従業員退職金(Gratuity)とは?計算方法や支給義務について解説

投稿:2025年11月30日更新:2025年11月30日ブログ

UAEで事業を行う企業にとって、従業員への退職金(Gratuity)の支払いは法律で定められた義務です。日本でいう退職金制度に相当しますが、計算方法や支給要件はUAE独自のルールに基づいており、正確な理解が必要となります。

特にUAEでは外国人労働者が労働力の大部分を占めていることから、退職金制度は年金に代わる重要な社会保障として機能しています。この制度を正しく運用しないと、罰金の対象となるだけでなく、従業員との労働紛争に発展するリスクもあります。

本記事では、UAEの退職金制度について、その法的根拠から具体的な計算方法、支払い期限、さらには2023年に導入された新たな貯蓄スキームまで、包括的に解説していきます。

UAE従業員との雇用契約締結

退職金制度の法的根拠

UAEにおける従業員退職金は、Federal Decree-Law No. 33 of 2021(連邦政令法第33号)およびその施行規則であるCabinet Resolution No. 1 of 2022(閣議決定第1号)によって規定されています。

特に重要なのが第51条(Article 51)であり、この条文がフルタイム従業員に対する退職金の支給要件と計算方法の基礎となっています。

この法律は、UAEの民間セクターにおけるすべての企業および従業員に適用されます。ただし、以下のカテゴリーは適用対象外となります。

適用対象 適用対象外
メインランドの民間企業 連邦および地方政府の職員
多くのフリーゾーン企業 軍、警察、治安部隊の職員
フルタイム・パートタイム従業員 家事労働者(別の規制が適用)

なお、DIFC(ドバイ国際金融センター)ADGM(アブダビ・グローバルマーケット)といった特別な金融フリーゾーンでは、独自の雇用規制が適用されるため注意が必要です。

退職金の受給資格

退職金を受け取るためには、以下の条件を満たす必要があります。

最低勤続期間

従業員は同一の雇用主のもとで最低1年間の継続勤務を完了している必要があります。1年未満で退職した場合、退職金の受給資格はありません。

注意すべき点として、無給休暇の日数は勤続期間から除外されます。例えば、11か月勤務した後に1か月間の無給休暇を取得した場合、実質的な勤続期間は11か月となり、退職金の受給資格を満たしません。

外国人従業員のみが対象

UAE国民は、国の年金制度(General Pension and Social Security Authority)の対象となるため、この退職金制度は外国人(Expatriate)従業員のみに適用されます。

給与計算と退職金の算定

退職金の計算方法

退職金の計算は、最後に支給された基本給(Last Basic Salary)を基準に行われます。住宅手当、交通手当、その他のボーナスなどは計算に含まれない点に注意が必要です。

UAEの退職金計算式は以下のとおりです。日給の計算は「月額基本給 ÷ 30」で行います。

勤続期間 計算基準
1年目から5年目まで 各年につき21日分の基本給
6年目以降 各年につき30日分の基本給

具体的な計算例

それでは、具体的な計算例を見ていきましょう。

✅【計算例1】勤続6年・基本給AED 10,000 の場合

項目 計算式 金額
日給 10,000 ÷ 30 AED 333.33
最初の5年間 333.33 × 21日 × 5年 AED 35,000
6年目 333.33 × 30日 × 1年 AED 10,000
退職金合計 AED 45,000

✅【計算例2】勤続3年・基本給AED 8,000 の場合

項目 計算式 金額
日給 8,000 ÷ 30 AED 266.67
3年間の退職金 266.67 × 21日 × 3年 AED 16,800

退職金の上限

法律上、退職金の総額は従業員の基本給2年分を超えることはできません。例えば、基本給がAED 10,000の従業員の場合、退職金の上限はAED 240,000(10,000 × 24か月)となります。計算上これを超える金額が算出されても、実際の支給額は2年分の給与に制限されます。

