ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。
連邦税務庁(FTA)は、EmaraTax上の法人税申告書フォームを更新し、これまで「あなたの法人は多国籍企業グループ(MNEグループ)の一員ですか」という一問一答で済んでいた箇所を、より詳細な株主開示欄へと差し替えました。2025年12月末決算の法人であれば、申告期限は2026年9月30日に迫っており、この新設欄の準備は待ったなしの状況です。ドバイに法人をお持ちの日本人経営者にとっても、日本の親会社や個人株主との資本関係を正確に開示する実務が新たに求められることになります。当会計事務所には、申告書の新設欄をどう埋めればよいかというご相談が急増しています。本記事では、追加されたFTAの法人税制度における株主開示4項目と、その背景にあるグローバルミニマム課税との連動、そしてドバイ在住者が今すぐ着手すべき準備を整理します。
これまでの申告書と何が変わったのか
従来の法人税申告書では、株主・親会社に関する情報は「MNEグループの一員か否か」という二者択一の質問だけでした。これに対して更新後のフォームでは、この単純な質問が廃止され、代わりに「Shareholding Details(株主詳細)」という新しいセクションが設けられています。ここで開示が義務づけられたのが、以下の4項目です。
この変更は、単なる書式の見直しではありません。FTAが法人のグループ構造そのものを把握し、他の申告制度と突き合わせるための情報基盤を整える動きだと当会計事務所は考えています。
必須開示となった4項目
| 開示項目 | 内容 |
| 最終親会社の名称 | 連結財務諸表の最上位に位置する法人の名称 |
| 最終親会社の税務上の居住地国 | その最終親会社が税務上の居住者となっている国 |
| 直接親会社の名称 | 自社を直接所有または支配している法人の名称 |
| 直接親会社の税務上の居住地国 | その直接親会社が申告を行っている国 |
このほかに、最終親会社と直接親会社それぞれの納税者番号、およびMNEグループの名称を記載する任意欄も用意されています。任意欄とはいえ、グループ全体の透明性を高める趣旨からすると、可能な範囲で埋めておくことが望ましいと当会計事務所は考えています。ドバイ法人の親会社が日本にある場合には、最終親会社の税務上の居住地国は日本、納税者番号は日本の法人番号という整理になります。
なぜグループ構造を細かく開示させるのか
この4項目で使われている「MNEグループ」「最終親会社」「直接親会社」という用語は、いずれもOECDのGloBEルール、すなわちグローバルミニマム課税(第2の柱、Pillar Two)の枠組みから直接持ち込まれたものです。UAEはグローバルミニマム課税の一部である国内ミニマム上乗せ税(DMTT)を、2025年1月1日以後に開始する事業年度から導入しています。DMTTは、連結売上高が直近4事業年度のうち2年以上で7億5,000万ユーロを超える多国籍企業グループの構成会社に適用され、この基準は最終親会社レベルの連結財務諸表で測定されます。
申告書とミニマム課税の情報連携
今回の株主開示欄は、法人税申告書とグローバルミニマム課税の登録情報を相互に照合するためのデータを取得するものと位置づけられています。EmaraTax上でグローバルミニマム課税の登録を行うと、同じ最終親会社・直接親会社・グループ構造の情報が両方の制度をまたいで流れる仕組みです。つまり、法人税申告書に記載したグループ情報と、ミニマム課税の登録情報が食い違っていれば、FTAはその不整合をすぐに検知できることになります。申告書の株主情報は、もはや他の申告制度と切り離して考えることができません。
不整合が生じた場合、FTAから追加説明の要求や申告書の修正を求められ、より深い税務調査につながる可能性も指摘されています。ドバイ法人の親子関係や移転価格の取引を、複数の制度をまたいで一貫させておくことが、これまで以上に重要になっています。
ドバイ在住の日本人経営者が今すぐ準備すべきこと
