ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。
国税庁は2026年4月20日に「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第1回会合を開催し、非上場株式の評価通達の抜本見直しに着手しました。議論は2026年8月20日の第5回会合まで進み、国税庁は規模別区分の廃止と類似業種比準方式の存置困難という方向性を示し、2026年9月11日には第5回の議事要旨と日本商工会議所の意見書が公表されました。さらに2026年9月16日の第6回会合では、残余利益方式の加算期間を5年、還元率を8パーセントと仮定した評価水準の試算が1,378社のデータで初めて示され、同日には経済産業省と中小企業庁が慎重な検討を求める意見を出しています。適用は早ければ2028年1月からと見込まれ、所得税法60条の2の国外転出時課税(出国税)の評価実務にも連動します。自社株が1億円超のオーナーがドバイへ移住する場合、評価額の引上げはそのまま出国税の負担増を意味します。
本稿では、ドバイ移住を検討中もしくはすでにドバイ在住で日本法人を残されている経営者向けに、改正の中身と出国税への波及、駆け込み実行の判断材料を整理いたします。
⚠️ 本記事の要点
- 第6回(2026年9月16日)で1,378社の試算を公表、大会社は中央値で現行比1.5倍から2倍超
- 第5回(2026年8月20日)の議事要旨が2026年9月11日に公表
- 規模区分廃止、類似業種比準方式の存置困難、残余利益方式の主軸化が柱
- 所得税法上の自社株時価も同通達を参照するため出国税が上振れ
- 1億円ライン判定が厳しくなり、対象外だったオーナーが課税対象に入る
- 2027年中の移住・贈与・事業承継の駆け込み実行が現実的選択肢
ドバイ移住オーナーにとっての本当の論点
非上場株式の評価ルール改正は相続税の話として報じられがちですが、ドバイ移住を視野に入れるオーナーの本丸は出国税です。所得税法60条の2は、有価証券等を時価1億円以上保有する居住者が国外転出する際、出国時点で含み益部分を譲渡したものとみなして15.315パーセントの所得税等を課す制度です。対象資産には上場株式に加え、自社株式などの非上場株式も含まれます。
問題は、その非上場株式の時価をどう算定するかです。所得税基本通達23〜35共-9および59-6では、所得税法上の時価について財産評価基本通達の評価方法を一部修正して準用しています。したがって相続税評価のルールが変わると出国税の評価実務にも直接連動する点が、ドバイ移住オーナーが意識すべき最大のリスクです。
評価ルール改正の中身
類似業種比準方式は、上場会社の業種別株価を基準に評価会社の3要素(1株当たり配当金額、利益金額、純資産価額)の比準割合を計算して評価額を出す方式です。議論の出発点は3要素の比率と斟酌率(しんしゃくりつ)の見直しでしたが、論点は方式そのものの存廃へ移りました。
| 論点 | 現行制度 | 見直しの方向性 |
|---|---|---|
| 3要素の比率 | 配当1、利益1、純資産1の均等 | 比準要素の調整では対応困難との整理 |
| 類似業種株価 | 直近2年平均または当月の最低 | 業種目判定を含め廃止する方向 |
| 斟酌率 | 大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5 | 規模別の区分を廃止し単一方式へ |
| 純資産価額方式の38%控除 | 含み益への38%控除 | 原則的評価方式から外し特定の評価会社用へ |
評価方式間のかい離は、含み益を抱える資産管理会社や配当を抑制している同族会社で特に大きく現れます。会計検査院は2024年11月の令和5年度決算検査報告で、現行通達が上場会社との均衡を欠き節税スキームに悪用されていると指摘しており、これが改正の発端です。経済同友会も2026年5月12日に意見を公表し、中堅・中小企業の事業承継への影響を懸念しています。
第5回会議で国税庁が示した「これまでの議論を踏まえた、国税庁の考える評価の見直しの方向性」は、当初想定より大きく踏み込んだ内容でした。規模別の区分を廃止すること、類似業種比準方式は理論的な根拠や実証的な裏付けを欠くため存置が困難ではないかということ、継続企業には清算前提の時価純資産ではなく簿価を用いるべきではないかということが、いずれも問いかけの形で並んでいます。
主軸候補として示されたのは残余利益方式です。資料は評価額のイメージを「簿価純資産(時価ではありません)に数年分の超過収益を加減した金額」としています。期待収益率を上回る会社は簿価純資産以上、赤字や低収益の会社はそれ以下の評価額になる構造です。純資産価額方式は資産管理会社などの特定の評価会社用に位置付ける方向、配当還元方式は対象株主を絞って存置する方向です。
2026年9月11日に議事要旨と日本商工会議所の意見書が公表されました
第5回会議の議事要旨が2026年9月11日に公表されました。超過収益を加算する年数を5年で区切ると評価額はおおむね10パーセントから15パーセント下がるという当局の試算が示され、超過収益の計算は法人税申告書別表4をベースにする案です。期待収益率にあたる還元率は当局が金融市場のデータから定期的に測定して公表する案が出ており、還元率の水準としんしゃく率の扱いは次回以降の論点です。グループ法人は連結または持分法で評価する方向です。
