ドバイで法人を設立する際、日本人起業家が最初に直面する重要な選択が法人形態の決定です。UAE国内でビジネスを展開したい場合はメインランド法人が、日本を中心とした海外ビジネスを組み立てる場合はMeydanフリーゾーンが適しています。それぞれの特徴を理解し、ビジネスモデルに合った選択をすることで、税務面や運営面での無駄なコストを避けることができます。
メインランド法人とフリーゾーン法人の基本的な違い
UAE内で法人を設立する際には、大きく分けてメインランド法人とフリーゾーン法人の2種類があります。
メインランド法人は、ドバイ本土で設立される法人で、経済開発局(DED)によって登録されます。この法人形態の最大の特徴は、UAE国内の市場で制限なく取引ができる点です。小売店や飲食店など、UAE在住者を直接顧客とするビジネスや、UAE政府や現地企業と直接取引を行う場合には、メインランド法人が必須となります。
一方、フリーゾーン法人は、UAE政府が外国企業誘致のために指定した経済特区内に設立される法人です。フリーゾーンは現在UAEに50以上存在し、それぞれが独自の規則と優遇措置を持っています。フリーゾーン法人の大きな特徴は、設立手続きが簡便で、コストも比較的低額であることです。ただし、UAE国内市場で直接取引を行う場合には、現地代理店を通す必要があります。
2021年以降、メインランド法人でも多くの業種で外資100%の所有が可能になったことから、両者の違いは縮小していますが、それでも事業内容によって明確に向き不向きがあります。
UAE国内ビジネスならメインランド法人を選ぶべき理由
UAE国内市場をターゲットとするビジネスでは、メインランド法人が最適な選択となります。
まず、メインランド法人はUAE全土で制限なく営業活動ができます。小売業、飲食業、不動産仲介業など、UAE在住者を顧客とするビジネスでは、この自由度が決定的に重要です。フリーゾーン法人でも実店舗を持つことは可能ですが、メインランドでの取引には現地代理店を介する必要があり、コストと手間が増加します。
次に、メインランド法人は政府契約への入札が可能です。UAE政府や政府系企業からの受注を目指す企業にとって、これは大きなアドバンテージとなります。建設業や大規模なサービス提供を行う企業では、この点が事業拡大の鍵となることも少なくありません。
さらに、メインランド法人はビザ発給数に制限がありません。オフィス面積に応じて必要な人数分のビザを取得できるため、人員増加に柔軟に対応できます。4人以上を雇用する予定がある場合、フリーゾーンよりもメインランドの方がコスト面で有利になることもあります。
法人税について
メインランド法人は年間課税所得が375,000AED(約1,500万円)を超える部分に対して9%の法人税が課されます。2023年6月から導入されたこの法人税制度は、すべてのメインランド法人に適用されます。ただし、375,000AEDまでは税率0%であり、また年間売上が300万AED(約1億2,000万円)以下の中小企業には免税制度もあります。
一方で、メインランド法人には物理的なオフィスが必須で一定の面積や席数が求められます。設立コストもフリーゾーンと比べると高額になる傾向があり、手続きにも時間がかかります。それでも、UAE国内市場での本格的なビジネス展開を目指すのであれば、メインランド法人が最も確実な選択肢といえます。
日本中心のビジネスならMeydanフリーゾーンが最適
日本や海外市場を中心としたビジネスモデルであれば、Meydanフリーゾーンが最適な選択となります。
Meydanフリーゾーンの最大の魅力は、コスト効率の良さです。初期設立費用は約150万円程度からと、他の有名フリーゾーン(DMCCやDIFCなど)と比較して大幅に低額です。年間維持費用も60万円から80万円程度と抑えられており、スタートアップや小規模事業者にとって負担が少ない点が評価されています。
次に、設立手続きが迅速かつ簡便である点も大きなメリットです。デジタル化された申請プロセスにより、必要書類が揃えば数週間で法人設立が完了します。日本からオンラインでコンサルティングやマーケティング、アフィリエイトなどのサービスを提供する一人会社やオーナー企業にとって、この迅速さは大きな利点です。
また、Meydanではバーチャルオフィスの利用が可能です。物理的なオフィスを持たずに法人登記ができるため、初期投資を抑えながらドバイ居住ビザを取得できます。日本を拠点に活動しながらも、税制上の居住地をUAEに移したい方にとって、この柔軟性は非常に魅力的です。
税制上の優遇措置
Meydanを含むフリーゾーン法人は、一定の条件(適格フリーゾーン法人、QFZP)を満たせば法人税率0%が適用されます。この条件には、フリーゾーン外のUAE本土での取引を行わないことや、適切な経済実態を維持することなどが含まれます。日本向けのコンサルティングやオンラインビジネスなど、UAE国外との取引が中心であれば、この条件を満たしやすく、税制上の優遇を最大限に活用できます。
