ドバイでのビジネス展開を検討されている方の中で、不動産仲介会社の設立を考えている方も多いのではないでしょうか。実際のところ、2024年は日本人がドバイで不動産仲介会社を設立する動きが相当増加しており、業界としても競争が活発化しています。ドバイの不動産市場は2024年の投資総額が前年比34パーセント増の5,620億ディルハム、日本円で約21兆円を記録するなど、引き続き高い成長を続けています。その一方で、ドバイで不動産仲介業を始めるには複雑な法的要件や規制をクリアしなければなりません。本記事では、日本人がドバイで不動産仲介会社を正規に設立する際の具体的な手続きや注意点について、法務・税務の観点からお伝えします。

不動産仲介会社設立に必須のRERAライセンスとは
ドバイで不動産仲介業を営むためにはまず、ドバイ不動産規制庁(RERA)の公認エージェント資格を取得する必要があります。これは日本の宅建士に相当する資格制度で、法人が不動産ブローカーライセンスを取得するための前提条件となっています。RERAエージェント資格を取得するには、不動産会社に所属した上で、ドバイ不動産研究所(DREI)が提供する4日間程度の認定研修を受講し、その後試験に合格することが必要です。
ただし留意が必要な点として、RERA試験はオンラインの選択式であり、実務的な知識より形式的な性質が強い傾向があります。そのため、資格保有者の実際の不動産知識や経験を判定する上では、試験合格の有無だけでなく、実務経験や人的ネットワークなども重要な判断要素となります。
RERAライセンス取得の流れ

法人設立の流れと業種ライセンス選定
ドバイでの不動産仲介会社設立には、大きく分けてオンショア(本土)とフリーゾーンの2つの選択肢があります。不動産仲介業は国内市場へのアクセスが重要であるため、多くの日本人企業はオンショア形式を選択しています。2021年の法改正により、外資100パーセント所有の法人設立が可能になりました。
設立の際には、選定した業種ライセンスが重要な役割を果たします。不動産関連のアクティビティは非常に細かく分類されており、例えば売買仲介と賃貸仲介は同一法人での取得が可能ですが、民泊事業のライセンスは別法人での運用が求められることもあります。法人登録から営業許可までの期間は通常1ヶ月程度で完了し、初期費用はオンショア企業の場合、ライセンス登録料で約14,500ディルハム、特別活動費で業種により異なりますが10,000から25,000ディルハムの範囲が目安です。
| 法人形態 | メリット | デメリット | 初期費用目安 |
|---|---|---|---|
| オンショア(本土) | UAE国内市場への自由なアクセス 外資100%所有可能 不動産仲介業に最適 |
物理的オフィス必須 比較的高コスト |
約25,000〜40,000 AED |
| フリーゾーン | 100%外資所有 法人税免除(条件あり) 設立が比較的容易 |
国内市場への制限 不動産仲介には不向き |
約15,000〜30,000 AED |
物理的なオフィス環境と実体性の確保
ドバイでの不動産仲介業を営むには、現地に物理的なオフィスの設置が必須要件です。これは日本の法制度と異なる重要なポイントです。当局が事業実体を判定する際に、登録されたオフィスの住所が実在し、実際に事業が行われているかどうかを確認します。オフィスは月額4,000ディルハムから15,000ディルハム程度で借用できる物件が多く見受けられます。
また、金融行動作業部会(FATF)の国際的な基準を受けて、ドバイの金融規制も年々強化されています。マネーロンダリング対策として、実質的支配者(UBO)登録が義務付けられており、法人を実際にコントロールしている個人の詳細情報をUAE当局に登録する必要があります。この手続きを怠ると罰金対象となるため、設立初期段階でこの要件を確実に満たしておくことが重要です。

銀行口座開設と法人税に関する重要な確認
法人設立後、営業のためにドバイの銀行で法人口座を開設する必要があります。銀行口座開設には、会社登記簿、定款、代表者のパスポート、エミレーツIDなどの書類が必要です。UAE最大の銀行であるエミレーツNBDやFAB(First Abu Dhabi Bank)などが不動産関連企業向けの口座開設サービスを提供しています。
税務面では、UAE法人として課税所得が375,000ディルハム(約1,500万円)を超える場合、9パーセントの法人税が課される点を認識する必要があります。ただし課税所得が375,000ディルハム以下の場合は法人税は0パーセントです。また、年間売上が375,000ディルハムを超える場合には、付加価値税(VAT)の登録と申告が必須となります。ただし、売上が100パーセント海外向けの場合は、免除申請(VAT Exemption)を行うことで申告義務を免除される可能性があります。
| 税目 | 課税基準 | 税率 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 法人税 | 課税所得375,000 AED超 | 9% | 375,000 AED以下は0% |
| VAT(付加価値税) | 年間売上375,000 AED超 | 5% | 海外売上100%の場合は免除申請可 |
| 源泉徴収税 | 非居住者への支払時 | 0%〜20% | 支払内容により異なる |
日本側の税務申告義務と国際的な規制対応
重要な留意点として、日本に住所を有する個人や法人がドバイで不動産仲介会社を設立した場合、日本での確定申告や納税義務が発生する可能性があります。日本とUAEの間には租税条約が締結されており、二重課税の防止規定がありますが、適切な申告がなければ日本側での税務指摘を受けるリスクがあります。
また、ドバイは2024年4月時点でFATFの監視対象に指定されており、国際的なマネロンダリング規制が強化されている状況です。銀行送金がより厳しく審査される傾向があり、取引先への事前連絡や書類整備の徹底がこれまで以上に重要になっています。さらに、日本の実質的支配者が設立した外国子会社である場合、タックスヘイブン対策税制の対象となる可能性も検討が必要です。

不動産取引における手数料体系と事業実態の構築
ドバイでの不動産取引に関わる手数料の体系を理解することも、事業計画の立案に不可欠です。中古物件の売買仲介では物件価格の2パーセント、賃貸仲介では年間家賃の5パーセントがエージェントの報酬となります。新築物件(オフプラン)の場合、デベロッパーからエージェントへ4パーセントから10パーセント程度の手数料が支払われるため、買主からの仲介手数料を取らないケースが多く見られます。
事業の初期段階では、大手デベロッパー(EMAAR、Damac、Aldarなど)とのパートナーシップ構築や、既存の日本人顧客ネットワークの活用により、オフプラン物件の情報確保が重要です。また、顧客に対して責任ある情報提供を行うため、ドバイの不動産法制や租税条約、日本側の税務ルールについて常に最新の知識を保つ必要があります。
| 取引種別 | 手数料率 | 支払者 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 中古物件売買 | 物件価格の2% | 買主 | 売主・買主から各1%ずつの場合もあり |
| 賃貸仲介 | 年間家賃の5% | 借主 | 物件により異なる場合あり |
| 新築物件(オフプラン) | 4%〜10% | デベロッパー | 買主からは徴収しないケースが多い |
✅まとめ
ドバイで日本人向け不動産仲介会社を設立するには、RERAライセンス取得、オンショア法人設立、現地オフィスの確保、銀行口座開設、そして日本側の税務申告義務まで、多段階の要件をクリアする必要があります。事業を安定的かつ合法的に運営するには、法務・税務の専門家に相談の上、計画的に進めることが強く推奨されます。ドバイの不動産市場は高い成長ポテンシャルを有していますが、その市場機会を活かすには、堅牢な法的基盤と適切なコンプライアンス体制が不可欠です。不動産仲介事業の設立に関してご不明な点やお困りの点がございましたら、当事務所までお気軽にお問い合わせください。
