ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。
UAEの法人税法では、一会計期間に法人が獲得した利益(課税所得)の9%が法人税となります。そのため、利益が大きければ大きいほど、それに従って法人税の負担も増加していくことになります。
一方で、UAEでは個人に対する所得税はいまだ0%であることから、「売上で得た収入をすべて役員報酬や配当に回してしまい、会社の手元に残る金額をゼロにすれば、法人税はかからないのではないか?」という相談を、当事務所でも頻繁にお受けします。
実際のところ、役員報酬や配当を通じて利益をゼロにすることで、法人税を完全に回避することは可能なのでしょうか。本記事では、日本における過去の規制の歴史を踏まえつつ、UAE法人税法(Federal Decree-Law No. 47 of 2022)における関係者取引(Connected Person)の規定と、損金不算入のルールを実務目線で解説します。
1. 日本における役員報酬・配当規制の歴史
UAE(アラブ首長国連邦)では2023年6月から法人税が施行されましたが、まだ施行から3年程度の出来て間もない制度です。一方、日本では1899年(明治32年)の所得税法改正により法人への課税が始まり、1940年に独立した法人税法が制定されて以来、120年以上の歴史を持っています。
UAEで今後行われるであろう節税スキームや租税回避行為は、かつて日本でも行われ、その都度法改正によって対策されてきた可能性が高く、UAEでも同様に法規制が段階的に強化されていくことが想定されます。
日本における役員給与の3類型(損金算入要件)
役員報酬とは、取締役などの役員に対する給与であり、特にオーナー企業(会社の所有者と経営者が一致している会社)の場合、非常に調整がしやすい経費(損金)項目です。日本では、役員報酬を恣意的に調整して不当に法人税を減らすことを防止するため、以下いずれかに該当する報酬のみ損金計上を認めるという厳格な規制を設けています(国税庁タックスアンサー No.5211 役員に対する給与)。
| 類型 | 内容 | 条文 |
| ①定期同額給与 | 毎月決まった金額(同額)の役員報酬。増減する部分は損金不算入。 | 法人税法34条1項1号 |
| ②事前確定届出給与 | 税務署に支払金額と時期を事前に届け出を行い、その通りに支払いを行った場合は損金算入を認める。 | 法人税法34条1項2号 |
| ③業績連動給与 | 利益等の客観的指標に連動する給与(同族会社では原則使えない)。 | 法人税法34条1項3号 |
上記3類型から逸脱した役員への支払いは損金不算入となり、加えて「不相当に高額な部分」も損金不算入とされる二段構えの規制が存在します(法人税法34条2項)。
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なお、配当の支払いに関しては、法人税を支払った後の剰余金を原資とすることから、そもそも損金として計上することが認められていません。これは「法人段階で課税、配当時に個人段階で再課税」という日本型の二重課税構造の前提となっています。
2. UAEにおける配当の取扱い(法人税法第28条)
UAE法人税法でも、配当の支払いに関してはオーナー(株主)に対する配当の支払いは、その全額が損金不算入と明示されています(UAE法人税法 第28条(2)(d))。
条文上は「Dividends, profit distributions or similar benefits paid to an owner of the Taxable Person」と規定されており、法人格を通じた利益分配は損金処理できないことが明確化されています。したがって、配当を出すこと自体は法人税の節税策にはなりません。
個人所得税が0%だからといって、配当で利益を抜くと「法人税9%課税後の利益」からの分配となるため、結局9%の法人税負担は残ります。
3. UAEにおけるConnected Person規定(法人税法第36条)
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では、配当ではなく役員報酬として個人に支払えば良いのか、という発想が当然出てきます。しかし、UAE法人税法では役員報酬を上限なく個人に支払い出すことも難しくなっています。
会社の役員(Director・Officer)、株主、およびその親族は、UAE法人税法において「関係者(Connected Person)」に該当し、関係者に対する支払いは市場価格(Market Value / Arm’s Length価格)を超える部分について損金不算入と明記されています(UAE法人税法 第36条1項・2項)。
Connected Personの範囲
| 区分 | 具体例 |
| ①Owner(オーナー) | 直接・間接の持分保有者 |
| ②Director / Officer | 取締役・役員 |
| ③Related Party of ①② | ①②の親族(4親等以内)や支配下にある法人 |
| ④Partnership Partner | 無限責任パートナーシップの構成員 |
そして、これら関係者に対する支払いについては、Ministerial Decision No. 97 of 2023により、「Market Valueでの取引であることを証明する書類(合理性・職務内容・市場相場との比較資料等)」を保管しておく義務が課されています。
