ドバイ法人設立で日本株売却の税金を節税できるのか|成功事例とよくある失敗例

投稿:2026年1月25日更新:2026年6月6日ブログ

ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。

近年、「ドバイに持株会社を設立して日本の会社の株式をそこに移転すれば、将来の株式譲渡益に対する税金を回避できるのでは?」というご相談が増えています。UAEは法人税率9%・個人所得税ゼロのため、一見すると魅力的なスキームに思えます。本記事では、日本の税制がこうした租税回避にどう対抗しているのか、実務上の注意点を整理します。

ドバイ持株会社スキームの典型例

一般的に想定されるスキームは次の流れです。

  1. 日本在住の経営者がUAEに持株会社を設立
  2. 日本の事業会社株式を個人からドバイ持株会社に譲渡または現物出資
  3. 経営者自身もUAEに移住し非居住者になる

将来のエグジット時にドバイ持株会社が日本事業会社株式を第三者に譲渡することで、日本側課税を回避しようというものです。UAE側は個人所得税ゼロ・法人税9%(日本実効税率約30%対比)であり、UAEから日本への配当源泉税もないため有利に見えます。

日本の税制が用意する防衛線

日本の税制は、こうしたスキームに対して複数の防衛線を用意しています。

(1) 国外転出時課税(出国税)

最初の関門が出国税です。過去10年以内に日本に5年超居住していた者が、1億円以上の有価証券等を保有して国外転出する場合、出国時点の含み益に対し15.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%)が課されます。

ドバイ移住後に株式を譲渡しても、出国時点での課税は避けられません。住民税相当(5%)は節税されますが、当初期待した大幅節税には程遠い結果です。一時的赴任の場合は納税猶予制度があり、出国前に譲渡してしまえば本制度の対象外となります。

関連記事:出国税(国外転出時課税)の納税猶予制度|申請要件と最大10年延長ルールを解説

(2) 事業譲渡類似株式の譲渡課税

非居住者・外国法人による日本会社株式譲渡は原則として日本で課税されませんが、大口株主による株式譲渡は事業譲渡と同視され、例外的に日本で課税されます。

事業譲渡類似株式に該当する要件

  • 譲渡年以前3年のいずれかの時点で、発行済株式総数の25%以上を保有
  • 譲渡年において、発行済株式総数の5%以上を譲渡
  • 税率は15.315%(申告分離課税)

日本の事業会社オーナーがドバイ移住後にドバイ持株会社を通じて株式譲渡する場合、ほぼ確実にこの要件に該当します。

(3) 日UAE租税条約による源泉地国課税

「租税条約で免税になるのでは」と期待される方も多いですが、日UAE租税条約第13条3項は、日本側に源泉地国課税を認めています(25%以上保有・5%以上譲渡)。

取扱い 日本での課税
UAE 源泉地国課税(25%以上保有・5%以上譲渡時) 課税される
シンガポール 源泉地国課税 課税される
香港 居住地国課税 非課税
アメリカ 居住地国課税 非課税

UAE租税条約はシンガポールと同様の厳格な源泉地国課税ルールであり、香港・アメリカのような単純な租税回避手段としてドバイを活用することはできません。

関連記事:日UAE租税条約は個人居住者には使えない|ドバイ移住後の配当と利子に注意

(4) タックスヘイブン対策税制(CFC税制)

UAEの法人税率9%は、CFC税制(外国子会社合算税制)の適用免除基準となる租税負担割合の閾値(特定外国関係会社:27%以上で免除/対象外国関係会社:20%以上で免除)を下回るため、本税制の検討対象となります。

対象となる要件

  • 日本の内国法人・居住者が合計で50%超を直接・間接に保有する外国法人
  • 適用株主は発行済株式の10%以上を保有する内国法人・居住者
  • 個人株主の場合、合算所得は総合課税で最高55%適用の可能性

ペーパーカンパニー・キャッシュボックス等の特定外国関係会社に該当すると、租税負担割合が27%未満の場合は全所得が合算課税されます。特定外国関係会社に該当しない場合でも、租税負担割合が20%未満であれば、次の経済活動基準を満たす必要があります。

基準 要件
事業基準 主たる事業が株式保有・知財提供・航空機/船舶リース業以外
実体基準 本店所在地国に主たる事業を行う事務所等があること
管理支配基準 本店所在地国で事業の管理・支配・運営を自ら行うこと
所在地国/非関連者基準 業種に応じていずれかを満たす

形式的にドバイ持株会社を設立しただけでは、経済活動基準を満たすのは困難です。実際の裁判例でも形式的存在として租税回避目的と認定された事例があります。

関連記事:ドバイ法人にかかるタックスヘイブン対策税制(CFC税制)について解説

(5) 不動産化体株式

総資産に占める日本国内不動産の価額が50%以上である法人の株式(不動産化体株式)を非居住者が譲渡した場合、日本で課税されます。日UAE租税条約でも適用される可能性があり、不動産投資目的でドバイ法人を設立するケースでは特に注意が必要です。

