【2026年香港税制改正】ファミリーオフィス優遇税制の大幅拡充とドバイとの比較

投稿:2026年7月5日更新:2026年7月5日ブログ

ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。

2026年6月12日、香港政府は富裕層のファミリーオフィス向け優遇税制を大幅に拡充する改正案を官報に掲載しました。正式名称は「Inland Revenue (Amendment) (Preferential Tax Regimes for Funds, Family-owned Investment Holding Vehicles and Carried Interest) Bill 2026」で、6月24日に立法会で第一読会を通過しています。この改正は、香港をシンガポールやドバイと並ぶ富裕層の資産運用ハブとして再び前面に押し出すものとして、国際的に大きな注目を集めています。詳細は香港政府の公式発表で公開されています。

富裕層の海外移住先を検討するうえで、香港とドバイは常に比較対象となる二大拠点です。日本から資産を持って移住する方にとって、今回の香港改正がどのような意味を持つのか、そしてドバイとどう違うのかを、当会計事務所の視点から整理します。あわせて、日本を出るときに避けて通れない国外転出時課税、いわゆる出国税との関係も解説します。

香港のファミリーオフィス優遇税制とは

香港のファミリーオフィス優遇税制の中心にあるのが、FIHV(Family-owned Investment Holding Vehicle、家族保有投資保有ビークル)という仕組みです。これは、適格なシングルファミリーオフィス(SFO)が運用する家族専用の投資ビークルで、一定の要件を満たすと投資収益に対する利得税(プロフィッツタックス)が0%になります。日本の富裕層が香港に資産管理会社を置く場合、この枠組みが使えるかどうかが税負担を大きく左右します。

従来の要件と課題

従来のFIHV制度では、最低運用資産が2億4000万香港ドル(およそ米ドル換算で3000万ドル、日本円ではおよそ46億円規模)という高いハードルがありました。加えて、投資収益のうち付随的な取引による利益が全体の5%を超えると免税が受けられなくなるという「5%基準」があり、実務上の使い勝手を狭めていました。運用資産の判定方法や、免税対象となる資産の種類が限定的だった点も、多様な資産を持つ現代の富裕層にとって制約となっていました。詳しい制度の枠組みは香港税務局(IRD)の公式ページで確認できます。

項目 改正前 改正後
付随取引の5%基準 超過すると免税不可 撤廃、対象収益は全額免税
資産価値の判定 純資産(NAV)ベース 資産価値ベースに変更
免税対象資産 限定的 私募クレジット・デジタル資産・海外不動産等に拡大
最低運用資産 2億4000万香港ドル 維持(変更なし)

2026年改正の5つの柱

今回の改正は、大きく5つの方向で富裕層の使い勝手を高めています。KPMGの税務アラートWithersの解説でも詳しく整理されています。

対象収益の全額免税化

従来の5%基準を撤廃し、スケジュール16C資産から生じる利益を全額免税とします。これにより、付随的な取引が多い運用でも免税が失われるリスクがなくなり、実務上の予測可能性が大きく高まりました。

資産価値判定の変更と適格投資の拡大

資産の判定基準が純資産ベースから資産価値ベースへ変更され、株主や受益者からの借入は控除しないこととなりました。銀行借入は引き続き控除されます。さらに免税対象となる適格投資が、私募クレジット、デジタル資産、海外不動産、カーボンクレジット、保険関連証券、貴金属などへと大きく広がりました。多様な資産を持つ現代の富裕層のニーズに正面から応える内容です。

ファンド定義の拡大とSPE免税の完全化

ファンドの定義が拡大され、2億4000万香港ドル以上のファンド・オブ・ワンも対象に含まれます。加えて、特別目的事業体(SPE)については保有割合にかかわらず全額免税とされ、認められる事業活動の範囲も広がりました。あわせてキャリードインタレストの優遇も強化されています。

