ドバイ財団スキームが大幅改定|抑えておくべきポイントを公認会計士が解説【UAE資産承継】

投稿:2026年6月29日更新:2026年6月29日ブログ

ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。

2026年6月、UAE連邦税務庁(FTA)が法人税ガイドの一つである「ファミリーファウンデーション課税ガイド(CTGFF1)」を改訂しました。法律本体の条文が変わったわけではありませんが、ガイドが示す解釈と運用方針が大きく更新され、ドバイで財団(Foundation)を使った資産承継スキームを検討する富裕層にとって見過ごせない内容です。

特に重要なのは、これまで財団そのものだけを見ていれば足りた判定が、傘下の持株会社やSPV(特別目的会社)まで含めた構造全体で見る方式に変わった点です。今回はこの改訂がドバイ移住者にどう影響するのかを実務目線で整理します。

そもそもファミリーファウンデーションと税務上の透明性とは

UAEのファミリーファウンデーションは、資産の保有と次世代への承継を目的として設立される財団です。法人格を持つ財団は、原則としてUAE法人税の課税対象となる独立した納税主体として扱われます。ただし、FTAの承認を受け、所定の要件を満たすことで、税務上の「透明体(fiscally transparent)」として扱われる選択ができます。

透明体として認められると、財団は法人課税を受けず、いわゆる任意組合(Unincorporated Partnership)に近い扱いとなり、所得や資産にかかる税務上の属性が経済的持分に応じて受益者へ流れていきます。富裕層が財団を使う最大の理由がここにあり、資産を一つの器に集約しつつ財団段階での法人税負担を避け、世代を超えた承継を設計できる点に意義があります。今回の改訂は、この透明体扱いの判定基準をより精緻にしたものです。

判定が「事業体単位」から「構造全体」へ変わった

今回の改訂で最も大きな変化は、分析の単位が個々の事業体単位から構造全体へと移ったことです。BDO UAEの解説でも整理されているとおり、FTAは、ファミリーファウンデーションとしての扱いは頂点の財団だけでなく、構造全体を通して分析すべきだと明確にしました。つまり、所有の連鎖を構成する一つひとつの要素が、それぞれ独立して所定の要件を満たしている必要があります。

多層的な持株構造の場合、透明体としての扱いが認められるには、適格な事業体が途切れることなく連なる連鎖が求められます。途中に一社でも非適格な、あるいは不透明な事業体が混じると、その連鎖が断たれ、それより下流にある事業体の適格性まで影響を受けるおそれがあります。持株会社、SPV、中間事業体のいずれもが、独立して関連する要件を満たさなければならないという考え方です。

ドバイ移住者が陥りやすいのは、財団の名義や設立場所だけを整えて安心するケースです。保有資産が複数のSPVや持株会社を経由している場合、一社ごとの設計まで踏み込まなければ、期待していた透明体扱いを受けられない事態が起こり得ます。

LLCは財団の「類似事業体」に当たらない

改訂ガイドは、有限責任会社(LLC)について重要な線引きを示しました。LLCは財団や信託の「類似事業体」とはみなされず、それ単独ではファミリーファウンデーションとして適格にはなれないと明記されています。財団のような器をLLCで代用しようという発想は通用しないということです。

一方で、LLCやSPVが透明な構造の一部を構成できる余地は残されています。適格なファミリーファウンデーションが全部を所有し支配しており、所定の要件を満たす場合には、その傘下のLLCやSPVも透明な扱いの対象になり得ます。財団が任意組合として扱われる場合に、その財団が全部を所有し支配するLLCやSPVについて、UAE法人税法第17条の関連要件を満たすときも同様です。

押さえておきたいのは、LLCを単体で財団代わりにはできないものの、適格な財団の完全子会社としてなら構造の一部に取り込めるという点です。傘下にLLCやSPVを置くなら、全部所有と支配の二条件を確実に満たすことが前提になります。

共同所有のSPVにも柔軟性が認められた

今回の改訂では、共同投資を行う富裕層にとって朗報といえる明確化もありました。DLA Piperの分析でも示されているとおり、ある法人について、複数の適格なファミリーファウンデーションによって共同で所有されている場合でも、支配に関する条件やその他の要件を満たしていれば「全部所有」の要件を満たし得ると確認されたのです。

これは家族間の共同投資ストラクチャーや、複数の財団が協調して資産を保有する設計に柔軟性を与えるもので、より現実的な資産保有設計が可能になります。

また、ファミリーファウンデーションという言葉は、同じ家族の構成員のためだけの器に限られないことも明確になりました。特定または特定可能な自然人(家族の構成員である必要はなく、互いに無関係な個人でも可)のため、あるいは公益目的の事業体のため、もしくはその両方のために設立でき、家族の枠を超えた承継や公益的な活用も視野に入れられます。

財団への資産移転は自動的に非課税ではない

富裕層が最も注意すべき論点が、財団への資産移転の税務上の取扱いです。改訂ガイドは、財団へ資産を移すことが当然に税務上中立であると考えてはならない、と明確に警告しています。

