ドバイ移住をご検討中の方からよくいただくご質問が、「結局のところ、ドバイに移住したらどれだけ節税できるの?」というものです。インターネット上には「ドバイに移住すれば税金がゼロになる」といった刺激的な情報が溢れていますが、実際のところ日本の税法は思いのほか緻密に作られており、形式的に住所を移すだけで節税効果が得られるほど単純な仕組みにはなっていません。
本日は会計事務所として、相続税と所得税の二つの観点から、ドバイ移住による節税が「どこまで」「どのような条件で」可能なのかを冷静に分析してみたいと思います。なお、本記事は資産規模1億円未満の高所得サラリーマンから、資産10億円超のオーナー経営者まで、幅広く参考にしていただける構成としています。
大前提として押さえるべき「居住者・非居住者」の判定
まず、節税の議論を始める前提として、日本の税法における「居住者・非居住者」の判定ルールを整理しておきます。実は、このルールは所得税と相続税で異なっており、しかも判定基準も独自の概念に基づいているため、ここを誤解したまま移住すると後で大きな課税トラブルに発展します。
所得税の居住者判定
所得税法では、「国内に住所を有する個人」または「現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人」が居住者とされ、居住者は全世界所得課税の対象となります。一方、非居住者は国内源泉所得のみが課税対象となります(押方移転価格会計事務所 解説)。
ここで注意すべきは、日本の所得税法は「183日ルール」を採用していないという点です。海外の多くの国(UAEを含む)が183日基準を採用しているのに対し、日本は「住所」という概念で判定するため、海外に183日以上滞在したからといって自動的に非居住者になるわけではありません(Wise記事)。
「住所」とは生活の本拠を意味し、以下のような要素が総合的に判断されます。
| 判定要素 | 確認される具体例 |
| 滞在実態 | ドバイでの居住日数、日本への帰国頻度 |
| 職業・収入源 | ドバイでの就労実態、本拠地となる業務 |
| 家族の所在地 | 配偶者・子供の居住地、子供の通学先 |
| 資産の所在地 | 不動産・金融資産の所在地 |
| 住居の有無 | 日本国内の自宅の処分または保有状況 |
特に家族の所在地は重要視されており、本人だけドバイに移住し、家族は日本に残したままというケースでは、非居住者と認定されないリスクが高い点には注意が必要です。
相続税の居住者判定と10年ルール
相続税の判定はさらに複雑です。相続税では、被相続人と相続人の双方について、過去10年以内に日本国内に住所を有していたかで課税範囲が決まります。この規定は通称「10年ルール」と呼ばれ、平成29年度税制改正で5年から10年に延長されました(円満相続税理士法人 解説、国税庁No.4138)。
具体的な課税範囲は以下のとおりに整理されます。
| 被相続人(亡くなった方) | 相続人(受け取る方) | 課税範囲 |
| 日本に住所あり | 日本に住所あり | 全世界財産 |
| 日本に住所あり | 海外に住所あり(10年以内に日本居住) | 全世界財産 |
| 日本に住所あり | 海外に住所あり(10年超日本に居住なし) | 全世界財産 |
| 海外に住所あり(10年以内に日本居住) | 日本居住・海外居住問わず日本国籍あり | 全世界財産 |
| 海外に住所あり(10年超日本に居住なし) | 海外に住所あり(10年超日本に居住なし) | 国内財産のみ |
つまり、相続税の世界課税から完全に逃れるためには、家族全員が日本を離れ、被相続人と相続人がともに10年以上日本国外に居住し続ける必要があるという極めて高いハードルが設定されています。
所得税の節税分析
ここからが本題です。まず所得税面で、ドバイ移住によって実現可能な節税スキームを、典型的なパターンに分けて分析していきます。なお、日本とUAEとの間には2014年12月に発効した租税条約(2015年1月から適用)が存在しており、配当・利子・使用料については条約上の限度税率が適用されます(外務省 発効告示、当事務所コラム 非居住者になった後の税金)。
パターン①.日本法人からの役員報酬を非居住者として受け取る方法
