ドバイ不動産の減価償却で節税は可能?損益通算ルールとコストセグリゲーション法

投稿:2026年7月3日更新:2026年7月3日ブログ

ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。

「海外不動産で節税ができる」というセールストークを不動産ブローカーから受けた経験のある方は多いはずです。実際には2021年(令和3年)の税制改正で日本居住者個人による海外中古不動産の減価償却を使った損益通算スキームは大幅に規制されました。ただし規制の中身を正確に理解すると、日本居住者個人でも節税の余地は残されています。

本記事では日本居住高所得者個人がドバイ既存物件(レディ物件)を購入して減価償却節税を狙う場合の現在のルール、簡便法と見積法の違い、コストセグリゲーション法による節税額の最大化を整理して解説します。なお本スキームは築年数に応じた耐用年数調整が使える既存物件(レディ物件)が前提であり、オフプラン物件は本記事のスキームの対象外となります。

2021年税制改正により個人の海外中古建物は損益通算不可へ

まず前提として、2020年度(令和2年度)税制改正で創設された租税特別措置法(e-Gov法令検索)第41条の4の3「国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例」により、2021年1月1日以降の所得税から個人の海外中古不動産による節税スキームは実質的に封じられました。

改正のポイントは次のとおりです。

項目 内容
対象 個人が保有する国外中古建物
制限内容 簡便法または見積法(添付書類なし)による減価償却費の損失は「なかったものとみなす」
通算不可の範囲 給与所得、事業所得、国内不動産所得との損益通算
内部通算 海外不動産同士での通算は引き続き可能
適用時期 2021年1月1日以後の所得
遡及適用 改正前に取得した物件にも適用

改正前は木造築22年超であれば「22年×20%=4年」で全額減価償却でき、キャッシュフローがプラスでも会計上は赤字を作って給与所得と損益通算する「4年ルール節税」が横行していました。国税庁の措置法通達でも明確化されているとおり、この節税スキームは個人レベルで完全に封じ込まれた形です。

日本居住個人でも節税出来る3つの余地

個人保有・簡便法での損益通算は封じられましたが、日本居住者個人がドバイ既存物件で節税を狙う場合、現行制度上も以下の3つの余地が残されています。

活用ポイント 内容
①海外不動産内の内部通算 複数の海外不動産を保有している場合、他物件の黒字と減価償却の赤字を通算可能
②不動産所得内での経費計上 物件単体の家賃収入に対する減価償却費は損金として計上可能、当該物件の不動産所得を圧縮
③見積法+添付書類(下記で詳細を記載) 措置法通達41-4-3,4で認められる書類を添付すれば損益通算制限の対象外(ただしUAE実務では制約あり)

特に複数の海外物件を保有する高所得者にとっては内部通算の余地が大きく、ポートフォリオ全体で減価償却の効果を活用できます。ドバイ既存物件を1棟目として取得し、将来的に他国物件と組み合わせる設計も選択肢となります。

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本スキームの対象は既存物件

本記事で解説する減価償却スキームは、築年数に応じた簡便法が適用できる既存物件(レディ物件・中古物件)が前提となります。RC造築30年の場合、耐用年数は「(47年-30年)+30年×20% = 23年」まで短縮でき、状況によっては9年程度で償却できるケースもあり、これが減価償却費を大幅に押し上げる源泉となります。

一方、完成前のオフプラン物件は新築扱いとなり簡便法が使えないため、本スキームの対象からは外れます。オフプラン投資はキャピタルゲインやゴールデンビザ取得など別の目的で活用される投資手法であり、目的に応じて既存物件と使い分けるのが実務上の考え方です。

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コストセグリゲーション法とは

減価償却による節税効果を最大化する手法として米国発祥のコストセグリゲーション(Cost Segregation)があります。これは物件の取得価額を土地・建物躯体・建物付属設備・構築物などの構成要素に細かく分解し、それぞれに適切な耐用年数を適用することで、短期間で償却できる部分の減価償却費を前倒し計上する手法です。

