国税庁は2026年4月20日に「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第1回会合を開催し、非上場株式の評価通達の抜本見直しに着手しました。改正通達の適用は2028年1月からと有力視されており、相続税評価だけでなく、所得税法60条の2の国外転出時課税(出国税)の評価実務にも連動して影響が及ぶ可能性があります。自社株が1億円超のオーナーがドバイへ移住する場合、評価額の引上げはそのまま出国税の負担増を意味します。本稿では、ドバイ移住を検討中もしくはすでにドバイ在住で日本法人を残されている経営者向けに、改正の中身、出国税への波及、2027年末までの駆け込み移住・贈与の判断材料を整理いたします。
⚠️ 本記事の要点
- 国税庁の有識者会議が2026年4月20日に始動、2028年1月適用が有力
- 類似業種比準方式の3要素見直しで純資産ウェイトが上がり評価額は増加方向
- 所得税法上の自社株時価も同通達を参照するため出国税が跳ね上がる懸念
- 1億円ライン判定が厳しくなり、これまで対象外だったオーナーが課税対象に入る
- 2027年中のドバイ移住・贈与・事業承継の駆け込み実行が現実的選択肢
ドバイ移住オーナーにとっての本当の論点
非上場株式の評価ルール改正は、メディアでは「相続税の話」として報じられがちですが、ドバイ移住を視野に入れる中小企業オーナーにとって本丸は出国税です。所得税法60条の2は、有価証券等を時価1億円以上保有する居住者が国外転出する際、出国時点で含み益部分を譲渡したものとみなして15.315パーセントの所得税等を課す制度です。対象資産には上場株式に加え、自社株式や持分会社の出資持分といった非上場株式が含まれます。
問題は、その非上場株式の時価をどう算定するかです。所得税基本通達23〜35共-9および59-6では、所得税法上の時価について財産評価基本通達の評価方法を一部修正して準用する仕組みが採られています。したがって、2028年1月から相続税評価のルールが厳格化されれば、出国税の評価実務にも直接連動して波及するというのが、ドバイ移住オーナーが意識すべき最大のリスクです。
評価ルール改正の中身
類似業種比準方式は、上場会社の業種別株価を基準に評価会社の3要素(1株当たり配当金額、利益金額、純資産価額)の比準割合を計算して評価額を出す方式です。今回の見直しでは、この3要素の比率と算定方法、斟酌率(しんしゃくりつ)が論点となっています。
| 論点 | 現行制度 | 見直しの方向性 |
|---|---|---|
| 3要素の比率 | 配当1、利益1、純資産1の均等 | 純資産ウェイトの引上げ案 |
| 類似業種株価 | 直近2年平均または当月の最低 | 直近実態をより反映する案 |
| 斟酌率 | 大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5 | 引下げ余地の議論 |
| 純資産価額方式の37%控除 | 含み益への37%控除 | 控除率の見直し |
純資産ウェイトの引上げは、不動産や上場有価証券に含み益を抱える資産管理会社、研究開発投資で利益を抑制している会社、配当を抑制している同族会社で評価額の急上昇要因となります。会計検査院は2024年11月の令和5年度決算検査報告で、現行通達が上場会社との均衡を欠き、節税スキームに悪用されているとの指摘を公表しており、これが改正の発端となっています。経済同友会も2026年5月12日に「非上場株式の相続税評価見直しに関する意見」を公表し、中堅・中小企業の事業承継への影響を懸念する政策提言を行っています。
出国税の評価が跳ね上がる具体的メカニズム
所得税法上の時価は財産評価基本通達を準用
出国税における非上場株式の時価は、所得税基本通達23〜35共-9および59-6で、財産評価基本通達の評価方法を一部修正して用いると定められています。具体的には、評価会社の規模を一律「小会社」とみなし、土地は路線価ではなく時価、上場有価証券もその時の時価、評価差額への法人税相当額控除なしという厳しい補正が入る仕組みです。
通達改正は出国税にも連動する公算大
今回の改正で類似業種比準方式の純資産ウェイトが上がり、純資産価額方式の37%控除が縮小されれば、所得税法上の自社株時価もそのまま上振れします。実務上、相続税評価の数倍に膨らむケースも報告されており、改正後はそれがさらに上振れする方向です。同じ自社株でも、2027年内出国と2028年以降出国で出国税が大きく変わる構図となります。
1億円ラインの判定にも直結
出国税の適用要件は、対象資産1億円以上かつ過去10年内に5年超日本居住の2点です。評価額が引上がれば、これまで1億円未満で対象外だったオーナーが対象に入るボーダー層は少なくありません。とくに不動産や上場株を保有する資産管理会社の出資持分は、改正後に1億円ラインを越えるケースが増える見込みです。
ドバイ移住オーナーの実行プラン