これは中小企業オーナーが日本法人を残したままドバイに移住するケースで、最も検討される節税方法です。仕組みはシンプルで、日本の非居住者となった役員に対して日本法人が支払う役員報酬は、日本の所得税法上「国内源泉所得」として20.42%(所得税20%+復興特別所得税0.42%)の源泉徴収のみで完結します(国税庁 No.2884、freee税理士相談)。
居住者として受け取った場合との税率比較は以下のとおりです。
| 報酬の年額(額面) | 居住者として受領した場合の実効税負担 | 非居住者として受領した場合の源泉税負担 | 差額 |
| 1,200万円 | 約33%(所得税+住民税) | 20.42% | 約12.58ポイント |
| 2,400万円 | 約43% | 20.42% | 約22.58ポイント |
| 4,800万円 | 約50% | 20.42% | 約29.58ポイント |
| 1億2,000万円 | 約55%(最高税率) | 20.42% | 約34.58ポイント |
役員報酬の額面が大きくなるほど、節税効果は劇的に拡大します。なお、給与・役員報酬等の人的役務に対する所得については、日UAE租税条約上も役務提供地国課税が原則であるため、20.42%の国内法税率がそのまま適用されます。UAE側では個人所得税が0%であるため、最終的な手取り額は源泉徴収後の79.58%となります。
ただし、このスキームを使う場合は次の点に十分な注意が必要です。
- 役員報酬の額が役務の対価として「過大」と認定されると否認リスクがあること
- 日本法人での会議や経営判断を実態としてドバイから行っている証跡を残すこと
- 日本法人に対する支配・管理の実態が日本国内にあると認定されると、日本法人の所在地そのものが争点になる可能性があること
パターン②.日本法人からドバイ法人へ業務委託費を支払う方法(個人事業の法人成りを含む)
次に多いのが、ドバイに法人を設立し、日本法人あるいは日本の取引先がそのドバイ法人に対して業務委託費を支払うスキームです。個人事業主やフリーランスとして日本で業務を継続していた方が、移住と同時にドバイ法人を設立してその法人と日本の取引先との間でコンサルティング契約を結び直すケースも、同一のスキームの範疇に入ります。役員報酬と異なり、業務委託費は支払先が法人であるため、原則として日本での源泉徴収義務がなく、ドバイ法人で受け取った後、UAEの法人税課税対象となります。UAEの法人税は課税所得AED375,000(約1,500万円)以下は0%、それを超える部分が9%という極めて低い税率です。フリーゾーン法人を選択し、Qualifying Free Zone Personの要件を満たした場合には、複数の取引で実質0%課税も狙える余地があります。
そして、ドバイ法人で藄留した利益を、ドバイ居住者となったオーナー個人に役員報酬として支払うことで、UAE個人所得税0%の恩恵をそのまま享受できる点も、このスキームの魅力といえます。役員報酬の水準をコントロールすることで、ドバイ法人側でAED375,000内に課税所得を収めてドバイ法人税を0%とし、個人もUAE所得税0%という完全な無税状態の設計も理論上可能となります。
ただし、このスキームには複数の重要な税務上の論点があります。
| 論点 | 内容 |
| PE課税リスク | ドバイ法人が日本国内に「恒久的施設(PE)」を有すると認定されると、日本法人税の課税対象となります |
| 移転価格税制 | 関連者間取引であるため、業務委託費は独立企業間価格(アームズレングス)で設定する必要があります |
| 源泉徴収 | 業務内容によっては国内源泉所得として源泉徴収義務が発生する場合があります |
| CFC税制 | 日本人株主が50%超を保有するドバイ法人の利益は、タックスヘイブン対策税制(CFC税制)により日本側で合算課税される可能性があります |
特にPE課税は実務上のリスクが大きく、ドバイ法人の役員が頻繁に日本へ出張してそこで業務を行うようなケースでは、出張ベースのサービスPE認定リスクが現実的に存在します。
CFC税制についても、ドバイ法人が経済活動基準(事業基準、実体基準、管理支配基準、所在地国基準・非関連者基準)をすべて満たさない限り、利益が日本側で課税されてしまうため、実体ある事業運営が前提となります。
パターン③.暗号資産のキャピタルゲイン非課税スキーム
ドバイ移住の節税効果として最もインパクトが大きいのが、暗号資産(仮想通貨)のキャピタルゲインです。日本では暗号資産の売却益は雑所得として総合課税の対象となり、住民税を含めると最大55%の税負担が発生します。一方、UAEでは個人の暗号資産取引に対して所得税0%、キャピタルゲイン税0%が適用されます(bitex-dxb 解説)。