資産区分 法定耐用年数 節税インパクト
土地 償却なし 対象外
建物躯体(RC造) 47年 長期償却
建物付属設備(電気・給排水・空調等) 15年 中期償却
器具備品(家具・家電) 6年 短期償却
構築物(駐車場舗装等) 15年 中期償却

一般的な不動産投資では取得価額のすべてを「土地+建物」の2区分でしか把握しないため、建物部分に47年の耐用年数を適用してしまうケースが多くみられます。しかしコストセグリゲーション法で分解すれば、建物付属設備(15年)や器具備品(6年)の部分を前倒しで償却でき、初期年度の減価償却費が数倍に膨らむ可能性があります。

コストセグリゲーションの具体例

物件取得価額1億円、うち建物部分6,000万円(既存物件・RC造築30年、簡便法耐用年数23年)のケースを想定します。

償却区分 従来の分類 コストセグリゲーション適用後
建物躯体 6,000万円(23年) 4,200万円(23年)
建物付属設備 上記に包含 1,200万円(15年)
器具備品(家具付き物件の場合) 上記に包含 600万円(6年)
初年度減価償却費 約261万円 約460万円

年間ベースで200万円程度の減価償却費増、これが不動産所得を圧縮する効果を持ちます。物件が家具付き(ドバイ賃貸市場では家具付き物件が主流)の場合、器具備品部分の6年償却がインパクト大です。

ドバイ既存物件でコストセグリゲーションが有効な理由

ドバイ不動産市場は、他国の中古市場とは異なる特徴を持ちます。

ドバイ市場の特徴 減価償却節税への影響
家具付き(Furnished)物件が主流 器具備品6年償却の余地が大きい
中古物件でも設備水準が高い 建物付属設備15年償却の割合が大きい
Palm、Downtown、Marinaなど築古エリアが好立地 既存物件でも高利回りが期待できる
賃料が事前一括払いが慣行 減価償却との時期ズレを設計しやすい

ドバイの既存物件市場では、Palm Jumeirah、Downtown Dubai、Dubai Marina、JBRといった中心地に築15〜20年の物件が数多く流通しています。これらは投資対象として高利回りを維持しつつ、簡便法とコストセグリゲーションの適用で減価償却費を最大化できる領域です。

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見積法+添付書類による損益通算の可能性

措置法通達では、見積法による耐用年数の算定を選択し、次のいずれかの書類を確定申告書に添付すれば損益通算制限の対象外となる旨が示されています。

ただしUAEには法定耐用年数の概念が存在しないため、UAE所在国基準の書類は入手不能です。不動産鑑定士による見積り書類の作成は理論上可能ですが、UAE現地の実務環境では対応できる鑑定士が限定的であり、費用対効果と税務調査での耐久性の観点から現実的な選択肢とは言い難いのが実情です。実務上は、簡便法による内部通算や不動産所得内での経費計上を軸に組み立てるケースが大半となります。

UAE法人保有という別の選択肢

個人保有以外の選択肢として、UAE法人を設立してドバイ既存物件を保有する方法もあります。UAE法人税上は減価償却費が損金算入可能であり、賃貸収入への課税(AED 375,000超の課税所得に9%、QFZP適用で0%の可能性)を圧縮できます。ただし日本居住者のままUAE法人で保有する場合はCFC税制(外国子会社合算税制)の管理支配基準の充足が課題となり、特定外国関係会社27%/対象外国関係会社20%の合算課税リスクを踏まえた設計が必要です。日本非居住者となる場合は日本の税制改正の影響を受けず、UAE法人税のみが実質的な負担となります。弊社では税務リスクを抑えつつ、不動産管理会社法人の設立を代行することも可能です。

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よくある間違い

誤解1:ドバイ不動産は税金がないから節税に有利

UAE現地では所得税・キャピタルゲイン税・固定資産税がゼロですが、日本居住者には日本の税法が適用され、家賃収入も譲渡益も日本で課税されます。「ドバイは税金ゼロ」というのは、あくまでUAE居住者となった場合の話です。

