ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。
ドバイに法人を構え、日本の親会社やグループ会社と取引をしている経営者にとって、移転価格税制はますます避けて通れないテーマになっています。日本本社からドバイ子会社への経営指導料、ロイヤルティ、グループ内融資の金利といった関連者間取引は、価格の設定次第で後日の税務調査で否認され、追徴課税や二重課税のリスクを抱えます。
この不確実性を事前に解消する仕組みが、事前確認制度(Advance Pricing Agreement、以下APA)です。UAEの連邦税務庁(FTA)は2025年12月31日にAPAに関する初のガイド(CTGAPA1)を公表し、申請手続きの枠組みを明確にしました。当会計事務所にも、日本とドバイをまたぐグループ取引を抱える経営者から、APAを使うべきかというご相談が増えています。本記事では、APAの対象や費用、申請の流れを整理したうえで、ドバイ在住の日本人経営者が押さえるべき実務ポイントを解説します。
APA(事前確認制度)とは何か
APAとは、納税者と税務当局があらかじめ、関連者間取引に適用する独立企業間価格(アームズレングス価格)の算定方法について合意する制度です。合意した期間内は、その算定方法に従っていれば移転価格の否認を受けないため、税務上の予測可能性が格段に高まります。
UAEでは連邦法令第47号(法人税法)第59条がAPAの根拠となっており、FTAが2025年12月31日に公表したCTGAPA1ガイドが、対象範囲、適格要件、申請プロセス、モニタリング要件、合意後の法的効果を具体的に定めています。APAには次の種類があります。
| APAの種類 | 当事者 | 現在の状況 |
|---|---|---|
| ユニラテラルAPA | 納税者とFTAの二者 | 国内取引は2025年12月から受付開始 |
| バイラテラルAPA | UAEと相手国の税務当局 | 今後の導入予定 |
| マルチラテラルAPA | UAEと複数国の税務当局 | 今後の導入予定 |
まず動き出したのはユニラテラルAPAです。国境をまたぐ取引を対象とする申請の受付開始時期は追って公表される予定であり、日本とドバイをまたぐ取引を持つ経営者は、この動向を注視しておく必要があります。
対象となる取引と適格要件
APAを申請できるのは、対象となる関連者間取引(Controlled Transactions)の年間合計が1億AED(約43億円)以上となる納税者です。円換算は1AED=43円で計算しています。この金額基準は、いわば実務上の入口の目安として設定されています。
対象取引は、関連者(Related Party)や関連者に準ずる者(Connected Person)との取引が中心です。日本本社とドバイ子会社の間の経営指導料、ブランド使用料、グループ内融資、共同開発費用の配分などが典型例になります。一方で、セーフハーバー取引はAPAの対象から除かれます。
対象となりやすい取引の例
| 取引類型 | 具体例 |
|---|---|
| 役務提供 | 日本本社からドバイ子会社への経営指導料 |
| 無形資産 | ブランド・特許のロイヤルティ |
| 金融取引 | グループ内融資の金利設定 |
| 費用配分 | 共同開発費や共通コストの配賦 |
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申請費用と有効期間
APAの申請には、内閣決定第174号(2025年)に基づく手数料が2026年1月1日から適用されています。金額は次のとおりで、いずれも返還されない(non-refundable)点に注意が必要です。
| 手続き | 手数料(AED) | 円換算(43円) |
|---|---|---|
| 新規のユニラテラルAPA申請 | 30,000 | 約129万円 |
| 既存APAの更新・変更 | 15,000 | 約64.5万円 |
APAの有効期間は、おおむね3から5課税期間の将来期間が対象になります。事案によっては過去期間への遡及適用(ロールバック)が認められる場合もあります。手数料が返還されないため、申請前に自社の取引がAPAに適するかを十分に見極めることが重要です。
申請の流れとモニタリング義務
