ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。
UAEの関税制度はGCC(湾岸協力会議)共通関税を基盤としており、フリーゾーンの活用や各種免税制度など、ビジネスを有利に進めるための選択肢が数多く用意されています。本記事では、ドバイで輸出入取引を行う際に課される関税の税率や免税対象、必要な手続きについて、税務・実務の観点から2026年5月時点の最新情報で解説します。
1. UAEの関税制度の基本
UAEの関税制度は、GCC共通関税同盟(GCC Customs Union)に基づいて運用されています。GCCは2003年1月に発効した関税同盟であり、サウジアラビア、UAE、バーレーン、オマーン、カタール、クウェートの6か国が加盟しています。詳細はGCC事務局公式をご参照ください。
この制度の最大の特徴は、GCC域内からの輸入品(域内原産品)には関税が免除される一方で、GCC域外からの輸入品には一律の税率が適用される点です。UAEでは国際貿易のハブとしての地位を確立するため、比較的低い関税率を維持しながらも、必要な税収を確保する仕組みが整備されています。
標準関税率は5%
UAEで輸入される大半の商品には、CIF価格(Cost, Insurance and Freight)の5%が関税として課されます。CIF価格とは、商品代金に保険料と運賃を加えた合計金額のことを指します。
この5%という税率は、国際的に見ても低水準であり、UAEが貿易を促進するための政策として位置づけられています。実務上の関税手続きはDubai Customs公式サイトを通じてオンラインで完結します。UAEの関税統計はWorld Bank WITS – UAEで確認できます。
高税率が適用される品目
一方で、特定の品目については健康・社会政策の観点から高い税率が設定されています。
| 品目 | 関税率 | 備考 |
| アルコール飲料 | 50% | 輸入には特別なライセンスが必要 |
| タバコ製品 | 100% | Excise Tax 100%も別途課税 |
| 豚肉製品 | 輸入制限あり | イスラム法に基づく規制 |
これらの品目については、関税に加えてExcise Tax(物品税)も課されます。FTA Excise Tax公式によれば、現行のExcise Tax税率は次のとおりです。
- タバコ製品・電子タバコ・ベイプ:100%
- エナジードリンク:100%
- 炭酸飲料:50%
- 糖入飲料(Sweetened Drinks):50%(2019年12月から追加)
ドバイ酒税の動向(2025年復活)
アルコールについては、連邦関税50%・Excise Taxに加え、ドバイ自治体(Dubai Municipality)の地方酒税30%が2025年1月1日に復活しました。2023年1月から2024年12月まで停止されていた30%の地方酒税が再導入され、2026年5月時点も継続中です。アルコール販売価格は実質的に「連邦関税50%+Excise Tax+地方酒税30%+VAT 5%」が積み上がる構造になっています。Dubai Municipalityの公式情報はDubai Municipalityをご参照ください。
2. 関税が免除される主なケース
UAEでは経済活動を促進するために多様な関税免除制度が設けられています。ドバイで法人を設立して輸出入ビジネスを行う場合、これらの免除制度を戦略的に活用することが重要です。
GCC域内からの輸入品
GCC加盟国で生産された商品については、原産地証明書(Certificate of Origin)を提出することで関税が免除されます。これにより、サウジアラビアやクウェートなどの近隣国との貿易が活発化しており、域内サプライチェーンの構築が進んでいます。
工業用原材料の免除
UAE国内で製造業を営む企業は、生産に使用する原材料や部品について関税免除を申請することができます。この制度を利用するには、所管当局(Federal Customs Authority/Ministry of Industry and Advanced Technology/関係する首長国の税関)への事前申請と承認が必要です。
製造業向けの関税免除は、UAEが製造業の育成と産業多角化を推進する政策の一環として位置づけられており、特にフリーゾーン内の製造企業にとって大きなメリットとなっています。UAE連邦財務省の公式情報はUAE Ministry of Financeをご参照ください。
基礎食料品と医薬品
国民生活に不可欠な基礎食料品や医薬品の一部については、関税が免除されています。代表的な対象品目は次のとおりです。
- 米、小麦粉、砂糖などの基礎食料品
- 医薬品(承認を受けた特定の品目)
- 教育用の書籍や教材
- 障がい者向けの補助器具
個人宛少額輸入の取扱い
