国外転出時課税の課税シミュレーション|1億円超の非上場株式オーナーが海外移住で支払う出国税の実額

投稿:2025年11月29日更新:2026年5月27日ブログ

「海外移住をしたいけれど、自分の会社の株式を持ったままでも大丈夫だろうか」と心配されている非上場会社のオーナーは少なくありません。実は、1億円以上の有価証券等を保有している状態で日本を出国すると、国外転出時課税(いわゆる「出国税」)の対象となる可能性があります。

この制度は、株式などの資産を実際に売却していなくても、出国時に売却したものとみなして含み益に対して所得税が課税されるというものです。特に、非上場会社のオーナーは会社の成長とともに株式の評価額が上昇していることが多く、思わぬ多額の納税義務が発生するケースがあります。本記事では、具体的な数値で課税額をシミュレーションし、納税猶予の活用方法まで解説します。

国外転出時課税制度の概要

国外転出時課税制度は、平成27年7月1日(2015年7月1日)から施行されている税制で、国外に移住する富裕層による租税回避を防ぐことを目的としています。この制度が適用される対象者は、以下の2つの要件を両方満たす居住者です。

対象者の要件

なお、外国籍の方であっても上記の要件を満たせば対象となります。ただし、一定の在留資格(外交、教授、芸術、経営・管理、法律・会計業務、医療、研究、教育、企業内転勤、短期滞在、留学など)で滞在していた期間は、国内在住期間から除外されます。

対象となる資産は「有価証券等」

国外転出時課税の対象となる資産は、株式や投資信託などの有価証券等です。具体的には以下のものが該当します。

一方で、現金・預貯金・不動産・暗号資産(仮想通貨)は対象外です。つまり、不動産を多く保有していても株式を保有していなければ本制度の対象にはなりません。なお、NISA口座内の有価証券も1億円判定に含まれる点に注意が必要です。

非上場株式の評価方法

非上場会社のオーナーにとって重要なのは、自社株式の評価額がどのように算定されるかという点です。取引市場がない非上場株式は、以下の方法で評価されます。

評価区分 評価方法
売買実例があるもの 最近の売買価額のうち適正と認められる価額
類似会社の株価があるもの 類似会社の株価に比準した価額
上記以外のもの 1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額

多くの非上場会社は「純資産価額方式」により評価されることになります。純資産価額方式では、相続税評価額による純資産価額から帳簿価額による純資産価額の差額に対して法人税等相当額(37%)を控除した金額が株式の評価額となりますが、国外転出時課税においては、この法人税等相当額の控除は行わない点に注意が必要です。

また、会社が保有する土地や上場株式については、相続税評価額ではなく時価で評価する必要があるため、会社に含み益のある不動産があるケースでは株価が大きく上昇する可能性があります。なお、評価のタイミングは原則として国外転出の時の価額ですが、確定申告書を提出する場合は国外転出予定日の3か月前の日における価額で評価することも認められています。

課税額シミュレーション

それでは、具体的にどの程度の税金が発生するのかシミュレーションしてみましょう。国外転出時課税の税率は、所得税15.315%(復興特別所得税を含む)です。住民税については、出国年の翌年1月1日に日本に住所を有していない場合、原則として課税されません。

ケース 株式時価 取得価額 含み益 課税額
ケース1 2億円 1,000万円 1億9,000万円 約2,910万円
ケース2 1.5億円 5,000万円 1億円 約1,532万円
ケース3 3億円 100万円 2億9,900万円 約4,579万円

上記のシミュレーションから分かるように、含み益が大きいほど課税額も大幅に増加します。特に、設立直後から株式を保有しているスタートアップオーナーの場合、取得価額が低いため、含み益のほぼ全額が課税対象となり、数千万円の税負担が発生する可能性があります。手元の現金で納付できない場合、自社株式を売却せざるを得ない事態にもつながるため、納税資金の確保が重要な論点となります。

納税猶予制度の活用

国外転出時課税には、納税猶予の特例が設けられています。以下の要件を満たすことで、出国から最長10年間(原則5年+延長5年)納税を猶予することができます。

納税猶予の適用要件

  1. 出国の日までに所轄税務署へ納税管理人の届出を行うこと
  2. 確定申告書に納税猶予の適用を受ける旨を記載すること
  3. 確定申告書の提出期限までに、猶予される所得税額及び利子税額に相当する担保を提供すること