ここで重要なのが、現行の日本税法上、暗号資産は国外転出時課税(出国税)の対象資産に含まれていないという点です。出国税の対象は「有価証券等」「未決済デリバティブ取引」「未決済信用取引」に限定されており、暗号資産の現物保有は対象外とされています(カオーリア会計事務所 解説、東京クラウド会計税理士事務所 解説)。
このため、現時点では以下のスキームが理論上は成立します。
- 日本居住中は暗号資産を売却せず、含み益のまま保有
- ドバイに移住し、日本の非居住者となる
- 非居住者となった後に暗号資産を売却
- UAEで0%、日本でも国内源泉所得に該当しないため申告不要
1億円の含み益がある場合、日本での売却なら最大5,500万円の税負担、ドバイで非居住者となってからの売却なら0円という差額が発生します。ただし、この取扱いは今後の税制改正で対象資産に追加される可能性が議論されており、実際に国税庁の研究論文でも問題提起がなされています(国税庁論叢)。将来的なクロージング・リスクを意識する必要があります。
なお、出国税の対象となる1億円以上の上場株式・投資信託を保有している場合、国外転出時課税の納税猶予制度(5年から最大10年)が選択可能です(当事務所コラム)。
パターン④.使用料・ロイヤリティスキーム
コンサルティングやコンテンツビジネス、ソフトウェア開発などの業務を取り扱う方の場合、ドバイ移住と同時に自己が所有する特許、著作権、ノウハウ、商標などをドバイ法人へ譲渡・ライセンスし、そこから日本企業に使用料を課すという設計が考えられます。譲渡やサブライセンスのスキームにより、日本企業からドバイ法人へ使用料が流れる仕組みとなります。
使用料は日本の国内法上、非居住者・外国法人への支払いについては20.42%の源泉徴収とされていますが、ここで日UAE租税条約が重要な意味を持ちます。日UAE租税条約において、使用料に対する源泉税の限度税率は10%と規定されており(当事務所コラム 非居住者になった後の税金、国税庁 租税条約関係パンフレット)、条約適用を受けるための「租税条約に関する届出書」を提出することで、国内法の20.42%から条約上の10%へ源泉税率を軽減できます。
| 譲渡・使用料の設計 | 日本側の源泉税率 | UAE側の課税 |
| 国内法適用(届出書未提出) | 20.42% | UAE法人税9%(AED375,000超部分、外国税額控除適用可能) |
| 日UAE租税条約適用(届出書提出済) | 10% | 同上 |
たとえば、年間1億円の使用料を受領するケースで、届出書を提出しないと日本での源泉徴収が2,042万円、提出した場合は1,000万円となり、単純計算で年1,042万円のキャッシュフロー改善効果が発生します。さらに、ドバイ法人側で使用料収入に対してUAE法人税9%が課される際には、日本で課された源泉税について外国税額控除を適用できる余地があるため、二重課税も一定の範囲で緩和されます。
ただし、このスキームについても移転価格税制とCFC税制の評価が不可欠です。譲渡価格や使用料の水準は独立企業間価格で設定する必要があり、税務上の評価額や推定課税論点も生じるため、事前評価をそれなりの不動産鑑定士・知財コンサルとともに実施することをお勧めします。
パターン⑤.配当・利子の受領スキーム
日本国内の上場株式や社債、預金といった金融資産を持つオーナーの方が、ドバイ移住後にこれらの収益を受領するケースでも、日UAE租税条約の効果を検討する余地があります。日UAE租税条約の限度税率は以下のとおりとなっています(当事務所コラム 非居住者になった後の税金)。
| 所得の種類 | 日本国内法上の源泉税率 | 日UAE租税条約上の限度税率 |
| 配当所得(一般) | 20.42%(上場株式は15.315%) | 10% |
| 配当所得(親子会社間の法人受益者) | 20.42% | 5% |
| 利子所得 | 20.42%(預金利子は15.315%など収益により違いあり) | 10%(政府等は免税) |