ドバイと香港はどう違うのか

ここが多くの富裕層にとって最も気になる点だと思います。香港は「投資ビークルへの優遇税制」で富裕層を呼び込むアプローチであるのに対し、ドバイはそもそも個人所得税が存在しないという根本的な違いがあります。香港のFIHVは0%の利得税を実現しますが、それはあくまで一定要件を満たす投資ビークルに限った話です。個人としての給与や配当に対する扱い、居住者としての生活そのものの税負担という観点では、両者の設計思想はまったく異なります。

項目 香港(FIHV) ドバイ(UAE)
個人所得税 給与所得課税あり(累進、最大15%程度) なし(0%)
投資収益の非課税 FIHV要件を満たせば0% 個人のキャピタルゲイン非課税
最低運用資産の目安 2億4000万香港ドル 法定の最低額なし(設立費用は別途)
実体要件 常勤有資格者2名以上、年間運営費200万香港ドル以上 フリーゾーン・財団等の枠組みで対応
事前承認 不要(自己申告制、Form IR1479) 不要

香港のFIHVには、家族が受益権の95%以上を保有すること、常勤の有資格者を2名以上香港内に配置すること、年間200万香港ドル以上の現地運営費を支出することといった実体要件が課されています。シンガポールと比べると事前承認やライセンス取得が不要という利点があり、この点は運用開始のスピードを重視する富裕層に評価されています。一方でドバイは、そもそも個人段階での所得税がないため、資産運用ビークルの精緻な優遇制度に頼らずとも税負担が軽いという構造的な強みを持っています。

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日本を出るときに避けられない出国税

香港であれドバイであれ、日本の富裕層が資産を持って移住する際に必ず検討しなければならないのが、国外転出時課税、いわゆる出国税です。これは、1億円以上の有価証券などを保有する居住者が日本を出国する際、その含み益に対して所得税が課される制度で、税率は15.315%です。香港のFIHVでいくら投資収益が0%になっても、日本の出国税を精算しないまま出国すれば、後から大きな課税問題に直面します。移住先の優遇税制と、日本を出るコストは必ずセットで検討する必要があります。

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よくある間違い

香港のファミリーオフィス優遇を検討する富裕層が陥りやすい誤解を3点挙げます。1つ目は、FIHVの0%利得税を「香港に住めば個人の税金もゼロになる」と混同してしまうことです。FIHVはあくまで投資ビークルへの優遇であり、香港には個人の給与所得課税が存在します。2つ目は、最低運用資産2億4000万香港ドルや実体要件を軽視してしまうことです。常勤有資格者の配置や年間運営費の要件を満たせなければ、優遇は受けられません。3つ目は、日本側の出国税や、移住後の日本源泉所得への課税を見落とすことです。移住先の制度だけを見て日本側の精算を怠ると、想定外の追徴を受けかねません。

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まとめ

📋 今回のポイント

  • 香港が2026年6月にファミリーオフィス優遇税制の拡充案を官報掲載
  • FIHVの5%基準撤廃と適格投資の大幅拡大が柱
  • 最低運用資産2億4000万香港ドルと実体要件は維持
  • 香港は投資ビークル優遇、ドバイは個人所得税ゼロという構造的な違い
  • 移住には日本の出国税との同時検討が必須
  • 拠点選びは税制だけでなく実体要件と精算コストで判断

当会計事務所は、ドバイ移住やドバイ法人設立を軸に、富裕層の資産管理拠点の選定から日本側の出国税精算、移住後のコンプライアンスまで一貫してサポートしています。香港とドバイのどちらが自身の資産構成に合うか迷われている方も、まずは全体像を整理することが大切です。当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。

根拠条文・出典

 このブログを書いた人

税理士・公認会計士(JCPA)・UAE公認会計士(EAAA)協会会員。日本とドバイで会計事務所を経営。現地日本企業の税務顧問先100社(上場会社含む)、会社設立実績80社以上。
ドバイ法人の会計監査や税務申告、ドバイ移住支援を行っています。

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