ドバイを含むUAE(アラブ首長国連邦)では、2018年1月1日から付加価値税(VAT)が導入されています。UAEは長らく「無税国家」として知られていましたが、原油価格の低迷による財政悪化を背景に、石油資源への依存を減らし、安定的な財源を確保する目的でVATが導入されました。
VATは日本の消費税に相当する間接税であり、最終消費者が負担する仕組みになっています。UAEでビジネスを行う法人にとって、VAT制度の理解は欠かせないものとなっています。

VATの税率と適用範囲
UAEにおけるVATの標準税率は5%です。この税率は世界的に見ても非常に低い水準であり、EU諸国の20〜25%やオーストラリアの10%と比較しても、UAEでの事業活動における税負担は軽いと言えます。
VATは商品の販売やサービスの提供に対して課税されますが、すべての取引が5%課税されるわけではありません。UAEのVAT制度では、取引の種類に応じて以下の3つに分類されています。
| 区分 | 税率 | 仕入税額控除 | 具体例 |
|---|---|---|---|
| 標準税率(Standard Rate) | 5% | 可能 | 一般的な商品販売、サービス提供 |
| ゼロ税率(Zero-Rated) | 0% | 可能 | 輸出、国際輸送、新築住宅の初回販売、一部の医療・教育サービス |
| 免税(Exempt) | 課税なし | 不可 | 金融サービス、中古住宅の販売、国内公共交通機関 |
ゼロ税率と免税は、どちらも顧客にVATを請求しない点では同じですが、重要な違いがあります。ゼロ税率の場合、事業者は仕入時に支払ったVATを控除(還付)できますが、免税の場合は仕入税額の控除ができません。この違いは事業者のコスト構造に大きな影響を与えるため、注意が必要です。
VAT登録の義務
UAEでは、一定の売上規模を超える事業者に対してVATの登録義務が課せられています。
義務登録
過去12か月間の課税売上高(ゼロ税率および免税売上も含む)が375,000AED(約1,500万円)を超えた場合、または今後30日間でこの金額を超えることが予想される場合は、VATの登録が必要です。
任意登録
売上高が187,500AED〜375,000AEDの範囲にある場合は、任意でVAT登録を行うことができます。任意登録を行うことで、仕入時に支払ったVATの控除が可能になります。
VAT登録はFTA(連邦税務局)のオンラインポータル「EmaraTax」を通じて行われ、登録が完了するとTRN(Tax Registration Number)と呼ばれる15桁の納税者番号が発行されます。

VATの計算と申告の仕組み
VATの仕組みは、事業者が販売時に顧客から徴収したVAT(Output VAT)から、仕入時に支払ったVAT(Input VAT)を差し引き、その差額をFTAに納付する形になっています。
| 項目 | 説明 |
|---|---|
| 売上VAT(Output VAT) | 顧客から徴収したVAT |
| 仕入VAT(Input VAT) | 仕入先に支払ったVAT |
| 納付税額 | Output VAT − Input VAT |
売上VAT > 仕入VATの場合は、差額をFTAに納付します。
売上VAT < 仕入VATの場合は、差額の還付を請求するか、翌期に繰り越すことができます。
申告期間
VATの申告は原則として四半期ごとに行いますが、年間売上高が1億5,000万AEDを超える大企業は毎月申告が必要です。申告期限は課税期間終了後28日以内で、期限を過ぎると罰金が発生します。
タックスインボイスの記載事項
VAT登録事業者は、課税取引に対してタックスインボイス(Tax Invoice)を発行する義務があります。UAEのVAT法では、取引金額に応じて2種類のインボイスが定められています。

