ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。
資産保有や事業の持株、資産承継のためにUAEでSPV(特別目的会社)を設立したいというご相談が増えています。ドバイのSPVは株式や不動産、知的財産などを保有するための器として使い勝手がよく、市場も急速に拡大しています。ところが2025年から2026年にかけて、実質的支配者(UBO)の開示、マネーロンダリング対策、実体要件、そしてUAE法人税という複数の規制が重なり合い、SPVに求められるガバナンスと透明性の水準は着実に高まっています。今回は、SPV持株会社をドバイ法人設立の観点から使いこなすために押さえておくべき実務のポイントを整理していきます。
UAEのSPV持株会社とは何か
SPVは、日常的な商取引を行う事業会社とは異なり、株式や資産を保有し構造化するために設立されるパッシブな器です。ドバイでは主要なフリーゾーンごとに設立形態が分かれており、DIFCではPrescribed Company、DMCCではSpecial Purpose Company(SPC)として組成されるのが一般的です。いずれも登録代理人(コーポレートサービスプロバイダー)の選任が事実上必須とされています。
SPVの典型的な用途は、国内外の会社株式の保有、不動産や知的財産、船舶・航空機といった資産の保有、そしてファミリーの資産承継や事業承継のための投資ビークルです。一方で、無制限の日常的な商取引や小売業、ライセンスなしの規制対象金融サービスの提供などは認められていません。あくまで保有と構造化のための器という性格を理解しておくことが出発点になります。
UBO開示とAML 透明性の要求水準が上がった
実質的支配者の登録義務
SPVを設立するうえで最初に押さえるべきが実質的支配者(UBO)の開示です。UAEでは2023年11月16日に施行された内閣決定第109号により、法人は実質的支配者の登録簿、株主または社員の登録簿、名義取締役の登録簿を備え、当局に届け出て最新の状態に保つ義務があります。実質的支配者とは、株式の登録名義ではなく実質に着目して判定される、最終的に会社を所有または支配する自然人を指します。
具体的には、直接または間接に25%以上の株式もしくは議決権を保有する者、あるいはその他の手段で実効的な支配を及ぼす者が対象です。UBOの構造に変更があった場合は15日以内に登録当局へ報告しなければなりません。この開示義務に違反した場合、罰則は最大10万AED(約430万円、1AED=43円で換算)に達し、ライセンスの停止などの措置も伴い得ます。名義だけを整えて実質所有者を隠すという発想は通用しないと考えるべきです。
実体要件 ペーパーカンパニーでは0%を得られない
SPVに関して日本の方が最も誤解しやすいのが実体(サブスタンス)の扱いです。かつて存在した経済実体規制(ESR)は2019年から2022年の事業年度を対象に役割を終え、実体要件はUAE法人税法、とりわけ適格フリーゾーン法人(QFZP)の条件の中へと吸収されました。つまり、実体の要求は消えたのではなく、税制の中に組み込まれて今も生きているのです。
フリーゾーン法人が適格所得に対して0%の法人税率を享受するには、フリーゾーン内に十分な資産、十分な数の有資格従業員、十分な事業支出を維持し、中核的な収益創出活動(CIGA)を実際にその地で行っていることが求められます。持株会社の場合は比較的軽減された実体テストが適用されますが、それでも登録簿の提出義務の遵守と、株式の保有・管理を行うための適切な人員と拠点が必要とされます。2026年の国際税務実務の整理でも、実体とは登記された住所ではなく、UAEで実際に意思決定を行う実在の人員を意味すると強調されています。
| 論点 | SPVに求められる対応 |
| UBO開示 | 25%以上の実質所有者を登録、変更は15日以内に届出 |
| 実体要件 | 株式保有・管理のための人員と拠点、UAEでの意思決定 |
| 法人税登録 | 0%対象でもFTAへの登録と年次申告は必須 |
| 会計記録 | 最低6年間の帳簿保存、財務諸表の作成 |
法人税の扱い 0%対象でも登録と申告は必須
