こんにちは、ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。
近年、中東ドバイへの進出やビジネス展開を検討される方が増えています。ドバイを含むUAE(アラブ首長国連邦)は、長らく「タックスフリーの国」として知られてきましたが、2023年6月に法人税が導入されるなど、税制は大きく変化しています。
一方で、日本と比較すると依然として税負担が大幅に軽いことは事実であり、両国の税制の違いを正確に理解することは、海外進出を検討するうえで非常に重要です。本記事では、日本とUAEの税制を法人税・消費税(VAT)・関税の3つの観点から比較し、さらに日UAE租税条約の実務上の留意点まで整理します。
1. 法人税に関する比較
日本の法人税制度
日本の法人税は、法人の所得に対して課される国税です。国税庁No.5759によれば、税率は原則23.2%、資本金1億円以下の中小法人については年800万円以下の所得部分に対して15%の軽減税率が適用されます。
ただし、実際の税負担は法人税だけではありません。地方法人税、法人住民税、法人事業税なども加算されるため、日本の法人所得に対する実効税率は約29.74%(資本金1億円超・東京都の場合)となります。新設法人であっても、黒字が出れば原則として法人税が課税されます。赤字であっても住民税の均等割などは別途発生します。
| 項目 | 日本 |
| 法人税率(原則) | 23.2% |
| 中小法人軽減税率 | 年800万円以下の所得部分は15% |
| 法人実効税率 | 約29.74%(資本金1億円超・東京都) |
| 免税点 | なし(赤字なら法人税は発生しない) |
UAEの法人税制度
UAEでは、2023年6月から連邦レベルで法人税(Corporate Tax)が導入されました。基本構造は2段階です。
- 課税所得AED 375,000以下の部分:0%
- AED 375,000を超える部分:9%
この水準は国際的に見ても低い税率であり、特に日本と比較すると法人レベルの税負担は約3分の1以下に抑えられます。法人税法本文はUAE財務省公開のFederal Decree-Law No. 47 of 2022、概要はFTA公式をご参照ください。
さらに、UAEには数多くのフリーゾーンが存在し、一定の条件を満たすことで適格フリーゾーン法人(Qualifying Free Zone Person / QFZP)として認定され、Qualifying Income(適格所得)について法人税0%の取扱いが可能となります。QFZPに該当するには次のような要件を満たす必要があります。
- UAEに十分な実態(substance)を有すること
- Qualifying Incomeを生み出していること
- Non-Qualifying Incomeが連結売上のde minimis閾値(5%またはAED 500万のいずれか低い方)以下
- 監査済財務諸表を作成していること
- UAE移転価格税制を遵守していること
また、年間売上AED 300万以下の小規模事業者については、Small Business Relief(スモールビジネス・リリーフ)として、2026年12月31日終了課税期間まで法人税を実質ゼロにできる救済制度(opt-in制)が用意されています。ただしQFZP適用法人は対象外です。
法人税比較のまとめ
| 項目 | 日本 | UAE |
| 基本税率 | 23.2% | 9% |
| 実効税率 | 約29.74%(地方税込) | 約9%(地方税なし) |
| 免税点 | なし | AED 375,000まで0% |
| 中小・小規模企業優遇 | 年800万円以下15% | Small Business Relief(売上AED 300万以下・opt-in制・2026年12月31日終了課税期間まで) |
| フリーゾーン優遇 | 制度上なし | QFZPはQualifying Incomeに対し0% |
日本の方が税率は高い一方で、UAEは低税率かつフリーゾーン優遇もあるため、法人レベルの所得をUAE側に集約するインセンティブが構造的に働きやすいといえます。Small Business Relief・Ministerial Decision本文はUAE財務省公開PDFをご参照ください。
2. 消費税(VAT)に関する比較
日本の消費税制度
日本の消費税は、商品やサービスの対価に対して課される間接税です。国税庁No.6105によれば、現在の標準税率は10%、飲食料品など一部品目については軽減税率8%が適用されます。軽減税率の主な対象は次のとおりです。
- 酒類・外食を除いた飲食料品の販売
- 週2回以上発行される新聞の定期購読
2023年10月からはインボイス制度(適格請求書等保存方式)が始まりました。消費税の仕入税額控除を受けるためには、原則として適格請求書発行事業者からの請求書の保存が必要となり、フリーランスや小規模事業者にも影響が広がっています。2026年5月時点では経過措置の段階にあり、免税事業者からの仕入については50%相当が控除可能な期間に入っています(2026年9月30日まで)。
また、日本には事業者免税点制度があり、基準期間(通常は2期前)の課税売上高が1,000万円以下の事業者については、消費税の納税義務が免除されます。ただしインボイス制度開始後は、取引先からの要請であえて課税事業者を選択するケースも増えています。