標準タックスインボイス(10,000AED超の取引)
| 必須記載事項 |
|---|
| 「Tax Invoice」の表記 |
| 供給者の名称、住所、TRN |
| 顧客の名称、住所、TRN |
| 固有の請求書番号(連番) |
| 発行日および供給日 |
| 商品・サービスの詳細(数量、単価) |
| 税率および税額 |
| 税抜金額および税込合計金額 |
簡易タックスインボイス(10,000AED以下の取引)
| 必須記載事項 |
|---|
| 「Tax Invoice」の表記 |
| 供給者の名称、住所、TRN |
| 発行日 |
| 商品・サービスの説明 |
| VAT込みの合計金額 |
タックスインボイスに不備がある場合、買い手側は仕入税額控除を受けられなくなる可能性があるため、正確な記載が求められます。
リバースチャージ(逆課税)の仕組み
UAE国外の事業者から商品やサービスを仕入れる場合、リバースチャージ(Reverse Charge Mechanism)が適用されます。
通常、VATは販売者が徴収してFTAに納付しますが、リバースチャージでは買い手側がVATを計算し、申告書上でOutput VAT(売上VAT)とInput VAT(仕入VAT)の両方に同額を計上します。
この仕組みにより、海外の供給者がUAEでVAT登録を行う必要がなくなり、UAEの買い手が税務コンプライアンスを担うことになります。実際のキャッシュフローへの影響は通常ゼロとなりますが、適切な申告書への記載が必要です。
指定区域(Designated Zones)の特例
UAEでは、特定のフリーゾーンが「指定区域」(Designated Zones)として認定されており、一定の条件を満たす物品の取引についてはVATの課税対象外となる特例があります。
主な指定区域には、ジェベル・アリ・フリーゾーン、ドバイ空港フリーゾーン、ハリファ港自由貿易地域などがあります。
| 取引パターン | VAT課税 |
|---|---|
| 指定区域間での物品移動 | 非課税 |
| 指定区域から海外への輸出 | 非課税 |
| 本土から指定区域への移動 | 5%課税 |
| 指定区域から本土への移動 | 輸入扱い(リバースチャージ適用) |
ただし、サービスの提供については指定区域内であっても標準の5%VATが課税されます。また、DMCC(ドバイ・マルチ・コモディティーズ・センター)やADGM(アブダビ・グローバル・マーケット)などは指定区域ではないため、本土と同様のVATルールが適用されます。
観光客向けVAT還付制度
UAEでは2018年11月から、海外からの来訪者(18歳以上)を対象としたVAT還付制度が導入されています。
最低購入金額は250AEDで、購入後90日以内に空港などの還付カウンターで申請を行う必要があります。還付額は支払ったVAT総額の85%で、免税タグ1枚につき4.80AEDの手数料が差し引かれます。
罰則規定
VAT関連の違反に対しては、FTAから厳しい罰則が科されます。主な罰則は以下の通りです。
| 違反内容 | 罰金額 |
|---|---|
| VAT登録の怠り | 10,000AED |
| 申告書の提出遅延(初回) | 1,000AED |
| 申告書の提出遅延(2回目以降) | 2,000AED |
| 納付遅延(即時) | 未納税額の2% |
| 納付遅延(1か月以降毎月) | 未納税額の4% |
| 納付遅延の上限 | 未納税額の300%まで |
| タックスインボイスの未発行 | 1件あたり5,000AED |
| 記録保存義務違反 | 10,000AED |
FTAは定期的に税務調査を行っており、AI技術を活用した不正検知システムも導入されています。罰金を回避するためには、日頃から正確な帳簿管理と期限内の申告納付を徹底することが重要です。

まとめ
UAEのVAT制度は、標準税率5%という低い水準でありながら、登録義務、申告期限、タックスインボイスの要件など、細かな規制が設けられています。
特に、ゼロ税率と免税の違い、リバースチャージの仕組み、指定区域での特例など、日本の消費税制度とは異なる点も多くあります。
VATの申告遅延や登録漏れは罰金の対象となり、場合によっては多額のペナルティが科されることもあります。UAEでビジネスを行う際には、VAT制度を正しく理解し、適切なコンプライアンス体制を構築することが不可欠です。
VATの登録や申告についてご不明な点がございましたら、お気軽に当会計事務所までお問い合わせください。
📋 コピー用HTMLコード
以下のHTMLコードをコピーして、ブログ作成画面に直接貼り付けてください。
ドバイのVAT制度の仕組みについて解説
ドバイを含むUAE(アラブ首長国連邦)では、2018年1月1日から付加価値税(VAT)が導入されています。UAEは長らく「無税国家」として知られていましたが、原油価格の低迷による財政悪化を背景に、石油資源への依存を減らし、安定的な財源を確保する目的でVATが導入されました。
VATは日本の消費税に相当する間接税であり、最終消費者が負担する仕組みになっています。UAEでビジネスを行う法人にとって、VAT制度の理解は欠かせないものとなっています。

