ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。
2026年、ドバイの不動産連動型2年投資家ビザに大きな改正が入りました。ひとことで言えば、単独名義であれば物件価格の下限が完全に撤廃され、スタジオや1ベッドルームといった手頃な物件を1戸持つだけでも居住ビザを申請できるようになったのです。これまで必要だった最低不動産価額75万AED(約3,225万円、1AED=43円で換算)というハードルが消えたことで、ドバイ移住の入口は一気に広がりました。今回はKhaleej Timesが2026年7月に報じた改正の中身を、ドバイ移住と出国税の観点から整理していきます。なお本改正はドバイ限定の制度で、アブダビなど他の首長国は対象外という点も後ほど詳しく解説します。
2年投資家ビザ(Taskeen)とは何か
UAEの居住ビザにはいくつかの種類がありますが、不動産投資家向けの代表的なものが有効期間2年の投資家ビザです。ドバイではUAE政府公式ポータル(u.ae)でも案内されているとおり、この制度はドバイ土地局(DLD)のTaskeen(タスキーン)プログラムを通じて処理されます。10年間有効なゴールデンビザが200万AED以上の不動産を要件とするのに対し、この2年ビザはより少額の不動産投資で取得でき、日本からドバイへ移り住む方が最初の足がかりとして利用するケースが目立ちます。
ビザを取得すればエミレーツID(居住者身分証)が発行され、銀行口座の開設や現地での賃貸契約、家族の帯同ビザ申請などが可能になります。居住実態を伴って日本の非居住者となり、UAEの税務上の居住者としての地位を固めていくうえでの入口となる制度です。
2026年改正の核心 単独名義なら価格下限ゼロ
最低価額75万AEDの撤廃
今回の改正でまず注目すべきは、単独所有者に対する最低不動産価額75万AED(約3,225万円)の要件が撤廃された点です。Gulf Todayの報道によると、この変更はDLDのCube Centreを通じて2026年4月末に導入されました。これまでは物件価格がこの水準に達していなければ2年投資家ビザの対象になりませんでしたが、撤廃によって、自分ひとりの名義であれば価格に関係なく、完成済みで登録された物件を1戸持つだけで申請できるようになりました。
つまり、これまで手が届かなかった手頃なスタジオや1ベッドルームでも、単独名義で持てばドバイの居住ビザへの扉が開くようになったのです。ドバイの手頃な価格帯のフリーホールド地区が、利回り目的だけでなく移住目的の選択肢として一気に現実味を帯びてきました。
共同所有は各人40万AED以上
一方で、共同所有のケースには条件があります。夫婦や事業パートナーなどで物件を共同名義にする場合、たとえ持分が均等であっても、各投資家がそれぞれ40万AED(約1,720万円)以上の持分を保有していなければビザ申請の資格を得られません。たとえば二人で共有するなら物件総額が80万AED以上必要となり、80万AEDを50対50で分ければ各人40万AEDとなって二人とも申請できる計算です。
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
| 単独名義の最低不動産価額 | 75万AED(約3,225万円) | 下限なし(価格不問) |
| 共同所有の持分要件 | 明確な下限なし | 各人40万AED(約1,720万円)以上 |
| 10年ゴールデンビザ(別制度) | 200万AED以上 | 200万AED以上(変更なし) |
ドバイ限定の制度 アブダビや他首長国は対象外
日本の方から必ず受ける質問が、この制度がドバイだけなのか、アブダビでも使えるのかというものです。結論として、この2年投資家ビザのTaskeen制度はドバイ限定です。申請にはドバイ土地局が発行したタイトルディード(権利証)が必要とされ、他の首長国で登録された物件やドバイ国際金融センター(DIFC)内の物件は受理されません。
UAEは7つの首長国から成る連邦国家ですが、不動産の登記や投資家ビザの実務は各首長国が独自に運営しています。アブダビにもアブダビ独自の不動産投資家向け居住制度は存在しますが、今回の75万AED撤廃という改正はあくまでドバイ土地局のTaskeenプログラムに適用されるものです。ドバイの物件を前提に移住設計を進める、という理解が実務上は正確です。
完成済み物件が原則 オフプランは竣工後