同日公表された日本商工会議所の意見書は、当局案のままでは評価額が現行方式の2倍から5倍近くになり、相続税の負担が数千万円から数億円増えるという試算を示して反対しています。着地が当局案より緩やかになる可能性も残るため、ドバイ移住を検討される方は上振れ前提と現行維持前提の両方で出国税を試算しておくことが現実的です。
2026年9月16日の第6回会合で評価水準の試算が示されました
第6回会合の国税庁資料では、加算期間5年、還元率8パーセントを前提に、令和2年分から5年分の相続税・贈与税申告から抽出した1,378社について残余利益方式の評価額を試算し、現行の申告評価額の中央値と比べています。しんしゃく率は1.0から0.7までの4段階で示されました。
| 区分(社数) | しんしゃく率1.0 | しんしゃく率0.7 |
|---|---|---|
| 全体(1,378社) | 現行比 +28.1% | 現行比 ▲10.4% |
| 大会社(128社) | 現行比 +114.7% | 現行比 +50.3% |
| 中会社(820社) | 現行比 +40.2% | 現行比 ▲1.9% |
| 小会社(430社) | 現行比 ▲1.9% | 現行比 ▲31.6% |
数字はいずれも中央値の比較で、子会社株式の修正などの個別調整は織り込まれていません。大会社はどのしんしゃく率でも現行より上がる一方、小会社は下がる結果です。資料は同時に、土地保有特定会社と株式等保有特定会社を「資産管理会社」に整理統合し、有価証券や賃貸不動産、現預金などの特定資産の帳簿価額が総資産の70パーセント以上かどうかといった事業承継税制の資産保有型会社に近い形式基準で判定する案や、親族役員への過大な役員報酬の調整、純資産価額を上限とする扱いを残すかどうかも論点に挙げています。
これに対し経済産業省と中小企業庁の意見は、中央値だけの分析では影響の把握として全く不十分だとして、業種や経営状況ごとの具体的な試算と時間をかけた議論を求めています。令和9年度税制改正要望でも慎重な検討を求めており、スケジュールがずれ込む可能性は残ります。
出国税の評価が跳ね上がる具体的メカニズム
所得税法上の時価は財産評価基本通達を準用
出国税における非上場株式の時価は、所得税基本通達23〜35共-9および59-6で、財産評価基本通達の評価方法を一部修正して用いると定められています。具体的には、評価会社の規模を一律で小会社とみなし、土地は路線価ではなく時価、上場有価証券もその時の時価、評価差額への法人税相当額控除なしという補正が入ります。
通達改正は出国税にも連動する公算大
出国税の評価は現行でも小会社とみなす併用方式で計算するため、類似業種比準価額が半分のウェイトで効いています。同方式が廃止されればこの引下げ効果が消え、収益力の高い会社では評価額が上振れる公算が高いです。資産管理会社は純資産価額方式に固定される方向のため、含み益を抱えるほど不利になります。
1億円ラインの判定にも直結
出国税の適用要件は、対象資産1億円以上かつ過去10年内に5年超日本居住の2点です。評価額が引上がれば、これまで1億円未満で対象外だったボーダー層が対象に入ります。とくに不動産や上場株を保有する資産管理会社の出資持分は、改正後に1億円ラインを越えるケースが増える見込みです。現行と新方式の両建てで試算して有利な出国時期を見極める作業が欠かせません。第6回の試算を単純に当てはめると、現行評価で3億円の大会社株式はしんしゃく率0.7でも約4.5億円、1.0なら約6.4億円になり、増えた評価額にかかる出国税は約2,300万円から約5,300万円の上乗せになります。あくまで中央値ベースの目安ですが、大会社のオーナーほど改正前の出国を検討する意味が大きいといえます。
ドバイ移住オーナーの実行プラン
プランA 2027年中のドバイ移住で旧通達を確定させる
納税管理人を選任せず出国前に確定申告する場合、対象資産の評価日は出国予定日から3か月前の日となります。適用開始時期は令和9年度税制改正の議論を経て決まるため、2026年末の大綱で輪郭が見えます。見込みどおり2028年1月適用なら、2027年12月末までに出国を完了させれば改正前の通達で評価される公算が高いです。
プランB 出国前に特例事業承継税制で日本側を完了
特例承継計画の提出期限は2026年3月で終了しましたが、提出済みの企業は2027年12月31日の承継完了期限内に贈与または相続を完了させれば、贈与税・相続税が実質ゼロとなります。提出済みのオーナーは、日本側の承継を完了させてから移住する組み立てが王道です。
プランC 納税猶予と帰国オプションを織り込んだ柔軟スキーム
所得税法137条の2の納税猶予制度を使えば、出国時の所得税を5年(延長で最大10年)猶予できます。5年以内に帰国すればみなし譲渡課税は取り消されます。帰国も視野に入る方は、納税管理人の選任と非上場株式への質権設定による担保提供をセットで検討する必要があります。
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プランD UAE法人への事業移管とセットで設計
