従業員退職金(Gratuity)とは?計算方法や支給義務について解説

投稿:2025年11月30日更新:2026年6月5日ブログ

ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。

UAEで事業を行う企業にとって、従業員への退職金(Gratuity)の支払いは法律で定められた義務です。日本でいう退職金制度に相当しますが、計算方法や支給要件はUAE独自のルールに基づいており、正確な理解が必要となります。

特にUAEでは外国人労働者が労働力の大部分を占めていることから、退職金制度は 年金に代わる重要な社会保障 として機能しています。この制度を正しく運用しないと、罰金の対象となるだけでなく、従業員との労働紛争に発展するリスクもあります。

本記事では、UAEの退職金制度について、その法的根拠から具体的な計算方法、支払い期限、さらに2023年に導入された任意貯蓄スキーム(2026年最新情報)まで包括的に解説します。

※本記事の金額は1 AED=43円(2026年5月時点)で換算しています。

退職金制度の法的根拠

UAEにおける従業員退職金は、Federal Decree-Law No. 33 of 2021(連邦政令法第33号)およびその施行規則である Cabinet Resolution No. 1 of 2022(閣議決定第1号)によって規定されています。特に重要なのが 第51条(Article 51) で、フルタイム従業員に対する退職金の支給要件と計算方法の基礎となっています。

この法律はUAEの民間セクターに広く適用されますが、以下の通り適用対象と対象外が整理されています。

適用対象 適用対象外
メインランドの民間企業 連邦および地方政府の職員
多くのフリーゾーン企業 軍、警察、治安部隊の職員
フルタイム・パートタイム従業員 家事労働者(別の規制が適用)

なお、DIFC(ドバイ国際金融センター)ADGM(アブダビ・グローバルマーケット) といった特別な金融フリーゾーンでは、独自の雇用規制が適用されるため別途確認が必要です。

退職金の受給資格

最低勤続期間

従業員は同一の雇用主のもとで 最低1年間の継続勤務 を完了している必要があります。1年未満で退職した場合、退職金の受給資格はありません(u.ae 公式 End of Service Benefits 参照)。

注意点として、無給休暇の日数は勤続期間から除外 されます。例えば11か月勤務した後に1か月間の無給休暇を取得した場合、実質的な勤続期間は11か月となり、退職金の受給資格を満たしません。

外国人従業員のみが対象

UAE国民は国の年金制度(General Pension and Social Security Authority/GPSSA)の対象となるため、この退職金制度は 外国人(Expatriate)従業員のみ に適用されます。

退職金の計算方法

退職金の計算は、最後に支給された基本給(Last Basic Salary) を基準に行われます。住宅手当、交通手当、その他のボーナス等は計算に含まれません。日給の計算は「月額基本給 ÷ 30」で行います。

勤続期間 計算基準
1年目から5年目まで 各年につき 21日分 の基本給
6年目以降 各年につき 30日分 の基本給

具体的な計算例

計算例1—勤続6年・基本給AED 10,000の場合

項目 計算式 金額(円換算)
日給 10,000 ÷ 30 AED 333.33(約14,333円)
最初の5年間 333.33 × 21日 × 5年 AED 35,000(約150.5万円)
6年目 333.33 × 30日 × 1年 AED 10,000(約43万円)
退職金合計 AED 45,000(約193.5万円)

計算例2—勤続3年・基本給AED 8,000の場合

項目 計算式 金額(円換算)
日給 8,000 ÷ 30 AED 266.67(約11,467円)
3年間の退職金 266.67 × 21日 × 3年 AED 16,800(約72.2万円)

退職金の上限

法律上、退職金の総額は 従業員の基本給2年分(24か月分)を超えることはできません。例えば基本給AED 10,000の従業員の場合、退職金の上限はAED 240,000(約1,032万円)となります。計算上これを超える金額が算出されても、実際の支給額は2年分の給与に制限されます。

関連記事:ドバイ法人における従業員の給与計算方法

契約形態による違い(旧法と新法の比較)

2022年2月に施行された新労働法により、UAEの民間セクターにおける雇用契約は すべて有期契約(Fixed-Term Contract) となりました。従来の無期限契約(Unlimited Contract)は廃止され、新規契約は認められていません。

以前の法律では、無期限契約で自己都合退職した場合、勤続年数に応じて退職金が減額される仕組みがありました。

勤続年数 旧法(自己都合退職時の退職金)
1年以上3年未満 21日分の1/3
3年以上5年未満 21日分の2/3
5年以上 全額支給

新労働法(2022年施行)ではこの減額規定は適用されなくなりました。退職理由(自己都合・会社都合)にかかわらず、1年以上勤務した従業員は全額の退職金を受け取る権利があります。

懲戒解雇と退職金

新労働法の 第44条(Article 44) では、重大な非行(Gross Misconduct)を理由とした即時解雇(Summary Dismissal)の要件が規定されています。

