ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。
ドバイで会社を経営していると、輸入や大型設備投資、あるいは輸出中心の事業構造などによって、申告のたびに仕入VATが売上VATを上回り、還付を受けずに繰り越したままになっている法人が少なくありません。この繰り越された過剰仕入VAT、いわゆるVATクレジットについて、いま非常に重要な期限が迫っています。UAEのVAT執行規則の改正により、原則として5年を経過した過剰仕入VATクレジットは還付も控除もできなくなり、とりわけ古い残高については2026年12月31日を過ぎると永久に失効するという取り扱いが明確化されています。当会計事務所にも、決算書上に何年も前から積み上がったVAT残高を放置していたという相談が増えていますので、本日はこの点をドバイ法人の経営者向けに整理いたします。改正の全体像は連邦税務庁であるFTAの公式サイトでも確認できます。
過剰仕入VATクレジットとは何か
UAEのVATは、売上にかかるVAT、いわゆる売上税額から、仕入や経費にかかったVAT、いわゆる仕入税額を差し引いて納税額を計算する仕組みです。仕入税額が売上税額を上回った場合、その差額は還付の対象になりますが、多くの法人は毎回還付申請をせずに次の課税期間へ繰り越しています。この繰り越された差額が過剰仕入VATクレジットです。
特にドバイでは、輸出取引にゼロ税率が適用される事業、設立初期で設備投資が先行する事業、あるいは在庫を大量に輸入する物販事業などで、この残高が膨らみやすい傾向があります。VATの基本的な仕組みについては、当会計事務所の解説記事もあわせてご確認ください。
5年の時効ルールが導入された背景
UAEのVAT執行規則の改正により、過剰仕入VATクレジットには5年の時効期間が設けられました。過剰仕入VATが生じた課税期間の末日から5年が経過すると、そのクレジットは還付を請求することも、将来の納税額と相殺することもできなくなります。この5年はローリング方式で運用され、2022年1月1日以降に生じたクレジットについては、それぞれのクレジットが最初に発生した課税期間の末日から5年のカウントが始まります。VAT法および改正法令の原文はFTAの法令ページで公開されています。
FTAが示した起算日と期限の考え方
この5年をどこから数えるのかについて、FTAは2026年9月4日に公開解説VATP046を発出し、VAT法第74条の改正内容を条項ごとに整理いたしました。2025年連邦法令第16号による改正で第74条第3項に還付申請の5年の期限が明記され、2026年1月1日から施行されています。起算点は申告書を提出した日でも還付を思い立った日でもなく、超過額が生じた課税期間の末日です。四半期申告の法人であればその四半期の最終日から、月次申告であればその月の最終日から5年という数え方になります。公開解説の原文はFTAのVATガイド・公開解説の一覧に掲載されています。
FTA自身が示した設例では、2026年1月31日に終了する課税期間の申告で超過額が生じた場合、その残高を未払税額や行政罰金の支払に充てることができ、また還付を申請できるのは2031年1月31日までです。この日を過ぎると、残っている残高について還付を請求する権利は失われます。課税期間の末日が動けば期限も連動して動きますので、自社の申告サイクルに当てはめて期限を一覧化しておくのが確実です。
| 超過額が生じた課税期間の末日 | 還付申請および充当に使える最終期限 |
| 2026年1月31日 | 2031年1月31日 |
| 2026年3月31日 | 2031年3月31日 |
| 2026年6月30日 | 2031年6月30日 |
| 2026年12月31日 | 2031年12月31日 |
2022年以前の古いクレジットは2026年末が絶対期限
問題となるのは、5年のローリング枠が始まる前、実質的に2022年より前から積み上がっている古いクレジット残高です。こうした古い残高については、FTAが移行的な最終期限を設けており、その絶対的な期限が2026年12月31日です。この日を過ぎると、5年を超えた古い過剰仕入VATクレジットは、還付も相殺もできず永久に失効いたします。UAEにVATが導入された2018年1月から数えれば、初期に発生した残高ほど失効リスクが高いということになります。
還付を受けずに放置してきた法人ほど影響が大きい
これまで還付申請の手間を嫌って毎回繰り越してきた法人ほど、決算書上に大きなVATクレジット残高が眠っている可能性があります。金額が数万ディルハム、日本円にして数十万円から、場合によっては10万ディルハム、日本円で約430万円を超える規模になっているケースも珍しくありません。AEDから日本円への換算は1ディルハムあたり43円で計算しております。放置は現金が失われるのと同じ意味を持ちますので、早急な棚卸しが必要です。
| クレジットの発生時期 | 失効の考え方 |
| 2022年より前に発生した古い残高 | 移行措置により2026年12月31日が絶対的な最終期限 |
| 2022年1月1日以降に発生したクレジット | 発生した課税期間の末日から5年でローリング失効 |
還付を受けるための実務手続
過剰仕入VATクレジットの還付は、FTAの電子申告システムであるEmaraTax上で、VAT還付申請フォームであるForm VAT311を提出して行います。還付可能額は提出済みのVAT申告書から自動的に反映されますので、還付を希望する金額と受取口座の情報を入力して申請します。FTAは通常、完全な申請の受領から二十営業日程度で審査を行い、追加調査が必要な場合はさらに日数を要します。手続の詳細はFTAの還付サービス案内で確認できます。
