UAEに移住してきた方の中には、日本で行っていた「つみたてNISA」や「iDeCo」が利用できなくなり、どのように資産形成を続けていけばよいか悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
海外に住民票を移すと日本の証券口座は原則として利用制限がかかり、NISAなどの非課税制度も使えなくなります。また、日本の証券会社を通じて米国株やETFに投資していた場合も、非居住者となった時点で取引が停止されてしまうケースがほとんどです。
そんなドバイ居住者にとって、アイルランド籍のETFは非常に有効な選択肢となります。本記事では、なぜドバイ居住者がアイルランド籍ETFを活用すべきなのか、税務面のメリットを中心に詳しく解説していきます。
ドバイ:世界的な金融ハブとしての地位
ドバイ居住者の投資環境と税制上の優位性
UAEには個人所得税が存在しない
まず大前提として、UAEでは個人の給与所得やキャピタルゲインに対する所得税が課されません。2023年6月から法人税が導入されましたが、これは法人に対するものであり、個人投資家がETFや株式を売買して得た利益には影響しません。
具体的には、以下の所得がUAE側では非課税となります。
- 株式の売却益(キャピタルゲイン)
- 株式配当
- 投資信託やETFの分配金
つまり、ドバイ居住者は投資で得た利益を100%手元に残すことができるという、世界的に見ても非常に恵まれた環境にあります。
問題は「配当の源泉徴収」にある
しかし、ここで注意すべき点があります。
UAEでは確かにキャピタルゲインや配当に課税されませんが、投資先の国で源泉徴収される税金は別の話です。たとえば、米国株や米国籍のETF(VOOやVTIなど)に投資した場合、配当金に対して米国側で30%が源泉徴収されてしまいます。
UAEは米国と租税条約を締結していないため、日本居住者のように10%の軽減税率が適用されることはありません。配当を受け取る時点で、すでに30%が差し引かれた状態で手元に届くことになります。
アイルランド籍ETFとは何か
アイルランド:世界のETF設定地の約45%
アイルランドがETFの世界的ハブとなった背景
アイルランドは、米国外におけるETFの世界最大の設定地(Domicile)として知られています。その理由は主に以下の3点です。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 米国との租税条約 | 米国株の配当に対する源泉徴収税率が15%に軽減 |
| アイルランド国内の課税 | 非居住者への配当課税がゼロ |
| 租税条約ネットワーク | 75カ国以上と租税条約を締結 |
iShares(ブラックロック)、Vanguard、SPDRといった世界的な資産運用会社が、欧州向けのETFをアイルランドで設定しているのはこのためです。
UCITSとは
アイルランド籍ETFの多くはUCITS(ユーシッツ)という欧州の規制に準拠しています。これは「Undertakings for Collective Investment in Transferable Securities」の略で、欧州連合が定める投資信託の統一基準です。
商品名に「UCITS ETF」と記載されていれば、アイルランド籍である可能性が高いと考えてよいでしょう。
なぜドバイ居住者はアイルランド籍ETFを選ぶべきなのか
1. 配当への源泉徴収税が30%から15%に半減する
米国籍ETF(たとえばVOOやIVV)を直接保有すると、UAEの投資家は配当に対して30%の源泉徴収税を負担することになります。一方、アイルランド籍ETFを通じて米国株に投資すると、アイルランドと米国の租税条約により、ETFが受け取る配当への源泉徴収税は15%に軽減されます。
さらに重要な点として、アイルランドは非居住者への分配金に対して追加の源泉徴収を行いません。つまり、ドバイ居住者がアイルランド籍ETFから分配金を受け取る場合、最終的に負担する税金は米国で課される15%のみとなります。
【源泉徴収税の比較】
| 投資対象 | 源泉徴収税率 (UAE居住者) |
手取り割合 |
|---|---|---|