重大な非行に該当する行為

懲戒解雇でも退職金は支給される

旧法とは異なり、新労働法では 懲戒解雇された従業員も退職金を受け取る権利 があります。第44条第7項によれば、重大な非行を理由に即時解雇された場合でも、1年以上の勤続期間を満たしていれば退職金の受給資格は維持されます。

退職金の支払期限

退職理由に関わらず、雇用主は 雇用契約終了日から14日以内 に退職金を含むすべての終業手当を支払う義務があります。この期限を守らない場合、従業員は MOHRE(人的資源・エミラタイゼーション省) に苦情を申し立てることができます。雇用主の資金繰りの問題は、支払い遅延の正当な理由にはなりません。

パートタイム従業員の退職金

2022年の新労働法では、パートタイム従業員やその他の柔軟な勤務形態の従業員に対しても退職金が適用されることが明確化されました。退職金は 勤務時間に応じて按分計算 されます。

計算式

退職金 =(年間勤務時間 ÷ フルタイム契約の年間勤務時間)× フルタイム契約の場合の退職金額

例えば、週20時間勤務のパートタイム従業員(フルタイムが週48時間の場合)は、フルタイム従業員の約42%(20÷48)の退職金を受け取ることになります。

任意貯蓄スキーム(Alternative EOSB Savings Scheme)の最新動向

2023年10月、UAE政府は Cabinet Resolution No. 96 of 2023 に基づき、退職金(EOSB)の任意貯蓄スキームを導入しました。これは雇用主が毎月一定額を承認済み投資ファンドに積み立てることで、従来の退職時一括払い方式を代替する制度です(MOHRE公式ガイダンス 参照)。

月額拠出率

勤続年数 月額拠出率(基本給に対する%)
勤続5年未満 基本給の 5.83%
勤続5年以上 基本給の 8.33%

スキームの主要ポイント

2026年の動向—MOHREは2025年3月から2026年2月まで本スキームに関するパブリックコンサルテーションを実施しました。多くの労務専門家は、2026年中後半に企業規模別の段階的義務化が発表される可能性が高いとみています。

企業会計における退職金の取扱い

引当金の計上

退職金は 長期負債 として貸借対照表に計上する必要があります。国際会計基準(IAS 19)では、UAEの退職金制度は長期従業員給付として整理され、適切な数理計算に基づく評価と開示が求められます。任意貯蓄スキームに加入した場合は、加入後の月額拠出は確定拠出型として費用処理し、加入前累積分を確定給付負債として別管理する整理が必要です。

会計記録の整備

UAEで事業を行う法人は、従業員への報酬や退職金費用について、適切な会計記録(雇用契約、給与明細、WPS支払記録、退職金計算書、貯蓄スキーム拠出記録等)の整備が必須です。記録不備は労務紛争時の不利な証拠となるだけでなく、税務・監査面でも指摘対象となります。

関連記事:UAE法人のコンプライアンス義務

まとめ

📋 今回のポイント

  • UAEの退職金(Gratuity)は外国人従業員のみが対象。UAE国民はGPSSAで別制度
  • 計算は基本給ベースで、5年までは年21日、6年目以降は年30日。上限は2年分
  • 支払期限は退職日から 14日以内、遅延はMOHRE申立て対象
  • 新労働法では懲戒解雇でも1年以上の勤続があれば退職金支給
  • Cabinet Resolution No. 96 of 2023の任意貯蓄スキーム(拠出率5.83%/8.33%)が2026年中に義務化される可能性
  • 会計上はIAS 19に基づく長期従業員給付として適切に引当てが必要

当会計事務所は、UAEの退職金制度は、企業規模・契約形態・スキーム選択により実務処理が大きく異なる中、退職金計算、引当金の会計処理、任意貯蓄スキーム導入の損益シミュレーション、UAE法人税上の損金処理の整備までワンストップでご支援しています。実務面でお困りの際は、貴社の状況に即した最適な体制をご提案いたします。

根拠条文・出典

  • UAE Federal Decree-Law No. 33 of 2021(労働関係規制法)第51条・第44条
  • Cabinet Resolution No. 1 of 2022(労働法施行規則)
  • Cabinet Resolution No. 96 of 2023(任意EOSB貯蓄スキーム、2023年10月発効)
  • MOHRE公式ガイダンス(2025年11月版)
  • IAS 19 Employee Benefits(国際会計基準)

 このブログを書いた人

税理士・公認会計士(JCPA)・UAE公認会計士(EAAA)協会会員。日本とドバイで会計事務所を経営。現地日本企業の税務顧問先100社(上場会社含む)、会社設立実績80社以上。
ドバイ法人の会計監査や税務申告、ドバイ移住支援を行っています。

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