当会計事務所では、ドバイ移住と並行してUAE法人を設立し、日本側の事業の一部を移管するスキームをご支援しています。日本法人の株価上昇要因を緩和しつつUAE側で新規事業を立ち上げれば、出国税の対象資産を圧縮できます。
改正の見込みスケジュール
会議は第1回以降ほぼ月1回のペースで開かれ、第4回で当局が6項目を示し、第5回で国税庁自身の案が出ました。配布資料は国税庁の審議会・研究会等のページに集約されており、第5回の議事要旨は2026年9月11日に公表されました。2026年9月16日の第6回では個別論点と試算が示されましたが、同会の議事要旨はまだ公表されていません。ただし2026年9月時点で通達の改正案も意見公募も適用時期も公表されておらず、確定した変更はまだ何もありません。
| 時期 | 主な動き |
|---|---|
| 2026年4月20日 | 第1回会議、見直しの4つの観点を提示 |
| 2026年5月11日、6月4日 | 第2回と第3回、委員と業界団体からの意見聴取 |
| 2026年7月3日 | 第4回、当局が意見を求める6項目を提示 |
| 2026年8月20日 | 第5回、国税庁の考える見直しの方向性を提示 |
| 2026年9月16日 | 第6回、加算期間5年と還元率8%の試算、資産管理会社の整理統合案を提示 |
| 2026年秋から年末 | 論点整理と令和9年度税制改正大綱への反映の見込み |
| 2027年中 | 通達改正案と意見公募の見込み |
| 2027年12月31日 | 特例事業承継税制の承継完了期限、駆け込み出国の最終線 |
| 2028年1月1日 | 新しい評価方法の適用開始見込み、出国税評価にも波及 |
よくあるミス
- 相続税の話だと思い込む 出国税の評価実務に直結するため、ドバイ移住予定の自社株オーナーも当事者
- 1億円未満だから無関係と判断する 残余利益方式では超過収益の反映で評価が動くため、両建てで再計算が必要
- 出国日と評価日の関係を誤認 納税管理人の届出をせずに出国前に申告する場合は出国予定日の3か月前が評価日となるため、2027年内の出国は10月前後が勝負どころ
- 確定前提で駆け込む 通達改正案も適用時期も未公表で、評価が上がると決め打ちした贈与は不利になる場合もある
- 納税猶予の担保提供準備を後回しにする 非上場株式への質権設定は会社側の手続きも伴うため、出国の半年前から準備が必要
- 移住後10年以内の相続を見落とす 日本国内財産は課税対象期間が残るため、出国税と相続税の二段構えで設計が必要
まとめ
非上場株式の評価ルール改正は、相続税対策の枠を超え、ドバイ移住オーナーの出国税戦略を塗り替える論点です。第5回の議事要旨で骨格が、第6回の試算で評価水準の目安が見えた一方、通達改正案も適用時期もまだ公表されていません。2027年末の特例事業承継税制の期限と2028年1月からと見込まれる通達改正が重なるタイミングで、移住・贈与・事業承継を駆け込みで完了させるか、UAE法人への事業移管で対象資産を圧縮するか、複数のシナリオを並行して検討する価値があります。当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。
📋 今回のポイント
- 第5回議事要旨(2026年9月11日公表)で残余利益方式の具体像。5年区切りで評価額10〜15パーセント減、別表4ベース
- 第6回試算(2026年9月16日)で大会社は中央値で現行比+50.3〜+114.7パーセント、小会社は下落
- 日商と経済産業省は慎重な検討を要望、着地は緩む可能性
- 所得税法上の時価も同通達を準用するため出国税の評価も連動
- 1億円判定と出国時期は新旧両方式での再計算が必須
- 2027年中の移住、特例事業承継税制、納税猶予の組み合わせが現実解
- UAE法人への事業移管と一体で当会計事務所が支援
【根拠条文・出典】
- 所得税法 第60条の2(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)
- 所得税基本通達 23〜35共-9、59-6(非上場株式の時価評価)
- 財産評価基本通達 178以下(取引相場のない株式の評価)
- 相続税法 第22条(評価の原則)
- 国税庁 取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 第5回資料 – 2026年8月20日公表
- 同 第5回議事要旨 – 2026年9月11日公表
- 日本商工会議所 意見書 – 2026年9月11日公表
- 同 第6回資料 – 2026年9月16日公表、加算期間5年・還元率8%の試算
- 経済産業省・中小企業庁「取引相場のない株式の評価」見直しに係る意見 – 2026年9月16日
- TKC 第6回有識者会議資料の公表 – 2026年9月17日掲載
- 同 第4回資料 – 当局が意見を求める6項目
- 国税庁 審議会・研究会等 – 各回の配布資料と議事要旨の一覧
- 国税庁 同会議 第1回資料(2026年4月20日)
- 会計検査院 令和5年度決算検査報告(2024年11月公表)
- 経済同友会「非上場株式の相続税評価見直しに関する意見」(2026年5月12日)

