ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。
2025年9月1日、オマーンが10年ゴールデンレジデンシー(通称:10年ゴールデンビザ)を新設しました。UAEに続きGCC諸国でも長期居住資格制度の整備が進む中、オマーンは投資要件OMR 200,000(約7,720万円)という比較的低い水準で、配偶者・子・両親まで含めた包括的な家族帯同を認めた点が大きな特徴です。一方で、2028年1月1日からGCC初の個人所得税(年間OMR 42,000超に5%)の導入も決定しており、税務面での検討が不可欠です。
本記事では、オマーン10年ゴールデンビザの制度概要、メリット・デメリット、UAEとの比較、日本人投資家にとっての税務上の論点を、当会計事務所の実務経験を踏まえて解説します。
オマーン10年ゴールデンビザ制度の概要
オマーン政府は2025年9月1日付で、外国人投資家向けの10年間有効・更新可能な長期居住資格制度「ゴールデンレジデンシー」を正式に開始しました(Business Insider Japan 報道)。申請はInvest Oman公式プラットフォーム経由で行います。
基本要件
| 項目 | 内容 |
| 有効期間 | 10年(更新可能) |
| 最低投資額 | OMR 200,000(約7,720万円、約USD 520,000) |
| 申請年齢 | 21歳以上 |
| 家族帯同 | 配偶者・子(年齢制限なし)・両親など一等親、家事使用人3名スポンサー可 |
| 健康保険 | オマーン国内の医療保険加入必須 |
| 居住義務 | 原則なし(フルタイム居住不要) |
| 申請窓口 | Invest Omanプラットフォーム(オンライン) |
※ 円換算は1OMR=386円(2026年6月時点の概算値)で計算。実際の換算レートは申請時点でご確認ください。
7つの投資ルート
オマーン10年ゴールデンビザは、以下7種類の投資ルートのいずれかで要件を満たす設計となっています。それぞれ詳細な条件が定められています。
| 投資ルート | 主な条件 |
| ① 不動産投資 | ITC(Integrated Tourism Complexes:政府指定統合観光区域)内の住宅・商業・観光関連物件にOMR 200,000以上投資。複数物件の合算可、完成済物件のみ対象 |
| ② 企業設立投資 | オマーン国内法人設立、自身の出資持分がOMR 200,000以上 |
| ③ 政府開発債 | オマーン政府開発債(Treasury BillsやSukukは対象外)に投資、残存期間2年以上、自己名義保有 |
| ④ 上場株式 | マスカット証券取引所(MSX)上場銘柄、自己名義保有でOMR 200,000以上 |
| ⑤ 銀行預金 | 5年固定預金でOMR 200,000以上(他投資との合算不可) |
| ⑥ 雇用創出 | 自社でオマーン国籍者を50名以上雇用している企業オーナー(投資額要件免除、パートナー全員のNOC必要) |
| ⑦ 企業指名 | 外国投資法に基づく企業のパートナーまたは上級役員として、企業から推薦され、企業資本がOMR 200,000以上 |
根拠資料
投資要件の詳細はオマーン政府公式のInvest Omanプラットフォームで確認可能。各ルートには証憑書類(不動産登記、監査済財務諸表、銀行証明書、雇用者リスト等)の提出が求められます。
5年シルバーレジデンシーとの違い
オマーンは10年ゴールデンビザに加え、5年版の「シルバーレジデンシー」も同時に整備しています。両者の違いは以下の通りです。
| 項目 | ゴールデン(10年) | シルバー(5年) |
| 不動産投資基準 | OMR 200,000 | OMR 250,000(旧Tejarah制度ではOMR 250,000) |
| ITC外不動産所有 | 条件付きで可(指定地域、省庁承認制) | 原則不可(ITC内のみ) |
| 更新 | 10年ごとに更新可 | 5年ごとに更新可 |
| 家族範囲 | 一等親までフル帯同 | 原則として配偶者・未成年子 |
10年版の最大の優位性は、ITC外の指定地域における不動産所有権が条件付きで認められる点です。これは非GCC国籍者には極めて稀な特権です。
UAEゴールデンビザとの比較
同じGCC圏でUAEは2019年から10年ゴールデンビザを運用しており、両国の制度を比較すると以下の通りとなります。
| 項目 | オマーン | UAE |
| 投資額(不動産) | OMR 200,000(約7,720万円) | AED 200万(約8,600万円) |
| 個人所得税 | 2028年から5%導入(年OMR 42,000超) | 0%(個人所得税なし) |
| VAT | 5% | 5% |
| 法人税 | 15%(標準)、フリーゾーン優遇あり | 9%(QFZP該当時0%) |
| 居住義務 | 原則なし | 原則なし(6か月以上の連続不在不可) |
| 家族帯同範囲 | 一等親(両親含む) | 配偶者・子、両親は別途条件 |
| 日本との租税条約 | あり(2015年発効) | あり(1995年発効、2014年改正) |
投資額・税制・実務インフラの観点では、現時点でUAEに優位性があります。一方、オマーンは投資額が比較的低く家族の包括的帯同が可能な点で独自性があります。当会計事務所はUAEゴールデンビザ取得ガイドで詳細な比較解説も提供しています。
2028年からの個人所得税導入
