UAEに移住するタイミングで、日本の社会保険をどう整理するかは、多くの方がつまずきやすいポイントです。特に、駐在からの切り替え、自分の会社を通じた役員報酬、自営業やフリーランスとしての移住など、パターンによって取扱いがまったく変わってきます。
この記事では、帰国時の取扱いには触れず、UAEへ移住する「出国時以降」の日本の社会保険について、次の四つの観点から整理します。
- 社会保険を支払わなければならないケース
- 完全に社会保険から抜けられるケース
- これまで支払った社会保険から将来年金を受け取るケース
- 自社から役員報酬を出して日本の社会保険に加入し続ける方法
日本の居住者か非居住者か、日本の会社との雇用や役員関係が残るかどうかによって結論が変わりますので、ご自身のケースに当てはめて読んでいただければと思います。
UAE移住と日本の社会保険の基本整理

まず、日本の社会保険の枠組みを簡単に整理します。
1.健康保険
会社員などが加入する医療保険で、厚生年金とセットで適用されることが多い制度です。
2.国民健康保険
自営業者やフリーランス、無職の方などが加入する市区町村単位の医療保険です。
3.厚生年金保険
会社員や役員が加入する年金です。適用事業所で働き報酬を受ける限り、住所が海外でも加入対象になります。
4.国民年金
原則二十歳から六十歳までの全国民が対象の基礎年金です。日本に住所がある方は原則加入義務があり、海外居住者は希望すれば任意加入できます。
5.介護保険
四十歳以上で日本国内に住所がある方が対象です。日本に住所がなくなると介護保険の被保険者から外れます。
社会保障協定について
また、現時点で日本は二十四か国と社会保障協定を結んでいますが、その中にUAEは含まれていません。そのため、日本とUAEの間では保険料期間の通算や二重加入の自動的な調整は行われず、日本の制度はあくまで日本単独のルールで判断される点が重要です。
社会保険を支払わなければならない主なケース
UAEに移住した後でも、日本の法律上「社会保険料の支払義務が残る」典型的なパターンを整理します。
1.日本の会社に雇用されたままUAEへ赴任する場合
日本の会社に雇用されたまま海外赴任する場合、健康保険と厚生年金は「適用事業所に勤務している限り、日本国内の住所の有無を問わず加入する」とされています。
日本の会社に雇用されていて、次の条件を満たすときは、原則として社会保険料の支払いが続きます。
- 日本の会社との雇用契約や役員契約が継続している
- 給与や役員報酬が日本の会社から支払われている
- 会社自体が健康保険と厚生年金の適用事業所である
この場合、出国前と同様に、日本の健康保険と厚生年金への加入が続き、その保険料を会社と本人で負担することになります。
2.日本に住民票を残した自営業者やフリーランスの場合
日本の住民票を残しつつ、実態としてはUAEで生活する方も少なくありません。
この場合、二十歳から六十歳までで、自営業やフリーランス、あるいは無職扱いであるときは、次のような取扱いになります。
国民年金
日本に住所がある限り、原則として第一号被保険者として加入義務があり、保険料を支払う必要があります。
国民健康保険
勤務先の健康保険に加入していない場合、日本の市区町村の国民健康保険に加入することが原則とされています。
つまり、住民票を残している限りは、事実上「日本居住者」として扱われ、国民年金や国民健康保険の負担が続くことになります。
| 状況 | 住民票 | 日本の会社との関係 | 主な加入制度 |
|---|---|---|---|
| 日本企業の社員としてUAE駐在 | 有無問わず | 雇用継続 | 健康保険 厚生年金 |
| 日本企業の役員として報酬を受けつつUAE居住 | 有無問わず | 役員関係と報酬あり | 健康保険 厚生年金 |
| 住民票を日本に残した自営業・フリーランス | あり | 日本の会社との雇用なし | 国民年金 国民健康保険 |
完全に日本の社会保険から抜けられるケース
一方で、一定の条件を満たすことで、日本の公的な社会保険料の負担から完全に外れることも可能です。
日本の住民票を抜き、日本の会社との雇用関係も終了させる場合
次の条件をすべて満たすとき、日本の社会保険料の支払い義務は基本的に発生しなくなります。
- 市区町村に海外転出届を提出し、住民票を日本から抜いている
- 日本の会社との雇用契約や役員契約が終了している
- 日本に事業所を持つ自営業者としての活動も行っていない
この状態であれば、次のような扱いになります。
国民健康保険
日本に住所がないため、国民健康保険の被保険者ではなくなり、保険料の負担はありません。
国民年金
海外在住の日本人については、国民年金は「任意加入」となり、加入しなければ保険料の支払いは生じません。
介護保険
日本国内に住所がないため、介護保険の被保険者ではなくなります。
厚生年金・健康保険
日本の適用事業所との雇用関係がなければ加入義務はありません。
これまで支払った社会保険から年金を受け取るケース
日本の社会保険から完全に抜けた場合でも、過去に支払った保険料が将来無駄になるわけではありません。
1.日本の年金は海外居住中でも受け取ることが可能