納税猶予期間は原則5年ですが、「納税猶予の期限延長届出書」を提出することでさらに5年延長することが可能です。また、納税猶予期間中に帰国した場合、対応する対象資産について課税を取り消すことができる点も大きな救済措置です。

非上場株式を担保として提供する場合

非上場会社のオーナーが納税猶予を受ける際、非上場株式そのものを担保として提供することができます。従来、株券不発行会社の場合はわざわざ株券を発行する必要がありましたが、令和5年度税制改正により手続きが簡素化されました。令和5年4月1日以降は、質権の設定を行うことで、株券不発行のままでも非上場株式を担保として提供できるようになっています。

オーナーが注意すべき実務ポイント

非上場会社のオーナーが海外移住を検討する際には、以下の点に特に注意が必要です。

出国前の確認事項

出国前に行うべき手続き

また、出国後も納税猶予期間中は毎年「継続適用届出書」を翌年3月15日までに提出する必要がある点も忘れてはなりません。提出を怠ると納税猶予が打ち切られ、猶予されていた所得税と利子税の納付義務が発生します。

資産管理会社を保有するケース

オーナーの中には、事業会社の株式を直接保有するのではなく、資産管理会社(持株会社)を通じて保有しているケースもあります。この場合、資産管理会社の株式の評価額が1億円以上であれば国外転出時課税の対象となります。資産管理会社に負債がなく、資産が事業会社株式のみであれば、資産管理会社の時価は事業会社の株価に保有株数を乗じた金額となり、結果として事業会社の株価が高ければ資産管理会社の株式価値も1億円以上となる可能性があります。

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まとめ

国外転出時課税制度は、1億円以上の有価証券等を保有する方が海外移住を検討する際に、必ず把握しておくべき重要な税制です。特に非上場会社のオーナーにとっては、自社株式の評価額が思いのほか高額になっているケースもあり、実際に株式を売却していなくても数千万円の納税義務が発生する可能性があります。ただし、納税猶予制度や5年以内の帰国による課税取消しなど、負担を軽減する仕組みも用意されているため、出国前に十分な時間的余裕をもって計画的に手続きを進めることが重要です。

  • 1億円以上の有価証券等を保有し、10年以内に国内在住5年超の居住者が出国時の課税対象
  • 対象は有価証券・匿名組合出資・未決済信用取引・未決済デリバティブ取引(不動産・現金・暗号資産は対象外、NISAは含まれる)
  • 非上場株式は純資産価額方式で評価、法人税等相当額37%の控除は適用されない
  • 税率は所得税15.315%(復興特別所得税を含む)、住民税は翌年1月1日に国内住所がなければ非課税
  • 含み益2億円なら課税額は約3,000万円規模、未売却資産への課税のため納税資金の確保が必要
  • 納税猶予制度で最長10年(原則5年+延長5年)、5年以内の帰国で課税取消も可能
  • 令和5年4月以降は質権設定により株券不発行株式のままで担保提供が可能
  • 毎年3月15日までの継続適用届出書提出を怠ると猶予打切り、利子税負担が発生

当会計事務所では、非上場株式の評価、国外転出時課税のシミュレーション、納税猶予の手続きサポートなど、海外移住に伴う税務手続き全般についてご相談を承っております。ご不明な点がございましたら、当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。日本・UAE双方の税務に精通した専門家として、お客様の状況に応じた最適なソリューションをご提案いたします。

根拠条文・出典

  • 所得税法第60条の2(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例、平成27年7月1日施行)
  • 所得税法第137条の2(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)
  • 所得税法施行令第170条の2(対象資産の価額の算定方法)
  • 租税特別措置法第41条の19の3(東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法に係る復興特別所得税2.1%)
  • 令和5年度税制改正(質権設定による株券不発行株式の担保提供、令和5年4月1日以後の納税猶予申請に適用)
  • 地方税法第24条・第294条(住民税の賦課期日:1月1日に住所を有する者)

 このブログを書いた人

税理士・公認会計士(日本・UAE)。ドバイ在住。日本とドバイで会計事務所を経営しています。税務顧問や会計監査、ドバイへの移住支援を行っています。

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