| 米国籍ETF (VOO、VTI等) |
30% | 70% |
| アイルランド籍ETF (CSPX、VUAA等) |
15% | 85% |
この15%の差は、長期投資において非常に大きな影響を与えます。
2. 米国遺産税のリスクを回避できる
ドバイ居住者にとってあまり知られていないリスクが、米国の遺産税(Estate Tax)です。
米国籍のETFや米国株を直接保有している非米国居住者が死亡した場合、その米国資産に対して最大40%の遺産税が課される可能性があります。しかも、非居住者に与えられる基礎控除額はわずか60,000ドル(約900万円)しかありません。
例えば10万ドル相当の米国籍ETFを保有していた場合、控除額を超える4万ドルに対して最大40%の税率が適用され、約16,000ドルの遺産税が発生することになります。
一方、アイルランド籍ETFは米国遺産税の課税対象外です。アイルランド籍ETFを通じて間接的に米国株を保有する形になるため、米国の税務当局から見ると「米国内資産」には該当しないからです。
これは単なる節税の話ではなく、相続発生時に家族が米国の税務当局と対峙しなければならないリスクを回避できるという意味で、非常に重要なポイントです。
3. 蓄積型(Accumulating)ETFで複利効果を最大化できる
アイルランド籍ETFには、配当を自動的に再投資する蓄積型(Accumulating)と、配当を投資家に分配する分配型(Distributing)の2種類があります。
蓄積型ETFを選ぶメリットは以下の通りです。
- 配当が自動的に再投資されるため、複利効果が最大化される
- 配当の受け取りがないため、UAEでも投資家側での税務手続きが不要
- 証券会社での源泉徴収処理も発生せず、管理がシンプル
日本でいう「分配金再投資型」の投資信託に近いイメージですが、ETFの形式でこれが実現できるのは大きな利点です。長期の資産形成を目的とするドバイ居住者には、蓄積型のアイルランド籍ETFが最適な選択肢といえるでしょう。
代表的なアイルランド籍ETFの一覧
以下は、ドバイ居住者が活用できる代表的なアイルランド籍ETFの一覧です。いずれもアイルランドを籍地とし、UCITS規制に準拠しています。
【S&P500連動ETF】
| ETF名 | ティッカー | 経費率 | 分配方針 |
|---|---|---|---|
| iShares Core S&P 500 UCITS ETF | CSPX | 0.07% | 蓄積型 |
| Vanguard S&P 500 UCITS ETF | VUAA | 0.07% | 蓄積型 |
| Invesco S&P 500 UCITS ETF | SPXS | 0.05% | 蓄積型 |
【全世界株式(オールカントリー)連動ETF】
| ETF名 | ティッカー | 経費率 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| Vanguard FTSE All-World UCITS ETF | VWRA | 0.22% | 先進国+新興国 約3,700銘柄 |
| iShares Core MSCI World UCITS ETF | IWDA | 0.20% | 先進国約1,500銘柄 |
| SPDR MSCI World UCITS ETF | SWRD | 0.12% | 先進国、経費率 最安クラス |
長期の資産形成を目的とする場合、VWRAやIWDAのような全世界分散型のETFを軸に据え、必要に応じてCSPXやVUAAのような米国集中型を組み合わせるのが一般的な戦略です。
実際のコスト比較シミュレーション
では、米国籍ETFとアイルランド籍ETFで、長期的にどの程度のコスト差が生じるのかをシミュレーションしてみましょう。
前提条件
- 投資額:100,000ドル
- 年間配当利回り:1.5%
- 経費率:VOO 0.03%、VUAA 0.07%
- 投資期間:20年間
- キャピタルゲインは同一と仮定
【年間コスト比較】
| 項目 | VOO (米国籍) |
VUAA (アイルランド籍) |
|---|---|---|
| 経費率 | 0.03% | 0.07% |
