ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。
中小企業の経営者がドバイに法人を設立し、現地に移住した後も、引き続き日本の得意先にコンサルティングを行ったり、アフィリエイト・オンラインサロン・YouTube収益などの事業を継続するケースが増えています。こうしたケースで、当事務所が最もよく受けるご質問が「売上がすべて日本(海外)向けなのに、UAEで何か税金を払う必要があるのか?」というものです。
納税義務があるにもかかわらず申告や納税を行わなかった場合、罰金などのペナルティが課されてしまうこともあります。本記事では、マネジメント・マーケティング・アフィリエイト・コンサルティング等のサービス(役務)の提供を行うUAE法人に対するVAT(付加価値税)と法人税の取り扱いを、根拠条文を示しながら実務目線で解説します。
1. 主に考えるべき税金は「VAT」と「法人税」
UAEには税金が全くないと思われがちですが、実際にはさまざまな税制が取り入れられています。例えばエナジードリンク等の仕入れに課される物品税(Excise Tax)、製品輸入時の関税、製品購入やサービス利用時に発生するVAT(Value Added Tax / 5%)、そして2023年6月から始まった法人税(Corporate Tax / 9%)などです。
このうち、日本向けにコンサルティングやサービスを提供する一人会社・オーナー企業が特に注意すべきは「VAT」と「法人税」の2つです。なぜなら、両税ともに有形資産(製品・商品)の仕入れ販売のみならずサービス提供にも課税される税金であり、かつ自主的に申告しなければならず、期限に遅れると罰金が発生する性質を持つからです。
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2. VATの申告納税義務はあるのか
UAEでは、年間で一定の売上を上げる法人にVATの納税義務があります。具体的には、過去12ヶ月の課税対象売上高が375,000 AED(約1,613万円・1AED=43円換算)を超える法人が強制登録対象となります(VAT施行規則 第7条1項)。日本では年間売上1,000万円超の法人が消費税の納税義務者となるため、日本に比べると少し緩いものの似たようなルールです。
「日本向け売上にはVATがかからないから申告も不要では?」というよくある誤解
当事務所では、移住済みの経営者から「日本向け売上にはVATはかからないから、VATの申告は不要なんじゃないの?」という質問を非常に多くいただきます。結論から言うと、申告が不要なケースも、必要なケースもあります。
原則として、強制登録閾値(375,000 AED)を超えていれば、3ヶ月(または各月)ごとにVATの申告と納税をしなければなりません。ただし重要な例外があり、売上のすべて(100%)が海外向け(ゼロ税率課税供給)である法人は、所定の申請を行うことでVAT登録自体を免除されることがあります。
用語の整理:Exemption(免税)と Exception from Registration(登録免除)は別物
俗に「VAT Exemption(免除)」と呼ばれることが多いですが、UAE VAT制度上の正確な用語は「Exception from VAT Registration」(登録からの除外)です。これはVAT法第15条に基づく制度で、課税供給のすべてがゼロ税率(Zero-rated)に該当する事業者は、FTAへの申請により登録義務を免除されます(FTA Public Clarification VATP021)。
日本企業(UAE国外居住者)に対するコンサル・マーケティング・アフィリエイト等のサービス提供は、VAT法第31条によりゼロ税率で課税対象供給となるため、要件を満たせばこの「Exception from Registration」を申請できます。
| 区分 | 条文・性質 | VAT登録 |
| Standard rate(5%) | UAE国内取引(VAT法第3条) | 必要 |
| Zero rate(0%) | 輸出・国外居住者向け役務(第31条等) | 原則必要(ただしExceptionで除外可) |
| Exempt(免税) | 金融・住宅賃貸・現地公共交通等(第46条) | 不要 |
ここで重要なのは、Exception from Registrationは「自動適用」ではなく「申請ベース」であるという点です。申請をしていなかった場合や申請を怠っていた場合は、原則通りVAT登録・申告義務が生じます。登録漏れの状態が続くと、登録遅延の罰金(10,000 AED)、未申告・未納付に対する罰金・延滞税が累積していくため注意が必要です。
以上を整理すると以下のようになります。
| 売上構成 | VAT登録 | 申告納税 |
| 売上375,000 AED以下 | 不要(任意登録は187,500 AEDから可) | 不要 |
| 売上375,000 AED超 / 100%海外向け / Exception承認済 | 免除 | 不要 |
| 売上375,000 AED超 / 100%海外向け / 未申請 | 必要 | 必要(ゼロ申告) |
| 売上375,000 AED超 / 海外売上100%ではない | 必要 | 必要 |
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3. 法人税の申告納税義務はあるのか
UAEに設立された法人は、原則としてUAE法人税(Corporate Tax)の課税対象となり、法人税についても申告納税の対象になります。税率はFTA Corporate Tax General Guideのとおり、課税所得が375,000 AED以下の部分は0%、375,000 AEDを超える部分には9%が適用されます(法人税法第3条1項)。
VATとの「375,000 AED」の意味の違い
同じ375,000 AEDという金額が出てきますが、意味は全く異なります。VATは「売上高」が375,000 AEDを超えた場合に登録対象、法人税は「課税所得(利益に近い概念)」が375,000 AEDを超えた部分に9%課税です。売上が高くても経費が大きければ法人税はかかりませんし、逆に売上が小さくても利益率が高ければ法人税が発生します。
