中東拠点としてドバイ法人を設立し、株式や不動産の売却益を狙うケースが増えています。
「ドバイはキャピタルゲイン税がゼロだから、法人名義で売却しても非課税だよね?」
このようなご相談を受けることが非常に多くなっています。
結論からお伝えすると、現在のUAE法人税法の下では、ドバイには日本のような独立したキャピタルゲイン税という税目はありませんが、法人が計上する売却益は原則として法人税の課税所得に含まれます。
一方で、一定の条件を満たす株式の売却益については参加持分免税により実質的に非課税とできる余地があります。それに対して、個人が自分名義で保有する株式や不動産を売却した場合は、通常UAE側でのキャピタルゲイン課税はありません。
以下では、ドバイ法人に焦点を当てて、キャピタルゲインの課税関係と実務上の注意点を整理していきます。
1 ドバイにキャピタルゲイン税という独立税目はあるのか
まず前提として押さえるべき点は、UAEには「キャピタルゲイン税」という名称の独立した税目は存在しないということです。
2023年6月以降、UAEでは連邦レベルの法人税制度が導入されましたが、この法人税法は「あらゆる事業所得」を一括して課税所得とみなし、その中に資産売却益も含める形を採用しています。
したがって、
- 個人が自分の資産を売却したことによるキャピタルゲイン
- 法人が事業の一環として資産を売却したことによるキャピタルゲイン
は、税務上まったく異なる扱いになります。
この構造を簡単に整理すると、次のようになります。
| 保有者区分 | UAE側でのキャピタルゲインの原則的な扱い | 具体例 |
|---|---|---|
| 個人 | 原則として課税なし。 法人税も個人所得税も非課税 |
個人名義で保有した不動産や上場株式の売却 |
| UAE居住法人 | 売却益は事業所得として法人税の課税対象 ただし免税規定あり | ドバイ法人名義で保有する不動産や子会社株式の譲渡 |
| UAE非居住法人 | UAEに恒久的施設やUAE不動産がある場合に限定して課税される | 外国法人がUAEに支店や不動産を保有した場合の売却 |
ドバイ法人にとって重要なのは「キャピタルゲインは別枠課税ではなく、法人税の一部として取り込まれる」という点です。
2 UAE法人税法におけるキャピタルゲインの位置付け
法人税の基本枠組み
現在のUAE法人税の大枠は次のようになっています。
| 区分 | 税率と概要 |
|---|---|
| 課税所得375,000ディルハム以下 | 法人税率0% |
| 課税所得375,000ディルハム超 | 超過部分に9%課税 |
| フリーゾーンの適格法人 | 条件を満たす「適格所得」に対して0% それ以外は9% |

法人税法上、キャピタルゲインという独立の概念は置かれておらず、資産売却益は他の収益と同様に課税所得に含めるべき事業所得とされています。
損益計算のイメージは次の通りです。
- 売却価額
- 取得原価や改良費から減価償却等を控除した税務上の簿価
- その差額がキャピタルゲインとなり、他の利益と合算して課税所得を形成
なお、法人税法では未実現の評価益をどの時点で課税所得に含めるかについて、通常の会計処理を前提とする方法と、売却時まで課税を繰り延べる実現基準方式の選択肢が認められています。特に不動産や長期保有資産については、どちらを選択するかでキャッシュフローが大きく変わるため、初年度申告前に慎重な検討が必要になります。
3 個人と法人で大きく異なるキャピタルゲイン課税
個人の場合
UAEでは個人に対する所得税や個人レベルのキャピタルゲイン税は導入されておらず、個人が自分名義で保有する資産の売却益は原則として非課税です。
具体的には、次のような利益は通常UAE側の税負担は発生しません。
- 個人名義で保有するドバイ不動産の売却益
- 個人名義で保有する上場株式や投資信託の売却益
- 個人として行う暗号資産の売買益
もっとも、不動産についてはキャピタルゲイン税こそありませんが、売買時のドバイ土地局の登録手数料や、商業用物件に対する付加価値税など、別の形でコストが生じます。
また、近年はインフルエンサーなどが「個人名義でビジネス収入を受け取れば九パーセントを回避できる」といった発信を行うことがありますが、実態として事業として行っている活動については、法人設立やライセンス取得を求められる可能性があります。形式だけ個人名義にしても、当局から事業活動と認定されれば、将来的に法人税や罰金のリスクが生じる点に注意が必要です。
