2027年(令和9年)1月から、日本で会社を売却するオーナー経営者を直撃する大型増税が始まります。「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」、いわゆるミニマムタックスの強化です。これまで「自分には関係ない」と思っていた中堅企業のオーナー経営者にも影響が及び、M&A売却額が約3.5億円を超えると追加の税負担が発生する時代に突入します。
その一方で、日本の起業家・オーナー経営者には合法的かつ極めて効果的な解決策があります。それが香港移住です。日香港租税協定とその独自の規定、そして香港のキャピタルゲイン非課税制度を組み合わせることで、日本でも香港でも株式売却益にゼロ円課税という、世界でも稀な「二重非課税」を合法的に実現できます。本記事では、2027年M&A増税の中身と、香港移住が出口戦略として最適解である理由を、実務目線で詳しく解説します。
2027年から始まるミニマムタックス強化とは
まず、なぜ今「香港移住」が起業家の間で急速に注目されているのか、その背景となる2027年増税の中身を整理しておきましょう。
令和5年度税制改正で導入されたミニマムタックスは、2025年(令和7年)分の所得から適用が開始された制度です。年間の基準所得金額から特別控除額を差し引いた残額に一定税率を掛けた金額が通常の所得税額を上回る場合、その差額を追加で納付する仕組みになっています。
この制度が、2025年12月19日公表の令和8年度(2026年度)税制改正大綱により、2027年(令和9年)分の所得税から大幅に強化されることが決定しました。
| 項目 | 現行(2025〜2026年) | 改正後(2027年〜) |
|---|---|---|
| 特別控除額 | 3.3億円 | 1.65億円(半減) |
| 税率 | 22.5% | 30%(7.5ポイント上昇) |
| 計算式 | (基準所得 − 3.3億円)× 22.5% − 通常税額 | (基準所得 − 1.65億円)× 30% − 通常税額 |
| 影響発生の境界線(株式譲渡益のみの場合) | 約10.33億円超 | 約3.37億円超 |
注目すべきは影響発生の境界線です。現行制度では総合課税の対象となる所得がなく、所得が株式譲渡益や上場株式配当のみの場合、約10.33億円を超えるまでは追加課税の影響が生じませんでした。しかし2027年改正により、特別控除額が1.65億円に半減・税率が30%に引き上げられた結果、株式譲渡益ベースで約3.37億円〜3.5億円を超えた段階で追加課税が発生するようになります。
📌 なぜ「1.65億円」ではなく「3.5億円」が境界線なのか
1.65億円は計算式に登場する特別控除額であり、この金額そのものが課税の境目ではありません。株式譲渡益(分離課税)に対する通常の所得税は15.315%(住民税5%別)であるのに対し、ミニマムタックスは30%で計算するため、両者が逆転して「追加納税」が発生し始める境界線が、実務上は株式譲渡益で約3.37億円〜3.5億円という水準になるのです。これは大和総研のレポートや複数の専門機関が示す試算と一致しています。
具体例:会社売却で5億円のキャピタルゲインが出た場合
仮に、創業者であるオーナー経営者が事業承継のため自社株をすべて売却し、株式譲渡益として5億円のキャピタルゲインを得たケースを考えます。他に総合課税の所得はないものとします。
| 項目 | 2026年までに売却 | 2027年以降に売却 |
|---|---|---|
| 通常の所得税(15.315%) | 約7,657万円 | 約7,657万円 |
| ミニマムタックス計算額 | (5億 − 3.3億)× 22.5% = 約3,825万円 | (5億 − 1.65億)× 30% = 約1億50万円 |
| 追加納税額 | なし(通常税額が上回る) | 約2,393万円の追加納税 |
| 住民税(5%) | 2,500万円 | 2,500万円 |
| 合計税負担 | 約1億157万円 | 約1億2,550万円 |
同じ5億円の売却益でも、2027年以降は約2,400万円の追加負担が発生します。売却額が10億円・20億円と大型化すれば、追加負担は数億円単位に膨らみます。これが「2027年M&A増税」と呼ばれる所以です。
香港移住が「最適解」である理由
では、この2027年増税にどう備えるべきか。多くのオーナー経営者がたどり着く結論が香港移住です。なぜ香港なのか、その理由を5つの観点から整理します。
理由1:日香港租税協定が事業譲渡類似株式まで居住地国課税
日本と香港の間では、2010年11月9日に租税協定が署名され、平成23年(2011年)8月14日に発効、日本では平成24年(2012年)1月1日から適用が開始されています。この協定の第13条(譲渡収益)が、起業家にとって極めて有利な内容になっています。
日本の国内法上、非居住者が日本法人株式を譲渡しても原則として日本で課税されませんが、所得税法施行令第281条1項に列挙される一定の場合(事業譲渡類似株式、不動産関連法人株式、買い集め株式など)には例外的に日本で課税されます。中でもオーナー経営者にとって最大の障壁となるのが事業譲渡類似株式の規定です。
