ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。本記事では、CFC税制について解説します。
令和8年度改正では、外国子会社合算制度(タックスヘイブン対策税制、以下「CFC税制」)の各論が見直されました。さらに改正法令の解釈を示す法令解釈通達が令和8年6月30日付、8月7日付、9月4日付と相次いで発遣されています。本記事では、法令と通達の両面から改正の中身を整理し、UAE法人を保有する日本居住オーナーおよびドバイ移住オーナーの実務対応を解説します。
📋 本記事の要点
- 令和8年4月1日以後開始事業年度からCFC税制の見直しが適用
- ペーパーカンパニー特例の資産割合要件は総資産0の場合に判定不要
- 累進税率特例の適用範囲が縮減され、通達で適用除外事情の例示も追加
- 解散した部分対象外国関係会社等に係る新清算特例の創設
- UAE法人は9パーセント(QFZPは0パーセント)で租税負担割合の閾値未満
- 合算回避の鍵は経済活動基準4要件のエビデンス整備
国税庁公表の令和8年改正の概要
2026年5月27日、国税庁が「令和8年度法人税関係法令の改正の概要」を公表しました。CFC税制の見直しは「6 その他主な改正項目」に位置づけられており、制度の骨格自体は維持しつつ、特例規定と運用面を精緻化する内容です。骨格維持と各論精緻化が今回の改正の性格を示しています。
適用時期は外国関係会社の令和8年4月1日以後に開始する事業年度に係る課税対象金額等です(改正法附則63①④)。3月決算の内国法人が12月決算のUAE法人を保有しているケースでは、UAE法人の2027年12月期から実質的に適用が始まります。財務省が公表する令和8年度税制改正の資料と併せて読むと、改正の方向性を立体的に把握できます。
そもそもCFC税制の全体像とは
CFC税制は、軽課税国の外国子会社に所得を留保して日本の課税を回避する行為を防ぐ制度です。居住者または内国法人等が合計で50パーセント超を直接および間接に保有し、または実質的に支配する外国関係会社が対象となり、UAE法人もこの保有要件を満たせば射程に入ります。制度の全体図は国税庁の外国子会社合算税制の解説ページで確認できます。
合算課税は3層構造です。ペーパーカンパニーやキャッシュボックス等の「特定外国関係会社」は租税負担割合が特定外国関係会社27パーセントを下回る場合に会社単位合算となります。経済活動基準4要件のいずれかを満たさない「対象外国関係会社」は、租税負担割合が対象外国関係会社20パーセントを下回る場合に会社単位合算となります。4要件を全て満たす「部分対象外国関係会社」でも、租税負担割合が20パーセント未満なら配当や利子等の受動的所得が部分合算の対象になります。UAEの法人税率はUAE Federal Tax AuthorityのCorporate Taxページのとおり標準9パーセント、フリーゾーンのQFZPは0パーセントですので、いずれの閾値も確実に下回ります。
経済活動基準4要件 UAE法人の実体構築チェックリスト
会社単位合算を回避する最重要要件が経済活動基準4要件です。すべてを充足してはじめて対象外国関係会社から外れます。
| 基準 | 内容 | UAE法人の実務 |
| 事業基準 | 主たる事業が株式保有や無形資産提供等でないこと | 単純な持株会社は不可であり、実業を主たる事業に据える |
| 実体基準 | 本店所在地国に事業に必要な事務所等を有すること | UAEにEjari登録付きの実オフィスを構える |
| 管理支配基準 | 本店所在地国で事業の管理、支配、運営を自ら行うこと | UAEで取締役会を開催し議事録を残す |
| 所在地国基準/非関連者基準 | 主として本店所在地国で事業を行うこと(卸売業等8業種は非関連者基準) | 卸売業の場合は非関連者取引が50パーセント超であること |
最初に崩れるのは管理支配基準です
ドバイ移住オーナーが特に注意すべきは管理支配基準です。日本での滞在時間が長く、UAE法人の重要意思決定を日本で行っていると、書面上はUAEに所在地があっても基準充足が否認されるリスクがあります。渡航記録と取締役会の開催地をセットで残す運用が有効です。
ペーパーカンパニー特例の資産割合要件見直し
ペーパーカンパニー特例は、特定外国関係会社のうちペーパーカンパニーと認定されるかどうかを判定する規定で、実体基準や管理支配基準、資産割合要件などで構成されます。今回の改正では、資産割合要件について事業年度終了の時の総資産の額が0の場合には判定が不要とされました(措令39の14の3⑥⑧⑨一から三)。休眠会社等で判定不能となっていた問題を解消する整理です。
累進税率特例の見直しで租税負担割合計算がより厳格に
租税負担割合の計算は、外国関係会社の所在地国法令上の税率を基準に算定します。所在地国が累進課税制度を採る場合、最も高い税率を用いて租税負担割合を計算する特例が認められていました。
令和8年度改正で加わった適用除外の考え方
改正により、最高税率が適用されることが通常見込まれないこと、最高税率が適用される所得の額の区分が極めて限定されていることその他の事情により本特例の適用が著しく不適当と認められる場合には、この特例を適用できないこととされました(措令39の17の2②四)。形だけ高い最高税率を掲げて実態は低税率という構造を封じる改正です。
通達レベルの取扱いをどこまで見るか
実務で見落とされやすいのが通達です。国税庁は令和8年6月30日付課法2-9「法人税基本通達等の一部改正について」で、租税特別措置法関係通達(法人税編)66の6-27(累進税率の場合の特例の適用)を改正し、特例を適用できない事情を例示しました。所在地国の経済規模からみて国内法人に適用されるとは想定し難い高額の所得区分に免除税率が設定されている場合、最高税率が適用される所得金額が少額に限定されている場合、税額控除や補助金により実際の負担が著しく低くなる場合が挙げられています。租税負担割合の計算は通達で動きますので、法令の条文だけを追うと判断を誤ります。