VATの税率と適用範囲
UAEにおけるVATの標準税率は5%です。この税率は世界的に見ても非常に低い水準であり、EU諸国の20〜25%やオーストラリアの10%と比較しても、UAEでの事業活動における税負担は軽いと言えます。
VATは商品の販売やサービスの提供に対して課税されますが、すべての取引が5%課税されるわけではありません。UAEのVAT制度では、取引の種類に応じて以下の3つに分類されています。
| 区分 | 税率 | 仕入税額控除 | 具体例 |
|---|---|---|---|
| 標準税率(Standard Rate) | 5% | 可能 | 一般的な商品販売、サービス提供 |
| ゼロ税率(Zero-Rated) | 0% | 可能 | 輸出、国際輸送、新築住宅の初回販売、一部の医療・教育サービス |
| 免税(Exempt) | 課税なし | 不可 | 金融サービス、中古住宅の販売、国内公共交通機関 |
ゼロ税率と免税は、どちらも顧客にVATを請求しない点では同じですが、重要な違いがあります。ゼロ税率の場合、事業者は仕入時に支払ったVATを控除(還付)できますが、免税の場合は仕入税額の控除ができません。この違いは事業者のコスト構造に大きな影響を与えるため、注意が必要です。
VAT登録の義務
UAEでは、一定の売上規模を超える事業者に対してVATの登録義務が課せられています。
義務登録
過去12か月間の課税売上高(ゼロ税率および免税売上も含む)が375,000AED(約1,500万円)を超えた場合、または今後30日間でこの金額を超えることが予想される場合は、VATの登録が必要です。
任意登録
売上高が187,500AED〜375,000AEDの範囲にある場合は、任意でVAT登録を行うことができます。任意登録を行うことで、仕入時に支払ったVATの控除が可能になります。
VAT登録はFTA(連邦税務局)のオンラインポータル「EmaraTax」を通じて行われ、登録が完了するとTRN(Tax Registration Number)と呼ばれる15桁の納税者番号が発行されます。

VATの計算と申告の仕組み
VATの仕組みは、事業者が販売時に顧客から徴収したVAT(Output VAT)から、仕入時に支払ったVAT(Input VAT)を差し引き、その差額をFTAに納付する形になっています。
| 項目 | 説明 |
|---|---|
| 売上VAT(Output VAT) | 顧客から徴収したVAT |
| 仕入VAT(Input VAT) | 仕入先に支払ったVAT |
| 納付税額 | Output VAT − Input VAT |
売上VAT > 仕入VATの場合は、差額をFTAに納付します。
売上VAT < 仕入VATの場合は、差額の還付を請求するか、翌期に繰り越すことができます。
申告期間
VATの申告は原則として四半期ごとに行いますが、年間売上高が1億5,000万AEDを超える大企業は毎月申告が必要です。申告期限は課税期間終了後28日以内で、期限を過ぎると罰金が発生します。
タックスインボイスの記載事項
VAT登録事業者は、課税取引に対してタックスインボイス(Tax Invoice)を発行する義務があります。UAEのVAT法では、取引金額に応じて2種類のインボイスが定められています。

