短期滞在者免税はドバイ法人経営者にも適用されるか?

投稿:2025年11月29日更新:2025年11月29日ブログ

ドバイに法人を設立し、UAEに移住したあと、日本への出張や一時帰国をする機会がある方も多いのではないでしょうか。

その際によく質問を受けるのが、「日本滞在中に受け取る報酬は、短期滞在者免税で日本での課税が免除されるのでしょうか?」という点です。

短期滞在者免税というのは、いわゆる「183日ルール」とも呼ばれ、租税条約において短期間の滞在者に対して勤務地国での課税を免除する制度です。この制度があることにより、海外からの出張者は滞在先の国で所得税の申告納税手続きを行わなくて済むケースがあります。

しかし結論から申し上げると、ドバイ法人のオーナー経営者がドバイ法人から受け取る役員報酬については、短期滞在者免税の適用はありません

本日は、その理由について、日本の所得税法と日UAE租税条約の規定を踏まえて解説していきます。

国際租税条約

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短期滞在者免税とはどのような制度か

まず、短期滞在者免税の基本的な仕組みについて確認しておきましょう。

短期滞在者免税とは、租税条約において規定されている制度であり、ある国の居住者が他の国に短期間出張や勤務をする場合に、一定の要件を満たすことで勤務地国での課税が免除されるというものです。

日UAE租税条約においても、第14条において給与所得に関する短期滞在者免税の規定が設けられています。

短期滞在者免税の適用を受けるためには、一般的に以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。

要件 内容
滞在期間 連続する12か月間において滞在期間が合計183日を超えないこと
報酬の支払者 報酬が勤務地国の居住者でない雇用者から支払われること
恒久的施設の負担 報酬が勤務地国にある雇用者の恒久的施設によって負担されないこと

たとえば、UAEの居住者である従業員が日本に183日以内の出張をした場合で、給与がUAE法人から支払われており、日本国内のペ(恒久的施設)によって負担されていない場合には、日本での所得税が免除されるという仕組みです。

役員報酬には短期滞在者免税が適用されない理由

では、なぜドバイ法人の経営者が受け取る役員報酬には短期滞在者免税が適用されないのでしょうか。

これは、租税条約において役員報酬に関する規定が短期滞在者免税の規定とは別に設けられているためです。

OECDモデル租税条約では、給与所得は第15条に、役員報酬は第16条に規定されています。そして、第16条の役員報酬条項は、第15条の給与所得条項(短期滞在者免税を含む)の特則として位置付けられており、役員報酬については第16条が優先的に適用されることになります。

日UAE租税条約においても同様の構成となっており、第14条が給与所得に関する規定、第15条が役員報酬に関する規定となっています。

条項 対象 短期滞在者免税の適用
第14条(給与所得) 従業員の給与等 適用あり(要件を満たす場合)
第15条(役員報酬) 法人の役員が受ける報酬 適用なし

つまり、役員報酬については給与所得とは異なる課税ルールが適用され、短期滞在者免税の規定はそもそも適用されないということになります。

租税条約における役員報酬の課税ルール

それでは、役員報酬はどのように課税されるのでしょうか。

租税条約における役員報酬条項の基本的な考え方は、「法人の所在地国において課税権を認める」というものです。

日UAE租税条約第15条の規定によれば、一方の締約国(たとえばUAE)の居住者が他方の締約国(日本)の居住者である法人の役員の資格で取得する報酬に対しては、日本において租税を課することができるとされています。

これを逆方向で考えると、日本の居住者がUAE法人の役員として報酬を受け取る場合には、UAE側で課税権があるということになります。

ケース 課税権のある国
日本法人の役員がUAEに居住 日本
UAE法人の役員が日本に居住 UAE

役員報酬について、このような取扱いがされる理由としては、役員という職務の性質上、物理的な勤務地に関係なく法人の経営全体に関わるという考え方があるためです。

従業員の場合は勤務地で労務を提供し、その対価として給与を受け取るため、勤務地国に課税権があるという考え方が基本になります。しかし、役員の場合は経営判断を行う立場であり、必ずしも特定の場所で勤務する必要がないことから、法人の所在地国に課税権を認めるという整理がなされています。

ドバイの法人税計算

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ドバイ法人経営者が日本に一時帰国した場合の課税関係

ここからは、より具体的なケースを想定して課税関係を確認していきます。

ケース1 日本法人の役員を兼任している場合

ドバイに移住したあとも、もともと経営していた日本法人の役員として残り続け、日本法人から役員報酬を受け取っているケースがあります。

この場合、日本法人から受け取る役員報酬は勤務地に関係なく国内源泉所得に該当します。所得税法第161条第1項第12号イの括弧書きにおいて、「内国法人の役員として国外において行う勤務」は国内源泉所得に含まれると規定されているためです。

したがって、日本法人から非居住者である役員に対して役員報酬を支払う場合は、支払時に20.42%の源泉徴収が必要になります。

支払者 受取人の状況 源泉徴収税率
日本法人 UAEに居住する役員 20.42%

短期滞在者免税の規定は役員報酬には適用されないため、たとえ日本への滞在期間が183日以内であったとしても、日本法人からの役員報酬に対する源泉徴収が免除されることはありません。

