ドバイで持株会社を立ち上げて日本側の株式譲渡益を節税することは可能なのか

投稿:2026年1月25日更新:2026年1月26日ブログ

「ドバイに持株会社を設立して、日本の会社の株式をそこに移転すれば、将来の株式譲渡益に対する税金を回避できるのでは?」という相談を受けることが増えています。確かにUAEは法人税率が9%と低く、個人所得税もゼロであることから、一見すると魅力的なスキームに思えます。

本記事では、日本の税制がどのようにこうした租税回避スキームに対抗しているのか、そして実務上どのような点に注意すべきなのかを詳しく解説していきます。

ドバイのビジネスディストリクト

ドバイ持株会社スキームとは何か

ドバイ持株会社を活用した節税スキームとは、一般的に以下のような流れで構想されます。

①日本在住の経営者が、ドバイ(UAE)に持株会社を設立する

②日本の事業会社の株式を個人からドバイの持株会社に譲渡または現物出資する

③その経営者自身がUAEに移住し、非居住者になる

将来的に事業をエグジットする際には、ドバイの持株会社が日本の事業会社の株式を第三者に譲渡することで、日本側の課税を防ぎ譲渡益に対する課税を最小限に抑えようとするものです。

このスキームの前提として、UAEでは個人所得税がゼロであり、法人税も9%と日本の実効税率約30%と比較して大幅に低いという点があります。さらにUAEから日本への配当には源泉徴収税がかからないため、一見すると非常に有利に見えるのです。

日本の税制が用意する4つの防衛線

日本の税制は、このような租税回避スキームに対して複数の防衛線を用意しています。それぞれを詳しく見ていきましょう。

出国税(国外転出時課税制度)

最初の関門は、出国時に発生する出国税です。日本から海外に移住する際、1億円以上の有価証券等を保有している場合、出国時点で含み益に対して課税される仕組みです。

具体的には、以下の2つの要件を満たす場合に適用されます。

この制度により、たとえドバイに移住してから株式を譲渡したとしても、出国時点で15.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%)の税金が課されます。住民税は課税されないため、住民税相当額(5%)のみが節税効果となりますが、これは当初期待していた大幅な節税とは程遠い結果です。

ただし、一時的な海外赴任の場合には納税猶予制度があり、帰国後に適用を受けることができるのと、出国前に株式を譲渡してしまえば本法律の適用はありません。

事業譲渡類似株式の譲渡課税

出国税を何とかクリアしたとしても、次に待ち構えているのが事業譲渡類似株式に対する課税です。

非居住者もしくは外国法人が日本の会社の株式を譲渡する場合、原則として日本での課税は行われません。しかし、一定の大口株主による株式譲渡については、事業そのものを譲渡したのと同視できることから、例外的に日本で課税されます。

事業譲渡類似株式に該当する要件:

つまり、日本の事業会社のオーナー経営者がドバイに移住し、ドバイの持株会社を通じて株式を譲渡する場合、ほぼ確実にこの要件に該当してしまいます。

グラフとデータ分析

日本・UAE租税条約による課税取扱い

ドバイへの移住を検討する際、多くの経営者が「租税条約により免税になるのではないか」と期待します。しかし、日本・UAE租税条約では、事業譲渡類似株式に関する取扱いは国によって異なっています。

日本・UAE租税条約第13条3項では、事業譲渡類似株式の譲渡について以下のように規定されています:

譲渡者(および関連者の保有を含む)が譲渡年において発行済み株式の25%以上を保有し、かつ譲渡年に5%以上の株式を譲渡した場合には、日本は源泉地国として課税することができるとされています。つまり、日本での課税が認められているのです。

取扱い 日本での課税
UAE 源泉地国課税(25%以上保有・5%以上譲渡時) 課税される
香港 居住地国課税 非課税
アメリカ 居住地国課税 非課税
シンガポール 源泉地国課税 課税される

一方、香港やアメリカとの租税条約では異なります。香港の場合は事業譲渡類似株式について居住地国課税と明記されており、日本での課税は免除されます。アメリカとの租税条約でも同様に居住地国課税となっています。

このように、UAE・日本租税条約はシンガポール・日本租税条約と同様に、源泉地国課税を認める厳格な取扱いになっているのです。これは投資家にとって不利な条約となっており、単純な租税回避スキームとしてドバイを活用することはできません。

タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)

この制度は、税率が著しく低い国に設立された外国子会社の所得を、日本の親会社または株主の所得とみなして日本で課税する制度です。UAEの法人税率は9%であり、トリガー税率(20%または27%)を下回るため、この税制の検討対象となります。

対象となる外国関係会社の要件:

特定外国関係会社と経済活動基準

外国関係会社は、特定外国関係会社とそれ以外に分類されます。特定外国関係会社に該当する場合、全所得が日本で合算課税されます。特定外国関係会社とは、ペーパーカンパニー、キャッシュボックス、ブラックリストカンパニーのいずれかに該当する会社です。

実体のある持株会社であれば、経済活動基準を満たすことで合算課税を回避できる可能性があります。経済活動基準は以下の4つから構成されます:

基準の種類 要件
事業基準 主たる事業が株式・債券の保有、知的財産権の提供、航空機・船舶のリース業以外
実体基準 本店所在地国で主たる事業を行うための事務所等があること(形式的ではなく、事業を行うに必要十分)
管理支配基準 本店所在地国で事業の管理・支配・運営を自ら行っていること
所在地国基準・非関連者基準 いずれかを満たす必要(業種によって異なる)

