってTRC取得は必須の手続きと言えます。
TRC取得に必要な要件
単に法人を設立しただけでは、TRCは取得できません。FTAは「実体(Substance)」を非常に重視しています。
申請前に、以下の要件を満たしているか必ずチェックしてください。
| 項目 | 要件の詳細 |
| 法人設立期間 | 原則として1年以上活動していること(過去の対象期間を指定するため) |
| オフィス | 物理的なオフィススペース、もしくはFlexi Deskなどが必要。 |
| 財務諸表 | 対象年度の財務諸表の提出が原則として必須。2025年の規制更新により完全な監査義務は削除されましたが、実務上は相当程度の精度の財務諸表の提出がほぼ必須となっています。 |
| 銀行口座 | UAE国内の銀行口座の明細(過去6ヶ月分) |
以前は簡易的な書類でも通ることがありましたが、法人税導入以降、審査は厳格化しています。完全に監査を行わない場合でも、必要十分な会計手続・決算を経て信頼性の高い決算書を準備しておくことがTRC承認率の向上につながります。
申請プロセスと必要書類
現在は、すべての手続きがUAE国税庁のポータルサイト「EmaraTax」上で完結します。以前の財務省(MoF)のシステムからは変更されていますのでご注意ください。
1. 必要書類の準備
申請前に、以下の書類をPDF(またはJPEG)で用意します。
- 有効な貿易ライセンス(Trade License)のコピー
- 設立定款(MOA)のコピー
- 取締役/マネージャーのパスポート、Emirates ID、VISAのコピー
- 対象年度の財務諸表
- オフィスの賃貸契約書(Ejari)
- 銀行取引明細書(過去6ヶ月分、銀行印があるもの)
- 組織図(Company Structure)
2. EmaraTaxでの申請手順
| ステップ | 手続き内容 |
| 1 | EmaraTaxにログイン UAE Passなどを使用してログインします。 |
| 2 | 「Tax Residency Certificate」を選択 ダッシュボードからTRCの申請メニューへ進みます。 |
| 3 | 申請フォームの入力 「Legal Person(法人)」を選択し、対象期間(Financial Year)を指定します。 |
| 4 | 書類のアップロード 準備した書類を添付します。 |
| 5 | 申請料の支払い(Submission Fee) 審査料として50 AEDを支払います。 |
3. 審査と発行
申請後、通常5営業日〜7営業日程度でFTAによる審査が行われます。承認されるとメールで通知が届き、最後に発行手数料(Certificate Fee)を支払うことで、デジタル版のTRCをダウンロードできるようになります。
費用について
EmaraTaxに移行後、法人のステータス(法人税登録をしているかどうか)によって発行手数料が異なります。現在、UAEの法人は原則として法人税(Corporate Tax)の登録義務がありますので、多くの場合は「税務登録者」の料金が適用されます。
| 項目 | 費用(AED) | 備考 |
| 申請料(Submission Fee) | 50 AED | 申請時に支払い(返金不可) |
| 発行料(税務登録者) | 500 AED | Corporate Tax登録済みの法人 |
| 発行料(非登録者) | 1,750 AED | 税務未登録の法人 |
| 原本郵送代(オプション) | 250 AED | 紙の証明書が必要な場合 |
「法人税登録(TRN取得)」を済ませてからTRC申請をしたほうが、発行料が1,000 AED以上安くなるという点は、実務上のポイントです。
よくある質問と注意点
Q. 日本の税務署に出すための「居住者証明書」の様式(Form 17など)にサインをもらえますか?
UAEのTRCは、UAE独自のフォーマット(デジタル証明書)で発行されます。しかし、日本で租税条約の届出を行う際、日本の税務署指定の様式(様式17号など)への署名が求められることがあります。この場合、別途「Special Form」としての申請が必要になるケースや、UAE発行のTRCを添付書類として日本の税務署に提出することで代用するケースなど、実務対応が分かれます。基本的には、UAE発行のTRC原本(または出力したもの)を、日本の「租税条約に関する届出書」に添付して提出すれば認められることが一般的です。
Q. 期間はいつからいつまで有効ですか?
TRCは申請時に指定した「特定の1年間(会計年度)」に対して発行されます。「現在居住者である」という証明ではなく、「202X年1月1日〜12月31日の間、居住者であった」という過去の実績を証明する性質が強いです。したがって、毎年の更新(再取得)が必要になります。
Q. シェアオフィスでもTRCは取得できますか?
Flexi DeskやIndividual Officeなどの物理的なオフィススペースであり、Ejariが取得できる契約であれば問題ありません。FTAが重視するのは「実体基準(Economic Substance)」であり、実際に活動するための物理的なスペースが存在することが重要です。
Q. 監査を行わなくてもTRCは取得できますか?
2025年の規制更新により、TRC申請時に完全な監査義務は削除されました。ただし、FTAは確認可能で信頼性の高い決算書を求めており、実務上は小規模企業でも「認定決算書(Certified Financial Statements)」または「管理会計(Management Accounts)」の形式での提出がほぼ必須となっています。完全に監査を行わない場合でも、信頼性の高い決算書を準備しておくことが承認率向上につながります。
まとめ
UAE法人におけるTRC取得は、日本との取引において無駄な税金を払わないための「守りの要」です。
しかし、その取得ハードルは年々上がっています。特に「信頼性の高い財務諸表」と「物理オフィス」の2点は、ペーパーカンパニーを排除しようとするUAE当局の強い意志を感じる部分です。
「税金対策でドバイに法人を作ったけれど、TRCが取れずに結局日本で源泉税を引かれてしまった」ということにならないよう、事前の準備と体制整備が不可欠です。
当会計事務所では、法人税登録から決算書作成、そしてTRCの取得申請までワンストップでサポートが可能です。TRCの取得や租税条約の適用についてご不安な点があれば、お気軽にお問い合わせください。