もうひとつ実務で押さえたいのが、対象は完成済みで登録済みの物件が原則という点です。建設中のオフプラン物件は、竣工してタイトルディードが正式に発行されるまではこのビザの対象になりません。住宅ローン付きの完成物件は申請可能ですが、その場合は銀行の無異議証明書(NOC)が必要で、支払済みの持分(エクイティ)で要件を判定する運用となっています。頭金だけ入れたオフプラン契約で即座にビザが取れるわけではない、という点は誤解の多いところです。
ドバイ移住と出国税をセットで設計する
不動産投資家ビザは移住の入口にすぎません。日本からドバイへ本格的に生活拠点を移す場合、日本側の税務処理を並行して設計しなければ、思わぬ課税を受けることになります。とりわけ注意すべきが国外転出時課税、いわゆる出国税です。
出国税は、対象有価証券等の時価総額が1億円以上となる方が日本の非居住者になる際、その含み益に対して所得税15.315%が課税される制度です。手頃な物件でビザが取りやすくなったからといって勢いで出国すると、日本で保有する株式の含み益に多額の課税が発生することに気づくケースは少なくありません。ビザ取得のタイミングと出国のタイミング、そして保有資産の構成を一体で検討することが欠かせません。
加えて、出国した年の住民税の扱いにも論点があります。住民税は前年の所得に基づき翌年に課税される仕組みのため、年の途中で出国しても前年分の負担が残る場合があります。移住の実行時期を暦年のどこに置くかで、日本側の負担が変わってくるのです。
よくある間違い
1円の物件でもビザが取れると考える
価格の下限が撤廃されたことで、名目上どんなに安い物件でもビザが取れると誤解される方がいます。実際には物件が完成済みで正式に登録された住宅ユニットであることが前提で、権利証がドバイ土地局から発行されている必要があります。価格の下限がなくなった代わりに、物件の完成状態と登記の正当性が問われるようになったと理解すべきです。
アブダビの物件でも申請できると思い込む
UAE全体で同じルールが適用されると考えるのは危険です。今回の改正はドバイ土地局のTaskeen制度に限られ、アブダビや他首長国、DIFCで登録された物件は対象外です。どの首長国で物件を登記するかによって、利用できる制度そのものが変わってくる点に注意が必要です。
ビザを取れば日本の課税から自由になると考える
UAEの居住ビザを取得しただけで日本の課税から解放されるわけではありません。日本の非居住者と認められるには生活の本拠の実態が問われますし、出国税や住民税といった出国時の日本側の論点は別途処理する必要があります。ビザは移住パズルの一片にすぎない、という視点が大切です。
まとめ
📋 今回のポイント
- 単独名義なら物件価格の下限が撤廃
- 手頃なスタジオや1ベッドでも居住ビザ申請可
- 共同所有は各人40万AED以上の持分が必要
- ドバイ限定の制度でアブダビや他首長国は対象外
- 完成済み登録物件が原則でオフプランは竣工後
- 移住には出国税と住民税の一体設計が不可欠
当会計事務所は、ドバイへの移住や不動産投資家ビザの取得を検討される日本人の方に対し、UAE側のビザ実務と日本側の出国税や住民税の処理を一体で設計するサポートを行っています。どの首長国で物件を登記しどの制度を使うか、物件の名義と持分をどう組めばビザ要件を満たしつつ税務上も有利になるか、出国のタイミングをいつに置くべきかといった具体的なご相談まで、幅広く対応しています。ドバイ移住を現実の計画として進めたい方は、当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。
根拠条文・出典
- Khaleej Times – 2-year property visa Dubai rule change – 75万AED撤廃と40万AED持分要件、Taskeenプログラム
- Gulf Today – Dubai removes minimum property value requirement – DLD Cube Centreによる2026年4月末の導入とドバイ限定要件
- UAE政府公式ポータル(u.ae) – 居住ビザの種類と要件
- 所得税法第60条の2(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例、いわゆる出国税)
- 地方税法(住民税の賦課期日と課税の仕組み)