個人宛の少額輸入品については、CIF価格が一定額以下の場合に関税が免除される取扱いがあります。具体的な閾値・対象範囲はDubai Customsの運用通達により変更されることがあり、また商業目的の輸入は対象外です。最新の閾値・適用要件はDubai Customs公式で必ず確認してください。なお、この免税はあくまで関税に関するものであり、VATの取扱いは別ルールで判定されます。
3. フリーゾーンにおける関税の取扱い
ドバイには40以上のフリーゾーンが存在し、それぞれが特定の産業や業種に特化した優遇制度を提供しています。フリーゾーンは保税地域として扱われるため、関税面でも大きなメリットがあります。
フリーゾーンへの輸入時
フリーゾーンに商品を輸入する場合、関税は課されません。これは保税扱いとなるためであり、商品がフリーゾーン内に留まる限り関税の支払いは繰り延べられます。
なお、VATの取扱いはフリーゾーンがDesignated Zone(指定地域)に該当するかどうかで分かれます。Designated Zone(Jebel Ali Free Zone、DAFZA、JAFZA、DAFZ、Dubai Airport Free Zone、Hamriyah Free Zone等の物品取扱型ゾーンが指定)であれば、ゾーン内取引はVAT対象外となるケースがあります。一方、Designated Zoneでない一般フリーゾーンは本土と同じVAT取扱いです。VATの正確な区分はFTA VAT公式をご参照ください。
フリーゾーンから本土への移動時
フリーゾーンからUAE本土(メインランド)に商品を移動させる場合、輸入とみなされ、CIF価格に対し関税5%とVAT 5%が課税されます。これは初回通関時に関税が未払いだった分を本土移送時点で精算する形になります。
| 取引形態 | 関税 | VAT |
| 海外からフリーゾーンへ輸入 | 0%(保税扱い) | Designated Zone内取引は対象外 |
| フリーゾーンから本土へ移動 | 5% | 5% |
| フリーゾーンから再輸出(第三国向け) | 0% | ゼロ税率(書類完備が条件) |
| フリーゾーン間の移動 | 0% | Designated Zone間取引は対象外 |
再輸出ビジネス(Re-Export)の活用
ドバイのフリーゾーンは、再輸出ビジネス(Re-Export)の拠点として世界的に知られています。商品をフリーゾーンで一旦受け取り、そのまま第三国へ再輸出する場合には、関税もVATも実質的に発生しません。
この仕組みを活用することで、ドバイを中継貿易の拠点として位置づけ、中東・アフリカ・アジア・CIS市場への販路拡大を図ることができます。実際に多くの日本企業がドバイのフリーゾーンを活用し、地域統括会社や物流拠点を設置しています。在庫を本土に出さない限り関税負担はゼロのまま維持できるため、Jebel Ali Port経由の中継貿易モデルは中東進出の定番スキームとなっています。
4. 関税の計算方法と実務上の注意点
関税とVATの計算例
実際の輸入時には、関税とVATが段階的に計算されます。以下に具体例を示します。
関税 = 100 AED × 5% = 5 AED
② VAT課税標準
課税標準 = CIF価格 + 関税 = 100 AED + 5 AED = 105 AED
③ VATの計算
VAT = 105 AED × 5% = 5.25 AED
④ 合計支払額 = 100 AED + 5 AED + 5.25 AED = 110.25 AED
このように、VATは関税を含めた金額に対して計算される点に注意が必要です。なお、VAT登録事業者の場合、輸入時のVATはリバースチャージ方式で申告書上で精算され、同時に仕入税額控除を取れるため、最終的なキャッシュアウトは関税分のみとなるケースが多いです。
HSコードの重要性と12桁化への段階的移行
関税率は商品ごとに異なるため、正確なHSコード(Harmonized System Code)の特定が不可欠です。
UAEでは、Customs Notice No. 10/2025に基づき、従来の8桁コードから12桁Integrated Customs Tariffへの段階的移行が2025年8月1日から開始されました。完全移行スケジュールは次のとおりです。
| フェーズ | 期間 | 対象 |
| Phase 1 | 2025年8月〜2026年2月 | GCC向け輸出入(8桁/12桁の併用可) |
| Phase 2 | 2026年2月〜2026年8月 | GCC向け+FZから本土への輸入で12桁必須 |
| Phase 3 | 2026年8月〜2027年2月 | 第三国(RoW)からの輸入も12桁必須 |
| Phase 4 | 2027年2月以降 | 一時的フローを含む全領域完全移行 |
2026年5月時点はPhase 2の入口にあたり、フリーゾーンから本土への移動には12桁HSコードが必須となっています。詳細はDubai Customs – Integrated Customs Tariff公式PDFをご参照ください。
