2026年からはじまるe-invoice(電子インボイス)制度とは

投稿:2025年12月7日更新:2025年12月7日ブログ

ここ数年で、世界各国の税務当局は急速に「電子インボイス制度」を導入し始めています。紙やPDFの請求書ではなく、税務当局が指定するフォーマットで電子的に発行し、リアルタイムまたはそれに近い形でデータを共有する仕組みです。

UAEでも2025年に財務省と連邦税務庁が電子インボイス制度に関する省令を公表し、2026年からパイロット導入が始まり、その後段階的に義務化されていく予定です。特にVAT登録事業者にとっては、請求書の出し方そのものが変わる大きな制度変更になります。電子インボイスへの対応は、単なる経理の話ではなく、事業全体の仕組みを見直すテーマになりつつあります。

本記事では、UAEで2026年から始まるeインボイス制度の概要とスケジュール、対象となる取引、罰則や税務調査への影響、さらにサウジアラビアや欧州など他国制度との比較、日系企業や日本人オーナーにとっての実務への影響と準備のポイントについて、会計事務所の視点から整理していきたいと思います。


電子インボイス制度とは何か

まずは基本的な概念から整理しておきたいと思います。

電子インボイスとは、単にメールでPDFを送ることではなく、税務当局が定めた「構造化データ形式」で請求書情報を作成し、認定されたネットワークを通じて交換し、その記録を電子的に保存する仕組みを指します。

UAEで予定されている制度の特徴は、おおむね次のようなイメージです。

項目 内容のイメージ
インボイス形式 構造化データ(XMLやUBLなど)での作成が前提
送受信の経路 政府が認定したサービスプロバイダやネットワークを経由して送受信
対象書類 通常の税インボイス、簡易インボイス、クレジットノートなど
保存義務 電子データとして一定期間保存し、税務調査時に即時提示できる体制が必要

紙やPDF中心の運用から、「データそのものが税務証憑になる」という発想への転換が求められる制度と言えます。

UAEにおける導入スケジュールと2026年の位置づけ

現時点で公表されているUAEのeインボイス導入ロードマップは、概ね次のような段階的スケジュールになると想定されています。詳細な日付や対象範囲は今後の省令やガイドラインで具体化されていく見込みです。

フェーズ 対象 主な内容 開始時期の目安
パイロット導入 当局が選定した一部企業 実証実験的な運用開始 2026年中
任意導入期間 希望する事業者 先行して制度に対応したい企業が任意で参加 2026年後半
フェーズ1 年間売上が一定規模以上の大企業 認定サービスプロバイダ経由での発行が義務 2027年以降順次
フェーズ2 その他のVAT登録事業者 中小企業を含めた広範囲の義務化 2027年以降段階的

2026年は「制度が始まる年」であり、同時に「大企業や先行組が本格準備を完了させる年」という位置づけになります。売上規模が大きい企業は2026年中にシステム対応を完了させる必要があり、中小事業者であっても、2027年以降の義務化に向けて2026年の段階から準備を始めておく必要があります。

どの取引が対象になるのか

UAEで予定されている電子インボイス制度では、どの取引が対象になるのかを把握しておくことが実務上非常に重要です。ここでは想定される範囲を整理します。

項目 想定される取扱い
対象事業者 原則として全てのVAT登録事業者
取引類型 企業間取引(BtoB)、政府関連取引(BtoG)が中心
個人向け取引(BtoC) 当面は完全義務化の対象外となる可能性が高い
対象書類 タックス・インボイス、簡易インボイス、クレジットノートなど
通貨 ディルハム建てが基本だが、外貨建ての場合は規定に従い換算が必要
クロスボーダー取引 輸出入取引やリバースチャージに係るインボイスも対象になり得る

特に注意が必要なのは、海外向けコンサルティング売上やグループ内取引など、形式的なインボイス管理になりがちな取引です。VATの課税・免税の判断とは別に、「いつ、どの形式でインボイスを発行するか」が新たなコンプライアンス項目として追加されることになります。

制度の技術的な仕組みと会計・税務への影響

UAEのeインボイス制度は、欧州などでも広く用いられているネットワークモデルを参考にしつつ、複数の主体が連携する形で設計される見込みです。会計システムのみならず、業務フロー全体への影響を意識する必要があります。

主体 役割
売り手企業 eインボイスデータを作成し、承認フローに基づき発行する
売り手側サービスプロバイダ データ形式や必須項目をチェックし、ネットワーク経由で送信する
買い手側サービスプロバイダ 受信したデータを買い手のシステムと連携する
買い手企業 受領インボイスを検収・支払・仕訳に反映する
税務当局 インボイスデータを蓄積し、申告内容との整合性を確認する

この仕組みにより、税務当局は申告書ベースではなく取引単位のデータを把握できるようになります。その結果、VAT申告内容とインボイスデータの整合性がこれまで以上に厳しくチェックされることが想定されます。

罰則や税務調査で想定されるリスク

電子インボイス制度の導入に伴い、UAEのVAT法令では、指定された形式で電子インボイスを発行しなかった場合や、発行期限に遅れた場合、保存義務に違反した場合などについて、新たな罰則規定が設けられる見込みです。

また、データの電子化が進むことで、税務調査のスタイルも変わっていくと考えられます。税務当局がインボイスデータを一括で分析し、異常値や取引先間の不整合を自動検出するような「データドリブン型」の調査が一般的になっていく可能性があります。日常の記帳精度を上げておかないと、電子データとの整合性が取れずに指摘を受けるリスクが高まる点には注意が必要です。