海外売上100%でも法人税の申告は必要
法人税については、たとえ売上の100%が海外(日本)向けであったとしてもVATのような登録免除制度はありません。UAE法人で計上された利益(課税所得)の9%は、国内売上か海外売上かにかかわらず、申告・納税が必要です。
仮に課税所得が375,000 AED未満で納税額がゼロであっても、申告書(CT Return)の提出義務自体は残ります(法人税法第53条、事業年度終了後9ヶ月以内)。VATの登録免除と混同して「海外売上だから法人税申告も不要」と誤解されているケースを当事務所でもよく目にしますので、注意が必要です。
Small Business Reliefの活用
収益が小規模な法人については、Ministerial Decision No. 73 of 2023に基づくSmall Business Relief(SBR)という救済制度があります。年間収益が300万 AED以下の事業年度については、選択により「課税所得ゼロとみなす」ことができ、実質的な法人税負担が回避されます(FTA Small Business Relief Guide CTGSBR1)。
ただし、SBRも自動適用ではなく、CT Return上での選択(Election)が必要です。また適用期間は2026年12月31日に終了する事業年度までと現時点では期限が設定されているため、移住直後の小規模法人にとっては期限切れ前に活用すべき制度です。
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4. 日本側の消費税・源泉税は別途検討が必要
ここまで説明した内容はすべてUAE側の税制です。日本との取引の場合、日本側でも以下の論点を別途検討する必要があります。
(1) 日本の消費税(電気通信利用役務の提供)
ドバイ法人が日本の消費者向けに電子書籍配信、オンライン広告配信、アプリ販売、オンライン教材販売等の「電気通信利用役務の提供」を行う場合、国外事業者として日本の消費税の納税義務が発生し得ます。BtoC取引(消費者向け)はドバイ法人自身が日本で消費税申告・納付を行い、BtoB取引(事業者向け)は取引先がリバースチャージで処理するのが原則です(国税庁「国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税関係」)。
(2) 日本側の源泉徴収
日本-UAE租税条約(2014年改正)により、UAE法人が日本に恒久的施設(PE)を持たない場合、コンサルティング等の事業所得については原則として日本側で源泉徴収されません(日本・アラブ首長国連邦租税条約)。ただし使用料・配当・利子等の特定所得は源泉対象となるため、契約の性質によっては「租税条約に関する届出書」の提出が必要です。
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5. 当事務所が見るVAT登録漏れの実情
主に税金対策を目的としてUAEに移住された方の中で、VAT関連の届出が漏れているケースが当事務所で実際に多く見られます。「日本向け売上だからVATはかからない」「収益はあるがUAEで使う金額が少ないからVATは関係ない」といった誤解が背景にあるようです。
実際には、VATの納税額がゼロだったとしても、適切な登録やException申請が行われていなければ罰金が発生し得ます。登録が遅れれば遅れるほど罰金や延滞税が累積するため、登録が適切に行われていない場合は早急に申請を行うことが重要です。
最後の章. まとめ
📋 本記事のポイント
- 日本向けにコンサル・アフィリエイト等を行うUAE法人で特に注意すべきはVATと法人税の2つ。
- VATは売上375,000 AED超で強制登録。100%海外向け売上の場合は「Exception from VAT Registration」を申請すれば登録自体が免除される(自動ではない)。
- 法人税は売上構成に関係なくUAE法人に申告義務がある。納税額ゼロでもCT Returnの提出が必要(事業年度末から9ヶ月以内)。
- 年間収益300万AED以下の法人はSmall Business Relief(2026年末まで)を選択することで実質的な法人税ゼロが可能。
- 日本側では、電気通信利用役務の消費税(BtoC)、租税条約に基づく源泉徴収の論点を別途検討する必要がある。
UAEは引き続き世界的に税制が優遇された地域ですが、OECD/BEPSへの参加、Pillar 2の導入準備など国際的な要請により、ここ数年で大きく税制が変化しています。今後は、税金に関しても正確な申告と納税が求められ、会計帳簿の作成や証拠書類の整備も必須となっています。
「日本向け売上だから何も払わなくていい」という時代は終わり、正しい知識に基づく登録・申告・記録保管が、ドバイ法人を長く安全に運営するための最低条件となりました。VATのException申請、法人税のSBR選択、日本側の消費税・源泉徴収論点まで、両国の税制を横断的に検討する必要がある領域ですので、当事務所までお気軽にご相談ください。
根拠法令・参考資料
- UAE Federal Decree-Law No. 8 of 2017(VAT法)第15条・第31条・第46条
- VAT Executive Regulation(Cabinet Decision No. 52/2017)第7条・第8条
- FTA Public Clarification VATP021(Exception from VAT Registration)
- UAE Federal Decree-Law No. 47 of 2022(法人税法)第3条・第53条
- Ministerial Decision No. 73 of 2023(Small Business Relief)
- 日本・アラブ首長国連邦租税条約(2014年改正)
- 国税庁「国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税関係」
※本記事は2026年5月時点の法令・実務に基づいて執筆しています。法令改正やFTAガイドラインの更新により取扱いが変わる可能性がありますので、実際の判断にあたっては最新の公的情報をご確認いただくか、当事務所までご相談ください。
