SPV(特別目的会社)を使うなら押さえるべき実体要件と法人税【2026年UAE最新】

投稿:2026年7月6日更新:2026年10月8日ブログ

ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。

資産保有や事業の持株、資産承継のためにUAEでSPV(特別目的会社)を設立したいというご相談が増えています。2026年7月にはDIFCのPrescribed Company規則が改正され、設立の入口要件が大きく緩みました。一方で実質的支配者(UBO)の開示、マネーロンダリング対策、実体要件、UAE法人税という規制は重なり合い、求められるガバナンスと透明性の水準は高まっています。今回は、SPV持株会社を使いこなすために押さえるべき実務のポイントを整理していきます。

UAEのSPV持株会社とは何か

SPVは、事業会社とは異なり、株式や資産を保有し構造化するために設立されるパッシブな器です。ドバイではDIFCのPrescribed Company、DMCCのSpecial Purpose Company(SPC)として組成されるのが一般的で、いずれも登録代理人の選任が事実上必須です。

典型的な用途は、国内外の会社株式や不動産、知的財産、船舶・航空機の保有、そして資産承継や事業承継のための投資ビークルです。一方で、日常的な商取引や小売業、ライセンスなしの規制対象金融サービスの提供は認められていません。

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DIFCのPrescribed Company規則が2026年7月に改正されました

DIFC(ドバイ国際金融センター)はPrescribed Company Regulationsの改正版(Consolidated Version No. 5)を2026年7月24日に制定し、同日から発効させています。既存のPrescribed Companyが新しい規則に適合するための移行期限は、発効から6か月後の2027年1月24日です。Clyde & Coによる改正規則の解説でも、この期限までに既存ストラクチャーの点検を終える必要があると整理されています。

Qualifying requirementsの節が全部削除されました

改正の核心は、設立の入口要件を定めていたQualifying requirementsの節が全部削除された点にあります。従来は、申請者がGCC Person、Registered PersonまたはAuthorised Firmによる支配(Control)を受けているか、Aviation、Maritime、Intellectual Property、Crowdfunding、Structured Financingという5つのQualifying Purposeのいずれかのために設立されることが必要でした。改正後はこれらが入口要件ではなくなり、世界のどこに居住する個人でも法人でもDIFC Prescribed Companyを設立できます。なお、Qualifying Purposeという定義語自体は、Regulation 3.2の個別の免除規定のために規則内へ残されています。

項目 改正前 改正後
支配(Control) GCC Person、Registered Person、Authorised Firmによる支配が必要 入口要件としては不要
Qualifying Purpose 航空機、船舶、知的財産、クラウドファンディング、ストラクチャードファイナンスの5類型のいずれかが必要 入口要件としては不要(個別の免除規定のために定義語は残存)
設立できる者 実質的にGCC関係者または特定ストラクチャーに限られる 世界のどこに居住する個人でも法人でも設立可能
ライセンスの範囲 持株会社の活動 持株会社の活動(変更なし)

日本の実務にとっての意味は明確です。従来は日本居住者やUAE非居住者が設立しようとすると、GCC側の支配関係を作るか、5類型のいずれかに当てはめる形式合わせが必要でした。改正後はその工夫なしに直接設立でき、器の選択肢が広がります。ただしライセンスは持株会社の活動に限定されますので、保有以外の事業を行う場合は通常のDIFC法人としてのライセンスが必要です。

UBO開示とAML 透明性の要求水準が上がった

実質的支配者の登録義務

最初に押さえるべきが実質的支配者(UBO)の開示です。UAEでは2023年11月16日に施行された内閣決定第109号により、法人は実質的支配者、株主または社員、名義取締役の各登録簿を備え、当局に届け出て最新の状態に保つ義務があります。実質的支配者とは、登録名義ではなく実質で判定される、最終的に会社を所有または支配する自然人です。

具体的には、直接または間接に25%以上の株式もしくは議決権を保有する者、その他の手段で実効的な支配を及ぼす者が対象です。構造に変更があれば15日以内に登録当局へ報告する義務があり、違反すると罰則は最大10万AED(約430万円、1AED=43円で換算)に達し、ライセンス停止も伴い得ます。名義だけを整えて実質所有者を隠す発想は通用しません。

実体要件 ペーパーカンパニーでは0%を得られない

誤解が多いのが実体(サブスタンス)の扱いです。経済実体規制(ESR)は2019年から2022年の事業年度で役割を終え、実体要件はUAE法人税法、とりわけ適格フリーゾーン法人(QFZP)の条件へ吸収されました。

フリーゾーン法人が適格所得に0%を享受するには、フリーゾーン内に十分な資産と有資格従業員と事業支出を維持し、中核的な収益創出活動(CIGA)を実際にその地で行う必要があります。持株会社には軽減された実体テストが適用されますが、登録簿の提出義務の遵守と、株式の保有・管理に見合う人員と拠点は必要です。FTAの法人税ガイド一覧でも、実体とは登記住所ではなく実在の人員を意味すると強調されています。

