ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。
アラブ首長国連邦(UAE)では一定の事業を除き、長年にわたって法人税や所得税などほとんどの税金が免除されてきました。2018年にVAT(付加価値税)が導入され、続いて2023年6月から法人税が施行されたことで、UAEの税務環境は大きな転換点を迎えています。
法人税導入後、ドバイで会社を経営している中小企業にとって、必要な準備や対策はあるのでしょうか。結論から申し上げると、法人税導入後も税金の支払いゼロを維持することは可能ですが、法人税の申告は原則として必ず必要となります。そのため、会計帳簿の作成は全法人で必須となりました。本記事では、2026年5月時点の制度をもとに、必要な手続きと帳簿保存ルールを整理します。
1. 法人税開始前まで求められていた手続
2023年6月以前は、UAEで事業を行う個人事業主や法人にとって、会計といえば基本的にVATの計算のみを考慮すればよく、事務的な負担は限定的でした。
VATの登録要否と免除申請
VATの登録要否は、売上高(課税売上高)に応じて次のように整理されます。
| 区分 | 基準 | 取扱い |
| 強制登録 | 年間課税売上 AED 375,000超 | 登録・申告必須 |
| 任意登録 | 年間課税売上 AED 187,500〜375,000 | 登録を選択可能 |
| 登録不要 | 年間課税売上 AED 187,500未満 | 登録・申告不要 |
コンサルティング業務やインターネット・ビジネスを行う法人で、売上のすべて(または大部分)がゼロ税率対象の輸出取引である場合、VAT登録は必要なものの、Exception from VAT Registration(登録免除申請)をFTA(連邦税務局)に申請することで、申告義務を免除してもらうことができました。これは「税金そのものが免除される」のではなく、「登録・申告手続きの免除を受けられる」制度です。
UBO・ESRなどのコンプライアンス
VAT以外の手続きとしては、UBO(最終受益者)やESR(経済実体規制)の届出義務がありました。いずれも年に1度の提出が中心で、負担はそれほど大きくありませんでした。
もっとも、現在は状況が変わっています。ESRは2022年12月31日以降に終了する会計期間について完全に廃止されました(Cabinet Decision No. 98 of 2024)。一方UBOは継続中であり、2023年に新ルールへ更新されています。
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フリーゾーンの会計監査要件(旧制度)
会社のライセンス更新の際に、会計監査済の財務諸表を提出させるフリーゾーンに会社を設立している場合に限り、会計期間の帳簿を作成し、会計監査を受けたうえで提出する必要がありました。ただし、こうしたフリーゾーンは日本からの移住者には不人気で、実際にここに法人設立をされる方はほとんどおられなかったというのが実感です。
以上を整理すると、売上高が次のいずれかの条件を満たす場合は、VATの申告・納税ともに不要となり、会計帳簿の作成や決算も実務上は不要でした。
| 条件 | 内容 |
| ① | 一会計期間における売上高がAED 375,000未満である場合 |
| ② | 一会計期間における売上高のほぼ全てがゼロ税率輸出取引で、Exception from VAT Registrationが認められた場合 |
言い換えると、売上高がAED 375,000を超える会社で、かつUAE国内に売上のある(VATを受け取っている)会社だけが、会計帳簿を作成して保管しておく必要があった、ということになります。
2. 法人税開始後に求められる手続
2023年6月以降、UAEに設立されているすべての法人が原則として納税義務者(Taxable Person)となり、法人税の申告納税が義務付けられることとなりました。Federal Decree-Law No. 47 of 2022(UAE法人税法 公式PDF)がその根拠法令です。詳細な制度内容はUAE FTA – Corporate Tax公式ポータルでも確認できます。
これによって、売上高や従業員数に関わらず、原則すべての法人が法人税の申告対象となります。なお、Exempt Person(免税対象者)として政府機関、政府支配事業体、抽出事業、非抽出天然資源事業、適格公益事業体、適格投資ファンド等が定められていますが、これらは限定的な範囲です。
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法人税登録の義務
