出国税は自分が出る時だけじゃない?ドバイ移住者が相続時に課される含み益課税について解説

投稿:2026年5月30日更新:2026年5月30日ブログ

ドバイ移住を選んだオーナーが意外と見落としているのが、日本に資産を残したまま親が亡くなった場合の国外転出(相続)時課税です。出国税(国外転出時課税)というと自分が日本を出る時の論点と思われがちですが、実はドバイ在住者が日本の親から相続した場合にも、被相続人(つまり日本に残った親)に所得税が課されます。本記事ではドバイ在住の相続人を持つ日本人富裕層と、これからドバイ移住を検討する経営者・投資家に向けて、国外転出(相続)時課税の全体像と回避・軽減の実務設計を、公認会計士の立場から整理します。

ドバイ移住オーナーが直面する「見えない出国税」

ドバイ移住を実行した日本人オーナーの多くは、自身の国外転出時課税(時価1億円以上の有価証券等を持つ居住者が日本を出る時に含み益に課税)を意識して対策します。しかし、自分が出る側の出国税より見落とされやすいのが、相続時の国外転出時課税です。これは、ドバイ在住の自分が、日本に残った親から有価証券を相続した瞬間に、亡くなった親(被相続人)へ所得税が課される制度です。被相続人本人はもう亡くなっているため、相続人がその所得税を準確定申告で納めます。

当会計事務所のドバイ拠点には、親の体調が悪化してから慌てて相談に来られる方が増えています。準確定申告の期限は相続開始を知った日の翌日から4ヶ月で、相続税申告期限(10ヶ月)より6ヶ月早いため、心の準備のないまま海外から書類を集めるのは非常に困難です。事前設計の有無が、納税猶予を取れるかどうかと、最終的な税負担に直結します。

制度の全体像

国外転出時課税制度は平成27年7月1日以後の国外転出、贈与、相続から適用されています。3つの形態があり、いずれも時価1億円以上の対象資産が基準です。

類型 課税対象者 課税のタイミング
国外転出時課税 日本から出るオーナー本人 国外転出の日
国外転出(贈与)時課税 非居住者への贈与者(日本居住者) 贈与の日
国外転出(相続)時課税 被相続人(日本居住者で亡くなった方) 相続開始の日

ドバイ移住組の家族構成で問題になりやすいのが3つ目の相続時です。被相続人(亡くなった親)が日本居住者で、相続人にドバイ在住者がいるケースで、被相続人が時価1億円以上の有価証券等を持っていた場合に発動します。

対象者の要件

相続時課税の対象になるのは、次の2要件を両方満たす居住者が亡くなった場合です。1つ目は相続開始時に所有する対象資産の合計が時価1億円以上、2つ目は相続開始の日前10年以内に国内在住期間が5年を超えていることです。日本に長く住んでいた親が亡くなる場面では、ほぼ自動的に2つ目はクリアします。

1億円判定で最も誤解が多いのが、非居住者が取得した資産だけで判定するのではない点です。被相続人が相続開始時に所有していた全ての対象資産の合計額で判定します。含み損銘柄を残しても合計額は下がらず、NISA口座、ジュニアNISA口座の上場株式、国外口座の有価証券もすべて合算します。つまり、日本居住の他の相続人にだけ株式を渡す遺産分割にしても、被相続人の保有額全体が1億円以上なら、被相続人サイドで課税は発動します。

対象資産の範囲

対象資産は所得税法60条の3で定義され、次のとおりです。上場株式、未上場株式、投資信託、匿名組合契約の出資持分、未決済の信用取引、発行日取引、未決済デリバティブ取引です。NISA口座内の上場株式、償還差益について発行時に源泉徴収された割引債も含まれます。

ドバイ移住オーナーの実家にありがちな構成として、創業家のオーナー社長が自社の未上場株式と上場株式の両方を持っているパターンが多いです。未上場株式は売買実例があれば最近の実例価額、なければ類似会社比準または1株当たり純資産価額等を参酌した時価で評価します。創業社長の親が亡くなった場合、自社株の評価額が想定より高く、簡単に1億円を突破することは少なくありません。

準確定申告と納税猶予

相続時課税の申告期限は相続開始を知った日の翌日から4ヶ月です。同じ4ヶ月で、被相続人の所得税の準確定申告書に国外転出(相続)時課税適用による所得を含めて申告します。納税猶予を受ける場合は、この期限までに、納税猶予を受ける所得税額と猶予期間中の利子税額に相当する担保を提供する必要があります。

担保として提供できるのは、株券不発行会社に係る非上場株式、持分会社の社員の持分、不動産、国債、地方債、税務署長が確実と認める有価証券や保証人の保証などです。利子税の割合は年7.3%と各年の利子税特例基準割合の低い方です。

手続 期限 起算日
準確定申告と納税 4ヶ月以内 相続開始を知った日の翌日
納税管理人届出(非居住者相続人) 4ヶ月以内 相続開始を知った日の翌日
基本納税猶予期限 5年4ヶ月 相続開始の日
納税猶予延長後の最終期限 10年4ヶ月 相続開始の日
継続適用届出書 毎年3月15日 前年12月31日の翌年
相続税申告 10ヶ月以内 相続開始を知った日の翌日