事業譲渡類似株式とは、特殊関係株主等が発行済株式の50%以上を保有することを前提に、譲渡年以前3年内に25%以上保有歴があり、譲渡年に5%以上を譲渡した場合の株式をいいます。要するに、創業者がM&Aで自社株をまとめて売却するケースのほとんどがこれに該当します。
ところが、日香港租税協定第13条6項は、不動産関連株式・破綻金融機関株式・国際運輸関連の船舶/航空機などの個別列挙ケースを除き、株式の譲渡収益は居住地国課税と規定しています。つまり、香港居住者が日本法人株式を譲渡する場合、たとえそれが国内法上の事業譲渡類似株式に該当しても、租税協定により日本では課税されません。
理由2:香港側もキャピタルゲイン原則非課税
香港では、従来からキャピタルゲイン(株式等の売却益)は原則として非課税とされています。これは香港の税制の根本的な特徴であり、株式譲渡益に対するキャピタルゲイン税という概念自体が存在しません。
2023年1月から施行されたFSIE制度(Foreign-sourced Income Exemption)は、多国籍企業グループ(MNE)に属する香港企業が海外源泉所得を受領した場合の課税制度ですが、個人として直接保有している株式の処分益は原則としてFSIE制度の対象外です(個人はMNEに該当しないため)。したがって、個人として香港に移住し日本株式を譲渡する場合、香港側でも課税は発生しません。
理由3:日本でも香港でも「ゼロ円課税」という二重非課税
この2つを組み合わせると、香港居住者として日本法人株式を譲渡した場合、日本でも香港でも一切課税されないという結果になります。これは世界的に見ても極めて稀なケースです。
| 居住地国 | 事業譲渡類似株式の日本側課税 | 居住地国側のキャピタルゲイン課税 | 実質的な税負担 |
|---|---|---|---|
| 香港 | 非課税 | 原則非課税 | ゼロ円 |
| UAE(ドバイ) | 課税(租税条約なし、国内法適用) | 個人非課税 | 日本で課税 |
| シンガポール | 課税(源泉地国課税) | 原則非課税 | 日本で課税 |
| アメリカ | 非課税 | 連邦キャピタルゲイン税課税 | 米国で課税 |
| イギリス | 課税(源泉地国課税) | 課税 | 両国で課税 |
| 中国 | 課税(源泉地国課税) | 課税 | 両国で課税 |
世界中の主要な移住先の中で、日本でも居住地国でも完全に非課税となるのは香港のみです。アメリカは日本側は非課税ですが米国の連邦キャピタルゲイン税が課税され、UAEやシンガポールは居住地国は非課税ですが日本側で課税されます。香港は両方が非課税という、起業家にとって理想的なポジションを唯一占めている移住先なのです。
理由4:移住の現実性とビジネス環境
香港は日本から飛行機で約4〜5時間、時差は1時間と、日本と非常に近く、ビジネス継続性を保ちやすい立地です。英語と中国語のバイリンガル環境、洗練された金融インフラ、フィンテック・スタートアップ・ファミリーオフィスの集積、優秀な弁護士・会計士・銀行員へのアクセス、子女の国際教育環境など、起業家にとってのビジネス・生活両面の利便性が極めて高い都市です。
ビザ面でも、新資本投資者入境計画(CIES)や優秀人材入境計画(QMAS)など複数のルートが用意されており、起業家・投資家・専門職の方にとって現実的な移住が可能です。
理由5:5億円の節税効果と移住コスト
先ほどの5億円のM&A売却例で考えてみましょう。日本居住者として2027年以降に売却した場合の合計税負担は約1億2,550万円。これに対し、香港居住者として売却すれば税負担はゼロ円です。節税効果は約1億2,550万円。10億円の売却なら約2.5億円、20億円なら約5億円の節税効果が得られる計算になります。
香港移住に伴う事務コスト(ビザ取得、住居確保、現地法人設立、税務申告等)と比較すれば、節税メリットは桁違いに大きいことが分かります。
注意点:不動産関連法人株式と国外転出時課税
香港移住による「二重非課税」を実現するには、いくつかの注意点があります。
📌 注意点1:不動産関連法人株式は対象外
日香港租税協定第13条2項では、法人の資産価値の50%以上が日本不動産で構成される場合(不動産関連法人株式)の譲渡益は、日本(不動産所在地国)で課税できると規定されています。具体的には、上場会社の場合は5%超、非上場会社の場合は2%超の保有割合が判定基準となります。日本不動産の比率が高い会社の株式を売却する場合は、別途事前検討が必要です。
📌 注意点2:国外転出時課税の事前対応
日本から香港へ移住する際、有価証券等の評価額が1億円以上ある居住者は、国外転出時課税(みなし譲渡課税)の対象となります。ただし、所定の手続きを踏むことで納税猶予を受けることが可能です。移住前の段階で適切な手当てを行うことが重要です。
📌 注意点3:移住タイミングと非居住者認定
日香港租税協定の特典を享受するには、株式譲渡時点で香港居住者・日本非居住者であることが必要です。移住直後の譲渡や、生活の本拠が日本に残ったままの形式的な移住では、税務当局から非居住者性を否認されるリスクがあります。住居・滞在日数・職業・家族・資産の所在を総合勘案した実質判定が行われるため、生活基盤を香港に移してから一定期間後に譲渡することが望ましく、専門家の事前アドバイスが不可欠です。