HSコードの誤りは、関税の過払いや不足、通関の遅延、最悪の場合は罰金の対象となります。初めて輸入する商品については、税関当局や専門の通関業者に事前相談を行うことを強く推奨します。Dubai CustomsではTariff部門による事前分類サービスも提供されています。
5. 輸入時に必要な書類と手続き
UAEで輸入通関を行う際には、以下の書類を準備する必要があります。
| 書類名 | 内容 |
| コマーシャルインボイス | 商品の詳細・数量・価格を記載 |
| パッキングリスト | 梱包明細書。荷姿・重量・容積 |
| 原産地証明書(CoO) | 商品の製造国を証明。GCC域内・FTA適用時には必須 |
| 船荷証券(B/L)または航空貨物運送状(AWB) | 貨物の所有権を示す運送書類 |
| 通関コード(Customs Client Code) | 輸入者の税関登録番号 |
特に通関コード(Customs Client Code)は、UAE国内で輸出入業務を行うすべての法人が取得する必要があります。これはFTA(連邦税務庁)への登録とは別のものであり、各首長国の税関当局(ドバイの場合はDubai Customs)に申請します。
特定品目の追加要件
食品、医薬品、化粧品、電気製品、化学物質、玩具などの特定品目については、関連省庁からの事前承認や適合証明書(CoC)の取得が必要になります。例えば食品の場合はDubai Municipalityの食品輸入許可、医薬品の場合はUAE Ministry of Health and Prevention(MoHAP)の承認、電気製品はEmirates Authority for Standardization and Metrology(ESMA/現MoIAT)の認証が必要です。
6. FTAと関税優遇措置
UAEは積極的にFTAおよびCEPA(包括的経済連携協定)を締結しており、特定の国からの輸入品については関税が減免されます。最新の締結状況はUAE Ministry of Economy – FTA公式および同 CEPA公式でご確認ください。
主なFTA・CEPA締結国・地域
- EFTA諸国:スイス、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタイン(GCC-EFTA FTA)
- シンガポール:GCC-シンガポールFTA
- GAFTA:アラブ自由貿易圏(17か国加盟)
- インド:CEPA(2022年5月発効)
- イスラエル:CEPA(2023年4月発効)
- インドネシア:CEPA(2023年9月発効)
- トルコ:CEPA(2023年9月発効)
- カンボジア:CEPA(2024年1月発効)
- ジョージア:CEPA(2024年6月発効)
- 韓国:CEPA(2024年5月署名、発効済)
UAEは過去3年で10件超のCEPAを矢継ぎ早に発効させており、特にインド向け再輸出スキームは関税優遇活用の好例です。これらのFTA・CEPAを活用するためには、原産地証明書(Certificate of Origin)を適切に取得し、輸入時に提出することが必要です。
7. 輸出時の関税について
UAEからの輸出については、原則として関税は課されません。これは輸出促進政策の一環であり、UAE企業の国際競争力を高めることを目的としています。
ただし、輸出先の国で関税が課される可能性はあるため、輸出先国の関税制度を事前に調査しておく必要があります。日本への輸出の場合は、日本の関税率表(実行関税率表)に基づいて関税が課されます。日本側の関税はHSコードと原産地に応じて算定され、日UAE間にはEPA/FTAが未締結のため、原則としてMFN税率が適用されます。
最後. まとめ
ドバイの標準関税率は5%と低水準であり、GCC域内取引やフリーゾーンの活用、FTA・CEPAの適用により、さらに関税負担を軽減できる可能性があります。重要ポイントを整理します。
- 標準関税はCIF価格の5%、酒類50%・たばこ100%等の例外あり。ドバイでは2025年1月から地方酒税30%が復活
- フリーゾーン活用:保税扱いで関税繰延、Designated ZoneならVATも有利。本土移送時に課税が発生する点に注意
- 再輸出スキーム:第三国向けに再輸出する限り関税・VATとも実質ゼロ。中東・アフリカ・アジア向け中継貿易の定番
- HS 12桁移行:2025年8月から段階的開始、2027年2月までに完全移行予定。フェーズに応じた適用範囲の把握が必要
- FTA・CEPAの活用:インド・トルコ・韓国・インドネシア等のCEPAは関税優遇の宝庫。原産地証明書の取得が前提
一方で、HSコードの正確な分類、必要書類の整備、特定品目の規制対応など、実務上の注意点も多岐にわたります。関税の過払いや通関トラブルを避けるためには、事前の十分な準備と専門家への相談が重要です。
当事務所では、ドバイでの輸出入ビジネスに関する税務相談や、フリーゾーン活用のアドバイス、HSコード分類サポート、各種申請手続きのサポートを提供しております。関税に関するご質問や、輸出入ビジネスの立ち上げをご検討の方は、お気軽にご相談ください。