日本の公的年金は、原則として受給資格期間が通算十年以上あれば老齢年金を受け取ることができます。
この受給資格は、住所が日本国内か海外かを問いません。海外在住のまま、日本の年金を受け取ることができます。
次の期間を合計して十年以上あれば、将来自身が六十五歳以降になったときに日本から老齢年金を受け取ることができます。
- 二十歳以降の国民年金の加入期間
- 厚生年金保険に加入していた期間
- 合算対象期間など
2.日本人がUAE移住後に一時金として払い戻しを受ける制度の有無
よく誤解される点として、外国人が日本の年金から脱退一時金を受け取る制度がありますが、これは主として短期滞在の外国人向けの仕組みであり、日本国籍者が海外移住した場合には原則として利用できません。
日本人の場合は、これまでの加入期間を将来の年金として活かす形での設計が基本になります。
自社から役員報酬を出して日本の社会保険に加入し続ける方法
UAEは所得税や社会保険料の負担が軽い一方で、公的な年金制度や日本型の公的医療保険はありません。
そのため、次のような理由から、意図的に日本の社会保険への加入を継続したいという相談も多くあります。
- 将来の日本での生活を見据えて年金受給額を増やしたい
- 日本の健康保険証を維持し、日本一時帰国時に利用したい
- 日本国内に事業基盤を残しながら海外移住したい
1.スキームの基本的な仕組み
代表的な手法が、日本法人を保有し、自らを役員としたうえで役員報酬を支給し続けることで、日本の健康保険と厚生年金に加入し続ける方法です。
仕組みとしては次のようになります。
- 自らが代表取締役などとして日本法人の役員に就任する
- 当該法人が健康保険・厚生年金の適用事業所として社会保険に加入する
- 役員として継続的に報酬を受け取ることで、役員も被保険者として加入を維持する
このスキームを利用することで、次のような効果を期待できます。
- 日本の健康保険証を維持し、一時帰国中の医療費負担を軽減できる
- 国民年金よりも厚生年金の方が将来の年金額が増えやすい構造であり、老後の受給額を厚くできる
- 日本に法人を残すことで、日本側のビジネス基盤を維持しやすくなる

2.自社役員報酬スキームを利用する際の留意点
この方法は、うまく設計すれば老後の年金水準を高めつつ、日本の公的医療保険を維持する実務的な選択肢となりますが、次の点には注意が必要です。
実態のある事業が日本に存在すること
形式的な会社や実態のない役員報酬だけでは、社会保険事務所から認定されないリスクがあります。
役員報酬の水準
社会保険料は標準報酬月額に応じて増減します。報酬を高くし過ぎると、保険料負担が大きくなり、キャッシュフローを圧迫します。
税務上の位置付け
役員報酬は原則として日本法人の損金に算入される一方、実際にどこで役務提供を行っているかによって所得税の源泉徴収や日本での課税関係も変わります。非居住者扱いとなる場合には、源泉所得税の判定にも注意が必要です。
日本の居住者判定との関係
日本法人からの役員報酬や日本での活動状況が大きくなると、将来的に日本の居住者とみなされるリスクもゼロではありません。社会保険だけでなく、所得税・住民税との整合性も含めた設計が重要です。
UAE移住後の代表的なパターンを簡単にまとめると、次のようになります。
| パターン | 社会保険の扱い |
|---|---|
| 日本の会社の駐在員としてUAE勤務 | 日本の健康保険・厚生年金に加入継続 介護保険は住所要件により外れる可能性あり |
| 住民票を日本に残したまま自営業・フリーランス | 国民健康保険・国民年金の加入義務あり |
| 住民票を抜き、日本の会社との関係も終了 | 日本の公的社会保険から完全に外れる ただし過去の加入期間に基づく将来の年金受給権は維持される |
| 自社を日本に残し、役員報酬を支給し続ける | 日本の健康保険・厚生年金の加入を継続可能 ただし実態や税務リスクへの配慮が必須 |
結論・まとめ
UAE移住時の日本の社会保険の取扱いは、住民票の有無や日本の会社との関係性によって結論が大きく変わります。
日本の会社に雇用されたままUAE赴任する場合や、日本法人から役員報酬を受け続ける場合は、日本の健康保険と厚生年金の加入が原則として継続し、保険料の支払義務も残ります。
住民票を日本から抜き、日本の会社や自営業としての活動も終了すれば、日本の国民健康保険・国民年金・介護保険からは完全に外れ、社会保険料負担をゼロにすることが可能です。
これまで支払った年金保険料は、出国後も受給資格期間としてカウントされ、将来海外居住のままでも老齢年金を受け取ることができます。
将来の年金額を増やしたい場合は、海外在住でも国民年金の任意加入を選択することができ、日本法人を活用して役員報酬を支給する形で健康保険・厚生年金を維持することも実務上の選択肢となります。
どの選択肢が適切かは、UAEでの滞在期間の見込み、日本での生活拠点を将来どこまで残すか、日本法人の事業実態やキャッシュフローなどによって変わります。
具体的な設計にあたっては、年金窓口や社会保険労務士に加え、所得税と国際課税を含めて総合的に検討することが重要になります。