📌 注意点4:法人で保有する場合のFSIE制度
個人として直接保有する株式はFSIE制度の対象外ですが、香港法人を介して保有する場合は、2024年1月に拡張されたFSIE制度の経済実体要件・参加免除要件(保有比率15%以上・24か月以上の「bright-line test」)を満たすかどうかの検討が必要です。個人保有とするか法人保有とするかは、譲渡規模・将来再投資計画・相続を含めて総合判断します。
香港移住を検討すべきオーナー経営者像
2027年増税を踏まえ、特に香港移住を真剣に検討すべきオーナー経営者像を整理します。
| タイプ | 該当する状況 |
|---|---|
| M&A出口を控えた創業者 | 自社株売却額が3.5億円以上で、5年以内のEXITを想定している方 |
| 事業承継を検討するオーナー経営者 | 親族外承継・MBO・第三者売却を視野に入れている方 |
| スタートアップの創業株主 | IPO前後で大規模売出しや株式売却が予定されている方 |
| 資産管理会社オーナー | 持株会社や資産管理会社を通じた事業承継再編を検討中の方 |
| アジア事業を展開する経営者 | 中国・東南アジア事業の比率が高く、香港拠点に経済合理性がある方 |
移住スケジュールの目安
2027年1月からのミニマムタックス強化を踏まえると、M&Aを予定している方は逆算でのスケジュール設計が重要です。
| フェーズ | 主な検討事項 |
|---|---|
| 移住12〜18か月前 | 香港ビザ申請、住居選定、子女の学校手配、国外転出時課税のシミュレーション |
| 移住6〜12か月前 | 日本側の事業引継ぎ、納税管理人選任、国外転出時課税の納税猶予手続き |
| 移住時点 | 日本の住民票除票、住居・家族・資産の本拠地移転、香港での生活基盤確立 |
| 移住後一定期間(実質判定) | 香港での非居住者性確立、香港IRDからの居住者証明取得 |
| M&A実行 | 非居住者として株式譲渡、租税条約適用、日本側への届出書提出 |
まとめ:2027年は香港移住の最大のチャンス
2027年1月からのミニマムタックス強化により、株式譲渡益で約3.5億円を超えるM&A案件は確実に増税の影響を受ける時代に突入します。これまで「自分には関係ない」と思っていた中堅企業のオーナー経営者にとっても、現実の課題として浮上してきました。
その一方で、日本のオーナー経営者には香港移住という極めて有効な合法的解決策が用意されています。日香港租税協定が事業譲渡類似株式までも居住地国課税としていること、香港側もキャピタルゲイン原則非課税であること、この2つが組み合わさり、世界でも稀な「日本でも香港でもゼロ円」という二重非課税が成立します。
この仕組みは、米国・シンガポール・UAE・イギリス・中国など他の主要移住先では実現できない、香港移住だけが持つ独自のメリットです。2027年増税を見越した移住計画は、12〜18か月前から準備を開始することが望ましく、今がまさに検討のベストタイミングです。
もちろん、不動産関連法人株式・国外転出時課税・非居住者性の実質判定など、丁寧な事前設計が必要な論点もあります。香港移住をオプションの一つとしてご検討の方は、当会計事務所まで是非ご相談ください。日本の税理士事務所・香港の専門家ネットワークと連携し、お客様の事業承継・出口戦略を全面的にサポートいたします。
根拠条文・出典
- 租税特別措置法第41条の19(特定の基準所得金額の課税の特例、ミニマムタックス)
- 令和8年度(2026年度)税制改正大綱(特別控除1.65億円、税率30%への改正)
- 所得税法第161条1項3号(国内源泉所得・国内資産の譲渡)
- 所得税法施行令第281条1項(事業譲渡類似株式・不動産関連法人株式等)
- 所得税法第60条の2(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)
- 所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府と中華人民共和国香港特別行政区政府との間の協定(日香港租税協定、2010年11月9日署名、2011年8月14日発効、日本側適用:2012年1月1日)第13条
- Inland Revenue (Amendment) (Taxation on Specified Foreign-sourced Income) Ordinance 2022(FSIE制度、2023年1月1日施行)
- Inland Revenue (Amendment) (Taxation on Foreign-sourced Disposal Gains) Ordinance 2023(FSIE制度拡張、2024年1月1日施行)
2027年M&A増税への備えは、2026年の今からの準備が成否を分けます。日本・香港・ドバイにまたがる出口戦略・事業承継・株式譲渡については、各国の国内法と租税条約・FSIE制度・国外転出時課税を一体で設計することが不可欠です。弊所では日本側の税理士事務所と連携しながら、香港・ドバイ・日本の三国構造を踏まえた最適なソリューションをご提案しています。M&A・事業承継・国際移住をお考えの方は、お気軽にお問い合わせください。