形式的にドバイに持株会社を設立しただけでは、この特例の適用は困難です。実際の裁判例では、ドバイ法人が形式的な存在に過ぎず、租税回避目的と認定され、課税された事例があります。

不動産化体株式

日本の事業会社が不動産を多く保有している場合、さらに別の課税リスクがあります。不動産化体株式とは、総資産に占める日本国内の不動産等の価額が50%以上である法人の株式です。非居住者がこのような株式を譲渡した場合、日本で課税されます。

この規定は租税条約においても多くの場合認められており、UAEとの租税条約でも適用される可能性があります。不動産投資目的でドバイ法人を設立するケースでは、特に注意が必要です。

UAE法人税の対応

ドバイ持株会社設立の実務上の問題点

税制面の問題以外にも、ドバイ持株会社を設立する際には様々な実務上の課題があります。

UAE法人税の実務対応

2023年6月からUAEでも法人税が導入され、実務上の対応が必要になっています。

経済的実体要件(ESR)

UAEでは経済的実体規則(Economic Substance Regulations)が導入されており、持株会社活動も対象となっています。

具体的には、以下の要件が求められます:

これらの要件を満たさない場合、課税上の問題だけでなく、ライセンスの停止等のリスクもあります。

移転価格税制への対応

ドバイ持株会社と日本の事業会社との間で取引を行う場合、移転価格税制への対応が必要です。独立企業間価格での取引が求められ、不適切な価格設定は日本側で所得の更正を受けるリスクがあります。グループ間取引がある場合は、移転価格文書化が必須となります。

日本側での配当の取扱い

ドバイ持株会社から日本親会社への配当については、一定の要件を満たせば95%が益金不算入となります。要件は、持株比率25%以上かつ保有期間6ヶ月以上です。ただし、外国子会社合算税制の対象となる場合は、この優遇措置も意味を失います。

持株会社を用いた節税スキームの否認事例

国内でも、持株会社を用いた節税スキームが税務署に否認された事例が増えています。相続税対策として、融資を受けて持株会社を設立し、既存会社の株式を買い取るスキームが一時期流行しました。しかし、相続税法64条の「不当に株式の金額が下がっている場合」に該当するとして、多くのケースで否認されています。

節税目的のみで実体のない持株会社を設立することは、租税回避行為とみなされるリスクが高いのです。ドバイ持株会社についても、同様の視点で税務当局は審査すると考えられます。

では、ドバイ持株会社は全く意味がないのか

ここまで読むと、ドバイ持株会社は全く意味がないように思えるかもしれません。しかし、実際に事業実体があり、経済合理性のある形で運営される場合には、有効な選択肢となり得ます。

正当な事業目的がある場合

中東・アフリカ地域への事業展開の拠点として、ドバイに統括会社を設置することは経済合理性があります。複数の国にまたがる子会社を効率的に管理し、グループ全体の経営戦略を推進する役割を果たすのであれば、タックスヘイブン対策税制の経済活動基準を満たす可能性が高まります。

実際にドバイで従業員を雇用し、現地で経営判断を行い、事業活動を行うのであれば、単なる租税回避スキームとはみなされにくくなります。

配当による利益還流の効率性

実体のあるUAE子会社からの配当は、税制上非常に有利です。UAE側では配当源泉税が0%であり、日本側では95%が益金不算入となるため、実効税負担率を大幅に下げることができます。ただし、これはあくまで外国子会社合算税制の対象とならない場合の話です。つまり、経済活動基準を満たす実体のある事業を行っていることが前提となります。

節税ありきのスキームは危険

ドバイに持株会社を立ち上げて日本側の株式譲渡の節税を図ることは可能なのかという問いに対する答えは、「単純な節税目的だけであれば、ほぼ不可能であり、むしろリスクが高い」というものです。

日本の税制は、出国税、事業譲渡類似株式課税、タックスヘイブン対策税制という三重の防衛線を用意しており、UAE・日本租税条約も源泉地国課税を認める厳格なものになっています。さらにUAE側でも法人税の導入や経済的実体要件により、形式的なペーパーカンパニーの設立は困難になっています。

一方で、実際に中東・アフリカ地域での事業展開を計画しており、ドバイを拠点とすることに経済合理性がある場合には、適切に設計された持株会社は有効な選択肢となり得ます。重要なのは、節税ありきではなく、事業実体と経済合理性を第一に考えることです。

まとめ

ドバイ持株会社を活用した株式譲渡の節税について、以下の点を押さえておく必要があります。

課税項目 内容 税率・対応
出国時の課税 1億円以上の有価証券を保有する場合 出国税(15.315%)
非居住者による株式譲渡 大口株主による譲渡 事業譲渡類似株式として課税(15.315%)
UAE租税条約 25%以上保有・5%以上譲渡時 源泉地国課税で日本での課税が認められる
タックスヘイブン対策税制 実体のない持株会社の所得 日本で合算課税(最高55%)
UAE側の対応 法人税申告、監査済み財務諸表、経済的実体要件 必須対応
ドバイ持株会社の活用 正当な事業目的で実体を伴う運営 有効な選択肢となり得る

国際税務は非常に複雑であり、個別の事情により取扱いが大きく異なります。ドバイでの法人設立や日本の株式譲渡に関する税務については、必ず国際税務に精通した専門家にご相談ください。当会計事務所では、UAEと日本の両方の税制を踏まえた総合的なアドバイスを提供しております。お気軽にお問い合わせください。

 このブログを書いた人

税理士・公認会計士(日本・UAE)。ドバイ在住。日本とドバイで会計事務所を経営しています。税務顧問や会計監査、ドバイへの移住支援を行っています。

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