UAEで法人を設立し事業を運営されている方、もしくはこれからUAE進出を検討されている方にとって、会計監査はビジネス運営の上で避けて通れない重要なテーマです。
日本においては中小企業の多くが会計監査を受ける義務がないことから、UAEにおいても同様の感覚でいらっしゃる方も多いのではないでしょうか。しかしながら、UAEでは会計監査が義務付けられる場面が日本よりも多く、その要件はライセンス更新時と税務申告時の2つの異なる観点から求められることがあります。
本記事では、これら2つの場面における会計監査のルールについて、それぞれの法的根拠や実務上の注意点を整理して解説いたします。
ライセンス更新時に要求される会計監査
メインランド法人の会計監査義務

UAEメインランドで事業を行う法人については、連邦政令法第32号(Federal Decree-Law No. 32 of 2021)に基づき、LLC(有限責任会社)および株式会社は毎年、外部監査人による会計監査を受けることが法律上義務付けられています。
この法律では、会社は以下の義務を負うことになります。
- 毎年、1名以上の監査人を選任し、年次の会計監査を受けること
- 会計帳簿および財務記録を少なくとも5年間保管すること
- IFRS(国際財務報告基準)に準拠した財務諸表を作成すること
メインランドでは、ライセンス更新時に監査報告書の提出が求められない場合もありますが、これは会計監査を行わなくてよいという意味ではありません。経済省(DED)や連邦経済省から、いつでも監査済財務諸表の提出を求められる可能性があります。
監査報告書が必要となる主な場面としては、銀行口座の開設、投資家のデューデリジェンス、会社持分の売却、FTA(連邦税務当局)による税務調査、および会社清算の場面が挙げられます。
フリーゾーン法人の会計監査義務
UAEのフリーゾーン法人については、各フリーゾーン当局がそれぞれ監査要件を定めており、多くのフリーゾーンではライセンス更新の条件として監査済財務諸表の提出が必須とされています。
主要フリーゾーンにおける監査の提出期限は以下の通りです。
| フリーゾーン | 提出期限 | 備考 |
|---|---|---|
| DMCC | 会計年度末から180日以内(2025年は9月30日まで延長) | DMCC承認監査人のみ対応可能 |
| JAFZA | 会計年度末から90日以内 | JAFZA登録監査人が必要 |
| DAFZA | 毎年提出義務あり | DAFZA認定監査法人を選定 |
| IFZA | 2025年9月30日以降はライセンス更新時に必須 | 売上AED300万超は監査済財務諸表が必要 |
| DIFC | 会計年度末から4か月以内 | 期限超過で行政罰金の可能性 |
| RAKEZ | 毎年提出義務あり | 各フリーゾーン規則に準拠 |
特にIFZA(International Free Zone Authority)については、2025年9月30日以降、全てのライセンス更新申請時に監査済財務諸表または簡易財務諸表の提出が義務化されました。
簡易財務諸表が認められる条件は、売上高がAED300万以下かつ従業員数が9名以下の場合に限られ、それ以外の法人はUAE認定監査人による監査済財務諸表の提出が必要となります。
監査未提出の場合のペナルティ

