【2023年最新】ドバイ法人の利益でも日本で納税が必要?タックスヘイブン対策税制について理解しよう

投稿:2023年7月26日更新:2023年8月26日ブログ

ドバイは国際的に見ても非常に法人税率が低い国ですので、税制を魅力に現地法人設立を検討される方も多くいらっしゃると思います。

しかし、昨今では国境を跨いだ法人の設立により租税回避をする大企業も多く現れたことから、そういった租税回避行為を防止するために、タックスヘイブン対策税制という税制が作られています。

本税制を知らないと海外法人を設立したにもかかわらず、日本の税率と同様に日本側で課税されてしまうこともありますので、本税制の対象になるかどうかは慎重に検討した上で法人設立を進める必要があります。

タックスヘイブン対策税制とは何か?

タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)はCFC(Controlled Foreign Company)税制とも呼ばれ、一定の条件に該当する「外国子会社」の所得を「日本の親会社等の所得」とみなして、日本で課税する制度です。

例えば、日本の親会社がドバイの子会社を設立したとします。
この子会社がタックスヘイブン対策税制に該当し、事業性がなく税金対策のためだけに設立されたものと判断された場合は、ドバイ側の利益は日本の親会社で発生したものとして合算し、日本で申告・納税する必要があるということになります。

タックスヘイブン対策税制があることによって、具体的にどのように税金の差が生じるのでしょうか。
以下のような前提で考えてみます。

● 日本親会社  日本の法人実効税率は30%

● UAE完全子会社 UAEの法人税率は9%

● 説明の都合上、海外子会社でのみ利益3,000万円発生し、親会社は利益0円と仮定

(1) タックスヘイブン対策税制が適用されない場合

海外子会社は「外国法人」となるため、国法人の利益について日本側での法人税は課税されません。
現地側でUAEの法人税のみが課税されます(簡略化のため、免税点については考慮外とします)。

 ✅ 3,000万円×9%(海外現地法人税率)=270万円

親会社子会社合わせた、グループ全体の法人税相当額は「270万円」となります。

(2) タックスヘイブン対策税制がある場合

日本側で子会社の利益が合算され、子会社の利益も含めて日本で法人税が課税されます。

 ✅ (親0+子3,000万円) × 30% = 900万円

タックスヘイブン対策税制はUAE側には関係しないので、現地でも法人税が課税されます。

 ✅ 子3,000万円 × 9% = 270万円

グループ全体での法人税は、以下となります。
なお二国間で二重課税となっている部分は、所定の手続きを踏むことで控除を受けることが出来ます。これを「外国税額控除」と呼びます。

 ✅  900万円(親)+ 270万円(子)- 270万円(外国税額控除)= 900万円

グループ全体の法人税相当額は「900万円」となります。

タックスヘイブン対策税制が適用された場合、たとえUAEに利益を移転したとしても、結果的にグループ全体の利益に対して日本の税率が適用されることになります。

ドバイにおいてタックスヘイブン対策税制が適用される条件

タックスヘイブン対策税制は、税率が著しく低い国で子会社等を設立し租税回避を行う会社を規制するために作られた法律です。

そのため、法人税率が一定以上の国については節税効果がないため、本税制の対象外となります。
(法人税率が一定未満の国であるかどうかを判断する税率を「トリガー税率」と呼びます。)

しかし、UAEは世界的に見ても非常に法人税が低く、税率は9%です。

これはタックスヘイブン対策税制におけるトリガー税率(30%)を下回るため、UAE法人はタックスヘイブン対策税制に該当するかについて検討しなければなりません。

それではタックスヘイブン対策税制に該当する対象はどのように考えたらよいのでしょうか。具体的な要件は以下の通りです:

対象となる会社

日本の内国法人or居住者が、合計で50%超の株式等(議決権・配当請求権等)を、直接的もしくは間接的に保有する「外国関係会社」が対象になります。

(補足)

これは、自分自身または自社が保有する株式が50% 超であるかどうかではなく、『日本の』居住者や法人が 、UAE法人の株式の50% 超を持っているかどうかが論点になります。
極端な話、完全に第三者の日本居住者がその会社の株式を保有していたとしても、日本の内国法人及び居住者の持分比率が合計で50%超 になっている場合、このUAE法人はタックスヘイブン対策税制の対象となります。会計上の子会社や関連会社など、連結の範囲の考え方とは異なるので、注意が必要です。

適用される株主

外国関係会社の発行済株式等の10%以上を保有している内国法人や居住者である株主に適用されます。

(補足)

内国法人や居住者とある通り、会社だけではなく個人の株主も対象であることがわかります。
タックスヘイブン対策税制の対象となった場合、日本側で合算される利益は、会社だけでなく個人の所得にも(雑所得等として)合算される可能性があるという点に留意が必要です。

「外国関係会社」の種類

「外国関係会社」には、一定の要件を満たす「特定外国関係会社」*1 とそれ以外の2つの種類に分かれます

特定外国関係会社は、実態を伴わず形式上設立されただけの法人等を指します。
そのため、一般的な外国関連会社の場合に比べて規制が重くなっています。
特定外国関係会社に該当せず、一定の事業実態があると判断される場合は、前者に比べて規制は軽くなっています。