もっとも、UAE法人は9パーセントのフラット税率であり累進課税ではありませんので、この特例そのものの適用余地はなく、UAE単体でみた影響は限定的です。影響が出るのは、ドバイ以外の累進税率国に子会社を併せて保有する場合や、将来UAEが税率区分を細分化する制度改定を行った場合です。なお、その後に発遣された令和8年8月7日付課法2-17の法人税基本通達等の一部改正は各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税に関する整備であり、また令和8年9月4日付課法2-19の租税特別措置法関係通達(法人税編)の一部改正が公表されていますが、公表された主要改正項目に外国子会社合算税制の項目は含まれていません。
解散した部分対象外国関係会社等に係る特例の創設
UAE法人の整理や清算を検討する方に最も実務的な改正がこれです。従来の清算特例が新清算特例へ改組され、3つのルールが整備されました。1点目はステータス判定の特例で、一定の部分対象外国関係会社等が解散した場合でも解散後の一定期間は引き続き部分対象外国関係会社等に該当するものとみなされます(措法66の6⑤⑥⑬、66の9の2⑤⑥⑬)。2点目は異常所得の計算方法の見直しで、解散後の一定期間は解散前の純資産等の額を用いて計算します(措令39の17の3㉘㉙)。3点目は外国金融子会社等に係る異常資本に係る所得について、解散後の一定期間はないものとする取扱いです(措令39の17の4③)。ドバイのフリーゾーン法人を畳む局面の合算リスクが明確化されています。
令和8年改正を受けてドバイ移住オーナーが今やるべきこと
改正後もUAE法人を保有する日本居住オーナーにとって制度の構造は変わりません。第1に、経済活動基準4要件の充足エビデンスを毎期残すことです。事務所のEjari、Emirates ID保有従業員の雇用契約、UAEで開催した取締役会の議事録など、調査で問われた際に書面で示せる体制を整えてください。第2に、租税負担割合の試算と部分合算課税の影響額の把握です。QFZPでも標準税率でも20パーセント未満ですので、受動的所得の部分合算は常に検討対象になります。
居住者ステータスと出国税の整理
第3に、ご自身の居住者ステータスの確認です。CFC税制は居住者または内国法人等が50パーセント超を保有する場合に適用されますので、ドバイ移住で非居住者化が完了していれば日本側の合算対象から外れる余地が生まれます。反面、日本に居所を残している、家族が日本にいる、生活の本拠が判然としないといった状況では居住者と認定され合算課税が及び得ます。国外転出時課税、いわゆる出国税の実行と居住者ステータスの整理は、CFC合算の可否と一体で設計すべき論点です。移住のタイミング設計を誤ると、出国税と合算課税の二重負担が生じかねません。
よくあるミス
第1のミスは、UAEフリーゾーン法人を持株会社として設立してしまうことです。事業基準で否認され、対象外国関係会社として会社単位合算が発動します。第2のミスは、取締役会を日本からオンラインで開催してUAEで議事録だけ作ることです。メールのタイムスタンプや会議ログから所在地が逆算されます。第3のミスは、法令だけを確認して通達を見ないことです。累進税率特例のように、適用可否の判断材料が通達の例示で具体化される領域では、通達の改正履歴まで確認する必要があります。
まとめ
📋 今回のポイント
- 令和8年4月1日以後開始事業年度から適用
- ペーパーカンパニー特例と累進税率特例、新清算特例の3本柱
- 累進税率特例の適用除外事情は6月30日付通達で例示
- UAEはフラット9パーセントで累進特例の適用余地なし
- 累進税率国の子会社併有時は影響あり
- 合算回避の要は経済活動基準のエビデンス
- 出国税と居住者判定はCFCと一体で設計
当会計事務所は、UAE法人の保有形態の設計、経済活動基準のエビデンス整備、租税負担割合の試算、国外転出時課税、いわゆる出国税とCFC合算の関係整理、新清算特例の適用検討まで一貫してサポートしています。令和8年度改正と通達改正を踏まえたUAE法人運営の見直しは個別事情で論点が大きく変わりますので、当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。
根拠条文・出典
- 租税特別措置法第66条の6、第66条の9の2 e-Gov法令検索
- 租税特別措置法施行令第39条の14の3、第39条の17の2から第39条の17の4 e-Gov法令検索
- 所得税法第60条の2(国外転出時課税、いわゆる出国税)
- 国税庁「令和8年度法人税関係法令の改正の概要」(2026年5月27日公表)と同PDF全文
- 国税庁令和8年6月30日付課法2-9「法人税基本通達等の一部改正について」と主要改正項目PDF(措通66の6-27の改正を含む)
- 国税庁令和8年8月7日付課法2-17「法人税基本通達等の一部改正について」(国際最低課税額関係の整備)
- 国税庁令和8年9月4日付課法2-19「租税特別措置法関係通達(法人税編)の一部改正について」と主要改正項目PDF
- 国税庁外国子会社合算税制の解説ページ
- 財務省令和8年度税制改正
- UAE Federal Tax Authority Corporate Tax
- 改正法附則63①④(外国関係会社の令和8年4月1日以後開始事業年度から適用)
本記事は公表情報に基づく一般的な解説であり、個別の税務判断を保証するものではありません。実際の適用にあたっては当会計事務所までご相談ください。