UAE法人の場合の基本的な考え方
UAEの法人が計上するキャピタルゲインは、原則として法人税の課税所得に含まれます。対象となる典型例は次のようなものです。
| 資産の種類 | 売却主体がUAE法人の場合の扱い | 補足 |
|---|---|---|
| 事業用設備や無形資産 | 売却益は課税所得に含まれ、実効九パーセント課税の対象 | 機械設備やソフトウェアなどの売却差益 |
| UAE国内の不動産 | 売却益は法人税課税所得に含まれる 不動産関連は原則免税対象外 | フリーゾーン法人が保有する国内不動産も基本的に課税 |
| 子会社株式などの事業持分 | 条件を満たす場合は参加持分免税により非課税も可能 | 持株会社やグループ再編で重要 |
| 短期売買目的の証券投資 | 通常の事業所得と同様に課税 免税には参加持分の条件が必要 | トレーディング会社など |
| 海外不動産や海外株式 | UAE居住法人であれば原則として世界所得として課税対象 参加持分免税や外国税額控除により負担調整 | 持株会社やファンドで多い構造 |
このように、「法人名義だからキャピタルゲインもゼロ」という単純な構図ではなく、資産の種類と保有目的によって課税か免税かが分かれていく点が実務上のポイントになります。
4 参加持分免税によりキャピタルゲインを非課税にできるケース
UAE法人税法の中で、キャピタルゲインの取扱いに最も大きな影響を与えるのが参加持分免税です。
これは、UAE法人が一定の条件を満たす持分を保有している場合、その持分から生じる配当や売却益を法人税の課税所得から除外する制度です。
参加持分免税の主な要件
細かな条件は法律や大臣決定で詳細に定められていますが、実務上特に重要となるポイントは次の通りです。
- UAE法人が保有する持分の割合が5パーセント以上 もしくは取得価額の合計が四百万ディルハム以上
- 少なくとも十二か月以上保有しているか、12か月以上保有する意図を持って取得していること
- 対象となる子会社などが所在国で9パーセント以上の法人税等の課税対象となっていること ただし純粋持株会社などについては実効税率要件の緩和もあり
- 対象会社の資産のうち、一定割合以上が免税対象資産だけで構成されていないこと
これらの条件を満たす場合、
- その持分から受け取る配当
- その持分を売却した際のキャピタルゲイン
は法人税の課税所得に算入しないことが認められています。
特に、グループ持株会社や投資ホールディング会社にとっては、参加持分免税を前提としたストラクチャリングが重要になります。
4の2 実務上よくあるパターン
典型的なケースとして、次のようなものが挙げられます。
- ドバイの持株会社が、九パーセント以上課税国にある子会社株式を二〇パーセント保有し、十二か月以上保有した後に売却した場合 持株会社側の売却益は参加持分免税により法人税非課税となる余地がある
- フリーゾーン持株会社がUAE本土子会社株式を一定割合以上保有し、グループ再編で売却する場合 持株会社が適格フリーゾーン法人に該当し、かつ参加持分免税の要件を満たすときは、売却益に対してもゼロパーセントが適用され得る
一方で、少数持分の短期売買などは参加持分免税の要件を満たさないことが多く、通常の事業所得として九パーセント課税の対象になります。
5 フリーゾーン法人とキャピタルゲイン
ドバイでは、DIFCやDMCCなど各種フリーゾーンを活用して持株会社や投資ビークルを設立するケースが多く見られます。
このときに誤解が生じやすいのが、「フリーゾーンならキャピタルゲインは常にゼロ」という認識です。
5の1 適格フリーゾーン法人と適格所得
法人税法では、一定の要件を満たしたフリーゾーン法人を適格フリーゾーン法人とし、その適格所得に対して0パーセントを適用するという枠組みを採用しています。
適格所得の代表例としては、次のようなものがあります。
- 他のフリーゾーン法人との取引による所得
- 海外向けに行う特定のサービスや製造などからの所得
- 株式や証券の保有に関連する所得
- 一定の条件を満たす受動的所得 例として配当やキャピタルゲインなどが、全体収益に対する割合が五パーセント以下または五百万ディルハム以下という条件を満たす場合など
一方で、
- UAE国内の居住者個人との取引収益
- UAE国内不動産からの賃料や売却益の多く
- 一定の金融業や保険業などの除外対象事業からの所得
は適格所得から除外され、九パーセント課税の対象になります。