Meydanでは2,500以上の事業活動が認められており、テクノロジー、コンサルティング、メディア、不動産、教育、ヘルスケアなど幅広い分野に対応しています。特にITやマーケティング、コンサルティング業など、物理的な拠点を必要としないビジネスに適しています。
さらに、Meydanはドバイ中心部に近く、ドバイ国際空港まで15分という立地の良さも魅力です。日本との往来が多いビジネスでは、この利便性が日常業務に大きく影響します。
ただし、Meydanを含むフリーゾーン法人には制約もあります。UAE本土での直接取引には現地代理店が必要であり、政府契約への入札もできません。また、ビザ発給数はライセンスの種類により制限があり、大規模な組織拡大を予定している場合は注意が必要です。
メインランドとMeydanの詳細比較
以下の表で、メインランド法人とMeydanフリーゾーンの主な違いを整理します。
| 項目 | メインランド法人 | Meydanフリーゾーン |
|---|---|---|
| 外資100%所有 | 可能 | 可能 |
| UAE国内市場での取引 | 制限なく可能 | 現地代理店経由で可能 |
| 法人税率 | 利益375,000AED超で9% | 条件を満たせば0% |
| オフィス要件 | 物理オフィス必須(最低200平方フィート) | バーチャルオフィス可 |
| ビザ発給数 | 無制限(オフィス面積による) | ライセンスにより制限あり |
| 設立コスト | 200万円~230万円 | 180万円~200万円 |
| 設立スピード | やや時間がかかる | 迅速 |
| 政府契約への入札 | 可能 | 不可 |
| 適したビジネス | UAE国内市場向けビジネス | 海外取引中心のビジネス |
法人形態を選ぶ際の実務的なポイント
法人形態を選択する際には、いくつかの実務的なポイントを考慮する必要があります。
顧客の所在地
UAE在住者を主な顧客とするならメインランド、日本や海外の顧客が中心ならMeydanが適しています。
事業規模と雇用計画
4人以上を雇用する予定があるなら、ビザ発給数に制限のないメインランドが有利。少人数運営やリモートワーク中心なら、Meydanのバーチャルオフィスで十分です。
また、法人税の申告義務についても理解が必要です。Meydanで法人税0%の適用を受けられる場合でも、法人税登録と年次申告は必須となります。これを怠ると10,000AED(約42万円)の罰金が課されるため、設立時から適切な会計体制を整えておくことが重要です。
さらに、VATの扱いにも注意が必要です。年間売上が375,000AED(約1,500万円)を超える場合、VAT登録が必要になります。ただし、売上の100%が海外向けである場合は、免除申請を行うことで申告義務が免除されることがあります。この点は、日本向けビジネスを行うMeydan法人にとって重要なポイントです。
最後に、将来的な事業展開の可能性も考慮しましょう。一度フリーゾーンで設立した法人を別のフリーゾーンやメインランドに移転する場合、多くのケースで法人を清算して新規設立する必要があります。そのため、ある程度の見通しを持って最初の選択をすることが望ましいです。
結論とまとめ
ドバイでの法人形態選択は、ビジネスの成功を左右する重要な決定です。
UAE国内でビジネスを展開する場合は、メインランド法人が最適です。国内市場への自由なアクセス、政府契約への入札可能性、無制限のビザ発給など、現地でのビジネス展開に必要な要素が揃っています。法人税9%という負担はありますが、UAE市場での本格的な事業展開を目指すなら、メインランド法人が確実な選択となります。
一方、日本を中心とした海外ビジネスを組み立てる場合は、Meydanフリーゾーンが理想的です。低コストでの設立、迅速な手続き、バーチャルオフィスの利用可能性、そして条件を満たせば法人税0%という優遇措置により、コンサルティング、オンラインビジネス、IT関連など、国境を越えたサービス提供に最適な環境が整っています。
法人形態の選択は、顧客の所在地、事業規模、雇用計画、税務戦略など、複数の要因を総合的に判断する必要があります。また、2023年に導入された法人税制度により、税務申告や会計帳簿の整備が厳格化されているため、設立時から専門家のサポートを受けることをお勧めします。
当事務所では、UAE法人設立に関する包括的なサポートを提供しています。お客様のビジネスモデルに最適な法人形態の選択から、設立手続き、税務申告、VATの取扱いまで、ワンストップでサポートいたします。ドバイでの法人設立をご検討の際は、お気軽にお問い合わせください。