2024年3月以降、すべての課税対象者はEmaraTaxポータル経由で法人税登録(CT登録)を行う必要があります。登録期限はFTA Decision No. 3 of 2024により事業者カテゴリごとに定められており(KPMG – 法人税登録期限解説)、期限超過の場合はAED 10,000の行政罰金が科されます。
税率構造とSmall Business Relief
UAE法人税の税率構造は次のとおりです。
| 区分 | 税率 | 申告 |
| 課税所得AED 375,000以下 | 0% | 必要 |
| 課税所得AED 375,000超 | 9% | 申告・納税必要 |
| QFZP適用フリーゾーン法人(適格所得) | 0% | 申告必要 |
| QFZP非適格所得 | 9% | 申告・納税必要 |
また、小規模事業者を救済するための施策として、Small Business Relief(SBR)制度が設けられています。SBRを選択した場合、課税所得の多寡にかかわらずその課税期間の課税所得をゼロとみなす取扱いとなります。要件と期間は次のとおりです(Small Business Relief UAE 2026終了解説)。
- UAE居住者であること
- 当該課税期間および2023年6月1日以降のすべての過去課税期間の売上高がAED 300万以下であること
- QFZP(適格フリーゾーン法人)でないこと
- 多国籍企業グループ(MNE)の構成員でないこと
- 法人税申告書でSBRを選択(Election)すること
注意点として、SBRは2026年12月31日に終了する課税期間が最後の適用対象です。延長は発表されておらず、2027年以降は通常の法人税ルールに戻ります。SBR適用期間内であっても、申告自体は必須です。
課税の取扱いまとめ
これらを整理すると、ドバイ法人の課税の取扱いは次のように整理できます。
| 条件 | 法人税率 | 申告 |
| 課税所得AED 375,000未満 | 0% | 必要 |
| 売上AED 300万以下でSBR選択(2026年まで) | 0%(課税所得ゼロ扱い) | 必要 |
| 課税所得AED 375,000超/売上AED 300万超 | 9%(超過部分) | 申告・納税ともに必要 |
つまり、課税所得や売上高の多寡に関わらず、今後はすべての中小企業が会計帳簿を作成し、財務諸表および法人税申告書を作成することが必要となります。
3. 法人税の申告期限と遅延ペナルティ
法人税の申告期限は会計期間終了日から9か月以内です。例えば、12月決算の法人であれば、翌年9月30日までに申告・納税を完了する必要があります。
| 違反内容 | ペナルティ |
| 法人税登録の遅延 | AED 10,000 |
| 申告の遅延 | 最初の12か月: AED 500/月、以降AED 1,000/月 |
| 納税の遅延 | 未納税額に対し年14%(月割計算) |
| 記帳・帳簿保管義務違反 | 初回AED 10,000、24か月以内の再違反AED 20,000 |
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4. 会計帳簿の保存期間と要件
UAE法人税法(Federal Decree-Law No. 47 of 2022)第56条では、課税対象者は申告内容を裏付けるすべての記録・書類を保管する義務を負うと規定されています。
保存期間の整理
| 対象記録 | 保存期間 | 根拠 |
| 法人税関連記録 | 7年間 | FDL 47/2022 第56条 |
| VAT関連記録 | 5年間 | Tax Procedures Law |
| 不動産取引記録 | 15年間 | Tax Procedures Law |
| 資本資産記録 | 10年間 | Tax Procedures Law |
記録維持の要件
UAE記録保存期間ガイドに整理されている主要要件は次のとおりです。
- 言語: 記録はアラビア語または英語で保管。それ以外の言語の場合、FTAの要求により納税者負担で翻訳が必要
- 保管場所: 原則としてUAE国内に保管し、FTAからの要請時にすぐに提示可能であること
- 形式: 電子記録での保管が認められるが、改ざん不可で安全に保管され、可読性が確保されていること
- 監査時の延長: FTA監査が行われた場合、その対象期間の記録は監査終了後さらに1年間追加保存が必要
記録すべき書類の範囲
法人税申告を裏付けるために、以下の書類を体系的に整備・保管する必要があります。
- 財務諸表(IFRSまたはIFRS for SMEs準拠)