注意すべき点として、ドバイ在住の相続人が複数いる場合は、納税管理人届出を連署で一通にまとめるか、各別に提出し他相続人へ遅滞なく通知する必要があります。海外在住者同士の連絡網と署名手続を相続開始直後の混乱期にこなすため、生前から段取りを決めておくべき論点です。

課税取消し要件とその矛盾

納税猶予期間中に対象資産を取得したドバイ在住の相続人全員が、相続開始の日から5年以内(延長届出書を提出していれば10年以内)に帰国し、帰国時まで引き続き対象資産を所有していれば、課税は取消されます。帰国した日から4ヶ月以内に更正の請求又は修正申告を行うことで、納めた所得税の還付が受けられます。

もっとも、ドバイ移住を本気で進めているオーナー一族にとって、相続人全員が10年以内に帰国するシナリオは現実的ではありません。子供を現地の学校に入れ、UAE法人を設立し、ドバイ永住権(Golden Visa)を取得しているケースでは、帰国による課税取消しは事実上選択肢から外れます。納税猶予を取得しながら、満了日における時価下落での減額措置(以下で解説)を活用するシナリオを軸に置くのが現実的です。

減額措置

納税猶予期間中に対象資産を売却した場合、その売却価額が相続開始時の価額を下回っていれば、相続開始時にその売却価額で売却したものとみなして所得税を再計算します。売却日から4ヶ月以内に更正の請求が必要です。同様に、納税猶予期間満了日(5年4ヶ月後または10年4ヶ月後)の時価が下落していれば、満了日から4ヶ月以内の更正の請求で減額できます。

未決済デリバティブや信用取引については、決済時の損益が国外転出時より悪化していれば再計算可能です。これらの減額措置は、相続開始時の時価が高値圏で、その後相場下落が想定されるタイミングではメリットが大きいですが、株価が更に上昇した場合は当初の所得税が確定するため、相場見通しと連動した出口戦略が重要です。

よくあるミス

ご相談で多いミスを3つ挙げます。1つ目は「親はまだ元気だから関係ない」という油断です。相続は予期せず発生するため、被相続人が時価1億円以上の対象資産を持っているドバイ移住組は、生前から対策を始めるべきです。具体的には、被相続人の有価証券を計画的に売却し1億円基準を下回らせる、贈与税の暦年課税枠を活用し非居住者へ少額ずつ移転する、ドバイ移住直後に贈与を完了し受贈側で取得費を引継ぐ等です。

2つ目は「相続税申告と一緒に処理できる」という誤解です。準確定申告は4ヶ月、相続税申告は10ヶ月で、準確定申告の方が6ヶ月早く到来します。さらに、納税猶予の担保提供も4ヶ月以内のため、4ヶ月で全てを完了させる必要があります。

3つ目は「ドバイ在住の自分にだけ株式を相続させなければ大丈夫」という誤解です。1億円判定は被相続人の保有資産全体で行われるため、遺産分割で日本居住の兄弟にだけ株式を寄せても、判定額は変わりません。ただし、非居住者である相続人が実際に株式を取得しなければ、その分の課税は発動しないため、遺産分割設計には依然として効果があります。

ドバイ移住オーナーのための実務設計

当会計事務所では、ドバイ移住組のオーナーに対し、自身の出国税対策と、日本に残した親世代の相続時課税対策をセットで設計することを推奨しています。具体的には、まずドバイ移住に伴うUAE法人設立で日本側の上場・未上場株式を計画的に移転し、日本居住の親世代の対象資産を1億円未満に抑える流れを検討します。資産規模が大きい場合は、移住前の贈与により含み益を清算する、納税猶予を取得しドバイ生活を継続しつつ満了時の減額措置で調整する、複数の選択肢があります。

UAE法人設立による配当の取り扱い、日本とUAEの租税条約に基づくPE課税の論点、ドバイ移住オーナーの居住者・非居住者判定の精緻化など、相続時課税の前提となる論点も多岐にわたります。ご相談者の家族構成、資産構成、移住タイミングを総合的に踏まえた設計が必要です。

📋 今回のポイント

  1. 相続時の国外転出時課税は被相続人(日本居住の親)に所得税が課され、相続人が準確定申告
  2. 1億円判定は被相続人の保有資産全体、NISA含む、含み損銘柄でも合計額は下がらない
  3. 準確定申告期限は4ヶ月、相続税申告(10ヶ月)より6ヶ月早く、担保提供も同時に必要
  4. 納税猶予は最長10年4ヶ月、ドバイ在住相続人全員の納税管理人届出と担保提供が必要
  5. 全員帰国はドバイ永住計画と矛盾、満了時の時価下落減額措置を軸とした出口戦略が現実的
  6. ドバイ移住前の贈与・UAE法人設立による株式移転で1億円基準回避のシナリオ設計を推奨

相続時の国外転出時課税は、ドバイ移住組にとって自身の出国税以上に見落とされやすい論点です。親の体調が悪化してから慌てるのではなく、移住前後の早い段階で資産構成全体を見直すべき制度です。具体的なシミュレーションやUAE法人設立とのタイミング設計について、当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。

 このブログを書いた人

税理士・公認会計士(JCPA)・UAE公認会計士(EAAA)協会会員。日本とドバイで会計事務所を経営。現地日本企業の税務顧問先100社(上場会社含む)、会社設立実績80社以上。
ドバイ法人の会計監査や税務申告、ドバイ移住支援を行っています。

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