プランA 2027年中のドバイ移住で旧通達を確定させる
出国前3か月以内に確定申告して納税管理人を選任する場合、対象資産の評価日は出国予定日から3か月前の日となります。2027年12月末までに出国を完了させれば、出国時の評価には改正前の通達が適用される公算が高いため、改正前の有利な評価でみなし譲渡課税を確定できます。
プランB 出国前に特例事業承継税制で日本側を完了
特例承継計画の提出期限は2026年3月で終了しましたが、提出済みの企業は2027年12月31日の承継完了期限内に贈与または相続を完了させれば、贈与税・相続税が実質ゼロとなります。提出済みオーナーは、日本側で事業承継を完了させてからドバイ移住する組み立てが王道です。
プランC 納税猶予と帰国オプションを織り込んだ柔軟スキーム
所得税法137条の2の納税猶予制度を使えば、出国時の所得税を5年(延長で最大10年)猶予できます。5年以内に帰国すればみなし譲渡課税は取り消されます。ドバイで一定期間活動して帰国するプランも視野に入る方は、納税管理人選任と非上場株式への質権設定による担保提供をセットで検討する必要があります。
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プランD UAE法人への事業移管とセットで設計
当会計事務所では、ドバイ移住と並行してUAE自由ゾーン法人やメインランド法人を設立し、日本側の事業の一部を移管するスキームをご支援しています。日本法人の株価上昇要因を緩和しつつ、UAE側で新規事業を立ち上げる流れにすれば、出国税の対象資産そのものを圧縮する設計が可能です。
改正の見込みスケジュール
| 時期 | 主な動き |
|---|---|
| 2026年4月20日 | 第1回有識者会議開催(議論開始) |
| 2026年から2027年 | 複数回の会議開催、業界団体からの意見聴取 |
| 2027年中 | 改正通達案のパブリックコメント実施見込み |
| 2027年12月31日 | 特例事業承継税制の承継完了期限、駆け込み出国の最終線 |
| 2028年1月1日 | 改正通達の適用開始(有力視)、出国税評価にも波及 |
よくあるミス
- 相続税の話だと思って自分には関係ないと判断する 出国税の評価実務に直結するため、ドバイ移住予定の自社株オーナーは全員が当事者
- 1億円未満だから出国税は無関係と判断する 改正で評価額が上振れすれば1億円ラインを越えるボーダー層は要再計算
- 出国日と評価日の関係を誤認 納税管理人選任で確定申告するケースでは出国予定日の3か月前が評価日となるため、2027年内出国は10月前後が実質的な勝負どころ
- 納税猶予の担保提供準備を後回しにする 非上場株式への質権設定は会社側の手続きも伴うため、出国の半年前から準備が必要
- UAE移住後10年以内の相続を見落とす 日本国内財産は相続税の課税対象期間が残るため、出国税と相続税の二段構えで設計が必要
まとめ
非上場株式の評価ルール改正は、相続税対策の枠を超え、ドバイ移住オーナーにとっての出国税戦略を根本から塗り替える論点です。2027年末の特例事業承継税制の期限と2028年1月の通達改正が重なるタイミングで、移住・贈与・事業承継のすべてを駆け込みで完了させるか、UAE法人への事業移管で対象資産を圧縮するか、複数のシナリオを並行して検討する価値があります。日本法人を保有したままドバイ移住を検討されている方、すでにドバイ在住で日本側の整理が残っている方は、いまから準備を始めることで打てる手が大きく変わります。当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。
📋 今回のポイント
- 非上場株式の評価通達が2028年1月から見直される見込み
- 所得税法上の時価も同通達を準用するため出国税の評価が連動して上振れ
- 1億円ライン判定が厳しくなり、新たに出国税対象になるオーナーが増える
- 2027年中のドバイ移住、特例事業承継税制、納税猶予の組み合わせが現実解
- UAE法人への事業移管で対象資産そのものを圧縮する設計も併用可能
- 当会計事務所は出国税と日本側事業承継、UAE法人設立を一体で支援
【根拠条文・出典】
- 所得税法 第60条の2(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)
- 所得税基本通達 23〜35共-9、59-6(非上場株式の時価評価)
- 財産評価基本通達 178以下(取引相場のない株式の評価)
- 相続税法 第22条(評価の原則)
- 国税庁 取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 第1回資料(2026年4月20日)
- 会計検査院 令和5年度決算検査報告(2024年11月公表)
- 経済同友会「非上場株式の相続税評価見直しに関する意見」(2026年5月12日)