UAEのVAT制度
UAEでは、2018年1月から付加価値税(VAT)が導入されています。税率は一律5%で、日本の標準税率と比較すると半分の水準です。詳細はFTA VAT公式ページをご参照ください。
VATの登録義務は、年間課税売上AED 375,000を超える事業者に発生します。AED 187,500以上AED 375,000未満の事業者は任意でVAT登録が可能です。UAEのVAT制度では、取引が次の3区分に整理されます。
- 標準税率(5%):原則的な商品・サービスの取引
- ゼロ税率(0%):輸出、国際輸送、特定の医療・教育サービス、新築住宅の初回売却など。ゼロ税率取引は仕入VATの控除が可能
- 非課税(Exempt):金融サービスの一部、住宅用不動産の賃貸、現地旅客輸送、無償の土地譲渡など。仕入VATは控除不可
「ゼロ税率」と「非課税」の違いは仕入VATの控除可否であり、事業モデル設計上の重要な分岐点です。
消費税・VAT比較のまとめ
| 項目 | 日本 | UAE |
| 標準税率 | 10% | 5% |
| 軽減税率 | 8%(飲食料品等) | 原則なし |
| 免税点 | 基準期間の課税売上1,000万円以下 | 年間課税売上AED 375,000以下 |
| 輸出取引 | 輸出免税(0%税率) | ゼロ税率(0%) |
| 請求書制度 | インボイス制度(経過措置中) | Tax Invoice制度 |
制度の骨格は両国とも類似しており、税率だけ見るとUAEが有利ですが、輸出に関してはいずれもゼロ税率を採用し仕入税額控除も認められます。事業モデルごとに、どちらの国で課税取引が発生するかを丁寧に設計することが求められます。
3. 関税に関する比較
日本の関税制度
日本の関税は、輸入される商品の品目ごとに税率が細かく定められています。日本税関 実行関税率表を参照すると、全品目の単純平均は数パーセント台、農産品と工業製品では大きな差があるのが分かります。
| 区分 | 平均的な関税率のイメージ |
| 全品目平均 | 約4%台 |
| 農産品 | 約13%台(品目により大きく変動) |
| 工業製品 | 約2%台 |
実務上問題になりやすいのは、農産品など高関税品目です。米・乳製品・砂糖・一部加工食品・衣料品などは、一般的な工業製品に比べて高めの関税率が設定されています。一方で、日本は多くの国とEPA/FTAを締結しており、原産地証明を用いることで関税が大幅に軽減または免除されるケースもあります。実際の税率は商品ごとのHSコードと原産国ごとの協定内容を確認する必要があります。
UAEの関税制度
UAEはGCC(湾岸協力会議)の一員であり、GCC共通関税制度を採用しています。原則として、UAEに輸入される多くの品目にはCIF価格(商品価格+保険料+運賃)の5%の関税が課されます。ただし次のような例外があります。
| 品目・区分 | 関税上の扱い |
| 一般物品 | 原則5% |
| 基礎食料品・医薬品 | 免税品目あり |
| GCC域内原産品 | 条件を満たせば無関税 |
| アルコール飲料 | 高税率(首長国別ルール) |
| たばこ製品 | 100%関税+Excise Tax |
UAEで特徴的なのは、多数のフリーゾーン、特にVAT上のDesignated Zone(指定地域)に指定されたフリーゾーンの存在です。Designated Zone内に輸入される物資は、再輸出を前提とする限り関税が課されない取扱いが一般的です。製造業や商社機能をフリーゾーンに置き、原材料を輸入して第三国へ輸出するモデルでは、関税負担を抑えたサプライチェーン構築が可能になります。
ただし、フリーゾーンからUAE本土に商品を移すタイミングで関税(および本土でのVAT)が発生する点に注意が必要です。
関税比較のまとめ
| 項目 | 日本 | UAE |
| 基本的な関税水準 | 全体平均は数パーセント台 | 原則5% |
| 農産品 | 高関税品目が多い(米・乳製品等) | 原則5%だが一部免税 |
| 工業製品 | 比較的低い税率 | 多くが5% |
| 経済連携協定 | EPA/FTAが多数 | GCC共通関税が中心 |
| フリーゾーン | 制度なし | Designated Zone内は再輸出前提で無関税 |
UAEではフリーゾーン活用により、在庫拠点や仕向地を柔軟に変えながら関税負担を抑えるケースが多く見られます。
4. 日UAE租税条約の実務上の取扱い
日本とUAEの間には、日UAE租税条約(2013年5月署名・2014年12月発効、2015年1月適用開始)が締結されています。配当・利子・使用料に対する源泉地国課税の限度税率は次のとおりです。
| 所得の種類 | 日本国内法の源泉税率(例) | 日UAE租税条約の限度税率 |
| 配当(議決権10%以上を6か月以上保有する法人受益者) | 20.42% | 5% |
| 配当(その他) | 20.42% | 10% |
| 利子(一般) | 15.315%/20.42%等 | 10% |
| 利子(政府機関等が受領するもの) | 15.315%等 | 免税(0%) |
| 使用料 | 20.42% | 10% |
条約のポイントの詳細は財務省「日UAE租税条約のポイント」、源泉所得税の実務取扱いは国税庁「源泉所得税の改正のあらまし(日UAE租税条約関係)」をご参照ください。
条約適用の実務上の留意点
