ドバイのフリーゾーンやビジネスエリア(イメージ)
ドバイで法人設立を検討されている方、あるいは既にフリーゾーンで事業を行っている経営者の皆様にとって、最大の関心事はやはり「法人税が0%になるのかどうか」という点ではないでしょうか。
UAE(アラブ首長国連邦)では2023年6月より法人税が導入されましたが、フリーゾーン法人に関しては、一定の要件を満たすことで法人税率0%の恩恵を受けられる制度が設けられています。これを「QFZP(Qualifying Free Zone Person:適格フリーゾーン法人)」と呼びます。
しかし、単にフリーゾーンに登記していれば自動的に0%になるわけではありません。要件は非常に細かく、一つでも満たせない場合は通常の9%課税、場合によってはそれ以上の税負担が生じる可能性もあります。
そこで本日は、このQFZPの定義や要件、そして昨今話題となっている「トップアップ税(第2の柱)」との関係について、実務的な観点から解説していきたいと思います。
QFZP(適格フリーゾーン法人)の定義と5つの要件
まず、QFZPとして認められ、法人税0%の適用を受けるためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。どれか一つでも欠けてしまうと、その年度から5年間はQFZPの資格を失い、通常通り9%の法人税が課されることになりますので注意が必要です。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 1. 実体要件 | UAE国内に適切な実体(オフィス、従業員、十分な支出など)を維持していること。 |
| 2. 特定所得要件 | 「特定所得(Qualifying Income)」を得ていること。 |
| 3. 選択の不適用 | 一般税制(税率9%)の適用を選択していないこと。 |
| 4. 移転価格税制 | 関連者との取引において独立企業間価格(アームズ・レングス原則)を遵守し、文書化していること。 |
| 5. 監査済み決算書 | 監査済みの財務諸表を作成し、維持していること。 |
特に見落とされがちなのが「5. 監査済み決算書」の要件です。メインランドの小規模事業者などでは監査が免除されるケースもありますが、フリーゾーン法人が0%の恩恵を受けるためには、売上規模に関わらず外部監査人による監査が必須となります。これはコストも手間もかかる部分ですので、事前の予算組みが重要です。
「特定所得(Qualifying Income)」とは何か?
QFZPの判定において最も複雑で重要なのが、この「どのような活動から得られる利益が0%対象になるのか」という点です。基本的には、以下の活動(適格活動)から生じる所得が0%の対象となります。
- 物品や材料の製造・加工
- 株式や証券の保有
- 船舶の所有・管理・運航
- 再保険サービス
- ファンドマネジメント、ウェルスマネジメント(規制対象のもの)
- 本社機能(ヘッドクォーター)の提供
- 関連者への財務・資金調達サービス
- 航空機のファイナンス・リース
- 指定区域(Designated Zone)における物品の流通
- 物流サービス
ここで重要なのは、「誰と取引するか」も影響するという点です。例えば、フリーゾーン企業同士の取引であれば多くのケースで「特定所得」となりますが、フリーゾーン外(メインランドや海外)との取引の場合は、上記のリストにあるような特定の活動でなければ0%にはなりません。
財務諸表の監査は必須要件(イメージ)
デ・ミニマス(De Minimis)ルールの活用
では、少しでも「特定所得以外」の売上があったら即座にアウトなのでしょうか?実は、これには救済措置があります。それがデ・ミニマス(De Minimis)ルールです。
非特定所得(本来0%にならない所得)の金額が、以下のいずれか低い金額を超えなければ、例外的にその所得も含めて全体を0%として扱うことができます。
- 総売上高の5%
- 500万AED(約2億円)
この基準値以内に収まっていれば、少額の雑収入や対象外の売上があってもQFZPの地位を維持できます。しかし、これを1ディルハムでも超えてしまうと、その年度の全所得に対して9%が課税され、さらに翌4年間もQFZPの資格を剥奪されるという厳しいペナルティがあります。
トップアップ税(Pillar 2)との比較・影響
最近、国際税務の分野で大きなトピックとなっているのが、OECD主導の「第2の柱(Pillar 2)」、いわゆるグローバル・ミニマム課税です。UAEでも2025年1月以降開始の事業年度から導入される動きがあります。
「QFZPで0%になるなら、トップアップ税は関係ないのでは?」と思われるかもしれませんが、実は大いに関係があります。
対象となる企業規模の違い
まず、このトップアップ税が影響するのは、連結総収入が7億5,000万ユーロ(約1,200億円相当)以上の多国籍企業グループです。
企業規模による税率の違い(イメージ)
| 企業区分 | 特徴 | 税務上の取扱い |
|---|---|---|
| 中小企業・個人経営の法人 | 売上規模が7億5,000万ユーロ未満 | トップアップ税の対象外。QFZPの要件を満たせば実質税率0%を享受できます。 |
| 大規模多国籍企業(MNE) | グループ全体の売上が7億5,000万ユーロを超える | UAE国内でQFZPとして0%の適用を受けていたとしても、トップアップ税(国内ミニマム課税:DMTT)によって15%まで課税が上乗せされます。 |
つまり、大企業グループ傘下のフリーゾーン法人にとっては、QFZPの0%メリットが事実上消滅し、15%の納税義務が生じることになります。一方で、多くの独立系企業や中小規模の法人にとっては、依然としてQFZPは非常に強力な節税手段として機能します。
申告・手続き上の注意点
QFZPの適用を受けるためには、単に「自分たちは条件を満たしている」と思うだけでは不十分です。
1. 法人税登録
税金が0%であっても、UAE連邦税務当局(FTA)への法人税登録は必須です。
2. 確定申告書の提出
納税額がゼロであっても、申告書の提出義務があります。「税金がかからないから何もしなくていい」というのは大きな間違いで、無申告加算税などのペナルティ対象となります。
3. 監査報告書の備え付け
前述の通り、外部監査が必要です。決算期が来てから慌てて監査法人を探すのではなく、期中から会計帳簿を適切に整備しておく必要があります。
結論・まとめ
QFZP(適格フリーゾーン法人)は、正しく活用すればUAEでの税負担をゼロにできる非常に魅力的な制度です。しかし、その要件は「特定所得の範囲」や「監査の実施」など厳格に定められており、違反した際のリスクも小さくありません。
また、トップアップ税の導入により、企業の規模によって取るべき戦略が変わってきています。
- 自社の活動が「特定所得」に該当するか不明確である
- デ・ミニマスルールの計算に不安がある
- 監査対応のできる会計帳簿作成を依頼したい
このようなお悩みをお持ちの方は、ぜひ当会計事務所までお問い合わせください。貴社のビジネスモデルに合わせた最適な税務ストラクチャーをご提案させていただきます。