還付の前に未払税額と罰金へ自動で充当されます
実務で見落とされやすいのが、還付申請の前段にある相殺の仕組みです。VAT法第74条第2項では、登録者に超過還付税額が生じた場合、FTAはまずその金額を未払税額および課された行政罰金へ充当いたします。登録者が順序を選べるのではなく、FTA側の処理として先に行われる点が重要です。そのため、申告遅延による罰金や過去の未納付分が残っている法人では、還付を申請しても手元に現金が入ってこない、あるいは想定よりかなり少ない入金になるという結果が生じます。
還付を申請できるのは、この充当を終えてなお残っている残額についてです。罰金の異議申立てや過去の申告の修正が進行中であれば、還付見込額そのものが確定しません。資金計画にVAT還付を織り込む場合は、EmaraTax上の未払税額と罰金の残高を先に洗い出し、実際に入金される見込額を計算しておいてください。
今すぐ実施すべき棚卸しの手順
まずEmaraTax上で課税期間ごとのクレジット残高を確認し、いつ発生したものかを特定します。次に、最も早く期限を迎える古い残高から優先的に還付申請または相殺の対応を進めます。還付を選ぶ場合は、有効なタックスインボイスなどの証憑がそろっているかを必ず確認してください。証憑が不十分だと申請が認められないことがあります。VATの実務全般については、当会計事務所のリバースチャージ解説もあわせてご覧ください。
よくある間違い
最も多い誤解は、繰り越したクレジットは自分の権利だからいつまでも残っていて、いつでも使えると考えてしまうことです。改正後は5年という明確な時効があり、期限を過ぎれば権利そのものが消滅します。放置は現金の放棄と同じです。
次に多いのが、還付は面倒だから毎回繰り越せばよいという運用です。少額であっても古いものから失効していくため、繰り越しを続けるほど失効リスクの高い残高が積み上がります。定期的に棚卸しをして、古いものから確実に処理する運用へ切り替える必要があります。
三つ目に注意していただきたいのが、残高の一部を使えば期限が延びると考える誤解です。VATP046は、5年の期間内に超過額の一部を未払税額や行政罰金の支払に充てた場合でも、残額について還付を受ける権利と充当に使う権利は当初の5年の満了時点で消滅すると明示しています。一部を使ったことで残りの起算点が新しくなるわけではありません。少しずつ取り崩していれば安心という運用は成り立ちませんので、課税期間ごとの発生額を区分して管理し、期限が近いものから消していく必要があります。
時効の根拠を確認する場所も変わりました。VAT法の第79条bisは、2022年連邦法令第28号である税務手続法が時効を包括的に定めているため削除されています。VAT法だけを読んで判断せず、税務手続法とあわせて確認してください。
ドバイ移住や事業のたたみ方を検討している経営者にとっても、この論点は無関係ではありません。将来、法人を清算あるいはVAT登録を抹消する段階で、未処理のクレジットが残っていると回収できないまま失われてしまいます。登録抹消の実務については当会計事務所のコンプライアンス解説もご参照ください。
ドバイ移住の出口を考えている方は、この期限を移住計画の側からも見ておく必要があります。日本へ帰国してドバイ法人を清算しVAT登録を抹消する場合、抹消後に残っていたクレジットを取り戻すことは実務上きわめて困難ですので、清算のスケジュールを固める前に各課税期間の残高と5年の残り期間を突き合わせてください。日本側では帰国前の国外転出時課税、いわゆる出国税や、居住者に戻った後のCFC税制の判定という論点も同時に動きます。CFC税制のトリガー税率は特定外国関係会社が27%、対象外国関係会社が20%ですので、UAE法人を残すか清算するかは、VATクレジットの回収可能額と法人維持コストを並べて判断することになります。
まとめ
📋 今回のポイント
- 還付申請の期限は5年、起算点は超過額が生じた課税期間の末日
- FTAの設例では2026年1月31日終了なら2031年1月31日が限度
- 還付の前に未払税額と行政罰金へFTAが自動で充当
- 一部を充当に使っても残額の5年は延びない
- 2022年より前の古い残高は2026年12月31日が絶対期限
- 清算や登録抹消の前に課税期間別の残高と期限の確認が必須
当会計事務所は、ドバイ法人のVAT還付申請、過剰仕入VATクレジットの棚卸し、EmaraTaxでの実務対応まで一貫してサポートしております。決算書上に長年放置されたVAT残高がある場合や、失効期限までに何をすべきか判断に迷う場合は、当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。
根拠条文・出典
- 連邦税務庁 FTA 公式サイト – UAE VAT制度全般
- FTA 過剰納付・仕入VAT還付サービス案内 – Form VAT311による還付手続
- FTA 法令ページ – VAT執行規則および改正内容
- FTA VATガイド・公開解説の一覧 – VATP046の掲載ページ
- VAT法第74条第2項・第3項 – 超過還付税額の充当と5年の申請期限、2026年1月1日施行
- VATP046 – VAT法改正に関するFTA公開解説、2026年9月発出
- 2022年連邦法令第28号 税務手続法 – 第79条bis削除後の時効の根拠
- UAE VAT執行規則における5年の時効期間に関する規定