条約の限度税率の適用を受けるためには、いくつかの実務上の要件があります。
- 「居住者」要件:条約上の限度税率の対象は「相手国の居住者である受益者」。UAE側の居住者には議定書第2項で中央銀行、アブダビ投資庁、Mubadala等の政府関係機関が例示されていますが、これは “includes, but is not limited to“(限定列挙ではなく例示)と明記されており、一般の民間UAE法人・個人も、UAE法上の課税上の居住者であれば条約上の居住者に該当します
- 居住者証明書(TRC)の取得:UAE側でFTAから居住者証明書を取得し、日本側の源泉徴収義務者に提示することが実務上必要です
- 租税条約に関する届出書:最初の支払日の前日までに、源泉徴収義務者を経由して所轄税務署長に届出書を提出する必要があります
- 「liable to tax」要件の検証:UAE法人税導入(2023年6月)以降、UAE居住者が「課税を受けるべき者」に該当するかの実務的解釈は、より明確になっています。法人税対象法人であれば「課税を受けるべき者」に該当しやすくなりました
- 条約の濫用防止規定:日UAE租税条約には特典制限(LOB)的な濫用防止規定が組み込まれており、形式的にUAE法人を設立しただけで自動的に特典が得られるわけではありません
日本側の規制との関係
UAEを介したストラクチャーを検討する際は、日本側で次の規制との整合を必ず確認する必要があります。
- タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制/CFC税制):UAE法人の租税負担割合が一定基準を下回る場合、日本親会社の所得に合算される可能性があります。UAE法人税9%導入後も、QFZP適用でゼロ%課税となる場合は合算リスクの再評価が必要です
- 国外転出時課税:日本居住者が一定の有価証券等を保有したままUAEに移住する場合、含み益に対する課税が発生します
- 外国税額控除:日本でも、UAEでも、二重課税の調整は外国税額控除制度を通じて行われます
- 恒久的施設(PE)課税:UAE法人が日本国内でPEを有する場合、日本でも法人税の課税対象となります
5. UAE法人税とQFZPの最新論点
UAE法人税の導入後、日本との税務関係において特に重要となるのが次の3つの論点です。
QFZPと移転価格
QFZP適用法人は、関連者間取引についてアームスレングス原則(独立企業間価格)を遵守する義務があります。Local FileやMaster Fileの作成義務、関連者間取引が一定基準を超える場合は移転価格申告書の提出義務があります。日本親会社との取引価格設定は、QFZP維持の観点でも、日本側の移転価格税制の観点でも、二重に重要となります。
DMTT(国内ミニマム課税)15%
UAEは、2025年1月1日以降開始する事業年度から、Domestic Minimum Top-up Tax(DMTT)を導入しました。これは、グローバル売上高EUR 7.5億以上の多国籍企業グループに属する法人を対象に、UAEでの実効税率が15%を下回らないように上乗せ課税する制度です。中堅・中小規模の日本企業には直接の影響は小さいですが、大手日系企業のUAE子会社にとっては重要な変化です。
UAE居住者証明書(TRC)の取得
日UAE租税条約の特典享受にはTRCの取得が実務上不可欠です。法人については設立後12か月以上経過していること、個人については年間183日以上のUAE滞在実績などが要件となります。UAE法人税導入により「課税対象法人であること」の証明が容易になり、TRC取得もスムーズになっています。
最後. まとめ
日本とUAEの税制を、法人税・消費税(VAT)・関税・租税条約という4つの切り口で比較すると、次のポイントが見えてきます。
- 法人税:日本の実効税率約29.74%に対し、UAEは原則9%、QFZPなら適格所得0%。法人レベルの所得をUAE側に集約する構造的インセンティブがある
- 消費税・VAT:日本は標準10%・軽減8%の二段階、UAEは一律5%。両国とも輸出はゼロ税率で、仕入税額控除も認められる
- 関税:日本は品目別の細かな税率体系、UAEはGCC共通関税で原則5%・Designated Zone活用で再輸出スキームと相性が良い
- 日UAE租税条約:配当5%/10%、利子10%(政府機関等は0%)、使用料10%。条約特典享受にはTRCと届出書、移転価格・実体要件・濫用防止規定への対応が前提
UAE進出を検討する際は、単純に「税率が低いから有利」と考えるのではなく、次の点を総合的に検討することが重要です。
- 日本側に残る課税(CFC税制・国外転出時課税・PE課税)の見極め
- 日UAE租税条約の特典享受要件の充足(TRC・実体・LOB)
- QFZP維持と移転価格税制への適合
- Designated Zone・フリーゾーン活用とサプライチェーン設計の整合
- DMTT等の最新国際課税ルールへの対応
具体的なビジネスモデルや資本関係、取引スキームによって最適な設計は大きく変わります。日UAE間の税務ストラクチャーの設計、CFC合算リスクの評価、QFZP維持の組成、移転価格文書化、TRC取得サポートなど、個別のご相談はお気軽にお問い合わせください。UAE法人税の総合的な制度概要はPwC Worldwide Tax Summaries – UAEもあわせてご参照ください。
