ドバイ子会社への貸付けを行った場合の親会社側の消費税法上の取り扱い

投稿:2025年12月13日更新:2025年12月13日ブログ

ドバイに子会社を設立された日本企業の経理担当者から、よくこのようなご相談をいただきます。

「ドバイの子会社に運転資金を貸し付けたのですが、この利息関する消費税の取り扱いが良くわからない。」

海外子会社への資金融通は企業グループ内で頻繁に行われる取引ですが、消費税法上の取り扱いについて正しく理解していない方も少なくありません。結論から言えば、ドバイ子会社への貸付金利息は消費税法上特別な取り扱いを受けることができ、適切に処理すれば税務上有利になる可能性があります。

そこで本日は、ドバイ子会社への貸付けを行った場合の親会社側における消費税法上の取り扱いについて、実務上の注意点も含めて詳しく解説します。

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金銭の貸付けは消費税法上「非課税取引」に該当する

まず大前提として、金銭の貸付けは消費税法上どのように取り扱われるのでしょうか。

消費税法では、利子を対価とする金銭の貸付けは非課税取引に該当します。これは消費税法別表第一及び消費税法施行令第10条に規定されており、国内で行われる金銭の貸付けについては原則として消費税が課税されません。

この非課税取引に該当するかどうかの判定、つまり内外判定は、貸付けを行う者の事務所等の所在地が国内にあるかどうかで判断されます。したがって、日本の親会社がドバイの子会社に対して貸付けを行う場合、貸付けを行う者の事務所等は日本国内にありますので、この取引は国内取引に該当し、消費税法上は非課税取引となります。

ここまでは一般的な国内の貸付けと同じ取り扱いです。しかし、海外子会社への貸付けの場合、さらに検討すべき重要なポイントがあります。

債務者が非居住者である場合は「輸出免税」に該当する

非課税取引に該当する金銭の貸付けであっても、その債務者が非居住者である場合には、消費税法上さらに有利な取り扱いを受けることができます。

消費税法施行令第17条第3項では、利子を対価とする金銭の貸付けで債務者が非居住者であるものについては、輸出取引に該当すると規定されています。

つまり、ドバイ子会社への貸付けは、非課税資産の譲渡等であると同時に、輸出取引にも該当することになります。これを消費税法では非課税資産の輸出と呼んでいます。

非課税取引と輸出免税の違い

ここで重要なのが、単なる非課税取引と輸出免税の違いです。両者は消費税が課税されないという点では同じですが、課税売上割合の計算における取り扱いが大きく異なります

課税売上割合は以下の算式で計算されます。

課税売上割合 = (課税売上高 + 免税売上高) ÷ (課税売上高 + 免税売上高 + 非課税売上高)

通常の非課税取引の場合、その売上高は分母のみに算入されます。一方、輸出免税取引の場合は、分母と分子の両方に算入することができます。

具体的な例で見てみましょう。

取引内容 課税売上割合への影響
国内の企業への貸付金利息 分母のみに算入(非課税売上)
ドバイ子会社への貸付金利息 分母と分子の両方に算入(輸出免税)

この違いにより、ドバイ子会社への貸付金利息を輸出免税として処理することで、課税売上割合が高くなり、結果として仕入税額控除額が増加する可能性があります。

非課税資産の輸出等を行った場合の特例適用の要件

ドバイ子会社への貸付金利息を輸出免税として処理し、課税売上割合の計算上有利に取り扱うためには、消費税法第31条に規定される非課税資産の輸出等を行った場合の仕入れに係る消費税額の控除の特例の適用要件を満たす必要があります。