UAE労働法規制と行政手続き

契約形態による違い

2022年2月に施行された新労働法により、UAEの民間セクターにおける雇用契約はすべて有期契約(Fixed-Term Contract/Limited Contract)となりました。従来の無期限契約(Unlimited Contract)は廃止され、新規契約は認められていません。

✅旧法と新法の比較

以前の法律では、無期限契約で自己都合退職した場合、勤続年数に応じて退職金が減額される仕組みがありました。

勤続年数 旧法(自己都合退職時の退職金)
1年以上3年未満 21日分の1/3
3年以上5年未満 21日分の2/3
5年以上 全額支給

しかし新労働法(2022年施行)では、この減額規定は適用されなくなりました。退職理由(自己都合・会社都合)にかかわらず、1年以上勤務した従業員は全額の退職金を受け取る権利があります。

懲戒解雇と退職金

新労働法の第44条(Article 44)では、重大な非行(Gross Misconduct)を理由とした即時解雇(Summary Dismissal)の要件が規定されています。

✅重大な非行に該当する行為

以下のような行為は、即時解雇の対象となります。

✅懲戒解雇でも退職金は支給される

重要な点として、旧法とは異なり、新労働法では懲戒解雇された従業員も退職金を受け取る権利があります。第44条第7項によれば、重大な非行を理由に即時解雇された場合でも、1年以上の勤続期間を満たしていれば退職金の受給資格は維持されます。これは従業員保護を強化する方向への法改正といえます。

✅退職金の支払期限

退職理由に関わらず、雇用主は雇用契約終了日から14日以内に退職金を含むすべての終業手当を支払う義務があります。この期限を守らない場合、従業員はMOHRE(人的資源・エミレーツ化省)に苦情を申し立てることができます。雇用主の資金繰りの問題は、支払い遅延の正当な理由にはなりません。裁判所が支払いを命じた場合、雇用主はその決定に従う法的義務があります。

パートタイム従業員の退職金

2022年の新労働法では、パートタイム従業員やその他の柔軟な勤務形態の従業員に対しても退職金が適用されることが明確化されました。パートタイム従業員の退職金は、勤務時間に応じて按分計算されます。

計算式は以下のとおりです。

退職金 = (年間勤務時間 ÷ フルタイム契約の年間勤務時間)× 100 × フルタイム契約の場合の退職金額

例えば、週20時間勤務のパートタイム従業員(フルタイムが週48時間の場合)は、フルタイム従業員の約42%(20÷48)の退職金を受け取ることになります。

企業の会計・税務処理

企業会計における退職金の取扱い

✅引当金の計上

会計的な観点から、退職金は長期負債として貸借対照表に計上する必要があります。国際会計基準(IAS 19)では、UAEの退職金制度は確定給付型退職後給付に分類され、適切な数理計算に基づく評価と開示が求められます。

✅法人税との関係

2023年6月から開始されたUAE法人税(税率9%)のもとでは、従業員への報酬や退職金費用は税務上の費用として認識されます。適切な会計記録を維持し、雇用契約、給与明細、WPS支払記録、退職金計算書などを整備しておくことが重要です。

まとめ

UAEの従業員退職金(Gratuity)は、外国人労働者にとって年金に代わる重要な社会保障制度です。

2022年に施行された新労働法により、契約形態や退職理由による退職金の減額規定が廃止され、より従業員に有利な制度となっています。また、2023年に導入された任意の貯蓄スキームにより、従業員は退職金をインフレリスクや雇用主の倒産リスクから守る選択肢も得られるようになりました。

企業としては、退職金の正確な計算と適時の支払い、そして適切な会計処理を行うことが法令遵守の観点から非常に重要です。

弊社では、UAE労働法に基づく退職金計算のサポートや、関連する会計・税務処理についてのご相談を承っております。退職金制度の運用や計算方法についてご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

 このブログを書いた人

税理士・公認会計士(日本・UAE)。ドバイ在住。日本とドバイで会計事務所を経営しています。税務顧問や会計監査、ドバイへの移住支援を行っています。

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