5の2 DIFCやADGMにおけるキャピタルゲイン
DIFCやADGMの案内資料やプロモーションでは、長年「法人税ゼロ」「キャピタルゲイン税ゼロ」といった表現が用いられてきました。
現在は連邦法人税制度との整合性を図るため、
- 適格フリーゾーン法人として0パーセントが適用される範囲
- ファミリーファウンデーションやファンドなど、一定のスキームに対する税的中立性
といった形で整理が進んでおり、全てのDIFC法人やADGM法人のキャピタルゲインが無条件に非課税というわけではありません。
実務としては、
- ライセンスの種類
- 事業内容
- 取引相手がフリーゾーンか本土か
- 所得の種類ごとの構成割合
などを総合的に確認しながら、九パーセント課税となる部分と〇パーセントが維持できる部分を切り分けていく必要があります。
6 不動産に関するキャピタルゲインとドバイ法人
ドバイ不動産への投資は、個人のみならず法人名義でも多く行われています。
ここで特に注意すべきなのは、UAE国内不動産から生じる所得やキャピタルゲインは、フリーゾーン法人であっても原則として法人税の課税対象になるという点です。
6の1 個人と法人の対比
不動産に関するキャピタルゲインのイメージを、個人と法人で対比すると次のようになります。
| 所有者 | UAE側のキャピタルゲイン取扱い | 補足 |
|---|---|---|
| 個人 | 不動産売却益は原則として非課税 ただし登録手数料や商業用物件の付加価値税などは発生 | ドバイにおける一般的な個人投資家 |
| UAE法人 本土 | 不動産売却益は課税所得に含まれ、超過部分に九パーセント課税 | 不動産開発会社 賃貸法人など |
| フリーゾーン法人 | UAE国内不動産からの所得や売却益は多くの場合適格所得から除外され九パーセント課税 | フリーゾーン法人が本土の物件を保有するケース |
また、構造によっては、
- 不動産そのものを売却するのではなく、その不動産を保有するSPC株式を売却する形で取引を設計する
- 一見すると株式売却によるキャピタルゲインに見えるが、実質は不動産の譲渡と判断される可能性もある
といった論点もあり、当局が実質を重視して課税関係を判断する可能性が指摘されています。
加えて、不動産を公正価値で継続的に評価する会計処理を採用している場合、未実現評価益を課税所得に含めるかどうかという点も、先ほどの実現基準方式の選択と密接に関係します。
7 非居住外国法人や投資ファンドから見たキャピタルゲイン
日本を含む海外からドバイ法人を利用する場合、UAE側でどこまで課税されるかも押さえておく必要があります。
法人税法上、非居住法人は次のような場合にUAE法人税の対象になると整理されています。
- UAEに恒久的施設を有しており、その恒久的施設に帰属する所得を有する場合
- UAE国内源泉所得のうち、一定の範囲に該当する場合
このうちキャピタルゲインに関係するのは、主として次の二つです。
- UAE国内不動産の譲渡から生じる売却益
- UAEに恒久的施設を有する外国法人が、その恒久的施設の資産を譲渡したことに伴う売却益
したがって、海外ファンドや外国法人が、UAEと特段の恒久的施設を持たずに上場株式などを売買するだけであれば、UAE側でキャピタルゲイン課税の対象になるケースは限定的です。
一方で、日本人投資家がインド株式や投資信託に投資する際、UAE居住者であることを前提にインド側のキャピタルゲイン課税を軽減するストラクチャーなども紹介されており、各国との租税条約の内容によっては、キャピタルゲインの課税権が居住国側に移転するケースもあります。この場合、UAE側で個人のキャピタルゲインが非課税であることが、最終的な税負担ゼロという結果につながることになりますが、日本など他国側の出国税やCFC税制との整合性もあわせて検討する必要があります。
8 日本の税務との関係
ドバイ法人自体のキャピタルゲインは、ここまで見た通り、UAE側の法人税法とフリーゾーン規制によって課税か免税かが決まります。
しかし、日本の居住者や日本法人がドバイ法人を通じて投資を行う場合には、日本側の税制も同時に考慮しなければなりません。
特に重要になるのが、
- タックスヘイブン対策税制
- 出国時課税
- 日本側での配当課税や株式譲渡益課税
などです。
8の1 タックスヘイブン対策税制との関係