フリーゾーンにおいて監査報告書を期限内に提出しなかった場合、以下のようなペナルティが課される可能性があります。
- ライセンス更新の遅延または拒否
- 月額AED 5,000程度の延滞罰金(DMCCの場合)
- オンラインポータルへのアクセス制限
- 投資家や取引先からの信用の喪失
メインランド法人については、連邦政令法第32号に基づき、法律違反に対して経営者に最大AED 1,000万の罰金が科される可能性があることにも注意が必要です。
税務申告の要請における会計監査
法人税における監査済財務諸表の要件
UAEでは2023年6月から法人税(Corporate Tax)が導入されており、一定の要件に該当する課税事業者は監査済財務諸表の作成・保管が義務付けられています。
2023年省令第82号(Ministerial Decision No. 82 of 2023)により、以下のカテゴリに該当する課税事業者は監査済財務諸表を準備しなければなりません。
| カテゴリ | 要件 |
|---|---|
| 大型課税事業者 | 売上高がAED 5,000万を超える課税事業者(税務グループに属さない法人が対象) |
| 適格フリーゾーン法人(QFZP) | 売上規模にかかわらず監査が必須 |
なお、2025年1月以降に開始する会計年度については、2025年省令第84号(Ministerial Decision No. 84 of 2025)が適用され、全ての税務グループは監査済特別目的財務諸表の作成が求められることになりました。
適格フリーゾーン法人(QFZP)の監査義務
フリーゾーン法人が0%法人税率の適用を受けるためには、Qualifying Free Zone Person(QFZP)としての要件を満たす必要があります。
QFZPとして認められるための主な条件は以下の通りです。
- UAE国内のフリーゾーンに設立された法人格を有すること
- 十分な経済的実態(Economic Substance)を有すること
- 適格所得(Qualifying Income)が全売上の大部分を占めること
- 移転価格税制の文書化要件を遵守すること
これらの要件を満たしていることを証明するためには、監査済財務諸表が必須となります。監査済財務諸表がなければ、FTAはQFZPステータスの妥当性を確認することができず、結果として0%税率の適用が認められない可能性があります。
QFZPが要件を満たさなくなった場合、5年間にわたり9%の法人税率が適用されるリスクがあることにも注意が必要です。
法人税申告の期限と監査スケジュール

UAEの法人税申告は、会計年度末から9か月以内にFTAに対して電子申告を行う必要があります。
例えば、2024年12月31日を会計年度末とする法人の場合、法人税申告の期限は2025年9月30日となります。
監査済財務諸表の要件がある法人については、この申告期限までに監査を完了し、財務諸表を確定させる必要があります。監査のスケジュール管理は法人税コンプライアンスにおいて極めて重要です。
移転価格税制における文書化要件
UAE法人税法では、関連者間取引についてアームズ・レングス原則に基づいた移転価格の設定が求められています。
以下の基準を満たす法人は、移転価格文書の作成・保管が義務付けられています。
| 文書の種類 | 該当基準 |
|---|---|
| 移転価格開示フォーム | 関連者間取引の総額がAED 4,000万超の場合 |
| マスターファイル・ローカルファイル | 連結売上がAED 31.5億超のMNEグループ、またはUAE法人の売上がAED 2億超の場合 |
| 国別報告書(CbCR) | 連結売上がAED 31.5億超のMNEグループの場合 |
FTAによる税務調査の際には、これらの文書が精査の対象となり、アームズ・レングス原則に沿っていないと判断された場合には、FTAによる所得調整が行われる可能性があります。
税務調査と罰金
FTAは、法人税の正確な申告と納税を確保するため、税務調査を実施することがあります。税務調査は無作為に行われる場合もあれば、特定の事由に基づいて実施される場合もあります。
税務調査に関連する主な罰金は以下の通りです。
| 違反内容 | 罰金額 |
|---|---|
| 税務調査への協力不足 | AED 20,000 |
| 記録保管義務違反 | AED 20,000 |
| 申告書の誤り(自主修正前に発覚) | 税額差異の15%+月1%の延滞金 |
| 申告期限遅延 | 月額AED 500(13か月目以降はAED 1,000) |
| 納税遅延 | 未払税額に対して年14%の利息 |
監査済財務諸表の要件がある法人がこれを怠った場合、正確な課税所得の算定が困難となり、結果としてFTAによる追徴課税や罰金のリスクが高まります。
まとめ
UAEで法人を運営する上で、会計監査は単なる形式的な手続きではなく、ライセンス更新と法人税申告という2つの異なる側面から求められる重要な義務です。
特にフリーゾーン法人については、各フリーゾーン当局が定める監査要件とFTAが求める税務上の監査要件の両方を満たす必要があり、計画的な対応が不可欠です。
また、メインランド法人についても、連邦政令法第32号に基づく年次監査義務があり、ライセンス更新時に監査報告書の提出が求められなかったとしても、監査を怠ることは法律違反となります。
UAE法人の会計監査についてご不明な点がある方や、監査の準備にあたりサポートが必要な方は、お気軽に当会計事務所までお問い合わせください。
