ドバイ法人設立に必要な資本金とは

投稿:2025年11月26日更新:2025年11月26日未分類

ドバイで法人設立を検討している方にとって、資本金に関する疑問は避けて通れない重要なテーマです。日本では株式会社の設立に最低資本金の規制はありませんが、UAEでは法人形態やビジネスの種類によって資本金に関するルールが異なります。今回は、ドバイでの法人設立に必要な資本金について、最新の規制や実務上の注意点を交えて解説します。

ドバイのビジネス街

UAEにおける資本金規制の変遷

UAEでは2021年に大きな商法改正があり、資本金に関する規制が大幅に緩和されました。かつてメインランド法人の設立には最低資本金としてAED 300,000の規定がありましたが、現在では法定上の最低資本金要件は撤廃されています。ただし、これは資本金がゼロで会社を設立できるという意味ではなく、事業目的を達成するために十分な資本を有することが求められています。

経済省は設立趣意書(Memorandum of Association、以下MOA)に資本金額を記載することを義務付けていますが、特定の金額を強制してはいません。この変更により、起業家は自社のビジネスニーズに応じて柔軟に資本金を設定できるようになりました。

メインランド法人の資本金要件

メインランド法人とは、ドバイ本土に設立される法人のことで、UAE全域で事業活動が可能です。現在のメインランド法人における資本金の扱いは以下のとおりです。

法定上は最低資本金の要件がありませんが、実務上はAED 100,000からAED 300,000程度を資本金として設定することが一般的です。これは銀行口座開設の際に、銀行側が一定の資本金を求めるケースがあるためです。

商業ライセンス(Commercial License)を取得する場合、MOAには従来AED 300,000の資本金記載が推奨されていましたが、現在はAED 100,000でも受理される事例が増えています。一方、専門職ライセンス(Professional License)の場合は、AED 150,000程度が一般的とされています。

重要な点として、メインランド法人では資本金を実際に銀行口座に入金する義務は基本的にありません。つまり、MOAに記載された資本金額は形式的なものであり、その金額を実際に用意して証明する必要はないのです。

ビジネス文書とペン

フリーゾーン法人の資本金要件

フリーゾーン法人は、特定の経済特区内に設立される法人で、100%外資出資が可能であり税制優遇措置が受けられる特徴があります。フリーゾーンごとに資本金要件は大きく異なります。

主要なフリーゾーンの資本金要件

フリーゾーン名 最低資本金 入金義務
DMCC AED 50,000 必要
Dubai Silicon Oasis AED 100,000 必要
Dubai Airport Free Zone AED 1,000 不要
Dubai Internet City AED 50,000 必要
Dubai South AED 300,000 不要
RAKEZ AED 1,000 通常不要
Fujairah Creative City AED 100,000 通常不要

DMCCではAED 50,000が最低資本金として設定されており、設立時または設立後1か月以内に銀行口座への入金が必要です。Dubai Silicon OasisではAED 100,000の入金が求められます。

一方、Dubai Airport Free ZoneやRAKEZでは最低資本金がAED 1,000と非常に低く設定されており、実際の入金も不要です。Dubai SouthはAED 300,000と高額な資本金設定ですが、即座の入金義務はなく、設立費用と更新費用が安価なため人気があります。

ドバイやアブダビの主要フリーゾーンでは平均してAED 50,000程度の資本金設定と入金が標準的です。北部首長国のフリーゾーンでは入金不要のケースが多く、スタートアップに人気があります。

資本金に関する実務上の注意点

ドバイでの法人設立において、資本金は単なる形式的な数字ではなく、実務上いくつかの重要な影響を及ぼします。

銀行口座開設時の最低残高要件

銀行口座開設時には、多くの銀行が最低預金残高を設定しています。Emirates NBDではビジネスアカウントの種類によってAED 25,000からAED 3,500,000の最低残高が必要です。First Abu Dhabi BankやMashreq Bankには最低残高不要のアカウントもありますが、月額手数料がかかる場合があります。

MOA(設立趣意書)への記載事項

MOA(設立趣意書)には資本金に関する詳細な記載が必須です。以下の項目を明記する必要があります。

記載項目 説明
総資本金額 会社の総資本金をAED建てで明記
1株あたりの価額 各株式の額面金額を設定
株式総数 資本金を株式数で表示
株主ごとの出資額 各株主の具体的な出資金額
株主ごとの持株比率 各株主の所有割合を百分率で表示

この記載内容は法的拘束力を持ち、後日変更する場合はMOAの修正手続きが必要になります。

ビジネス書類と計算機

資本金の使用について

入金が必要なフリーゾーンでは、資本金は設立手続き中のみ一時的にブロックされますが、ライセンス発行後は自由に使用できます。つまり、運転資金として活用可能であり、UAEでは資本金の凍結制度はありません。