| 配当への源泉徴収税率 | 30% | 15% |
| 配当1.5%に対する税負担 | 0.45% | 0.225% |
| 年間トータルコスト | 0.48% | 0.295% |
一見すると経費率はVOOの方が低いですが、配当への課税を含めるとアイルランド籍ETFの方が年間約0.18%有利になります。
20年間の複利運用を考えると、この0.18%の差は最終的な資産額に対して数%から10%近い差として現れてくる可能性があります。
ドバイでアイルランド籍ETFを購入する方法
Interactive Brokers(IBKR)の活用
ドバイ居住者がアイルランド籍ETFを購入する際、最も一般的に利用されているのがInteractive Brokers(インタラクティブ・ブローカーズ)です。
2024年10月には、ドバイ国際金融センター(DIFC)に正式にオフィスを開設しており、UAE居住者へのサービス提供体制がさらに強化されました。
IBKRの特徴
- 世界150以上の市場にアクセス可能
- アイルランド籍UCITS ETFを含む欧州ETFの取引が可能
- 手数料が非常に低い(ETF取引は1口あたり0.00055〜0.00385ドル程度)
- 口座開設は完全オンラインで、1〜3日で完了
- 最低入金額なし(ただし実際の取引には最低100ドル必要)
口座開設の手順
- Interactive Brokersの公式サイトにアクセス
- 居住国として「United Arab Emirates」を選択
- パスポートとUAE居住証明書(Emirates IDや公共料金請求書など)をアップロード
- 口座承認後、銀行送金またはWISEなどで入金
- 通貨を必要に応じてUSDに両替
- ETFを検索して購入
IBKRでは、ETFは「Stock」カテゴリーとして検索できます。CSPXやVWRAなどのティッカーを入力し、取引所としてロンドン証券取引所(LSE)やユーロネクスト・アムステルダム(AEX)を選択すれば購入可能です。
注意点とリスク
為替リスク
アイルランド籍ETFの多くは米ドル建てで取引されますが、ドバイでの生活費はAED(UAEディルハム)で発生します。AEDは米ドルにペッグ(固定)されているため、ドル円のような大きな為替変動リスクはありませんが、将来的に日本へ帰国する可能性がある方は、円との為替リスクを考慮する必要があります。
帰国時の税務処理
将来的に日本に帰国した場合、日本の居住者として課税されることになります。帰国前にドバイで保有していた資産を売却し、利益を確定しておくことで、キャピタルゲイン課税を回避できる場合があります。
ただし、日本の税制では国外転出時課税(出国税)の制度があり、1億円以上の有価証券等を保有している場合は注意が必要です。帰国時の税務処理については、専門家への相談をお勧めします。
日本の証券口座との違い
日本の証券会社が提供する「特定口座(源泉徴収あり)」のような自動計算・納税の仕組みは、海外証券会社にはありません。IBKRでは取引履歴や配当受取記録は提供されますが、税務申告が必要な場合は自分で計算する必要があります。
とはいえ、UAEでは個人の投資所得に対する税金がないため、ドバイ居住中は税務申告の必要性自体が基本的にありません。
結論・まとめ
ドバイに移住すると、日本で利用していたNISAやiDeCoは使えなくなりますが、それ以上に有利な投資環境が手に入ります。特にアイルランド籍ETFを活用することで、以下のメリットを享受できます。
- 配当への源泉徴収税が30%から15%に半減
- 米国遺産税(最大40%)のリスクを完全に回避
- 蓄積型ETFによる複利効果の最大化
- UAEでのキャピタルゲイン非課税との組み合わせで、実質的な税負担がほぼゼロ
世界中の投資家がアイルランド籍ETFを選ぶのには、明確な理由があります。ドバイに居住しているという地の利を最大限に活かし、税制面で最適化された長期資産形成を進めていきましょう。
具体的な投資戦略や税務上の判断については、個別の状況に応じた専門家への相談をお勧めします。当会計事務所では、UAE在住の日本人投資家の皆様の税務相談にも対応しておりますので、お気軽にお問い合わせください。