オマーンは2025年6月22日付Royal Decree No. 56/2025により個人所得税法を制定し、2025年6月29日にOfficial Gazette第1602号で公布されました。施行は2028年1月1日です(KPMG Flash Alert 2025-122 解説)。
個人所得税の主要ポイント
- 税率:年間総所得OMR 42,000(約1,620万円、約USD 109,200)超部分に対し5%のフラット税率
- 対象:オマーン国籍者・外国人居住者を問わず適用
- 課税対象所得:給与、自営業所得、賃貸収入、ロイヤルティ、利子、配当、不動産・有価証券売却益、退職金、賞金、寄付受取、役員報酬等11種類
- 主要な非課税:オマーン国外稼得所得(2年間限定で一度のみ)、主たる住居の売却益、相続・贈与所得、知的財産権所得(登録から5年間)
- 申告:課税年度終了から6か月以内に電子申告
- 自営業の必要経費控除:総所得の15%または実額のいずれか大きい方
これによりオマーンはGCC初の個人所得税導入国となります。OMR 42,000の閾値は比較的高く、富裕層の中でも年収相当が一定以上の層に絞られますが、ゴールデンビザで移住する高所得日本人は対象となる可能性があります。
日本との租税条約と二重課税の取扱い
日本とオマーンの間には2014年1月9日署名・2015年9月発効の租税条約があります(財務省 日オマーン租税条約PDF)。主な源泉徴収税率は以下の通りです。
| 所得区分 | 租税条約上限税率 |
| 配当(一般) | 10% |
| 配当(5%以上保有法人) | 5% |
| 利子 | 5% |
| ロイヤルティ | 10% |
条約レートはPwC Japan Withholding Tax Ratesでも一覧公開されています。日本居住者がオマーン源泉所得を受領する場合、または日本法人がオマーン居住者へ支払う場合に、この上限税率が適用されます。
日本人投資家にとっての税務上の論点
オマーンへの移住・投資を検討する日本人にとって、押さえておくべき税務論点は次の通りです。
論点1:日本側の非居住者判定
日本の所得税法上の非居住者となるためには、オマーンに生活の本拠を移すこと、住民票の転出手続き、日本国内不動産・銀行口座等の整理など、客観的事実の積み上げが必要です。ゴールデンビザに居住義務がない点は便利な反面、実態の伴わない移住は日本側で居住者と認定されるリスクがあります。詳細はUAE個人移住ガイド(日本側)も併せてご参照ください。
論点2:個人版CFC税制の適用可能性
日本の個人版タックスヘイブン税制(措置法40条の4)は、日本居住者がペーパーカンパニー等を通じて軽課税国の所得を留保した場合に合算課税する制度です。オマーンの法人税率は標準15%ですが、フリーゾーン優遇等で実効税率が大幅に低下した場合は要注意です。詳細は個人版租税条約・タックスヘイブン税制で解説しています。
論点3:法人版CFC税制(措置法66条の6)
オマーンに子会社を設立する日本法人は、法人版CFC税制の対象判定(経済活動基準4要件、租税負担割合20%/27%基準)の確認が必須です。UAE法人タックスヘイブン税制(CFC)で解説する枠組みはオマーンにも準用されます。
論点4:2028年個人所得税導入を見据えた移住戦略
2028年1月1日以降、年収OMR 42,000超の高所得者には5%課税が始まります。日本(最高税率55%)やオマーン以外のGCC国(0%)と比較すると依然として低税率ですが、UAE(0%)と比較した場合の絶対的優位性は失われます。長期移住を計画される場合、施行時期と所得規模を踏まえた検討をおすすめします。
メリットとデメリットのまとめ
| 区分 | 内容 |
| メリット① | 投資額OMR 200,000は中東長期居住制度の中で比較的低水準 |
| メリット② | 家族帯同範囲が広い(一等親、年齢制限なし) |
| メリット③ | 居住義務なし(フルタイム居住不要) |
| メリット④ | ITC外不動産所有権が条件付きで認められる稀有な制度 |
| メリット⑤ | 日オマーン租税条約により二重課税回避が制度化 |
| デメリット① | 2028年から個人所得税5%導入(UAE比で税務インセンティブが低下) |
| デメリット② | 法人税率15%(UAEの9%より高い) |
| デメリット③ | 実務インフラ・国際金融機関の集積はUAEに劣る |
| デメリット④ | 銀行預金ルートは他投資との合算不可、5年固定預金拘束 |
| デメリット⑤ | 制度開始間もなく実務運用が未成熟 |
まとめ
📋 今回のポイント
- オマーンは2025年9月1日より10年ゴールデンレジデンシー制度を開始、投資額OMR 200,000(約7,720万円)が基準
- 投資ルートは不動産・企業設立・政府開発債・上場株式・銀行預金・雇用創出・企業指名の7種類
- 家族帯同範囲は配偶者・子・両親など一等親まで広く認められ、居住義務なし
- ITC外の指定地域における不動産所有権が条件付きで認められる点は非GCC国籍者には稀有な特権
- 2028年1月1日からGCC初の個人所得税(年OMR 42,000超に5%)導入予定、Royal Decree 56/2025が根拠法
- 日オマーン租税条約により配当10%/5%、利子5%、ロイヤルティ10%の上限税率が適用
- 日本側の非居住者判定、個人版・法人版CFC税制の検討が日本人投資家には必須
当会計事務所は、オマーン10年ゴールデンビザの取得検討、UAEとの比較検討、日本側の非居住者化手続き、租税条約適用、CFC税制対応まで一貫したサポートを提供しています。中東圏での長期居住・投資をご検討の方は、お気軽にご相談されることをおすすめします。