ここで重要な論点が、配当に関する親子会社間の5%適用は受益者が法人であることが要件となっている点です。つまり、個人株主として日本法人の株式を保有し、その配当を受領するケースでは、5%の軽減税率は適用できず、上限は10%となります。一方で、ドバイ法人が日本法人の議決権の10%以上を保有するストラクチャーを構築し、そのドバイ法人が受益者となって配当を受領する設計にすれば、受領配当に対する日本側の源泉税を5%まで軽減できます。
| 受益者 | 適用される源泉税率 | 備考 |
| ドバイ居住の個人株主(直接保有) | 10% | 条約限度税率、個人受益者は親子軽減税率の適用不可 |
| ドバイ法人(議決権の10%以上保有) | 5% | ストラクチャー設計とSubstance要件が重要 |
この設計によって、年間1億円の配当を受領するオーナーケースで、個人直接保有の場合の源泉徴収1,000万円(10%)から、ドバイ法人経由の場合の500万円(5%)へと、年500万円の税負担軽減を実現できます。
ただし、ドバイ法人をストラクチャーとして介在させる設計には、事業実体(Substance)、移転価格、CFC税制、そして受益者誤規定(PPT・Beneficial Ownership)など、複数の高度な論点が関係します。単に軽減税率だけを目的としたドバイ法人は実質課税原則により否認されるリスクもあるため、協業会社やホールディング会社としての実体を明確に設計することが不可欠です。
パターン⑥.オーナー経営者の株式売却益スキーム
事業オーナーの方がドバイ移住を検討されるときに期待されがちなのが、「将来のエグジット時の株式売却益をゼロ課税で取得する」という設計です。しかし、実際には二重の壁によって、ドバイ移住による株式売却益の節税はほぼ達成不能となっています。
第一の壁が出国税(国外転出時課税)です。出国前10年以内に通算5年超の日本居住者が、出国時点で1億円以上の有価証券等を保有している場合、出国時点で含み益に所得税15.315%が課税されます(当事務所コラム ドバイ持株会社による株式譲渡益の節税)。住民税は非課税のため、ドバイ移住による節税効果は住民税相当額のわずか5%程度にとどまります。
第二の壁が事業譲渡類似株式の課税です。1億円未満で出国税を回避できても、譲渡年以前3年以内のいずれかで発行済株式の25%以上を保有し、かつ譲渡年に5%以上を譲渡した場合には、日UAE租税条約第13条3項により源泉地国課税となり、日本で15.315%が課税されます。オーナー経営者の多くはこの要件に該当してしまうため、ドバイ側で所得税ゼロは達成できません。
ここで決定的に異なるのが香港との比較です。日香租税協定では事業譲渡類似株式について居住地国課税を規定しており、香港移住者であれば日本で課税されません。香港もキャピタルゲインは原則非課税のため、オーナー経営者が「保有株式の売却益をゼロ課税で取得したい」というゴールであれば、ドバイよりも香港移住のほうが明らかに有利となります。詳細は当事務所コラム 香港と日本の租税条約で株式譲渡の税金が非課税になるのか?をご参照ください。なお、香港の場合も1億円以上保有なら出国税は課税される点、2023年1月施行のFSIE制度の要件不充足リスクには注意が必要です。
相続税の節税分析
次に相続税面の節税スキームを分析します。所得税と比較すると、相続税は時間軸が長く、ハードルも高いのが特徴です。ここでは、信託や名義預金といった一般的な相続税対策ではなく、ドバイ移住によってはじめて成立するスキームに絞って分析していきます。
スキーム①.被相続人・相続人双方の10年ルール達成による国外財産の課税離脱
ドバイ移住による相続税対策の根幹となるスキームが、この10年ルールの達成です。相続税法上、被相続人と相続人がともに相続開始前10年以内に日本に住所を有していない状態を達成したとき、国外財産は日本の相続税の課税対象から完全に外れます(国税庁 No.4138、円満相続税理士法人 解説)。これは日本国内では実現不可能な、海外移住を伴わない限り選択肢に上り得ないスキームといえます。
長期計画のイメージは以下のとおりです。
| ステップ | 内容 |
| 0年目 | 被相続人となる親と、相続人となる子供が同タイミングでドバイ移住を開始 |
| 1~9年目 | 日本国内に生活の本拠を持たない状態を継続。一時帰国の日数や頻度もコントロール |
| 10年目以降 | 国外財産については、原則として日本の相続税が課税されない状態に到達 |
