不動産仲介会社を経営する際に必要なAML手続とは
ドバイの不動産市場は依然として活況を呈しており、世界中から投資マネーが集まっています。しかし、その裏でUAE当局による監視の目がかつてないほど厳しくなっていることは、意外と知られていません。
特に不動産仲介業(ブローカー)は、マネーロンダリング(資金洗浄)のリスクが高い業種として特定非金融事業及び職業(DNFBPs)に指定されており、銀行と同じくらい厳格なコンプライアンス体制が求められています。
「自分たちは小さな仲介会社だから大丈夫だろう」という認識は非常に危険です。実際に、登録漏れや手続の不備だけで数千万円規模の罰金が科されるケースも珍しくありません。
今回は、UAEで不動産仲介会社を経営する際に避けては通れないAML(アンチ・マネーロンダリング)手続について、実務的な観点から解説します。

なぜ不動産仲介会社がターゲットなのか
不動産取引は動く金額が大きく、現金の出入りも激しいため、犯罪収益の隠匿に使われやすいという特徴があります。
UAEは2024年にFATF(金融活動作業部会)のグレーリストから脱却しましたが、その地位を維持するために、不動産セクターへの締め付けをさらに強化しています。経済省(Ministry of Economy)は、不動産ブローカーが「犯罪収益のゲートキーパー(門番)」としての役割を果たすことを期待しており、その義務を怠った業者には容赦ないペナルティを課しています。
経営者がまず行うべき「3つの義務」
不動産仲介ライセンスを取得したら、営業を開始する前に必ず以下の体制を整える必要があります。これらは選択制ではなく、法的義務です。
1. goAMLおよび経済省への登録
まず最初に行うべきは、UAE政府が運営する監視システムへの登録です。これは以下の2段階の手続が必要です。
- 経済省(MoE)のポータルサイトへの登録
自社がDNFBP(特定非金融事業)であることを申告し、コンプライアンス担当者を登録します。 - goAMLシステムへの登録
UAE中央銀行の金融情報局(FIU)が管轄する「goAML」というプラットフォームに登録します。これが完了して初めて、疑わしい取引があった際のレポート提出が可能になります。
実務上よくあるミスとして、「ライセンスは取ったがgoAMLの登録を忘れていた」というケースがありますが、これだけで罰金の対象となりますので注意が必要です。
2. 社内コンプライアンス規定の策定と研修
「うちは不正をしていないから大丈夫」というだけでは通用しません。「不正を防止するための仕組みがあるか」が問われます。
具体的には、以下の書類やプロセスを社内に整備する必要があります。
- AML/CFTポリシー(社内規定)の作成
- 顧客のリスク評価基準の策定
- 従業員への定期的なAML研修の実施
- 制裁リスト(Sanctions List)との照合システムの導入
特に制裁リストのチェックは重要です。顧客がテロリストや制裁対象国に関与していないか、契約前に必ず自動照合システム等を使って確認しなければなりません。

3. 顧客の本人確認(KYC/CDD)の徹底
もっとも現場の負担となるのが、日々の取引における本人確認(KYC)です。単にパスポートのコピーをもらうだけでは不十分です。
UBO(実質的支配者)の特定が必須となります。たとえば、不動産の買い手が法人である場合、その法人の株主を遡り、「最終的に誰が得をするのか(誰がオーナーか)」という個人まで突き止める必要があります。
| 確認レベル | 対象となる顧客・取引 | 必要な対応 |
| 簡易なデューデリジェンス(SDD) | 政府機関や上場企業など、リスクが低いと判断される場合 | 基本的な身分証確認と記録保存 |
| 通常のデューデリジェンス(CDD) | 一般的な個人や法人取引 | パスポート、Emirates ID、住所証明、UBOの特定 |
| 厳格なデューデリジェンス(EDD) | PEPs(政治的公人)、高リスク国出身者、複雑なスキームの場合 | 資産の源泉(Source of Funds)の証明、上級管理職の承認 |
実務上の重要ポイント:5万5000ディルハムの壁
不動産業界には、「5万5000ディルハム(約220万円)」という重要なラインがあります。
不動産仲介業者が、1つの取引において5万5000ディルハム以上の現金(キャッシュ)を受け取る場合、あるいは暗号資産(仮想通貨)で決済が行われる場合は、REAR(Real Estate Activity Report)という特別な報告書を当局へ提出しなければなりません。
多くのデベロッパーや大手仲介会社では、コンプライアンスリスクを避けるため、そもそも「現金の受け取りは5万5000ディルハムまで」と社内規定で制限し、残りはすべて銀行送金(Manager’s Cheque等)にする運用が一般的になっています。
違反した場合のペナルティ
もしこれらの義務を怠った場合どうなるのでしょうか。経済省は定期的に監査を行っており、違反が見つかった場合のペナルティは非常に高額です。
- 5万ディルハム(約200万円)〜500万ディルハム(約2億円)の罰金
- ライセンスの停止または取消
- 社名の公表(Reputational Risk)
特に「疑わしい取引を見逃した(報告しなかった)」場合の罰則は重く、経営者自身の刑事責任が問われる可能性すらあります。

結論・まとめ
UAEで不動産仲介会社を経営するためには、単に物件を売買するだけでなく、金融機関並みの管理体制が求められます。
重要なポイントは以下の通りです。
- goAMLへの登録は必須であり、未登録は即罰金対象となる
- 顧客のバックグラウンドチェック(KYC)と実質的支配者(UBO)の特定を必ず行う
- 5万5000ディルハム以上の現金取引には特別な報告義務が発生する
- 社内規定(ポリシー)を作成し、従業員への研修を実施する
これらの対応は自社だけで完結させるのが難しく、専門的な知識を要します。「まだ登録していない」「社内規定が整備されていない」という方は、手遅れになる前に専門家へ相談することをお勧めします。
当事務所では、不動産仲介会社の設立からAML登録、日々のコンプライアンスチェックの体制構築まで、トータルでサポートを行っています。不安な点があれば、お気軽にお問い合わせください。