2025年12月末決算の法人にとって、2026年9月30日の申告期限まで残された時間は限られています。Deloitteの解説でも指摘されているとおり、UAEの法人税申告は事業年度末から9か月以内に申告と納税を同時に行う必要があり、原則として延長は認められません。株主開示欄の準備は、直前になって慌てるのではなく、決算書の確定と並行して早めに進めておくことが肝要です。
準備すべき情報の整理
具体的には、まず2025年(または直近年度)のグループ連結財務諸表を用意し、連結グループの最上位に位置する最終親会社を特定します。次に、その最終親会社が税務申告を行っている国、すなわち税務上の居住地国を確認し、その国の税務当局が付番する納税者番号を取得します。日本の親会社であれば法人番号、UAE法人であればTRN(税登録番号)が該当します。続いて自社を直接支配している直接親会社を特定し、同様に居住地国と番号を確認します。最後に、これらの情報がグローバルミニマム課税や移転価格の申告と整合しているかを突き合わせ、法人・出資比率・所在地国を示す組織図として文書化しておくことをおすすめします。
これらの情報は、単に今回の申告を通過させるためだけのものではありません。グループ構造の透明性を示す基礎資料として、今後数年にわたるコンプライアンスの土台になります。財務省の法人税に関する案内もあわせて確認しながら、自社のグループ構造を早期に整理しておくことをおすすめします。
よくある間違い
この新設欄をめぐって、当会計事務所が特に注意を促したい誤解が3つあります。
親会社がなければ空欄でよいという思い込み
最終親会社・直接親会社の欄は必須項目とされていますが、親会社を持たない法人も現実には数多く存在します。単独の法人であったり、個人株主や信託が直接保有していたり、支配的な親会社が存在しない合弁会社であるケースです。こうした場合に「N/A」や空欄での提出が認められるかどうかについて、現時点でFTAの明確なガイダンスは出ていません。該当する可能性がある法人は、自己判断で空欄にするのではなく、事前にFTAへ確認しておく慎重な対応が望まれます。
ミニマム課税の対象でなければ関係ないという誤解
株主開示欄で用いられる用語がグローバルミニマム課税に由来するため、売上高7億5,000万ユーロという基準に届かない中小規模の法人は無関係だと考えてしまう方がいます。しかし、この開示自体はグループ規模を問わず申告書に組み込まれており、DMTTの対象になるかどうかとは別に、親会社情報を正確に記載する必要があります。ドバイの小規模フリーゾーン法人であっても、日本の親会社との資本関係は開示対象になり得ます。
申告書だけ整えれば済むという発想
今回の株主情報は、法人税申告書のなかだけで完結するものではありません。連結財務諸表、国別報告書(CbCR)、グローバルミニマム課税の登録情報と、同じ最終親会社が一貫して記載されている必要があります。申告書だけをその場しのぎで埋めても、他の制度の記載と食い違えば、かえって調査の端緒を与えることになります。
まとめ
📋 今回のポイント
- 法人税申告書に株主開示4項目が新設
- 最終親会社と直接親会社の名称・居住地国が必須
- 用語はグローバルミニマム課税に由来
- 申告情報とミニマム課税登録は相互照合
- 2025年12月末決算は2026年9月30日が期限
- 連結財務諸表と組織図の早期整理が必要
当会計事務所は、ドバイに法人をお持ちの日本人経営者に向けて、法人税申告書の株主開示欄の記載、グループ構造の整理、グローバルミニマム課税や移転価格との整合確認まで、一貫してサポートしています。日本の親会社との資本関係をどう開示すべきか迷われている方は、申告期限に余裕を持って、当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。
根拠条文・出典
- 連邦税務庁(FTA)法人税ページ – EmaraTax申告制度の公式案内
- UAE財務省 法人税ページ – 法人税制度の概要
- Deloitte 法人税申告期限の解説 – 9か月以内の申告・納税義務
- Federal Decree-Law No. 47 of 2022(UAE法人税法)第53条 – 申告・納税期限の根拠
- Cabinet Decision No. 142 of 2024 – 国内ミニマム上乗せ税(DMTT)の根拠
- OECD GloBEルール(Pillar Two)- 最終親会社・MNEグループ概念の由来