ここで重要な点が、日本国籍を保有したままでもよいという点です。国籍離脱は要件となっていないため、日本のパスポートを保持したままUAEのゴールデンビザやレジデンスビザによる長期居住という設計が現実的です。一方で、日本国内にある不動産や預金、株式といった「国内財産」は、所在地基準で常に日本の相続税の対象となります。このため、移住前の段階で日本国内財産をどう処理するかが、スキームの成否を左右します。
一時帰国にも注意が必要です。住民票を抜いていても、実態として日本に「生活の本拠」があると認定されれば、その期間は10年カウントから除外されるリスクがあります(相続相談所レクサー)。子供が日本の大学に進学した際に住所を戻してしまうと、その時点でカウントがリセットされるため、家族全員の進路設計も含めた長期計画が求められます。
スキーム②.贈与税10年ルール達成による国外財産贈与
贈与税にも相続税と同様に10年ルールが適用されます。ここで注意したいのが、「贈与者と受贈者の両方が非居住者になりさえすれば国外財産の贈与は贈与税課税対象外」という誤解です。移住して非居住者になるだけでは不十分で、贈与者・受贈者ともに贈与前10年以内に日本に住所を有していない状態を達成して初めて、国外財産贈与が贈与税課税対象から外れます(国税庁 No.4432 受贈者が外国に居住しているとき、当事務所コラム ドバイ移住と贈与税・相続税)。
贈与税の納税義務者区分と課税対象財産の関係は以下のとおりです。
| 贈与者の住所 | 受贈者の住所 | 受贈者の国籍・居住歴 | 課税対象財産 |
| 日本居住 | いずれも | いずれも | 国内・国外財産すべて |
| 非居住者(贈与前10年以内に日本に住所あり) | いずれも | いずれも | 国内・国外財産すべて |
| 非居住者(贈与前10年以内に日本に住所なし) | 非居住 | 日本国籍ありかつ贈与前10年以内に日本に住所あり | 国内・国外財産すべて |
| 非居住者(贈与前10年以内に日本に住所なし) | 非居住 | 日本国籍ありかつ贈与前10年以内に日本に住所なし | 国内財産のみ |
| 非居住者(贈与前10年以内に日本に住所なし) | 非居住 | 日本国籍なし | 国内財産のみ |
つまり、ドバイ移住後に親から子へ国外財産を贈与しても、どちらか一方でも贈与前10年以内に日本に住所があった場合には、その贈与は国外財産も含めて日本の贈与税の課税対象となります。ドバイ移住直後に贈与を実行したとしても、贈与税は回避できません。
したがって、このスキームを活用するためには、以下のような長期計画が必要となります。
| ステップ | 内容 |
| 移住前の準備 | 該当資金を事前に海外口座へ移し、UAE口座やシンガポール口座など「国外財産」として明確に管理する |
| 贈与者・受贈者の同時移住 | 親と子がともにドバイへ移住し、両者とも非居住者として生活の本拠をドバイに移す |
| 10年間の継続居住 | 双方がドバイ居住を継続し、贈与前10年以内に日本に住所がない状態を達成させる |
| 国外財産の贈与実行 | 10年ルール達成後に、ドバイ居住の親からドバイ居住の子へ国外財産を贈与し、贈与税課税対象から離脱 |
| 世代越えの生前移転 | 被相続人の死亡を待たずに、子世代へ資産を移転し、将来の相続税課税対象からも外す |
もう一つ重要な論点が、贈与財産が「国内財産」と認定されると贈与税課税対象となってしまう点です。10年ルールを達成しても、日本国内に不動産や口座を残していると、それらの贈与は贈与税の制限納税義務者として課税されます。そのため、事前にシンガポール、香港、UAEなどへ金融資産をシフトさせたうえで、10年ルール達成を待つという設計が重要になります(桐生税理士事務所 解説)。
スキーム③.子への金銭貸付と子名義での運用
10年ルールを満たす前の早期段階から実行できる相続税対策として、親から子への金銭の贈与ではなく「金銭の貸付」というスキームがあります。日本の相続税法上、贈与と貸付は明確に区別されており、適正な利息を取り、金銭消費貸借契約書を交わしたうえで、子供がその資金を運用する設計であれば、贈与税の課税対象とはなりません。そのうえで、運用によって生じた利益は、貸付時点で日本の非居住者となっている子供に帰属します。
具体的なスキーム設計は以下のとおりです。
| ステップ | 内容 |
| 親子の移住完了 | 親と子がドバイへ移住し、ともに日本の非居住者となる |
| 金銭消費貸借契約の締結 | 親から子へ、適正利息・返済期限を定めた金銭消費貸借契約書を作成 |