課税対象となる事業体や関連者から財団へ資産が移転される場合、その移転は法人税と移転価格の双方の観点から評価しなければなりません。課税上の利益または損失は、原則として財団ではなく移転する側(譲渡人)の手元で生じます。最終的な結果は、移転する資産の性質や譲渡人の地位、合意された対価などによって左右されます。

具体例として、自然人が個人投資資産や不動産投資資産を移転する場合は、原則として法人税の課税対象にはならないとされています。これに対し、課税対象の会社が投資資産を移転する場合には、実行前に法人税と移転価格のレビューが必要になります。さらに、付加価値税(VAT)やドバイ土地局(DLD)への手数料など他の税やコストも考慮すべきとされ、歴史的な取得原価や税務ポジションは引き続き適用されます。結論として、財団へ資産を移す前の事前の税務分析が決定的に重要です。

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ファミリーオフィスは課税される場合がある

富裕層の資産管理を担うファミリーオフィスの位置づけも、今回のガイドで整理されました。財団が資産を保有する一方で、運用や助言といった機能を担う事業体が存在する場合、その事業体が事業活動を行っているとみなされ、それ自体が法人税の課税範囲に入る可能性があります。

ただし、シングルファミリーオフィス(SFO)やマルチファミリーオフィス(MFO)がフリーゾーン事業者である場合には、適格活動から生じる適格所得について0%の法人税率の恩恵を受けられる余地があります。たとえばUAEの所管当局による規制監督の対象となる、資産運用サービスやファンド運用サービスなどがこれに当たります。

つまり、ファミリーオフィスをフリーゾーンの適格活動として設計し、規制監督下に置くことで課税上の取扱いが大きく変わります。財団とファミリーオフィスを組み合わせる場合は、両者の役割と所在地を意識した設計が欠かせません。

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財団をどこに設立するか

UAEで財団を設立する場合、最も一般的に利用されているのはドバイ国際金融センター(DIFC)、アブダビ・グローバル・マーケット(ADGM)、RAKインターナショナル・コーポレート・センター(RAK ICC)です。いずれも英国法系の枠組みを備え、資産承継や長期保有に適した制度として国際的に認知されています。

さらに今回のガイドに関連して、DMCC(ドバイ・マルチ・コモディティーズ・センター)が自らのフリーゾーン内に財団制度を導入する準備を進めていることも明らかになっています。枠組みは規制当局の審査の最終段階にあり、導入されれば承継計画や長期保有を支える選択肢が一つ増えることになります。どのフリーゾーンに置くかは設立コストやガバナンス要件で最適解が変わり、ファミリーオフィスを併設するならその活動が適格活動と認められるかも合わせて検討する必要があります。

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よくある間違い

一つ目は、財団の頂点だけを整えれば透明体扱いを受けられると考えてしまうことです。今回の改訂で、判定は構造全体に及ぶことが明確になりました。傘下の持株会社やSPVの一社でも要件を欠けば連鎖が断たれます。設立後も所有・支配・活動の変化を継続的に監視し、各課税期間で適格性が保たれているかを確認する姿勢が求められます。

二つ目は、資産を財団へ移せば自動的に課税が生じないと思い込むことです。譲渡人が課税対象の会社か自然人か、移す資産が何かによって結論は変わり、VATやDLD手数料などのコストも発生し得ます。実行前の税務分析を省いてはなりません。

三つ目は、UAE側の財団スキームだけを見て日本側の税制を考慮しないことです。日本に生活の本拠を残したまま財団を組成すると、日本のタックスヘイブン対策税制(CFC税制)の対象になり、財団の所得が日本側で合算課税され得ます。財団スキームは、移住者の日本側居住性が確実に切れていることが大前提です。

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まとめ

📋 今回のポイント

  • FTAが2026年6月にCTGFF1を改訂、判定が事業体単位から構造全体へ
  • 多層構造は適格事業体の連鎖が必須、傘下SPV一社の不備で全体が崩壊
  • LLC単体は財団代用不可、適格財団の完全子会社としては組込可
  • 複数財団の共同所有でも全部所有要件を充足し得る柔軟化
  • 財団への資産移転は事前の税務分析必須(移転価格・VAT・DLD手数料)
  • フリーゾーン適格活動として設計すれば0%法人税の余地

当会計事務所では、ドバイ移住に伴う財団やファミリーオフィスの設計、設立地の選定、財団への資産移転に伴うUAE側と日本側の税務分析、移住者の日本側居住性の整理までを一貫して支援しています。今回のガイド改訂を踏まえると、既存の財団スキームについても傘下のSPVまで含めた構造全体の再点検が必要です。財団を使った資産承継をお考えの方や、すでに組成済みの構造に不安のある方は、当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。

根拠条文・出典

 このブログを書いた人

税理士・公認会計士(JCPA)・UAE公認会計士(EAAA)協会会員。日本とドバイで会計事務所を経営。現地日本企業の税務顧問先100社(上場会社含む)、会社設立実績80社以上。
ドバイ法人の会計監査や税務申告、ドバイ移住支援を行っています。

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