- 総勘定元帳、補助元帳
- 売上請求書、購入請求書
- 銀行取引明細、契約書
- 会計利益から課税所得への調整明細書(Book-to-Tax Reconciliation)
- すべての損金算入経費を裏付ける書類
- SBR、QFZP等の税制優遇適用を裏付ける書類
- 移転価格文書(Master File、Local File)— 該当する場合
- 関連者間取引の記録
5. 会計監査義務の対象
法人税導入と並行して、会計監査義務の範囲も整理されています。Ministerial Decision No. 84 of 2025等により、次の法人については監査済財務諸表の作成が義務となります。
- 年間売上高がAED 5,000万超の法人
- QFZP(適格フリーゾーン法人)として0%税率の適用を受ける法人
- 各フリーゾーンが独自に監査済財務諸表の提出を求める法人(DMCC、DAFZA、JAFZA等の一部フリーゾーン)
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上記に該当しない法人であっても、課税所得計算の正確性確保や対外信頼性のため、自主的に監査を受けるケースも増えています。
6. 中小法人が今すぐ取り組むべき準備
法人税導入後の環境で、中小法人が早期に整備しておくべき項目を整理します。
| 区分 | 具体的なタスク |
| 登録 | EmaraTaxでの法人税登録(CT TRN取得)を期限内に完了 |
| 会計システム | IFRS準拠の会計ソフト(Zoho Books、QuickBooks、Xero等)を導入 |
| 会計期間 | 定款・MoA上の会計期間を確認し、申告期限を把握 |
| SBR選択判断 | 売上AED 300万以下の法人はSBR選択の損益を試算(2026年12月31日終了期まで) |
| QFZP判定 | フリーゾーン法人はQFZP適格要件の充足状況を確認 |
| UBO・コンプラ | UBO登録簿の最新化、年次リスクアセスメント実施 |
| 記録保管体制 | 7年間の電子保管体制構築(バックアップ含む) |
| 監査要否 | 売上高・QFZP判定・フリーゾーン規則に基づき監査要否を判定 |
最後の章. まとめ
📋 本記事のポイント
- 2023年6月以降、UAE全法人が法人税の納税義務者となり、申告が必須化
- 課税所得AED 375,000以下は税率0%だが申告は必要
- Small Business Relief(売上AED 300万以下)は2026年12月31日終了期で終了、2027年以降適用不可
- SBR適用も「選択制」であり、申告書での明示的なElectionが必要
- 法人税登録の遅延はAED 10,000の罰金
- 申告期限は会計期間終了日から9か月以内
- 法人税関連記録は7年間保存(不動産は15年、資本資産は10年)
- 売上AED 5,000万超またはQFZP適用法人は監査済財務諸表の作成が義務
今後はUAEのすべての法人で会計帳簿の作成・保管が必須となります。ドバイの税金がゼロであることのメリットを感じ、これまで会計処理を十分に行っていなかった法人についても、適切な会計帳簿の作成とFTAへの届出が不可欠です。
会計資料の作成は手間がかかる側面がある一方で、整備された会計情報を経営に生かすことで売上や利益を増やすきっかけが得られることもあります。また、会計資料の作成は必須となりましたが、SBR、QFZP、AED 375,000の基礎控除等を適切に活用することで、引き続き法人税負担を低く抑えることは十分可能です。会計帳簿の整備、法人税の申告、監査対応、QFZP判定、SBR選択判断などにご不安をお持ちの方は、当事務所までお気軽にご相談ください。
【根拠法令・出典】
- Federal Decree-Law No. 47 of 2022(UAE法人税法)— 特に第56条(記録保管義務)
- FTA Decision No. 3 of 2024(法人税登録期限)
- Cabinet Decision No. 10 of 2024(登録遅延ペナルティ)
- Cabinet Decision No. 73 of 2023(Small Business Relief)
- Ministerial Decision No. 84 of 2025(監査済財務諸表作成義務)
- Federal Tax Authority Corporate Tax Guide および公式ポータル
※本記事は2026年5月時点の法令・規則に基づき作成しています。最新の運用状況については当局公表情報および専門家にご確認ください。