| 国外口座での貸付実行 | 日本国外で保有する親の資金から、国外口座を通じて子へ送金 |
| 子による運用 | 子はその資金を米国株、UAE不動産、ファンドなどで運用 |
| 運用益の子への帰属 | 運用益は子に帰属し、ドバイ居住の非居住者であるため日本側で課税されない |
このスキームの最大のメリットは、10年ルールの完成を待たずに、将来の相続財産の増加を子側で受け取ることができる点です。例えば、親が5,000万円を子へ貸し付け、子がその資金で年率10%の運用を10年間継続したケースでは、運用元本5,000万円は最終的に親へ返済されますが、その間に生じた運用益約8,000万円分は子の資産として蓄積されます。この約8,000万円は、もし親が直接運用していたら、将来の相続財産として課税されていたはずの金額です。
ここで重要な論点として、「貸付の実態」を税務上明確に維持する必要があります(当事務所コラム ドバイ移住と贈与税・相続税)。具体的には、
- 金銭消費貸借契約書の作成と保管
- 適正な利息の設定と、実際の利息支払いの実行
- 返済スケジュールの明確化と、計画的な返済の実行
- 国外口座を通じた送金と、国外財産としての管理
これらが整っていない場合、税務当局から「実質的には贈与」と認定されるリスクがあります。また、親が日本居住者である段階で貸付を行うと、親に対して利息所得課税が生じます。親も非居住者となった後に国外で貸付を行うことが、税務上のクリーンな設計となります。
なお、この設計には国外送金等調書による情報補足、国外財産調書の提出義務(5,000万円超の国外財産を保有する居住者対象)など、日本側の情報報告義務も関係します。子供が日本に再入国するタイミングや、貸付契約の終了時の取扱いまで含めた長期視点での設計が必要です。
スキーム④.移住前の駆け込み生前贈与と生活費送金の活用
移住前、あるいは移住直後の段階でその時点で贈与税を負担してでも、その後の相続税を長期的に軽減するというスキームも、ドバイ移住を前提として初めて活用されるケースがあります。日本の暦年贈与は年間110万円までの基礎控除が適用され、それを超える部分についても、贈与税の税率は相続税より軽減されるケースが多いため、財産規模によっては生前贈与のほうが有利になります。
重要な論点として、贈与財産の「タイミング」が鍵となります。日本での生前贈与については相続開始前7年以内の贈与が相続財産に加算されるため(令和5年度税制改正で「3年」から「7年」へ順次拡充)、移住計画はこの7年ルールと3年ルールも複合的に考慮して計画することが望まれます。
さらに、ドバイ移住後は、親から子への生活費送金も、社会通念上相当と認められる金額であれば贈与税の課税対象外となるため、子供のドバイでの学費や生活費を親が送金するという形で、実質的に生前の資産移転を進めることも可能です。
スキーム⑤.ドバイ法人(ホールディング会社)を介した資産保有
ドバイ移住に特有のもう一つのスキームが、ドバイのDIFCやADGMといったコモンロー準拠のホールディング会社を設立し、個人の保有する金融資産や不動産をその会社へ移して保有させるという設計です。この設計では、被相続人が保有する財産は「ドバイ法人の株式」という形に変容され、その株式のUAE法に基づく承継手続によって子供への承継が可能となります。
10年ルールを達成したケースでは、そのドバイ法人の株式は「国外財産」として日本の相続税の課税対象外となり、UAE側でも相続税が課されないため、世代を跨いだ資産承継をゼロ税負担で実現できる余地があります(ASTRAVISTA UAE法人×ゴールデンビザ)。ただし、この設計には、
- ホールディング会社への財産移転時に生じる「みなし譲渡」課税リスク
- CFC税制による日本側での収益合算課税リスク
- 被相続人・相続人・ドバイ法人の三者構造のそれぞれについての「生活の本拠」認定リスク
などの高度な論点が複雑に関係します。事業オーナーや富裕層の設計としては魅力的ですが、事前の精緻な検討を重ねた上で進めることをお勧めします。
資産規模別に見たドバイ移住の節税効果まとめ
ここまでの分析を踏まえ、資産規模・所得規模別に節税効果を整理すると以下のとおりとなります。
| 資産規模・所得 | 主に活用できる節税スキーム | 節税効果の規模感 |
| 年収2,000万円未満のサラリーマン | 役員報酬の20.42%源泉スキーム(オーナーへの転身要) | 中程度 |