他国のeインボイス制度との比較

UAEだけでなく、サウジアラビアや欧州を中心に、電子インボイスは世界的な潮流になっています。いくつか代表的な国や地域の動きを比較すると、次のようなイメージになります。

地域 制度名・枠組み 主な特徴 時期の目安
サウジアラビア FATOORAH 段階的に対象企業を拡大し、税務当局システムとの連携を義務付け 2021年から開始し、2026年頃まで段階的拡大
欧州連合 VAT in the Digital Age(ViDA) 域内BtoB取引に対する電子インボイスとデジタル報告を統一的に整備 2030年前後まで段階的に導入
フランス・ベルギーなど 国内BtoB電子インボイス 国内取引にも電子インボイスを義務化 2026年前後に本格導入

2025年から2030年頃にかけて、世界中で電子インボイスの義務化が一気に進むと見込まれており、UAEもその波の中にあります。複数国に拠点を持つグループでは、各国ごとに個別対応するのではなく、グローバルに整合の取れた電子インボイス戦略が求められます。

日系企業・日本人オーナーへの具体的な影響

UAEで事業を行う日本人オーナーや日系企業にとって、電子インボイス制度は実務面でさまざまな影響をもたらします。ここでは特に重要となる観点を三つに絞って整理します。

日本本社との連携

日本本社が連結決算や管理会計の観点から、UAE子会社の売上明細をより細かく把握したいと考える中で、電子インボイスのデータはグループ全体のガバナンス強化に活用できる可能性があります。一方で、日本側の請求書システムや会計システムとのデータ連携をどう設計するかという課題も生じます。

日本円建て請求とディルハム建て請求が混在するケースや、再請求・振替請求の取り扱いを、電子インボイスとどのように整合させるかは、設計段階で十分に検討しておきたいポイントです。

日本側税務への波及

UAE側で電子インボイスが整備されることで、日本側の税務調査や文書化にも影響が出てきます。タックスヘイブン対策税制の判定にあたり、UAE法人の売上構成や取引実態を示す証拠として電子インボイスが重要な資料になる可能性がありますし、日本の消費税の課税関係を判断する際にも、サービス提供地や役務提供先の確認に電子インボイスの記載内容が活用されることが想定されます。

内部統制と不正リスク管理

電子インボイス制度の導入は、内部統制の観点からはプラスに働く面も少なくありません。発行済みインボイスの改ざんが困難になり、取引の承認フローがシステム上で可視化されるため、架空売上や循環取引などの異常パターンが検出しやすくなります。一方で、システム設定を誤ると、実際の取引と異なる条件で自動的にインボイスが発行されるなど、新たなリスクも生じる可能性があります。

実務上の準備ステップ

2026年から始まるパイロット導入やその後の義務化に向けて、今から取り組んでおきたい準備を整理すると、概ね次のようになります。

ステップ 内容 ポイント
1 制度の理解 UAEの省令やガイドラインの内容を把握する 日本語情報だけでなく、英語原文も確認することが重要
2 対象範囲の把握 自社がいつから義務化の対象になるかを確認する 売上規模や事業形態ごとにタイミングが異なる点に注意
3 システム方針の決定 既存会計システムとの連携か、専用システム導入かを検討する 将来の他国展開も見据えたベンダー選定が望ましい
4 サービスプロバイダ選定 認定事業者の中から自社に適したプロバイダを選ぶ 日本語サポートの有無やグループ対応実績も評価材料
5 マスターデータ整備 取引先情報、品目コード、税コードなどを整備する インボイス記載事項と会計マスターの整合性が重要
6 社内ルール見直し 請求書発行タイミング、承認フロー、保存方法などを見直す 契約書の条項とも整合させる必要あり
7 日本側との連携 日本本社や日本側顧問税理士と情報共有する タックスヘイブン対策税制や移転価格税制との関係も確認

特に、サービスプロバイダの選定とマスターデータ整備は時間がかかるため、2026年の段階から計画的に着手することが重要です。

まとめ

電子インボイス制度は、単に「請求書の形式が変わる」だけではなく、VATや法人税を含む税務コンプライアンスの在り方、会計システムや業務フローの設計、日本本社との情報連携や国際税務対応にまで影響する大きな制度変更です。

UAEでは2026年からパイロット導入が始まり、売上規模の大きい企業から順次、電子インボイスの発行が義務化される予定となっています。世界的にも、サウジアラビアや欧州をはじめ、多くの国で電子インボイス制度が導入されており、「電子インボイスへの対応そのもの」が国際的な税務ガバナンスの一部になっていく流れにあります。

2026年の段階でしっかりと準備を進めておけば、罰金やペナルティのリスクを抑えられるだけでなく、税務調査の際にもインボイスデータを根拠として説明しやすくなり、日本本社とのデータ連携やグループ管理の高度化にもつながります。

自社がいつから義務の対象になるのかを正確に把握し、どのようなシステム構成で対応すべきか、また日本側の税務や国際税務とどのように整合を取るかなどは、個々の会社の事業内容やグループ構成によって大きく異なります。制度開始前からの早めの検討が、結果的にコストとリスクを大きく抑えることにつながりますので、ご自身のケースでの影響や準備の進め方に不安がある場合は、当会計事務所までご相談いただければと思います。

 このブログを書いた人

税理士・公認会計士(日本・UAE)。ドバイ在住。日本とドバイで会計事務所を経営しています。税務顧問や会計監査、ドバイへの移住支援を行っています。

の記事一覧へ

コメントをどうぞ!

メールアドレスが公開されることはありません。

これって本物?オフプラン不動産のエスクロー口座の調べ方 【朗報】オマーンの10年ゴールデンビザ新設!そのメリットとデメリットについて解説

お気軽にお問い合わせください