ドバイ持株会社設立の実務上の課題

UAE法人税の実務対応

2023年6月のUAE法人税導入により、実務上の対応が必要となっています。

経済的実体要件(ESR)と移転価格

UAEではEconomic Substance Regulations(ESR)が導入されており、持株会社活動も対象です。UAE内での事業運営、適切な人員雇用、UAEでの主要経営判断などが求められます。要件未充足はライセンス停止リスクにつながります。

また、ドバイ持株会社と日本事業会社の間の取引には、独立企業間価格による移転価格対応と文書化が必要です。

日本側での配当の取扱い

ドバイ持株会社から日本親会社への配当は、外国子会社配当益金不算入制度により、持株比率25%以上・保有6カ月以上であれば95%が益金不算入となります。ただしCFC税制の対象となる場合はこの優遇措置は意味を失います。

では、ドバイ持株会社は全く意味がないのか

ここまで読むと否定的に思えるかもしれませんが、事業実体があり経済合理性のある運営であれば有効な選択肢となり得ます。

正当な事業目的がある場合

中東・アフリカ地域への事業展開拠点としてドバイに統括会社を設置することは経済合理性があります。複数の国の子会社を効率的に管理し、グループ全体の経営戦略を推進する役割であれば、CFC税制の経済活動基準を満たす可能性が高まります。

実際にドバイで従業員を雇用し、現地で経営判断を行い、事業活動を行っていれば、単なる租税回避スキームとは判定されにくくなります。

配当による利益還流

実体あるUAE子会社からの配当は、UAE側の配当源泉税ゼロ+日本側で95%益金不算入により、実効税負担を大幅に下げることができます。これはCFC税制の対象とならない(経済活動基準を満たす実体のある事業を行っている)ことが前提です。

関連記事:ドバイ子会社からの配当が税制上有利な3つの理由【源泉税0%・法人税9%・益金不算入95%】

節税ありきのスキームは危険

ドバイ持株会社による日本側株式譲渡益の節税については、「単純な節税目的だけであれば、ほぼ不可能でリスクが高い」のが結論です。

日本の税制は出国税・事業譲渡類似株式課税・CFC税制という多重の防衛線を用意しており、日UAE租税条約も源泉地国課税を認める厳格なものです。UAE側でも法人税導入・ESRにより形式的なペーパーカンパニーは困難です。

一方で、中東・アフリカ展開の経済合理性がある場合には、適切に設計された持株会社は有効な選択肢となり得ます。節税ありきではなく、事業実体と経済合理性を第一に考えることが重要です。

まとめ

📋 今回のポイント

  • 出国税:1億円以上の有価証券保有者の出国時に15.315%課税
  • 事業譲渡類似株式課税:25%以上保有・5%以上譲渡で日本側課税15.315%
  • 日UAE租税条約:源泉地国課税を認めるため日本での課税が認められる
  • CFC税制:実体のない持株会社は最高55%の合算課税リスク
  • 事業実体と経済合理性が前提:節税ありきのペーパーカンパニーは否認リスク大

国際税務は非常に複雑であり、個別事情によって取扱いが大きく異なります。当会計事務所は、ドバイでの法人設立や日本の株式譲渡に関する税務について、UAEと日本の両方の税制を踏まえた総合的なアドバイスを提供しています。持株会社スキームのご検討や既存スキームの見直しをお考えの方は、ぜひ当会計事務所までご相談されることをおすすめします。

根拠条文・出典

  • 所得税法 第60条の2(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)
  • 所得税法 第161条第1項第3号(事業譲渡類似株式の譲渡)
  • 所得税法施行令 第281条第1項第4号(事業譲渡類似株式の要件:25%以上保有・5%以上譲渡)
  • 租税特別措置法 第40条の4・第66条の6(外国子会社合算税制/CFC税制)
  • 法人税法 第23条の2(外国子会社から受ける配当等の益金不算入)
  • 日本国とアラブ首長国連邦との間の租税条約 第13条第3項(事業譲渡類似株式)・同第2項(不動産化体株式)
  • 財務省 租税条約に関する資料
  • 国税庁 タックスアンサーNo.5759 外国子会社から受ける配当等の益金不算入
  • UAE Federal Decree-Law No. 47 of 2022(UAE法人税法)
  • UAE Cabinet Resolution No. 57 of 2020(Economic Substance Regulations)

 このブログを書いた人

税理士・公認会計士(JCPA)・UAE公認会計士(EAAA)協会会員。日本とドバイで会計事務所を経営。現地日本企業の税務顧問先100社(上場会社含む)、会社設立実績80社以上。
ドバイ法人の会計監査や税務申告、ドバイ移住支援を行っています。

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