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4. 「いくらまでなら役員報酬として認められるか」の実務
UAEの法人税制度はまだ始まったばかりで、役員報酬の時価(Market Value)が個別具体的に定まっているわけではありません。しかし、FTAが公表しているCorporate Tax General Guideでは、Connected Personへの支払いの妥当性判断において以下の要素を考慮するとしています。
- 役員の職務内容・責任範囲・実働時間
- 同業他社・同規模法人の役員報酬水準
- 役員の経験・専門資格・市場価値
- 会社の業績・規模との整合性
- 第三者(独立した立場の人物)への支払いとの比較
FTAによる本格的な税務調査が今後進むにつれて、過去事例や判例の蓄積により役員報酬の「相場感」が定まっていくものと考えられます(参考:PwC Worldwide Tax Summaries「UAE – Group taxation(Connected Persons)」、KPMG「UAE Corporate Tax Guide on the Determination of Taxable Income」)。
現時点では過去事例が明確でないため、比較的多額の役員報酬を支払っても直ちに否認される可能性は低いとも考えられますが、税務調査で指摘された場合は否認額×9%の追加法人税に加え、罰金や延滞税が課されるリスクがあります。
会社としては、役員報酬の算定根拠(職務内容、業界相場、業績連動性等)を文書化し、Connected Person取引としての適正性を後日立証できる状態にしておくことが重要です。
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5. WPSとの併用による形式整備
役員報酬をConnected Person取引として適正に支払うためには、形式面でも整備が必要です。具体的には、雇用契約書(Employment Contract)の締結、MOHRE(人材・エミラタイゼーション省)または各フリーゾーンの労働局への登録、WPS(賃金保護システム)を経由した銀行振込、給与計算記録の保管などが求められます。
これらを満たさず「現金で都度払い」「契約書なし」のような形態だと、たとえ金額が市場価格内であっても、損金性自体を否認されるリスクが高まります。
6. 日本の税理士が見るUAEの今後
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日本では、役員報酬の損金性を巡って数多くの判例(京醍醐味噌事件・残波事件等)が積み重ねられ、それを受けて法令も整備されてきました。UAEは今まさに「制度の運用初期」のフェーズにあり、今後10年程度をかけて、税務調査・行政裁決・判例を通じて実務基準が形成されていく段階にあります。
納税者としては、「今は調査が入っていないから大丈夫」ではなく、「将来の調査に備えて今から証憑を残す」という姿勢が、UAE法人税の長期的なリスク管理として最も重要です。
最後の章. まとめ
📋 本記事のポイント
- UAE法人税法上、株主への配当は全額損金不算入(第28条(2)(d))。配当による節税は不可能。
- 役員・株主・親族は「Connected Person」に該当し、市場価格を超える支払いは損金不算入(第36条)。
- Ministerial Decision No. 97/2023により、Connected Person取引の妥当性を立証する書類保管義務がある。
- 日本の役員給与3類型(定期同額・事前確定届出・業績連動)のような厳格な形式要件は現時点では未整備だが、税務調査の蓄積により今後整備が進む見込み。
- 役員報酬は雇用契約・WPS経由の支払い・算定根拠の文書化をセットで整備することが実務上の要点。
「個人所得税が0%だから役員報酬でいくらでも抜ける」「配当に回せば法人税はかからない」という単純な理解は、UAE法人税法のもとでは成り立ちません。配当は損金不算入、役員報酬はConnected Person規定の網がかかっており、いずれも「利益ゼロで法人税ゼロ」という結果にはなりません。
当事務所では、日本の税理士法人運営の経験とUAE現地の実務知見を組み合わせ、Connected Person取引の妥当性立証、役員報酬水準の設計、WPS等の形式整備までワンストップでサポートしております。役員報酬・配当設計や法人税申告に不安がある方は、当事務所までお気軽にご相談ください。
根拠法令・参考資料
- UAE Federal Decree-Law No. 47 of 2022(法人税法)第28条・第36条
- Ministerial Decision No. 97 of 2023(Connected Persons関連)
- FTA「Corporate Tax General Guide」(CTGGCT1)
- 日本 法人税法 第34条(役員給与の損金不算入)
※本記事は2026年5月時点の法令・実務に基づいて執筆しています。法令改正やFTAガイドラインの更新により取扱いが変わる可能性がありますので、実際の判断にあたっては最新の公的情報をご確認いただくか、当事務所までご相談ください。