APAの申請は、いくつかの段階を踏んで進みます。ガイドが示す標準的な流れは次のとおりです。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 事前相談 | 申請の適否をFTAと確認(この段階では拘束力なし) |
| 正式申請 | 事業・取引内容・移転価格分析を含む詳細な提出 |
| 審査と交渉 | FTAが算定方法や前提条件を検討 |
| 合意 | 対象期間・算定方法を定めたAPAを締結 |
合意後も義務は続きます。APAの対象となる各課税期間について、経営者はAPA年次申告(Annual Declaration)を提出しなければなりません。この提出期限は署名日から90営業日以内、または法人税申告期限のいずれか遅い方とされており、通常の法人税申告期限である課税期間終了から9か月以内よりも短くなる場合があります。合意して安心するのではなく、毎期の申告義務を確実に果たすことが求められます。
ドバイ在住の日本人経営者が押さえるべき点
ドバイに移住し、日本の会社を残したまま両国でグループ経営を続ける方にとって、APAは移転価格リスクを事前に封じ込める有力な手段です。とりわけ、日本本社からドバイ子会社への経営指導料やロイヤルティは、日本側でもドバイ側でも税務調査の対象になりやすく、双方の当局から異なる価格が主張されれば二重課税の危険が生じます。
ただし、現時点で受付が始まっているのは国内取引を対象とするユニラテラルAPAが中心です。日本とドバイをまたぐ国境取引を対象とする申請の受付開始や、日本の当局を巻き込むバイラテラルAPAは今後の展開を待つ必要があります。まずは自社の関連者間取引を洗い出し、移転価格文書を整備しておくことが、将来のAPA活用に向けた第一歩になります。ドバイ移住後のグループ再編や、日本帰任時の国外転出時課税を見据えた法人整理とあわせて、取引構造を早めに点検しておくことをおすすめします。
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よくある間違い
APAを結べば移転価格の申告や文書化が不要になるという誤解
APAは価格算定方法を事前に合意する制度であり、毎期の年次申告や移転価格文書の整備義務がなくなるわけではありません。むしろ合意条件の遵守を証明する資料が継続的に必要になります。
申請すれば必ず合意できると考える
APAはFTAとの審査と交渉を経て初めて成立します。手数料は返還されないため、申請前に取引の実態と移転価格分析を固めておくことが欠かせません。
日本とドバイの国境取引にすぐ使えると思い込む
現在受付が中心となっているのはユニラテラルAPAです。国境取引を対象とする申請やバイラテラルAPAの本格運用は今後の展開を待つ必要があります。
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まとめ
📋 今回のポイント
- APAは関連者間取引の価格算定方法を事前に合意する制度
- 根拠は法人税法第59条、FTAガイドCTGAPA1が2025年12月公表
- 対象は年間合計1億AED以上の関連者間取引
- 新規申請は3万AED、更新は1.5万AED、いずれも返還なし
- 有効期間はおおむね3から5課税期間、年次申告義務あり
- 現状はユニラテラルAPA中心、国境取引は今後の展開待ち
ドバイ法人の廃業や清算、日本帰任にともなう法人整理と同様に、移転価格やAPAの検討も、UAE側と日本側の税務を同時に見渡す視点が欠かせません。会社閉鎖や税務申告はFTA、フリーゾーン、銀行との調整に加え、英語でのやり取りが必要になり、ご自身だけで完結させるのは容易ではありません。当会計事務所はドバイを拠点に数百社の会社清算と税務申告をサポートしてきた実績があり、移転価格文書の整備から法人税申告、会社清算まで一貫してお引き受けしています。会社清算フルパッケージや法人申告フルパッケージのご案内、料金のお見積もりも承っておりますので、当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。
根拠条文・出典
- 連邦法令第47号(2022年)法人税法 第59条、FTA事前確認制度ガイド(CTGAPA1) UAE連邦税務庁(FTA)Advance Pricing Agreements
- APAガイドの要点解説 KPMG UAE
- UAE移転価格・APAの制度概要 Chambers Transfer Pricing 2026 UAE