標準タックスインボイス(10,000AED超の取引)
| 必須記載事項 |
|---|
| 「Tax Invoice」の表記 |
| 供給者の名称、住所、TRN |
| 顧客の名称、住所、TRN |
| 固有の請求書番号(連番) |
| 発行日および供給日 |
| 商品・サービスの詳細(数量、単価) |
| 税率および税額 |
| 税抜金額および税込合計金額 |
簡易タックスインボイス(10,000AED以下の取引)
| 必須記載事項 |
|---|
| 「Tax Invoice」の表記 |
| 供給者の名称、住所、TRN |
| 発行日 |
| 商品・サービスの説明 |
| VAT込みの合計金額 |
タックスインボイスに不備がある場合、買い手側は仕入税額控除を受けられなくなる可能性があるため、正確な記載が求められます。
リバースチャージ(逆課税)の仕組み
UAE国外の事業者から商品やサービスを仕入れる場合、リバースチャージ(Reverse Charge Mechanism)が適用されます。
通常、VATは販売者が徴収してFTAに納付しますが、リバースチャージでは買い手側がVATを計算し、申告書上でOutput VAT(売上VAT)とInput VAT(仕入VAT)の両方に同額を計上します。
この仕組みにより、海外の供給者がUAEでVAT登録を行う必要がなくなり、UAEの買い手が税務コンプライアンスを担うことになります。実際のキャッシュフローへの影響は通常ゼロとなりますが、適切な申告書への記載が必要です。
指定区域(Designated Zones)の特例
UAEでは、特定のフリーゾーンが「指定区域」(Designated Zones)として認定されており、一定の条件を満たす物品の取引についてはVATの課税対象外となる特例があります。
主な指定区域には、ジェベル・アリ・フリーゾーン、ドバイ空港フリーゾーン、ハリファ港自由貿易地域などがあります。
| 取引パターン | VAT課税 |
|---|---|
| 指定区域間での物品移動 | 非課税 |
| 指定区域から海外への輸出 | 非課税 |
| 本土から指定区域への移動 | 5%課税 |
| 指定区域から本土への移動 | 輸入扱い(リバースチャージ適用) |
ただし、サービスの提供については指定区域内であっても標準の5%VATが課税されます。また、DMCC(ドバイ・マルチ・コモディティーズ・センター)やADGM(アブダビ・グローバル・マーケット)などは指定区域ではないため、本土と同様のVATルールが適用されます。
観光客向けVAT還付制度
UAEでは2018年11月から、海外からの来訪者(18歳以上)を対象としたVAT還付制度が導入されています。
最低購入金額は250AEDで、購入後90日以内に空港などの還付カウンターで申請を行う必要があります。還付額は支払ったVAT総額の85%で、免税タグ1枚につき4.80AEDの手数料が差し引かれます。
罰則規定
VAT関連の違反に対しては、FTAから厳しい罰則が科されます。主な罰則は以下の通りです。
| 違反内容 | 罰金額 |
|---|---|
| VAT登録の怠り | 10,000AED |
| 申告書の提出遅延(初回) | 1,000AED |
| 申告書の提出遅延(2回目以降) | 2,000AED |
| 納付遅延(即時) | 未納税額の2% |
| 納付遅延(1か月以降毎月) | 未納税額の4% |
| 納付遅延の上限 | 未納税額の300%まで |
| タックスインボイスの未発行 | 1件あたり5,000AED |
| 記録保存義務違反 | 10,000AED |
FTAは定期的に税務調査を行っており、AI技術を活用した不正検知システムも導入されています。罰金を回避するためには、日頃から正確な帳簿管理と期限内の申告納付を徹底することが重要です。

まとめ
UAEのVAT制度は、標準税率5%という低い水準でありながら、登録義務、申告期限、タックスインボイスの要件など、細かな規制が設けられています。
特に、ゼロ税率と免税の違い、リバースチャージの仕組み、指定区域での特例など、日本の消費税制度とは異なる点も多くあります。
VATの申告遅延や登録漏れは罰金の対象となり、場合によっては多額のペナルティが科されることもあります。UAEでビジネスを行う際には、VAT制度を正しく理解し、適切なコンプライアンス体制を構築することが不可欠です。
VATの登録や申告についてご不明な点がございましたら、お気軽に当会計事務所までお問い合わせください。