日本のタックスヘイブン対策税制では、一定の低税率国に所在する外国関係会社の所得を、日本側の親会社や一定持分を有する株主の所得に合算する仕組みが採用されています。
UAEの法人税率九パーセントは、日本側のトリガー税率を下回ることから、持株構造や所得の内容によっては、ドバイ法人の所得が日本側で合算課税の対象となる可能性があります。
この場合、UAE側で参加持分免税によりキャピタルゲインがゼロになっていたとしても、日本側で合算課税されれば、グループ全体としては日本の税率に近い税負担が発生することになります。
8の2 出国時課税や日本側キャピタルゲイン課税
日本居住者がドバイに移住する際、一定額以上の有価証券を保有している場合には、国外転出時課税の対象となることがあります。
自社株式や上場株式などを大量に保有したまま出国すると、出国時点で未実現の含み益に対して日本側でキャピタルゲイン課税が行われる可能性があり、その後ドバイにおける売却時点ではUAE側で非課税であっても、日本側での課税が先行しているという事態が起こり得ます。
また、ドバイ法人を通じて行った投資から日本に配当を還流する場合や、将来的にドバイ法人株式を日本居住者が売却する場合の課税関係なども、日本側の法人税法や所得税法に基づき個別に検討する必要があります。
9 実務上よくある論点と注意点
最後に、ドバイ法人を利用してキャピタルゲインを得る際に、実務で特に注意すべき論点を整理します。
- 個人と法人の線引き
個人名義で受け取るキャピタルゲインが非課税だからといって、本来法人で行うべきビジネスを個人名義で行うと、ライセンス違反や将来的な課税リスクにつながります。 - 参加持分免税の要件管理
持株比率や保有期間、取得価額、子会社側の税率など、参加持分免税の要件を満たしているかどうかを、契約書や株主名簿、財務諸表で裏付けできるようにしておく必要があります。 - フリーゾーン法人の適格要件
適格フリーゾーン法人として〇パーセントを維持するためには、非適格所得の割合や取引相手、経済的実体などについて、継続的なモニタリングが欠かせません。ひとたび要件を外れると、その事業年度以降数年間、全所得が九パーセント課税になるリスクもあります。 - 不動産関連所得の扱い
UAE国内不動産からの所得や売却益は、フリーゾーンであっても原則として九パーセント課税の対象となるため、個人名義で保有すべきか、法人名義とすべきかの検討が重要になります。 - 日本側の税制との整合性
日本のタックスヘイブン対策税制や出国時課税は、ドバイ側だけを見ていては把握できません。日本側の税理士や国際税務専門家と連携し、二国間での合計税負担を見ながらストラクチャーを検討することが重要です。
10 まとめ
本記事のポイントを整理すると、次の通りです。
- ドバイを含むUAEには、独立したキャピタルゲイン税という税目はなく、法人のキャピタルゲインは原則として法人税の課税所得に含まれる一方、個人のキャピタルゲインは通常非課税です。
- UAE法人が保有する子会社株式などについては、一定の要件を満たす場合に参加持分免税が適用され、配当や売却益を法人税非課税とすることが可能です。
- フリーゾーン法人は、適格フリーゾーン法人として認定されることで、適格所得に対して〇パーセント税率が認められますが、UAE国内不動産からの所得や一部の金融取引などは九パーセント課税の対象となる点に注意が必要です。
- 非居住外国法人や投資ファンドにとっては、UAE国内に恒久的施設や不動産を持つかどうかが、キャピタルゲイン課税の有無を分ける大きなポイントになります。
- 日本の居住者や日本法人がドバイ法人を活用する場合、UAE側だけでなく、日本側のタックスヘイブン対策税制や出国時課税などもあわせて検討しなければ、期待した税効果が得られないだけでなく、かえって税負担が増える可能性もあります。
ドバイ法人を利用したキャピタルゲインの計画は、UAE法人税、フリーゾーン規制、各国との租税条約、日本側の国際税務ルールといった複数の法令が複雑に絡み合います。
自社グループの構成や投資計画に応じて最適なスキームは大きく異なりますので、ドバイ法人のキャピタルゲインに関する税務や法務面で不安がある方は、個別の状況を伺った上で整理することをおすすめします。
当事務所では、UAE側の法人税はもちろん、日本側のタックスヘイブン対策税制や出国時課税も踏まえたうえで、ドバイ法人のキャピタルゲインに関するストラクチャーや申告実務をサポートしています。
具体的な案件やご質問がある場合は、お気軽にお問い合わせください。