この特例の適用を受けるためには、以下の要件を満たすことが必要です。

要件1:債務者が非居住者であること

まず、貸付金の債務者が非居住者であることが必要です。

ドバイ子会社はUAEに設立された外国法人ですので、日本の税法上は非居住者に該当します。したがって、この要件は満たされます。

要件2:輸出されたことについての証明がされていること

これが実務上最も重要なポイントです。

消費税基本通達では、非課税資産の輸出等に該当することについて、一定の証明が必要とされています。具体的には、金銭消費貸借契約書等において、以下の事項が記載されている場合には、当該貸付金利息は輸出取引として証明がされたものとして取り扱われます。

  1. 貸付者の名称及び住所等
  2. 貸付年月日
  3. 貸付内容(貸付金額、期間等)
  4. 利息(利率)
  5. 借入者の名称及び住所

これらの事項が記載された金銭消費貸借契約書を作成し、適切に保存しておくことで、輸出取引に該当することの証明となり、特例の適用を受けることができます。

ドバイ子会社への貸付けにおける実務上の注意点

ドバイ子会社への貸付けを行う際には、消費税以外にも注意すべき税務上の論点がいくつか存在します。

移転価格税制への配慮が必要

親子会社間での貸付金利の設定には、移転価格税制の適用に注意が必要です。

移転価格税制では、国外関連者との取引価格が独立企業間価格と異なる場合、その差額について課税されることがあります。金銭の貸付けについても、第三者と取引した場合に適用されるであろう利率と著しく異なる利率を設定した場合、税務調査で問題となる可能性があります。

具体的には、貸付金利は借手の信用力、貸付期間、貸付通貨、担保の有無などを考慮して、独立企業間で設定されるであろう利率で設定する必要があります。近年の改正では、市場金利に借手の信用スプレッドを加味した利率を設定することが求められています。

無利息や著しく低い利率での貸付けは、移転価格税制により日本側で所得が加算される可能性があるため、適正な利率の設定が重要です。

源泉徴収義務の有無について

日本の親会社がドバイ子会社から利息を受け取る場合、日本側で源泉徴収義務が発生するかについても確認が必要です。

ただし、今回のケースでは日本の親会社がドバイ子会社に貸し付けているため、利息を支払うのはドバイ子会社側であり、日本の親会社は利息を受け取る側です。したがって、日本側での源泉徴収義務は発生しません。

一方、逆のケース、つまりドバイ子会社から日本の親会社への貸付けを行う場合には、非居住者への利息の支払いとして、日本の親会社に20.42%の源泉徴収義務が発生する可能性があります。この場合、日本・UAE租税条約の適用により源泉税率が軽減される可能性もありますが、適用要件を慎重に確認する必要があります。

UAE側での税務上の取り扱い

ドバイ子会社側では、日本の親会社に支払う利息は原則として損金算入が可能です。

ただし、UAEでは2023年6月から法人税が導入されており、利息の損金算入には一定の制限があります。具体的には、EBITDAの30%を超える純利息費用については損金算入が制限される可能性があります。また、関連者からの借入金に係る利息については、一定の場合に損金算入が制限されることがあります。

さらに、UAE法人税法では外国で支払った源泉税について外国税額控除の適用が可能ですが、今回のケースでは日本側で源泉徴収は発生しないため、この論点は該当しません。

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金銭消費貸借契約書作成のポイント

実務上、非課税資産の輸出等の特例適用を受けるためには、適切な金銭消費貸借契約書の作成と保存が不可欠です。

契約書には以下の事項を必ず明記してください。

記載事項 具体的な内容
貸付者 日本の親会社の正式名称、本店所在地
借入者 ドバイ子会社の正式名称、登記住所(UAEの住所)
貸付年月日 貸付けを実行した日付
貸付金額 貸付けの金額と通貨
利率 年利〇%など、具体的な利率
返済期日 元本の返済期日、利息の支払時期
返済方法 一括返済、分割返済など

これらの事項が明確に記載された契約書を作成し、消費税法で定められた7年間の保存期間にわたって適切に保存することが重要です。

タックスヘイブン対策税制との関係

ドバイ子会社への貸付けを検討する際には、タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)との関係も考慮する必要があります。

