日本企業のUAE進出やドバイでの法人設立のご相談を受ける中で、意外と見落とされがちなのが交際費(Entertainment Expenses)の扱いです。
日本では「交際費」といえば、法人税上の損金算入限度額(中小企業なら800万円など)の話が中心になりますが、実は消費税(VAT)の取り扱いにおいて、日本とUAEでは決定的な違いがあります。
ここを勘違いしていると、UAEで「還付されると思っていた税金が還付されない」という事態になり、キャッシュフロー計算が狂うこともあります。本記事ではこの「交際費にかかる消費税(VAT)」について、日本とUAEの決定的なルールの違いを解説します。
1. 交際費のVAT還付(仕入税額控除)の比較
両者の一番の違いは「支払った消費税が戻ってくるかどうか(仕入税額控除できるか)」です。
| 国 | 交際費の消費税(VAT) | 扱い |
| 日本 | 原則、還付OK(控除可) | 事業用経費であれば、全額仕入税額控除の対象(※インボイス必須) |
| UAE | 原則、還付NG(控除不可) | Blocked Input Tax(ブロックされた仕入税額)として、控除が禁止されている |
このように、日本とUAEでは真逆の対応となります。以下、それぞれを詳しく見ていきます。
2. 日本のルール:原則「全額控除」
法人税と消費税は別物
よく混同されるのが、法人税(会社の利益にかかる税金)と消費税(預かった税金から払った税金を引く計算)の違いです。
- 法人税:交際費には「資本金1億円以下なら年800万円まで」「飲食費の50%まで」といった損金算入の制限があります。これは「無駄遣いを税務上認めない」という趣旨です。
- 消費税:上記の法人税の制限は関係ありません。事業に必要な支出であれば、原則として支払った消費税は全額「仕入税額控除」の対象となります。
つまり日本では、取引先との会食で支払った消費税(10%)は、申告時に「預かった消費税」から差し引くことができるため、実質的な会社負担にはなりません。
インボイス制度には注意
ただし、2023年10月から開始されたインボイス制度により、適格請求書の保存が厳格化されています。相手先がインボイス発行事業者でない場合、控除ができなくなる点には留意が必要です(2026年9月までの経過措置で80%控除、2029年9月までの経過措置で50%控除)。
3. UAEのルール:原則は控除不可
UAEのVAT法では、交際費(Entertainment Expenses)にかかるVATは、原則として一切還付されません。これを「Blocked Input Tax(ブロックされた仕入税額)」と呼びます。
根拠法令:Executive Regulations Article 53
UAE連邦国税庁(FTA)のVAT施行規則第53条(UAE財務省 VAT施行規則PDF)において、以下の支出にかかるVATは控除できない(Non-recoverable)と明記されています。
- 従業員以外(顧客、見込み顧客、株主、オーナー、役員など)への接待
- 従業員への娯楽提供(慰安旅行、社員パーティーなど)
- 事業用車両であっても個人利用可能な場合のVAT
具体的に控除対象外となるのは以下のようなものです。
- クライアントとのレストランでの会食
- 顧客向けのホテル宿泊費の負担
- コンサートやスポーツ観戦のチケット
- ゴルフ接待、レジャーツアー
日本と同じ感覚で「仕事の経費だから払ったVAT(5%)は後で申告すれば戻ってくる」と思っていると、後で痛い目を見ます。UAEでは、交際費にかかるVATは「コスト(費用)」として会社が完全に負担しなければならないのです。
例外的に、会議中の「お茶・お菓子」はOK
FTAは例外として、「通常のビジネスミーティングの範囲内」で提供される軽微なものについてはVATの還付を認めています。
| 区分 | 対象 |
| ○ 還付OKの例 | オフィスでの会議中に出すコーヒー、お茶、水、ちょっとしたお菓子など軽微な提供 |
| × 還付NGの例 | 会議の後に場所を移動して行うランチやディナー、レストランでの会食 |
この線引きは非常に厳格です。「ランチミーティング」であっても、それがレストランで行われるしっかりとした食事であれば、それは「Entertainment(接待)」とみなされ、VAT控除は否認されるリスクが極めて高いのが実情です。
従業員への提供は限定的に控除可
従業員に対する飲食・宿泊等についても、以下のいずれかに該当すれば例外的に控除が認められます。
- UAE労働法上、提供が法的義務となっている場合(例:建設現場での食事提供)
- 雇用契約書または社内規程上の契約上の義務として提供する場合
- 業務出張時の宿泊・食事(国内外問わず)
- 参加者からVATを含めた参加費を徴収する有料イベントでの提供
逆に言えば、参加費を徴収しない無料の社員忘年会や懇親会・社員旅行のVATは、福利厚生であっても原則控除不可です。
4. 出張費・宿泊費の取扱いにも注意
実務で迷うのが出張費・宿泊費の取扱いです。従業員が業務出張で使用したホテル宿泊費・食事代については、VAT還付が認められます。一方、顧客や取引先のキーパーソン(見込み顧客含む)をドバイに招いた際のホテル宿泊費・食事代はEntertainmentに該当しVAT還付不可となります。同じホテル宿泊でも、「誰のための費用か」で取扱が正反対となるため、出張本人と招待実績の記録を明確に区分して会計処理する必要があります。
5. 実務上の対応ポイント
UAEで経理処理を行う際は、接待交際費のVATを誤って「Recoverable(還付可能)」として計上しないよう、以下の対応が重要です。
- 会計システムの勘定科目設計:接待交際費科目はデフォルトでVAT控除不可(Non-recoverable)に設定
- 領収書管理:会議用軽飲食と会食を明確に区別し、参加者リスト・アジェンダを保管
- 従業員向け提供の根拠資料:労働法上の義務・契約書・社内規程の整備
- 有料イベントの場合:参加費請求書にVATを正しく上乗せし、Output VATを申告
VAT監査(Tax Audit)が入った際、最も指摘されやすい項目の一つがこの「交際費のVAT処理」です。なお、2026年4月施行のCabinet Decision No. 129 of 2025により、VATの延滞金・過怠金が改定されており、過去の誤処理が指摘された場合の負担はさらに増しています。
6. まとめ
日本とUAEでは、交際費に対する税務当局のスタンスが大きく異なります。
- 日本:法人税で損金算入を制限しつつも、消費税の還付は認めるスタンス。
- UAE:交際費にかかるVATそのものを「控除禁止(Blocked)」として、企業の最終コストにするスタンス。
UAEでは「事業のための支出だからVATは戻ってくるはず」という日本的な感覚が通用しません。会計システムの設定段階から、接待交際費とミーティング軽飲食を明確に区別し、適切に処理する必要があります。
📋 今回のポイント
- 日本は交際費VAT全額控除可、UAEは原則控除不可(Blocked Input Tax) 真逆の取扱い
- UAEの根拠法令はExecutive Regulations Article 53 顧客・株主・役員等への接待、従業員への娯楽提供がブロック対象
- 会議中の軽微な茶菓は還付OK ただしレストランでの会食はNG
- 従業員向けでも例外控除には根拠書類が必須 労働法・契約書・社内規程の整備
- VAT監査で最も指摘されやすい項目 2026年4月の罰則改定で負担増
UAE独自のVATルールや、日本との税制の違いを踏まえた会計処理のアドバイスについては、当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。
