海外信託(トラスト)で日本の課税は回避できるのか|リヒテンシュタイン財団判決から学ぶ

投稿:2026年1月12日更新:2026年6月6日ブログ

ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。

「海外信託(トラスト)を組成すれば、日本の所得税や相続税は回避できるのか」——富裕層の方からよくいただくご相談です。

2025年9月12日、東京地裁はリヒテンシュタイン財団に拠出された資産について、日本のCFC税制(タックスヘイブン対策税制)の適用を認め、国側勝訴の判決を下しました。ところが2026年4月14日、東京高裁はこれを逆転し、納税者側の主張を一部認める判断を示しています。

本記事では、この一連の判決を題材に、海外信託・財団スキームの日本課税リスクと、UAE(ドバイ)に拠点を移した場合の実務上の留意点を解説します。

リヒテンシュタイン財団判決の概要

本件は、日本居住者が欧州リヒテンシュタイン公国に設立した財団(Stiftung)に多額の金融資産を拠出し、その運用益について日本での申告を行わなかったことが争点となった事案です。課税当局は、当該財団がCFC税制(外国子会社合算税制)における「外国関係会社」に該当し、設立者である日本居住者に運用益を合算課税できると主張しました。

東京地裁(篠田賢治裁判長)令和7年9月12日判決は、リヒテンシュタイン財団を実質的にCFC税制の対象法人と同視し、国側の主張を認める判決を下しました。これに対し東京高裁(宮坂昌利裁判長)令和8年4月14日判決は、財団の法的性質や受益権の構造を精査し、CFC税制の直接適用には慎重であるべきとの立場から、地裁判決を一部覆しています。

本判決は確定していませんが、海外信託・財団を用いた資産保全スキームに対する日本の課税姿勢を考えるうえで、極めて重要な先例となります(新日本法規による解説幻冬舎ゴールドオンラインによる解説)。

海外信託の基本構造と日本の課税ルール

海外信託(Offshore Trust)は、委託者(Settlor)が受託者(Trustee)に資産を信託し、受益者(Beneficiary)のために運用・分配する仕組みです。委託者と受益者を分離することで、形式上は委託者の財産から切り離されたように見える点が特徴です。

しかし日本の所得税法・相続税法は、信託の種類に応じて以下のとおり取り扱います。

海外で組成した信託であっても、日本居住者が委託者または受益者である場合、上記の枠組みで日本の課税権が及びます。「海外で組成すれば日本の課税は及ばない」という認識は誤りです。

リヒテンシュタイン財団(Stiftung)の特殊性

リヒテンシュタイン財団は、信託(Trust)と異なり「法人格を持つ財団」として設立される点が特徴です。委託者が拠出した資産は財団自身の所有物となり、受託者の概念がなく、評議員(Stiftungsrat)が運営します。

この構造ゆえに、日本の信託税制をそのまま適用してよいかが争点となります。法人格があるためCFC税制(外国関係会社)の対象とすべきか、それとも信託類似の存在として受益者課税信託の枠組みで処理すべきかが、裁判所でも判断が分かれた論点です(太陽グラントソントンによる国際税務解説)。

CFC税制(タックスヘイブン対策税制)の基本

CFC税制とは、日本居住者(個人・法人)が支配する軽課税国の外国関係会社の所得を、日本側で合算課税する制度です。経済活動基準を満たさない外国関係会社(いわゆるペーパーカンパニー、キャッシュボックス、ブラックリスト国所在法人)は、税負担率にかかわらず全所得が合算対象となります。

UAE法人については、2024年以降の9%法人税導入後も、QFZP(適格フリーゾーン法人)として実効税率が低い場合や、経済活動基準を満たさない場合にCFC税制が適用される可能性があります。リヒテンシュタイン財団判決は、法人格を持つ海外組織にCFC税制が及び得ることを示した点で、UAE法人をお持ちの日系オーナーにも示唆を与える内容です。