SPVであっても、UAE法人税の枠組みから完全に自由になるわけではありません。DIFCでもDMCCでも、SPVは連邦税務庁(FTA)への法人税登録が必要で、年次の法人税申告書を提出しなければなりません。免税対象者や、適格所得に0%が適用される適格フリーゾーン法人に該当する場合であっても、登録と申告という事務上の義務は残ります。
持株会社のQualifying Activityには投資目的の株式その他有価証券の保有が含まれますが、ここで重要なのが保有と投資という性格です。長期の値上がり益を目的として原則12か月以上保有する意図が問われ、短期の売買を繰り返すトレーディングは適格所得に該当しません。実体維持に関する分析でも、持株事業のCIGAには株式や持分の取得・保有に関わる一切の活動が含まれるとされ、UAEでも持株事業がCIGAテストの対象外にはならない点が指摘されています。
加えて、SPVが日本居住者に支配される場合には、日本のタックスヘイブン対策税制(CFC税制)の適用も検討しなければなりません。実体を伴わないペーパーカンパニーであれば、UAE側で0%を得ても日本側で合算課税を受けるリスクが残ります。UAEと日本の両面で設計することが欠かせません。
よくある間違い
SPVは何もしなくてよい器だと考える
SPVはパッシブな器だから設立後は放置してよいと考えるのは危険です。DIFCでは年次のConfirmation Statement、DMCCでは年次ライセンス更新が求められ、UBO登録簿の維持、会計記録の保存、法人税登録と申告といった継続的な義務があります。これらを怠ると、行政罰金やポータルの凍結、UAE銀行によるブラックリスト化、最終的には強制的な抹消につながり得ます。
フリーゾーンなら自動的に0%だと思い込む
フリーゾーンに設立すれば無条件で法人税0%になるという理解は誤りです。0%は実体要件、適格活動への該当、移転価格文書の整備、監査済み財務諸表といった条件を毎年満たして初めて得られる地位です。実体のないシェル会社はその条件を満たせず、0%を失って9%が課される結果になります。
実体は登記住所さえあれば足りると考える
実体とは登記された住所のことではなく、UAEで実際に意思決定を行う実在の人員と活動を意味します。取締役会がUAEで開催され議事録が保存されていること、株式の保有と管理に見合った人員と拠点があることが問われます。名目上の登記だけで実体があると考えると、税務調査で足元をすくわれます。
まとめ
📋 今回のポイント
- SPVは保有と構造化のためのパッシブな器
- UBOは25%以上の実質所有者を登録し15日以内に変更届出
- 実体要件はESR廃止後もCT法に吸収され健在
- 0%対象でもFTA登録と年次申告は必須
- 持株の適格所得は12か月以上保有の投資性が前提
- 日本のCFC税制と両面で設計する必要
当会計事務所は、ドバイでのSPV持株会社やファミリーオフィスの設立を検討される日本人の方に対し、UBO開示や実体要件、法人税登録といったUAE側のガバナンス実務と、日本のCFC税制を含めた両面の設計を一体でサポートしています。どのフリーゾーンでどの形態のSPVを組むか、実体をどう構築して0%を維持するかといった具体的なご相談まで、幅広く対応しています。UAEでの資産保有や事業承継の器づくりを検討されている方は、当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。
根拠条文・出典
- Boru Consulting – UAE substance and beneficial ownership – 内閣決定第109号によるUBO登録義務と罰則
- Pepeliaev Group – 0%法人税率のための実体維持 – 持株事業のCIGAと実体テスト
- International Tax Planning & UAE Corporate Tax 2026 Guide – 実体要件のCT法への吸収とQFZP条件
- UAE法人税法第18条(適格フリーゾーン法人の実体条件)
- UAE内閣決定第109号(2023年)(実質的支配者の登録義務)
- 租税特別措置法(タックスヘイブン対策税制、いわゆるCFC税制)