業種による特別な資本金要件

一部の業種や法人形態では、特別な資本金要件が設けられています。

一般貿易ライセンス(General Trading License)を取得する場合、DMCCではAED 1,000,000の最低資本金が必要です。金融関連業種では、DIFC(Dubai International Financial Centre)に設立する場合、ライセンスカテゴリーに応じてUSD 30,000からUSD 10,000,000の基礎資本が求められます。

株式会社(Private Joint Stock Company)の形態を選択する場合は、AED 5,000,000の最低発行資本金が必要になります。これらの高額な資本金要件は、事業の信頼性と継続性を確保するために設定されています。

2023年導入の法人税との関係

2023年6月からUAEで導入された法人税制度は、資本金とは直接関係しませんが、設立後の財務管理に大きな影響を与えます。

法人税率は課税所得がAED 375,000以下の場合は0%、超過分に対して9%が適用されます。年間売上がAED 3,000,000以下の法人は2026年12月31日まで中小企業免税制度を利用できますが、法人税登録と年次申告は必須です。

登録を怠ると10,000AED(約42万円)の罰金が課されるため、法人設立後は速やかに法人税登録を行う必要があります。財務諸表の作成と監査も義務付けられており、適切な会計記録の維持が求められます。

資本金設定における戦略的考慮事項

実務上、資本金をどのように設定するかは、単に規制要件を満たすだけでなく、戦略的な判断が必要です。

銀行口座開設を円滑に進めるため、メインランド法人ではAED 100,000以上を推奨します。取引先や顧客からの信頼性確保のため、事業規模に見合った資本金設定が望ましいでしょう。

フリーゾーンを選択する際は、入金義務の有無と設立費用のバランスを考慮します。初期投資を抑えたいスタートアップは入金不要の北部首長国フリーゾーンを、信頼性を重視する企業はDMCCやDIFCなど実績のあるゾーンを選択するケースが多く見られます。

将来的な事業拡大や追加ライセンス取得を見据えた資本金設定も重要です。資本金の増額にはMOAの変更手続きが必要になるため、ある程度の余裕を持った設定が推奨されます。

日本人起業家が注意すべきポイント

日本からドバイに進出する際には、いくつかの特有の注意点があります。

日本の親会社がドバイ子会社を設立する場合、タックスヘイブン対策税制の適用可能性を検討する必要があります。実態のない会社と判断されると、ドバイ子会社の利益が日本で合算課税される可能性があるためです。

ドバイ法人の資本金は通常日本円ではなくAED建てで設定しますが、為替レートの変動により実質的な価値が変動することに留意が必要です。現在のレートではAED 1が約40円前後で推移しています。

法人設立時の資金送金については、近年UAEはFATF(金融活動作業部会)の監視対象となっており、銀行送金が厳格化されています。適切な送金理由の説明と証拠書類の準備が不可欠です。

メインランド法人とフリーゾーン法人の資本金比較

項目 メインランド法人 フリーゾーン法人
最低資本金(法定) 法定要件なし AED 1,000〜1,000,000
(ゾーンにより異なる)
実務上の推奨額 AED 100,000〜300,000 AED 50,000〜150,000
資本金の入金義務 基本的に不要 ゾーンにより必要
資本金の使用制限 なし(自由に使用可能) なし(自由に使用可能)

まとめ

ドバイでの法人設立において資本金は、法的要件としては以前より柔軟になった一方で、実務上は慎重な検討が必要な要素です。メインランド法人では法定要件がなくなりましたが、銀行口座開設や取引先との信頼関係構築のため、AED 100,000から300,000程度の設定が一般的です。フリーゾーン法人では選択するゾーンによって要件が大きく異なり、AED 1,000から1,000,000まで幅広い設定があります。

重要なのは、資本金をMOAに記載する際の正確性と、入金義務の有無を事前に確認することです。また、2023年から導入された法人税制度により、財務管理の重要性が増しており、適切な会計記録の維持と法人税登録が必須となっています。

ドバイでの法人設立や資本金設定に関してご不安な点がある方は、現地の税務・法務の専門知識を持つ会計事務所にご相談されることをお勧めします。当事務所では、お客様の事業計画に最適な法人形態と資本金設定についてアドバイスを提供しております。お気軽にお問い合わせください。

 このブログを書いた人

税理士・公認会計士(日本・UAE)。ドバイ在住。日本とドバイで会計事務所を経営しています。税務顧問や会計監査、ドバイへの移住支援を行っています。

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