論点 SPVに求められる対応
UBO開示 25%以上の実質所有者を登録、変更は15日以内に届出
実体要件 株式保有・管理のための人員と拠点、UAEでの意思決定
法人税登録 0%対象でもFTAへの登録と年次申告は必須
会計記録 最低6年間の帳簿保存、財務諸表の作成
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法人税の扱い 0%対象でも登録と申告は必須

SPVであってもUAE法人税の枠組みから自由にはなりません。DIFCでもDMCCでも連邦税務庁(FTA)への法人税登録と年次申告書の提出が必要で、免税対象者や適格所得に0%が適用される適格フリーゾーン法人に該当する場合でも、登録と申告の義務は残ります。

持株会社のQualifying Activityには投資目的の株式その他有価証券の保有が含まれます。長期の値上がり益を目的として原則12か月以上保有する意図が問われ、短期売買を繰り返すトレーディングは適格所得に該当しません。実体維持に関する分析でも、持株事業のCIGAには株式や持分の取得・保有に関わる一切の活動が含まれ、持株事業がCIGAテストの対象外にはならないと指摘されています。

加えて、SPVが日本居住者に支配される場合は、日本のタックスヘイブン対策税制(CFC税制)の適用も検討が必要です。実体を伴わないペーパーカンパニーであれば、UAE側で0%を得ても日本側で合算課税を受けるリスクが残ります。

日本から保有株式を持ち出してDIFC Prescribed Companyへ移す場合は、国外転出時課税、いわゆる出国税との関係を先に確認しておく必要があります。出国税の対象財産は有価証券等ですので、移住前に非上場株式を含む保有株式の評価額を把握していないと、移住の時点で想定外の課税が生じます。株式をSPVへ譲渡または現物出資する時点でも日本側の譲渡課税が起こりますので、移転の順序と時期の設計が先に来ます。

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よくある間違い

SPVは何もしなくてよい器だと考える

パッシブな器だから設立後は放置してよいと考えるのは危険です。DIFCでは年次のConfirmation Statement、DMCCでは年次ライセンス更新が求められ、UBO登録簿の維持、会計記録の保存、法人税登録と申告という継続的な義務があります。これらを怠ると行政罰金やポータルの凍結、UAE銀行によるブラックリスト化、強制的な抹消につながり得ます。

フリーゾーンなら自動的に0%だと思い込む

フリーゾーンに設立すれば無条件で0%になるという理解は誤りです。0%は実体要件、適格活動への該当、移転価格文書の整備、監査済み財務諸表を毎年満たして初めて得られる地位で、実体のないシェル会社は0%を失い9%が課されます。

実体は登記住所さえあれば足りると考える

実体とは登記された住所のことではなく、UAEで実際に意思決定を行う実在の人員と活動を意味します。取締役会がUAEで開催され議事録が保存されていること、株式の保有と管理に見合った人員と拠点があることが問われます。

入口要件の緩和と法人税の実体要件を混同する

DIFCの改正で設立の入口が広がったことと、UAE法人税で0%を得るための実体要件が緩んだことは、まったく別の問題です。Prescribed Companyを設立しやすくなっても、適切な人員と資産と経費、そしてUAE内での中核的な収益創出活動という要件は一切変わりません。日本のCFC税制も同じで、特定外国関係会社であれば27%、対象外国関係会社であれば20%というトリガー税率で判定される構造に変更はありません。設立のハードルが下がった分だけ、設立後に実体をどう積み上げるかの比重が増したと考えるのが実務的な受け止め方です。

まとめ

📋 今回のポイント

  • SPVは保有と構造化のためのパッシブな器
  • DIFCのPrescribed Company規則が2026年7月24日に改正・発効
  • Qualifying requirements廃止で世界のどこからでも設立可能
  • 既存会社の移行期限は2027年1月24日
  • 入口要件が緩んでも実体要件とCFC判定は不変
  • 0%対象でもFTA登録と年次申告は必須

当会計事務所は、ドバイでのSPV持株会社やファミリーオフィスの設立について、UBO開示や実体要件、法人税登録といったUAE側の実務と、日本のCFC税制を含む両面の設計を一体でサポートしています。DIFCの改正規則を踏まえてどの形態のSPVを組むか、実体をどう構築して0%を維持するかまで対応しています。器づくりを検討されている方は、当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。

根拠条文・出典

 このブログを書いた人

税理士・公認会計士(JCPA)・UAE公認会計士(EAAA)協会会員。日本とドバイで会計事務所を経営。現地日本企業の税務顧問先100社(上場会社含む)、会社設立実績80社以上。
ドバイ法人の会計監査や税務申告、ドバイ移住支援を行っています。

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