| 年収2,000万円超のオーナー経営者 | 役員報酬スキーム+業務委託費スキーム+使用料・配当スキーム | 大きい |
| 暗号資産の含み益1億円超の個人 | 非居住者化後の売却スキーム | 極めて大きい |
| 知的財産・持株会社を保有する個人 | 使用料10%源泉スキーム+配当5%源泉スキーム | 大きい |
| 資産1~10億円の中堅層 | 所得税スキーム+子への貸付スキーム+10年ルール(長期計画)+駆け込み贈与 | 大きい(時間要) |
| 資産10億円超のオーナー経営者 | 全スキームの組み合わせ+家族全員移住+ホールディング会社設計 | 極めて大きい(時間要) |
| 事業エグジットを将来見込むオーナー経営者 | ドバイよりも香港移住を検討(事業譲渡類似株式の譲渡益が日本で課税されない) | 極めて大きい |
まとめ
ドバイ移住による節税効果は、所得税の世界では即効性があり、相続税の世界では時間が必要というのが、税務専門家としての率直な分析結果です。
所得税については、日本法人からの役員報酬を非居住者として受け取る20.42%源泉スキームや、暗号資産を非居住者となった後に売却するスキームは、要件さえ整えれば確実な節税効果が見込めます。ただし、いずれも日本の非居住者となる実態を確保することが大前提であり、家族の所在地、滞在日数、住居の保有状況など、複数の要素を総合的に整える必要があります。一方で、将来の事業エグジットを見込んだ株式売却益の節税については、出国税と事業譲渡類似株式の二重の壁によってドバイ移住だけではゼロ課税を達成できず、事業譲渡類似株式について居住地国課税を規定する香港移住のほうが明らかに有利となります。オーナー経営者の方は、移住先選定の段階で、それぞれのゴールに合わせて最適な移住先を検討することをお勧めします。
相続税については、ドバイ移住によって相続税負担を完全にゼロにするためには、家族全員での移住と10年以上の継続居住というかなり高いハードルをクリアする必要があります。「非居住者同士ならすぐに国外財産を贈与できる」という誤解も見受けられますが、贈与税にも相続税と同じく10年ルールが適用されるため、移住直後の贈与で贈与税を回避することはできません。10年ルールの完成を待つ間には、子への適正な金銭貸付を通じて将来の資産増加を子世代へ集中させる設計、駆け込み生前贈与と生活費送金、ドバイ法人を活用したホールディング設計など、ドバイ移住だからこそ実行できる相続税対策を複層的に組み込むことができます。これらは単独で使うよりも、被相続人・相続人それぞれのライフプランに合わせて段階的に組み合わせることで、最大の効果を発揮します。
ドバイは確かに税制面で大きな魅力を持つ都市ですが、移住前後の税務プランニングを誤ると、期待した節税効果が得られないどころか、二重課税や追徴課税のリスクに晒されることになります。特に、出国前の住民税対策、出国税の納税猶予制度の選択、日本法人との取引設計、家族の移住計画など、移住の数年前から計画的に進めるべき項目が多数あります。
当会計事務所では、ドバイ移住をご検討中の経営者・富裕層の方を対象に、個別具体的な税務シミュレーションから、出国・移住後の各種申告手続き、ドバイ法人の設立・運営、税務調査対応まで、ワンストップでサポートしております。ご自身のケースで実際にどれだけの節税効果が見込めるか、また、どのようなリスクが潜在しているかを把握されたい方は、是非当会計事務所までお問い合わせください。
根拠法令・参考資料
- 所得税法第2条第1項第3号・第4号(居住者・非居住者の定義)
- 相続税法第1条の3・第1条の4(納税義務者の区分)|「10年ルール」(平成29年度税制改正)
- 所得税法第161条(国内源泉所得)、所得税法第212条(源泉徴収義務)
- 国外転出時課税制度(所得税法第60条の2)
- 外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制、租税特別措置法第66条の6等)
- 日UAE租税条約(2014年12月発効、2015年1月適用)|外務省 発効告示
- 国税庁タックスアンサー No.4138(相続人が外国に居住しているとき)、No.4432(受贈者が外国に居住しているとき)、No.2884(非居住者等に対する源泉徴収)
- 令和5年度税制改正|暦年贈与の相続財産加算期間「3年→7年」順次拡充