具体的には以下の通りとなっています。

特定外国関係会社海外会社で発生した全所得をすべて日本側で合算する
上記以外の会社経済活動基準を満たす所得 *2 を除く、受動的所得 *3 のみを日本側で合算する

*1 特定外国関係会社とは、具体的に以下の要件を満たす法人を指します。

ペーパーカンパニー法人登録はされているが、事業実体がない会社のこと。
キャッシュボックス資産を受け取るだけ、あるいは資産を運用するだけの目的の会社。
ブラックリストカンパニー租税に関する情報の交換に非協力的な国または地域として財務大臣が指定する国または地域に本店等を有する外国関係会社。

上記を見ると分かる通り、特定外国関係会社はそもそも実態のない会社だったり、租税に非協力的であると判断されることから、事業実態の判断を行うまでもなくその全ての所得がタックスヘイブン対策税制の対象になります。

*2 経済活動基準を満たす所得

「経済活動基準」を満たす場合は、租税回避を目的として海外法人を設立したとはみなされないことから、合算課税の対象外となります。

具体的には、外国関係会社が以下の要件をすべて満たす場合に経済実態があると判断されることになります。

事業基準主たる事業が、株式・債権の保有、産業財産権の提供、航空機・船舶のリース業以外の事業を行っていること
実体基準本店所在地国で、主たる事業を行うための事務所等があること
管理支配基準本店所在地国で、事業の管理・支配・運営を自ら行っていること
所在地国基準本店所在地国で主たる事業を行っていること
非関連者基準主として関連者(50%超出資者等)以外と取引を行っていること

業種によって、所在地国基準または非関連者基準のどちらかの基準が適用


*3 受動的所得

受動的所得とは、利子や配当、無形資産からの収益など受動的な金融資産を言います。事業性に乏しく、ただ受け取っているだけとみなされやすい事業が該当します。具体的には以下のような所得です。

・株式等の配当所得(持分25%以上等の一定のものを除く)または譲渡所得

・債券の利子所得、デリバティブ取引及び外国為替の損益

・無形資産等の使用料、譲渡損益

・有形固定資産の貸付け対価

例えば、日本の居住者のままドバイで不動産購入用の法人を設立し、ドバイ不動産の賃貸による賃借料を法人収益とした場合、受動的所得の対象になります。

補足:タックスヘイブン対策税制は毎年のように改正されている

タックスヘイブン対策税制は、インターネットの普及等によるボーダーレス化に伴い、年々重要性を増しています。日本では毎年のように税制改正が行われています。

令和4年改正

令和4年度税制改正では、主として以下のような見直しを行っています。

第一に、近年、恒久的施設を有しない外国法人の法人税の申告について、所得の金額に比して過大な利子を計上することにより課税所得を圧縮していると認められる事例が見受けられることを踏まえ、これに適切に対応する観点から、過大支払利子税制の適用対象範囲の見直しが行われました。

第二に、外国子会社合算税制における、いわゆる保険特例について、企業活動の実態により一層即した仕組みとする観点からの見直しが行われました。

このほか、子会社からの配当と子会社株式の譲渡を組み合わせた租税回避を防止するための措置(子会社株式簿価減額特例)の見直し、グループ通算制度の施行に伴う外国税額控除の見直し及び国内源泉所得の範囲の明確化が、それぞれ行われています。

令和5年改正

令和5年度税制改正大綱では、以下のような要旨が発表されています。

ペーパーカンパニー等に関するトリガー税率の引き下げを行う予定です。

具体的には、2024年(令和6年)4月1日以後に開始する内国法人の事業年度から、現行の30%から27%へ引下げが行われます。これにより、現在、外国子会社合算税制の対象となっているペーパーカンパニー等において、トリガー税率の引き下げにより合算課税の適用が免除されるケースも出てくるものと認識されます。

なお、現行制度においては、ペーパーカンパニー等以外の企業には20%未満の税率による「制度適用免除基準」が適用されておりますが、こちらのトリガー税率についての改正はありません(現行通り20%未満となります)。

まとめ

タックスヘイブン対策税制は毎年のように改正がなされ、非常に複雑なものになっています。
また、税金対策目的でただUAEに法人を設立したとしても、本税制により日本側で課税されてしまうことにもなりかねません。

一方で、実際に現地に移住し、駐在や会社設立などにより、しっかりと事業を行っている会社にはこのような税制の適用はありません。

ドバイは中東経済の中心地であり、計り知れないビジネスチャンスがあります。

タックスヘイブン対策税制の対象とならないか不安な方や、現地法人を設立するにあたり日本の税制に反しないか不安な方は、是非当会計事務所までお問い合わせください。

 このブログを書いた人

税理士・公認会計士(日本・UAE)。ドバイ在住。日本とドバイで会計事務所を経営しています。税務顧問や会計監査、ドバイへの移住支援を行っています。

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