誤解2:築40年物件なら4年で全額償却して給与所得と通算できる

2021年税制改正により、日本居住者個人が海外中古建物を保有しても、簡便法または添付書類なしの見積法による減価償却費のうち赤字部分は「なかったものとみなす」扱いとなり、給与所得や事業所得との損益通算はできません。同一物件内の不動産所得の圧縮や、海外不動産同士の内部通算に留まります。

誤解3:不動産鑑定士の意見書があれば個人でも損益通算できる

制度上は見積法+添付書類で損益通算制限の対象外となりますが、UAEでは法定耐用年数の概念がなく所在国基準の書類は入手不能です。鑑定士による見積書類も対応可能な事務所が限定的で、書類の耐久性・費用対効果の両面で実務上のハードルが高いのが現実です。

出口戦略と譲渡所得への影響

減価償却で節税した部分は、売却時の譲渡所得計算に影響します。減価償却費は取得費から控除される(簿価が下がる)ため、譲渡益が大きく計上されます。日本居住者個人の海外不動産譲渡所得は、以下の税率で分離課税されます。

保有期間 譲渡所得税率(個人)
5年以下(短期譲渡) 39.63%
5年超(長期譲渡) 20.315%

ドバイの既存物件で長期保有後に売却する戦略であれば、長期譲渡所得税率20.315%が適用されます。減価償却期間中の節税額と、売却時の譲渡益への課税額を総合的にシミュレーションした上で保有期間を決定することが重要です。特に日本居住者個人保有の場合、償却による不動産所得圧縮効果と出口の譲渡益課税のバランスが節税スキームの成否を分けます。

まとめ

📋 今回のポイント

  • 2021年税制改正で日本居住者個人・海外中古建物の簡便法減価償却は給与所得等との損益通算不可(措法第41条の4の3)
  • ただし①海外不動産内の内部通算、②不動産所得内での経費計上、③見積法+添付書類、の3つの節税余地は残る
  • 本スキームの対象は築年数調整が使える既存物件(RC造築30年で耐用年数約23年)
  • コストセグリゲーションで建物躯体・付属設備15年・器具備品6年に区分し初期償却を最大化
  • UAEでは法定耐用年数の概念がなく見積法の添付書類ハードルは高い、実務上は簡便法+内部通算が軸
  • 出口では簿価低下による譲渡益増を織り込んだ長期シミュレーションが必須(長期譲渡20.315%)
  • UAE法人保有は個別事情に応じた別の選択肢の1つ、CFC税制の管理支配基準充足が論点

当会計事務所では、ドバイ既存物件を日本居住者個人が保有する場合の減価償却節税スキームの設計、コストセグリゲーション実施のための資産区分意見書作成、海外不動産複数保有時の内部通算最適化、出口の譲渡所得シミュレーション、必要に応じたUAE法人保有スキームの検討まで一気通貫で対応しています。ドバイ不動産投資を検討される方、既存物件を活用したスキーム設計を最適化したい方は、当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。

根拠条文・出典

  • 租税特別措置法(e-Gov法令検索)第41条の4の3(国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例)
  • 国税庁 租税特別措置法通達(国外中古建物関連)
  • 減価償却資産の耐用年数等に関する省令(別表第一・第二)
  • 所得税法施行令第126条(減価償却資産の取得価額)
  • UAE Federal Decree-Law No. 47 of 2022(UAE法人税法、減価償却の損金性)
  • 日本 租税特別措置法 第66条の6(外国子会社合算税制/CFC税制)

 このブログを書いた人

税理士・公認会計士(JCPA)・UAE公認会計士(EAAA)協会会員。日本とドバイで会計事務所を経営。現地日本企業の税務顧問先100社(上場会社含む)、会社設立実績80社以上。
ドバイ法人の会計監査や税務申告、ドバイ移住支援を行っています。

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