ケース2 ドバイ法人の役員としてのみ報酬を受け取っている場合

それでは、日本法人の役員を退任し、ドバイ法人のみから役員報酬を受け取っている場合はどうでしょうか。

ドバイ法人から受け取る役員報酬はUAE法人からの支払いであり、日本の内国法人からの支払いではないため、所得税法第161条に基づく国内源泉所得には該当しません。日UAE租税条約第15条の規定によれば、UAE法人の役員としての報酬については、UAE側に課税権があることとされています。そしてUAEには現在のところ個人所得税が存在しないため、結果的にドバイ法人から受け取る役員報酬は日本でもUAEでも課税されないことになります。

ただし、ドバイ法人の経営者が日本に一時帰国し、その期間中に日本国内で日本の顧客獲得や営業活動、経営判断を伴う勤務を行ったと認定される場合は、その勤務に対応する部分が国内源泉所得に該当する可能性があります。

ドバイ法人経営者が日本国内で勤務した場合の所得計算方法

所得税基本通達161-41では、非居住者が国内および国外の双方にわたって勤務を行った場合の課税所得の計算方法を規定しており、計算式は以下の通りです。

給与・報酬の総額 × 国内で行った勤務期間 ÷ 計算基礎期間

つまり、日本国内での滞在期間中に実際に勤務した日数の比率に応じて、役員報酬を按分し、その対応部分を国内源泉所得として課税するという仕組みです。

具体例で考えてみましょう。ドバイ法人の経営者が以下のようなケースを想定します。

項目 内容
年間報酬総額 1,200万円
給与計算基礎期間 12ヶ月(年間)
日本での滞在期間 30日間
このうち実際に勤務した日数 20日間

この場合、国内源泉所得に該当する報酬は以下のように計算されます。

1,200万円 × 20日 ÷ 365日 ≒ 約65.8万円

つまり、ドバイ法人の経営者が日本に30日間滞在していても、そのうち実際に勤務したのが20日間である場合は、その20日分に対応する約65.8万円のみが国内源泉所得として課税対象になり、残りの約1,134.2万円は国外源泉所得として日本では課税されないということです。

役員報酬の計算

役員報酬と給与の税務処理は国によって異なります

「勤務」の認定に関する重要な注意点

ここで重要なのは、何をもって「勤務を行った」と判断するかという点です。

事務所での業務実績がなくても、ドバイの本社機能と連携して意思決定を行ったり、日本の顧客との打ち合わせを行ったりすれば、それは日本国内での勤務と認定される可能性があります。

一方、単に観光や休暇目的で日本に滞在している場合は、勤務とは認定されません。また、ドバイの本社からの指示に従って、オンライン会議にリモート参加するだけでは日本国内での勤務とは言えない可能性もあります。

税務当局の判断としては、日本において実際に物理的に経営判断を行った、営業活動を行った、顧客との打ち合わせを行ったといった具体的な事実が重要になります。

国内源泉所得に該当する場合の源泉徴収義務

ドバイ法人経営者が日本で勤務した部分が国内源泉所得と認定された場合、その報酬に対して誰が源泉徴収義務を負うかという問題が生じます。

ドバイ法人から直接日本の銀行口座に報酬が送金される場合、通常は源泉徴収がなされていません。しかし、ドバイ法人経営者が日本で勤務した部分については、日本国内で源泉徴収義務が生じることになります。

この場合、ドバイ法人経営者自身が非居住者として日本の税務署に確定申告を行い、国内源泉所得に該当する部分に対して20.42%の所得税を自己申告・納付する必要があります。実務上は、ドバイの本社がこの源泉徴収義務を果たすことは難しいため、帰国者が確定申告で対応するケースが大多数です。

実務上の留意点

ドバイ法人のオーナー経営者が日本に一時帰国する際には、以下の点に留意することが極めて重要です。

日本での活動の記録を明確に残すことが重要です。出張記録、会議の議事録、顧客との打ち合わせ記録、メールのやり取り、滞在日数の記録などが、「勤務」の認定に際して重要な証拠となります。

税務調査が行われた際に、「単なる一時帰国か」「実務上の勤務を伴う帰国か」を判断する基準となるのは、このような具体的な活動実績です。曖昧な判断や記録の欠落は、後々の税務トラブルに繋がるため、日本への出張・帰国時には活動実績を記録しておくことをお勧めします。

また、ドバイ法人から日本への送金がある場合には、その性質(給与なのか配当なのか、あるいは経営判断に基づく報酬配分なのか)を明確にしておくことも重要です。送金に関する書類や、ドバイ側での会計記録との整合性も税務調査時のポイントになります。

まとめ

ここまで見てきたように、ドバイ法人のオーナー経営者が受け取る役員報酬については、租税条約の構造上、短期滞在者免税の適用はありません

短期滞在者免税は、あくまで従業員の給与所得に対して適用される制度であり、役員報酬については別の課税ルールが適用されます。

日本法人の役員として報酬を受け取る場合は20.42%の源泉徴収が必要であり、ドバイ法人のみから報酬を受け取る場合の課税関係は、日本での勤務の有無や租税条約の適用可能性によって判断が分かれます。

特に一時帰国時に日本で実務上の活動を行う場合には、その日数や内容に応じた按分計算により課税所得が決定される可能性があるため、実績の記録が極めて重要です。

ドバイ法人の税務に関してご不明点がある方や、日UAE間の課税関係について確認したい方は、お気軽に当会計事務所までお問い合わせください。

 

 このブログを書いた人

税理士・公認会計士(日本・UAE)。ドバイ在住。日本とドバイで会計事務所を経営しています。税務顧問や会計監査、ドバイへの移住支援を行っています。

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