UAEの法人税率は9%であり、日本のトリガー税率である27%を下回るため、ドバイ子会社はタックスヘイブン対策税制の対象となる可能性があります。

ただし、貸付金利息自体は事業性のある所得として、経済活動基準を満たす限り合算課税の対象外となることが一般的です。一方、ドバイ子会社が受動的な資産保有のみを目的として設立されている場合には、全所得が合算課税の対象となる可能性もあります。

ドバイ子会社で実質的な事業活動を行っているかどうかを証明するためには、現地での事務所の設置、現地従業員の雇用、現地での事業管理などの実態を整えておく必要があります。

具体的な仕訳例

ドバイ子会社への貸付けと利息受取りの仕訳例を示します。

貸付実行時

(借方)貸付金 100,000,000円 / (貸方)普通預金 100,000,000円

利息受取時(年利3%、年1回受取の場合)

(借方)普通預金 3,000,000円 / (貸方)受取利息 3,000,000円

消費税の処理については、受取利息は非課税資産の輸出として、課税売上割合の計算上、分母と分子の両方に算入します。

ただし、実際の仕訳は会計ソフトや企業の会計方針によって異なる場合がありますので、顧問税理士とご相談のうえで適切に処理してください。

課税売上割合への影響を数値例で確認

具体的な数値例で、課税売上割合への影響を確認してみましょう。

前提条件

ケース1:ドバイ子会社への利息を単なる非課税取引として処理した場合

課税売上割合 = 5億円 ÷ (5億円 + 1,000万円 + 1,000万円) = 5億円 ÷ 5.2億円 = 96.15%

ケース2:ドバイ子会社への利息を輸出免税として処理した場合

課税売上割合 = (5億円 + 1,000万円) ÷ (5億円 + 1,000万円 + 1,000万円) = 5.1億円 ÷ 5.2億円 = 98.08%

この例では、課税売上割合が約1.93%向上しています。課税売上割合が高くなることで、仕入税額控除額が増加し、結果として納付すべき消費税額が減少する可能性があります。

特に、課税売上割合が95%を下回るような場合には、この違いが大きな影響を与えることがあります。

日本・UAE租税条約の活用

日本とUAEの間には租税条約が締結されており、2015年1月1日から適用されています。

この租税条約では、利子に対する源泉税率について以下のような定めがあります。

項目 国内法の税率 租税条約適用後の税率
利子 15%~20.42% 10%(一部免税)

今回のケースでは、日本の親会社がドバイ子会社から利息を受け取るため、日本側での源泉徴収は発生しませんが、逆のケース(ドバイ子会社が日本の親会社に利息を支払う場合)では、この租税条約が関係してきます。

ただし、実務上は租税条約の適用にあたって居住証明書の取得などの手続きが必要となるため、専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

まとめ

ドバイ子会社への貸付けを行った場合の親会社側の消費税法上の取り扱いについて、重要なポイントをまとめます。

ドバイ子会社への貸付金利息は、消費税法上、非課税取引に該当するとともに、債務者が非居住者であることから輸出取引にも該当します。これにより、非課税資産の輸出等の特例の適用を受けることができ、課税売上割合の計算上、受取利息を分母と分子の両方に算入することが可能です。

この特例の適用を受けるためには、金銭消費貸借契約書に必要事項を明記し、適切に保存することが重要です。また、移転価格税制への配慮として、独立企業間価格に基づいた適正な利率の設定が必要です。

海外子会社との金融取引は、消費税だけでなく、法人税、源泉所得税、租税条約、移転価格税制など、複数の税目にまたがる複雑な論点を含んでいます。ドバイ子会社への貸付けを検討される際には、これらの論点を総合的に検討し、適切な税務処理を行うことが重要です。

 このブログを書いた人

税理士・公認会計士(日本・UAE)。ドバイ在住。日本とドバイで会計事務所を経営しています。税務顧問や会計監査、ドバイへの移住支援を行っています。

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