関連記事:ドバイ法人にかかるタックスヘイブン対策税制(CFC税制)について解説

地裁・高裁の判断の分岐点

東京地裁は、リヒテンシュタイン財団を「実質的に支配されているペーパー法人」と評価し、CFC税制の射程に取り込むことで日本側の課税権を肯定しました。委託者である日本居住者が評議員の人選に強い影響力を持ち、財団資産の運用方針を実質的に決定していた点が重視されたとされます。

これに対し東京高裁は、リヒテンシュタイン財団法上、財団は独立した法人格を持ち、委託者から法的に切り離された存在であるとの形式的・法的性質を重視しました。CFC税制を適用するには、外国関係会社該当性を厳格に立証する必要があり、評議員への影響力のみをもって支配と認めるべきではないと判断しています(アタックス税理士法人による高裁判決解説)。

この判断の分岐は、海外財団・信託スキームを設計する際の「形式」と「実質」のバランスの重要性を改めて示しています。

富裕層が陥りやすい海外信託スキームの落とし穴

海外信託・財団を用いた資産保全スキームには、以下のような落とし穴があります。

これらを総合的に検討せずに海外信託を組成しても、想定した節税効果は得られず、加算税・延滞税のリスクが高まります。

UAE(ドバイ)における信託・財団制度

UAEには、DIFC(Dubai International Financial Centre)およびADGM(Abu Dhabi Global Market)に英米法系の信託(Trust)・財団(Foundation)制度が整備されています。DIFC FoundationsやADGM Foundationは、リヒテンシュタイン財団と類似の構造を持ち、相続対策・資産保全目的で日系富裕層からの問い合わせも増えています。

ただしDIFC・ADGM財団も、日本居住者が委託者・受益者である限り、日本の信託税制・CFC税制・相続税法の射程内にあります。UAEの非課税環境を享受するためには、委託者本人がUAE税務居住者として確実に認定されること、そして経済活動の実体をUAEで構築することが不可欠です。

関連記事:ドバイで税務居住者証明書(TRC)を取得する条件|183日ルール・90日ルールとは

海外移住によるCFC税制回避と非居住者判定

CFC税制は「日本居住者」を対象とするため、委託者本人が日本の非居住者となれば適用対象から外れます。ただし非居住者判定は形式的な住民票の異動だけでは認められず、生活の本拠・職業・資産所在地・家族の居住地等を総合勘案して判断されます。

UAEへの移住を検討される場合、住民票除票・滞在日数記録・UAE居住ビザ・TRC取得・現地での経済活動実態など、複数の証憑を整備したうえで、日本の出国税(国外転出時課税)の検討も並行して行う必要があります。海外信託・財団の活用は、本人の非居住者ステータスが確立して初めて意味を持つスキームです。

関連記事:移住直前・直後によくある税務トラブル6事例|居住者判定や出国税など税制の落とし穴とその対策

まとめ

📋 今回のポイント

  • リヒテンシュタイン財団判決は、東京地裁が国側勝訴、東京高裁が逆転判決と判断が分かれた
  • 海外信託・財団であっても、日本居住者が委託者・受益者であれば日本の課税権は及ぶ
  • リヒテンシュタイン財団は法人格を持つため、CFC税制と信託税制の境界が争点となる
  • UAEのDIFC・ADGM財団も同様の論点を抱え、形式だけでなく経済活動の実体構築が不可欠
  • 海外信託スキームを活かすには、委託者本人の非居住者ステータス確立が前提となる

当会計事務所は、UAE法人・信託・財団を活用した国際的な資産保全スキームについて、日本側のCFC税制・信託税制・相続税法の論点を踏まえた総合的なご助言を提供しています。海外信託のご検討や、リヒテンシュタイン財団判決を踏まえた既存スキームの見直しをお考えの方は、ぜひ当会計事務所までご相談されることをおすすめします。

根拠条文・出典

 このブログを書いた人

税理士・公認会計士(JCPA)・UAE公認会計士(EAAA)協会会員。日本とドバイで会計事務所を経営。現地日本企業の税務顧問先100社(上場会社含む)、会社設立実績80社以上。
ドバイ法人の会計監査や税務申告、ドバイ移住支援を行っています。

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