ドバイで事業を始める際に、ライセンスの種類として以下の名称を目にされる方は多いと思います。
- Sole Establishment(単独設立)
- Free Zone Establishment (FZE)
名称だけ見ると「会社を作った」「法人を持った」という意識になりやすいのですが、UAE法人税の観点から見ると、これらの形態の一部は税務上は「法人」ではなく「Natural Person(自然人)」扱いになる可能性がある点に注意が必要です。
この区分は単なる用語の違いではなく、以下のような重要な論点に直結してきます。
本記事で解説する重要ポイント
- 法人税の課税対象になるかどうか
- どの金額を基準に閾値を判定するか
UAE法人税におけるNatural Personと法人の違い
まず前提として、UAE法人税法は課税対象を大きく二つに分けています。
- Juridical Person(法人):LLCや株式会社など、所有者とは別個の法的人格を持つ存在
- Natural Person(自然人):生身の人間そのものを指し、個人事業主やフリーランサーが含まれる
UAE法人税では、Natural Personであっても、事業活動による年間収入が一定額を超えると法人税の対象になります。ただし、その「Natural Person」としての扱いと「法人」としての扱いでは、閾値や優遇の考え方が変わる仕組みになっています。
Sole Establishmentが自然人として扱われる理由
Sole Establishmentは日本語にすると、ほぼ「個人事業主」に相当します。
所有者一人が事業を行う形態であり、事業の名義はありますが、所有者と事業体が法的に分かれていません。そのため、負債や契約上の義務も最終的には個人(無限責任)に帰属します。
UAEの税務実務では、Sole Establishmentは以下のように整理されます。
- 法人税の申告主体としては「所有者個人」と一体
- 複数のSole Establishmentを持っていても、売上は自然人ベースで合算される
FZEでも自然人扱いとなるケースがある
「Free Zone Establishment (FZE)」という名称から、「フリーゾーン法人だから必ず法人扱い」と思われがちですが、実務上は少し慎重な整理が必要です。
特に以下のケースでは、UAE法人税の文脈において、法人ではなくNatural Personによる事業と整理される可能性があります。
- ライセンス上の所有者名義が個人になっている
- 出資者が一人の自然人で、法的にも個人事業に近い扱いになっている
この場合、法人税の登録やしきい値の判定を「その個人」という単位で合算して考える必要が出てきます。
Natural Personと法人の違いのイメージ整理
実務上のイメージをつかみやすくするために、Natural Person扱い(個人事業主扱い)と、一般的な法人扱い(LLCなど)の違いを比較表にまとめました。
| 観点 | Natural Person扱い (Sole Est / 一部FZE) |
法人扱い (LLC / 法人型FZE) |
|---|---|---|
| 法的な人格 | 所有者個人と一体 | 所有者とは別個の法人格 |
| 税務上の主体 | 個人 (Natural Person) | 法人 (Juridical Person) |
| 収入の判定 | 個人が行う全事業の収入を合算 | それぞれの法人ごとに計算 |
| 日本側の視点 | 個人事業主と評価されるリスクあり | 外国法人として整理しやすい |
Natural Personとして扱われる場合に何が変わるか
Sole Establishmentや一部のFZEがNatural Personとして扱われると、実務上は次の点が大きく変わってきます。
判定と影響のフロー
- 複数ライセンスを持っていても「一人の売上」として合算
- 法人としての優遇措置(フリーゾーン税制等)が適用外になる可能性
- 日本側では「外国関係会社」ではなく「個人所得」とみなされるリスク
1. 課税対象になるかどうかの基準
Natural Personの場合、ビジネス活動による年間収入が一定額を超えると法人税の登録と申告が必要になります。この基準は「利益」ではなく「収入(売上)」ベースで判定されるのが特徴です。
一方、法人の場合は「利益」ベースで判定されます。つまり、同じ売上でも、経費を控除した利益がいくらかによって課税対象になるかどうかが決まります。
2. 複数ビジネス間の合算
例えば「ドバイ本土にSole Establishment」「フリーゾーンに個人名義のFZE」を別々に持っていても、税務上は「別会社二つ」ではなく、「一人のNatural Personの複数事業」とみなされて合算されます。
3. 税務上の計算方法の具体的な違い
Natural Personと法人では、法人税の計算方法が大きく異なります。
| 項目 | Natural Person (自然人 / 個人事業主) |
Juridical Person (法人 / LLC等) |
|---|---|---|
| 登録義務の基準 | 年間売上がAED100万を超える | 年間利益がある場合 |
| 課税所得の計算 | 売上 − 控除可能な経費 = 課税所得 | 売上 − 控除可能な経費 = 利益 |
| 免税点(Tax Threshold) | AED37万5000円 (課税所得から控除) |
AED37万5000円 (利益から控除) |
| 法人税率 | AED37万5000円を超える部分に 9% |
AED37万5000円を超える部分に 9% |
| フリーゾーン優遇 (QFZP) |
適用不可 Natural Personは適格要件を満たさない |
0% QFZP要件を満たせば |
| 複数事業の扱い | 全て合算 一人の売上として統一申告 |
各法人ごとに 個別に計算・申告 |
まとめ
本記事のポイントを整理すると、次の通りです。
- Sole Establishmentは、税務上Natural Personとして扱われるのが基本
- FZEであっても、構造によっては自然人の事業と整理されるケースがある
- Natural Person扱いになると、複数事業の収入が個人単位で合算される
- 日本側から見た国際税務評価にも影響する可能性があるため、形式だけでなく実態の確認が必要
ドバイでSole EstablishmentやFZEの設立を検討されている方は、ライセンス上の名称だけで判断せず、ご自身のケースがNatural Personとして扱われうるかを事前に確認することをお勧めします。特にフリーゾーン内での事業展開を検討されている場合、フリーゾーン優遇措置の適用可否が数百万円規模の税負担に直結することになるため、注意が必要です。
